17-06 嘘です
うん、全部、嘘です。
バジリスク狩りも、アクアトゥスさんと一緒に行く話も、もちろん諦めるって話も、全部、嘘です。
「すみませんね、こんなこと手伝わせちゃって。俺が頼れる人なんてお二人くらいなもので。あ、正確には二人と一匹?」
「キュィッ、キュィィ~♪」
朝が明ける前に連絡を整えました。
それからギルドで許可をもらい、ある人たちを連れて205号迷宮を今現在下っています。
レウラは竜族よろしく異常耐性が高く、かつその機動力が頼りになります。
でもそれは保険みたいなもので、結局あとの二人頼りでした。
「先生感動しちゃった……。腹黒いアレッきゅんも大好きだけど、綺麗なキミもお姉ちゃん大好きよぉぉー!! ついに女神の愛がアレッきゅんにも届いたのねっ!!」
俺の知り得る限り一番あかん人……もとい一番けた外れかつ常識外れなお人、その名もマナ先生。
「俺は……俺はお前の成長に猛烈に感動している!! 我が息子よよくぞ俺を頼った!! うっくぅぅっ……幼い少女が病気の母ちゃんのために……。ウェァァァァ……泣ける、泣ける話じゃねぇかよぉ……。これを聞かされたからには男が断れるはずがねぇ!! ああ前は任せろっ、さあ行こう父と息子の漢道によぉぉぉ!!」
あと筋肉魔法使いのダンプ先生。
この二人が俺のコネで集められるツートップです。
これがまたどっちもすご~く良い人なんですよね。
「あの先生方、そのセリフ何度目か覚えてます? 俺だってたまには慈善事業くらいしますって。……ってそんな万感を込めて俺の肩を抱かないで下さいダンプ先生」
「ズルいわ先生! ならお姉ちゃんはアレッきゅんの下の肩を……うぇへへへぇ……」
この方々なら余裕ってかオーバーキルでしょう。
いくら相手が毒毒最悪ボスだったところで、圧倒的火力で叩き潰すのみです。
「それは肩じゃなくて、腰ッッ! うぎゃっ、つかどこに顔うずめてるんですかーっ! 仮にも教師でありシスターがそげなところダメーッ!」
「あんっ……アレッきゅんってば恥ずかしがりなんだから~♪」
「はっはっはっ! 我が息子ながら末恐ろしい女ったらしだな!」
……この現実から目をそむけるついでに解説です。
ギルドに聞けば、この第205号迷宮というのがまた変わってました。
どうも不人気も不人気で、ドロップの割に難易度ばかりバカ高いハズレ迷宮だそうです。
記録によると前回ここが利用されたのは半月ほど前。しかもそれはドロップ目当てものではなく、いわば迷宮管理のための掃除のようなものだそうです。
ええこれがなんと、公国でも一二を争う超不人気迷宮でした。ソースは受付のお姉さんですけど。
「あ、ボス部屋です」
「あら残念……ならさっさと片付けちゃおっか」
「ああっ、少女サティのお母さんを元気にしてやらねぇとな! ああ……たはは、また泣けてきやがったぜぇぇ……。そんな、そんな小さな子がよぉ……藁にもすがる気持ちでお前を頼るはなぁぁ……グスッ、ブジュルルルッ……助けてやりてぇじゃねぇかよぉ……ウェァァァ……!」
「いや、大ボス前で鼻水とかたれ流さないで下さいよ……。あー、こうやって養子が増えてったんだなこの人……」
ええ、もちろん難なく12層目に到達していました。
大扉を開いて中に突入すると、一際広い大部屋の奥に全長4、5mはあろう巨大バジリスクが待ちかまえていたのです。
「異常耐性付与! プロテクションⅡ! クイックッ! 筋力増強!」
「よっしゃ息子よっ、父ちゃんが足止めしておくからよっ、一発ぶちかましてやんなっ!!」
「クルルッ、キェェェーッッ!!」
「わー頼もしい。……了解です」
杖一本でイノシシみたいに突撃してゆくダンプ先生、および満腹気味の子竜レウラさん。
相手は致死の石化毒を持ってると説明したはずなのに、迷いもなにもな~んもありません……。
それから常識を疑う高速詠唱で、マナ先生が俺たちに補助魔法をかけてくれました。
いや先生、俺も授業で軽く習った程度だけど……その異常耐性付与って教科書にはどこにも載ってませんでしたよ……? ナニコレ便利ースゴスギー。
「えー、前略タイラント・バジリスクさん。泣く子も黙る大ボスなのにまことイージーモードですみませんっ。ではそろそろ一度消し炭になって下さい、ぶっつけ本番大魔法……イラプション!!」
毒々しい黒紫の巨大バジリスク、タイラントさん。
ダンプ先生とレウラが足止めだとすぐ気づいたようでしたが、その馬鹿力と機動力の前に一歩も前進することが出来ませんでした。
そうこうしてるうちに巨体の足元に炎の魔法陣が浮かび上がり、溶岩と豪炎の炸裂が生まれます。
それは大蜥蜴をあっさりと焼き尽くし、すぐにその身を魔物素材に変化させました。
暴君蜥蜴の鱗に肉、珠。おお、こりゃなかなかの豊作です。
これをベースに解毒剤を調合すれば、サティのお母さんを救うお薬も完成してお釣りもガッツリ出てきちゃうってわけですよ。
いやぁ……持つべき者はチート能力の恩師、これからも上手い具合に利用してやりましょう。ちょろいちょろい♪
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「さ、アレッきゅんっアレッきゅんっ! 約束通りお姉ちゃんのお友達み~~んなと遊ぼうねっ♪ あ、言い忘れてたけどー……脱ぐ系のお遊び、もとい模写会だからねっ♪」
利用して……やり……え?
「いや聞いてないっ、そんなの聞いてないよ俺っ?! ヤダァ脱ぐとかぁ~アタシぃ聞いてないんですけどぉ~~? 的な?! つか模写会ってどういう催しですかっ?!」
「も~~わかってるくせに~~♪ ウフフ、お姉ちゃんについて来たらぜ~んぶわかるよー♪」
はい、わかります先生。
俺の身に危険が迫っているんですね。
宣言撤回、あああああ……どえらい人を頼ってしまった……ぁぁぁぁぁ……。
「いや待ってくれマナ先生。その前にとーちゃんの仕事も手伝ってくれる約束だろう? さあ行くぞ息子よ、あえてお前に分かりやすく表現するところの、国家特別指定要厳重管理迷宮の掃討任務になっ」
「あの……ダンプ先生? 確かに代わりに迷宮探索を付き合うとは言いましたけど、その国家特別なんとかって……確か。言うなれば。……最強廃人向けのエンドコンテンツみたいなやつじゃなかったです?」
公国でも特別ヤバい迷宮を、精鋭集めて定期掃除みたいな趣旨だったような……そんな悪夢の兆し……?
え、それに俺、行くの? なんで?
「じゃあ先生も付き合おうかしらフフフ……逃げられたら私も困るし」
「おおマナ先生! いやぁ助かりますよ、わはははっ! 時期外れではありますがコイツのために何とか人手を動かしましてな! ここは一つ若者を一揉みしてやるとしましょう!」
なるほどそういうことなんですね。
鍛えて俺を強くしてやろうという、ダンプ先生の暑苦しいおやさしさでした。
俺より強いやつに会いに行く……。
みたいなノリで生きてるんですねこの人。でも俺そんな最強厨じゃないですから。ほどほどでいいです、ほどほどで。
「あ、この前の水着持って来てるけどアレッきゅん着てく? ブーメラン♪」
「ハハハ、マナ先生ってば……俺に死ねと申しますか。そんな危険地帯で着る理由がねぇですってばーっ!!」
……はい、お後がよろしいようで。
協力の代価は大っ変っなことになりましたとさ。
国家特別指定要厳重管理迷宮、それは己の未熟さを思い知るに十分過ぎるほどに修羅の集まる世界でした……。
信じられません……。
こんなの地上に上がってきたら人類滅びます。
あれ、もしかしてこの国……すっげー危険地帯にあるんじゃないですか……?
今はたまたまバランスが取れて栄えてますけど、一歩間違えれば国ごと魔界に堕ちますよこれ。
そう表現したって何にもおかしくない、大惨事と背中合わせの世界でした……。
まあでも今は一年前と事情が少し違います。
都合により俺はもっともっと強くならないといけません。
でないとアインスさんを救うことなんて出来そうもありませんから。
こうして無事タイラントさん素材も手に入りましたし、これで結果オーライと開き直りましょう。
全身筋肉痛の魔力枯渇で、明日の朝がおっそろしいですが……。
ベッドから立ち上がれるかな俺……。
「お疲れ様アレッきゅん♪ さ、次はお姉ちゃんたちの番だよ♪」
「先生、俺、恥を承知で言います。もう疲れた、知らないお姉さんとか怖い、もう、もうお家帰りたい……」
「うん、ダーメっ♪」
そう、悪夢はまだ始まっていなかったのだ。
これまでの死闘は、模写会という真の狂気を奏でる序曲に過ぎなかった……。




