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異世界転生、ちょっと足りない  作者: 藍澤 建
第一章【生まれ出ずるは英雄の芽】
2/30

001『転生』

 王道のようで、何かがおかしい。

 そんな、誰も見たことの無い物語を綴りましょう。

 その日、空から死が落ちてきた。


 ああ、死ぬのか。

 そう理解して、間もなく僕の意識は途絶えた。

 最後に見た光景は、真っ赤に燃えて墜落する飛行機で。

 過ぎる走馬灯も何もなく、ただ、半田(はんだ)(るい)は絶命した。



 ……はず、だったのに。




【あなたは死にました。転生しますか? YES/NO】




 前後左右、すべて真っ白な空間で。

 当たり前のように空中に浮かぶ黒い文字。

 否応なしに、この場所に来る直前の光景が頭に浮かぶ。


 死因としては、なんだったのだろう。

 ショック死? あるいは普通に出血死、圧死か?

 少なくとも、あの墜落事故が原因で死んだのは間違いないだろう。


 ……大丈夫かな。たぶん、たくさん人乗ってただろうし。

 なんだったら住宅街だったし、周囲にもひどい影響があったはず。

 死者が僕一人だけ、なんてことはないだろう。


 不思議と、ここにきているのは僕一人だけみたいだけど。


「……とりあえず、YES」


 両親は死んでいるし、僕は独身だし、兄弟もいない。

 死んだといわれたところで、必要以上のショックはなかった。

 というより、一度死んでもオタク根性は変わらなかったのだろう。


『楽しそう』

『面白そう』


 そんな子供っぽい冒険心がひょっこりと顔を出し。

 深く考えることもなく、僕は『YES』に手を伸ばす。


 その瞬間、ジリリと白い世界全体へと、ノイズが走る。

 されど、それは一瞬。

 気が付いた時には、目の前から転生の文字が消え。

 新しく、見覚えのない【ガチャ画面】と、続きの文章が浮かんでいた。




【死者数682名。その598名が魂の欠損過多により、意思疎通が不能と判断】


【残存、84名の内、37名が転生を拒否】


【残存、47名の内、15歳未満の12名を精神未発達につき対象より除外】


【残存、35名の内、悪性と判断した18名を除外】


【残存、17名より抽選を開始】


【――おめでとうございます。半田累】


【682名より、あなたが転生対象へと選ばれました】


【682回の抽選権が与えられます】




「……転生対象、……選ばれ、た?」


 最後に現れた一文を復唱し。

 その前に現れてはすぐに消えていった文章を思い出し。

 僕はしばし、思考が止まっていたけれど。

 思い出すにつれて、一気に胃液が上ってくる。


「う……っ」


 自分が死んだ、その事実にはさほど動揺しなかった。

 けれど、自分が気軽に『転生する』を選んだせいで。

 僕の選択のせいで……他に転生を選んだ数十名の『道』が潰えた。

 そう思うと、重責に思わず吐いてしまいそうになる。


 けれど、なんとか胃液を我慢して。

 このまま、思考放棄してはいけないと。

 必死になって、目の前のガチャ画面へと視線を戻す。


「……落ち着け、そういうのは転生後に考えろ」


 後悔はいつでもできる。

 でも、転生のチャンスは一度きりだ。

 そう自分に問いかけて、無理矢理に心を再起させる。


「……こうして彼らを割り切ったこと。たぶん、転生後に死ぬほど後悔するんだろうなぁ」


 そうは思いつつも、大きく深呼吸すれば、吐き気は少し収まった。


 682回の抽選権。

 その文字を最後に、次の文章は浮かんでこない。

 その回数は……事故で死んだ被害者人数と同じだ。

 本来であれば、一人につき一度の抽選機会が与えられていたところ、ほかの全員が抽選から外れたことで、すべての権利が僕に集約した……とか、そんなところか。

 いや、考えれば考えるほど気持ち悪くなるな。

 僕は詳細を考えることを放棄し、とりあえず一度、画面に触れてみる。


 すると、するするとガチャ画面は進み。

 次には、一つの画面が現れる。



【名前】アレン・ジョルダン

【性別】男

【能力】魔弾[F]

【魔力量】D-

【身体能力】B-


 残り回数、681回




「……名前、性別はわかるとして。能力、魔力、身体能力か」


 転生後にこの人として生まれますよ、ってことか?

 画面には、決定しますか? という文字と、またYES/NOが書かれている。

 とりあえずそちらには一切触れず、魔弾という部分を長押ししてみる。

 すると案の定、能力に対する説明が出てきた。




【能力】魔弾[F]

 自身の魔力を弾丸とし、放つ能力。

 殺傷能力は極めて低い。

 最低位に位置する能力。




「……F、って隣に書いてあるしな」


 やっぱり弱いのか、この能力。

 しかも、能力に対して魔力量がかなり低そうだ。

 Dランク、それもマイナス、となっている。

 これならば、とNOを押すと、次のガチャが回っていた。



【名前】クレタ

【性別】女

【能力】身体強化[D]

【魔力量】C

【身体能力】C


 残り回数、680回



「今度は女性……しかも、名前が短い」


 ってことは、あれか。

 さっきのアレン君は、貴族だったってことか?

 確定ではないけれど、そんな気がする。

 にしても……貴族生活かぁ。

 あんまり想像できないな。

 あと、性転換は望みません。


 とりあえず、僕は名前はスルーすることにして。

 性別、能力、魔力量、身体能力。

 それらをざっと眺めて、次に進んだ。



【能力】魔弾[F]

【魔力量】S

【身体能力】B


 残り回数、679回



 魔力量、なんとSランク。

 もしかしたら最高ランクなのかも。

 そう思ったが、能力が魔弾である。

 これは宝の持ち腐れ、とみて次に行く。



【能力】回復魔法[B]

【魔力量】B

【身体能力】F


 残り回数、678回



 回復魔法。魔力もそこそこ。

 だが身体能力がひどい。

 なので次。



【能力】魔弾[F]

【魔力量】F

【身体能力】F


 残り回数、677回



 ……いうことは無かったので、次。


 その後も何度か繰り返し。

 けれど、なんだかパッとしたものもなく。

 繰り返すこと、数十回。


 ついに、その時がやってくる。



【能力】剣帝[SS]

【魔力量】F

【身体能力】S


 残り回数、597回



「おおっ!?」


 思わず鳥肌が立ち、腕をさする。

 震える指先で、その能力名を長押し。

 目の前に現れた説明文を見て、喉が鳴った。



【能力】剣帝[SS]

 剣術を扱う能力の最上位に位置する能力。

 そのひと太刀は山を断ち、海を裂く。

 習熟こそ難しいが、極めれば個で軍をも超える力量を手にするだろう。



「つ、強すぎる……っ」


 まじかよ、大当たりなんじゃないのか、これ。

 震える手が、おのずと【決定】のほうへと進んでしまう。

 だが、だが。

 本当に大丈夫かと。

 改めて、その転生先を確認して。




【名前】アイサ・クローズ

【性別】女




 僕は断腸の思いで、【NO】を押した。


「くっ、ぎ……っ、こ、この……ぉ!」


 押してから、とても大きな後悔の波に飲み込まれる。

 ああ、最高だったさ。

 能力はSSランク、身体能力はSランク。

 文句なしだ。

 これ以上他人の命でガチャ引くなんて真似もしなくていいし……。

 もう、これで決めてしまいたかった。


 けど、性別だけは、どうしても無視できなかった。


 なにせ貴族の、しかも女性だ。

 政略結婚とかで、嫁ぐことだってあるだろう。

 そうなりゃ、相手は男性だ。

 そう考えた時点で、貴族の女性に生まれ変わる、って選択肢は除外してしまいたい。


「……生まれを選べるのなら妥協はしたくないし」


 そう考えて、僕は後悔しそうになる思考を放棄した。



 そして再び、延々と続くガチャ地獄。



 楽しい?

 面白い?

 そんな感情はなかったよ。

 ただ、他人の命でガチャを引く。


 引くたびに、残り回数を見るたびに。

 嫌な思考が、じわりじわりと背筋を這い上がってくる。


 しかし、回せど回せど。


【能力】魔弾[F]

 残り471回


【能力】魔弾[F]

 残り423回


【能力】魔弾[F]

 残り312回


【能力】魔弾[F]

 残り247回



【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]


【能力】魔弾[F]

【能力】魔弾[F]

【能力】魔弾[F]




 ――残り97回。




「は、はは、ははは……」



 爆死も爆死、とんでもねぇ大爆死だ。


 気がつけば、僕は壊れたみたいに笑ってた。


 なんだよこれ、現実か?

 幾度、そう考えて頬をつねったか分からない。


 最初のほうに出た大当たりなんて夢だったんじゃないかと、何度も自分の正気と記憶を疑った。


 だが、現実は残酷で。

 あれも現実だし、これも現実だ。


「…………もう、無理なのかな」


 これ以上は、望めないのかな。

 ぽつり、ぽつりと諦めの感情が浮かんでは、また消えて。

 それでも指先では、引き続きガチャ画面を回し続ける。


 きっと今回も魔弾だろ。

 ……もう、次から魔弾でも、魔力と身体能力がそれなりで、あと性別だけあってればいいや。


 そんなことを思い始めた。



 ――そんな時だった。




「………………はっ?」




【名前】シュメル・ハート

【性別】男

【能力】反転(アンリアル)[SSS]

【魔力量】F

【身体能力】F


 残り回数、37回





「はっ、はっ、は……っ、こ、これ……っ」


 指先に、かつてないほどの震えを感じる。

 貴族……だけど、男性で。

 魔力量、身体能力ともに最弱。

 だが、この……能力【反転】、SSSランク。

 600回以上回してきて、一度としてみたことのないランクだ。


 震える手で、その能力名を長押しする。




【能力】反転(アンリアル)[SSS]

 歴史上、ただ一人、過去の英雄だけが保有していたとされる伝説の能力。

 その力は、万象すべてを反転させ、現実と虚構を支配する。




「こ、これだ……これ、しかない!」


 予感があった。

 残り、37回。

 これを逃せば……もう、魔弾しか引ける気がしない、と。


 しかし、魔力と身体能力が最底辺。

 最強の能力に対して、あまりにも足を引っ張るその二点。

 思わず、思わず決定の前で指先が止まる。


 けれど。


「魔弾よりはずっといい……魔弾よりかは、ずっといい!」


 魔弾。

 あの最低保証地獄のような光景を思い出し。

 僕は、迷いを振り切って決定ボタンを指でタップする。



 その瞬間、世界が明滅したのがはっきり分かった。



【転生先が決定されました】


【シュメル・ハート】


【異界の徒に、祝福を】


【《反転(アンリアル)》を授けます】


【37もの未使用リソースの確認】


【身体能力、魔力量にリソースを割り振ります】


【魔力量F→魔力量B+】


【身体能力F→身体能力S】


【――さようなら、半田累】


()()()使()()()()()()()()()()()()だが】


【まあ、君が選んだのであれば、拒みはしないさ】





 その瞬間、いくつか文字が浮かんだ気がして。


 その文章を理解するより早く――ぶつりと、意識が途絶えた。




 ☆☆☆




 そして、僕はすぐに知ることになる。


 せっかくの異世界転生。


 間違いなく世界最強の能力。


 史上最高の潜在能力。


 それを秘めておきながら――僕の転生は、ちょっとだけ、必要なものが足りなかったのだと。

次回『はじまり』

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― 新着の感想 ―
これ一番最初に出てきたのを選んだら身体能力と魔力量めっちゃ高くなっていたんですか?
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