第二話 『帰らぬ遺体』 その五
叔父の遺体は、しばらくは戻らない。葬式の予定も立たなくなるだろう。
そもそも殺人事件だとすれば……その捜査が一段落するまでは、叔父の遺体は保存されることになるのだろうか?
……殺人事件の捜査って、どれぐらいかかるのだろうか?……あれが、殺人事件だとすれば、おそらく犯罪を立件するための証拠は、叔父の体にしか残っていない。
極めて特殊な方法で、ヒトを燃やしたのだ。内臓から、ヒトの体の内側から燃やすという不思議な手段を使って。
叔父の遺体は、ほとんど唯一の証拠品になるかもしれない。ならば、事件が解決するまでは、いつまでも帰ってこないのかもしれない……そうなれば、遺体なしでも葬儀をしたほうが良いのだろうか?
……叔父さんは、酷いことに巻き込まれてしまったらしい…………でも、誰が犯人なのかしらーーー。
「ーーー昔、小守で女の子が、そんな死に方をしたのよね……」
検索すれば、出てくるかしら?……まあ、どれぐらい昔かによるけれど。
……試してみようか。
スマホの検索エンジンに、小守、少女……火災、でいいかしら。人体発火なんて入れたら、都市伝説系の記事しか検索出来なくなりそうだった。
面白い記事は好きだけど、今はそれよりも事実に触れたい。謎の連続殺人事件の犯人が、この小守に潜んでいるのかもしれない。
そう思うと、怖いわね。
そんな恐ろしい人物が、私の家族を焼き殺した?……なんのために……。
ため息を吐きながら、検索エンジンの結果を見下ろす。
「……女子高生が、焼死……10年ほど前なのね……かわいそうに。彼女も、もしかして、殺されたのかしら……」
記事には大したことが書かれてはいなかった。不審火の可能性は少ないらしい……と、書いてはいるが、どうなのだろう?
未成年の事件では、警察も新聞社も気を使う。下手なことを書けば、大問題になりかねないのだし……。
でも、事件性があったなら、新聞社もなにか情報を嗅ぎ付けそうな気がするけど。
……いや、当時は本当に事件性に気がつけなかったのかもしれない。ヒトが内側から燃える……そんな事件が起こるとは誰にも思えない……。
横田先生も、叔父の遺体で二度目だから、気づけたのかもしれない……それなら、この犯人は、十年ぶりに叔父を狙って、手の込んだ犯罪を犯した?
…………はあ。わからない。犯人のプロファイリングは、専門外だわ。
ヒトを燃やしたくなる感情は、どんな悪意によるものかしら。
強烈な悪意。報復行為?……火刑は見せしめの効果もある。家ごと燃やしたり、ヒトの目につく場所で燃やすことで注意を引く。
メッセージ性があるということなのかしらね。特定の誰かに、あるいは集団に伝えた……だとすれば?
心当たりは、ある。
馬鹿げているけど。
……こんがり童子。
……心を病んだ患者たちの言葉を信じれば、母親祀りなるものをすれば、被害は防げる?
……うつ病性挿話かしら?あるいは、もっと酷い妄想…………でも。複数の患者が、同時に?
この地方に伝わる物語を、不安を引き金に思い出しただけなのかも……科学と理性を信じるなら、それが正しいはずだけど。
訳の分からない事態が起きてる。あの鏡の、黒い手形…………ああ、ダメだ。こんな変な考えを深めることは精神に悪い。
ストレスがかかりすぎていて、心が壊れかねない。ヒトの心は、そんなに強くない。私も、同じことだ。
親族の怪死が殺人事件かもしれないし、患者の行方不明……ついでに、妖怪?……こんなこと考えていたらダメになる。
とにかく、今はストレスを、軽減しよう。働きすぎて、心が壊れる前に。ミイラ取りがミイラになってしまう前に、休もう。安定剤を自分に処方したくなる前に…………。




