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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
99/976

99.年上のお姉さんが、寝所に押しかけてきました。





「ん〜〜、ゆうちゃん良い匂い♪」

「まだ洗い立てですからね、石鹸の香りがすると思います。

 お洗濯物も洗い立ての香りって良いと思いますよね」

「ぶ〜、ゆうちゃん分かってない、石鹸の香りと一緒にね、ちゃんとゆうちゃんの良い香りがするの。

 ほら、ゆうちゃんは感じない?」


 私一人だと広い寝台も、ライラさんと二人だと少しだけ狭く感じる。

 でもそれが苦痛になったり、不愉快に感じたりする事はない。

 むしろ、互いの発する体温が互いを温めるようで心地よく感じるほど。

 ライラさんの言うように、ライラさんからの良い香りが、暖かさと相まって自然と身体中の力が抜けるほど。

 だからだろう、自然と言葉が紡ぎ出される………。


「安心する匂いです」

「ふふっ、でしょう♪」


 暖かい言葉と声が、優しく包み込むようで安心してしまう。

 触れ合う右手と左手が、物凄く暖かくて気持ち良い。

 ほとんど強引に始まったお泊まり会だけど、そんな事など忘れるぐらいに心休まる。

 誰かの体温と匂いを感じる事が、こんなにも安らぐ事に、少しだけ親友の顔が脳裏に浮かんでしまう。

 そういえば、彼女ともこうやってお泊まり会したな。

 あの時は今回とは逆で私が強引にだったけど、本当に楽しかった。


「ゆうちゃん良い顔しているけど、何を考えてたの?」

「親友の事を、彼女ともこうやってお泊まり会をしたなと思って」

「良かった、少しは良い思い出として語れるようになったんだと思って」

「……」

「こらこら、暗くならない。

 優しいお姉さんの胸で暖かくなって、安らぎなさい」


 ふにゅん。


 柔らかくも確かな感触が顔を包み込むと同時に、ライラさんの暖かな温もりと、甘く良い香りが私を包み込んでくる。

 とくん、とくん、と規則正しい優しい音が、私の中へと流れ込んでくる感触に、不安な気持ちが薄らいでゆくのが自分でも分かるほど、ライラさんの優しさが伝わってくる。

 その前には、前世が男とか今世が同性だとか、そんなものなど関係なく、この優しさに身を任せてしまいたくなってしまう。


「私もゆうちゃんの親友のつもりなんだけどな〜。

 それとも、こんな年上の親友は駄目?」

「……」


 その言葉に、心地よさに微睡ながらも驚いてしまう。

 私は、……その、……仲の良い知り合いとしか見てこなかったから。

 必要以上に、甘えてしまわないようにしてきたから……。


「ゆうちゃんは、頑張りすぎなのよ」

「……そうですか? 結構のんびりやってますよ」

「私には、そうは見えないけどな。

 だって、ゆうちゃん絶えず気を張っているじゃない、特に今日はそう見えたかな。

 自分が無理をしているのに気がつかない、何か悩んでいるのにそれが認められない。

 なのに心は勝手に自分を追い詰めていて、現実逃避を紙にぶつけている。

 そう感じたわ」

「……、……」


 なにも言えない。……否定する言葉が見つからなかったから。

 そんな事はない。……だけどその言葉が喉迄すら出てこないから。

 心の奥底はそれを認めながらも、理性が否定しようとする。


「……私もね、ゆうちゃん程ではないけど、似たような悩み方をした経験はあるのよ。

 だから、ゆうちゃんが何処か無理しているのは、なんとなく分かるの。

 別に何を悩んでいるのかとか無理に聞く気もないし、ゆうちゃん自身がきっと乗り越えないといけない事なのだとも思っている」

「……」


 一見、突き放したような言葉。

 でも、それがライラさんの私を思っての言葉なのだと、触れ合う温もりと優しい鼓動が、そうだと伝えてくれる。


「ゆうちゃんて、甘えるの下手よね」

「そうですか? 結構、甘えていると思いますよ」


 ライラさんに甘えて此処にいさせて貰っているし、ラフェルさんのご好意にもそこそこ甘えている。

 最近だと、コッフェルさんにも魔道士や魔導具師として甘えているし、この街の色々な人達に甘えて生きさせて貰っている。


「……違うわよ。

 ゆうちゃんのは甘える振りをして、甘えている振りをしているだけ。

 決して甘えてはいないわ。

 きっと故郷でもずーとそうしてきたんでしょうね。

 貴女には、あの子と貴女のお姉さん以外には、甘えれる人がいなかったんでしょ。

 迷惑だから甘えてはいけないって、ずっと心の奥底で思ってきたんじゃないのかな?」

「……どうしてそう思うんですか?」

「分かるわよ。よく見ているもの。

 これでも親友のつもりでいるんだからね。

 それにね、……小さな頃から身体の弱い子って、そうなりがちなのよ。

 特に貴女みたいな優しい子はね」


 何度も優しく髪を梳きながら、そう語りかけてくる。

 とくん、とくん、と優しい音色を聴かせながら。

 私を無防備にしようとする。

 その事に身体が強張りそうになる私を、更なる言葉が抵抗しようとする私を引き留めてくれる。


「だから、ちゃんと甘えられる人を見つけなさい。

 時間が掛かっても良いから、そんな人を探すと良いわ

 ……多分、私では貴女の親友の代わりには、なれないだろうからね。

 知ったかぶりの私では、貴女の本当の苦しみを分かってあげられない。

 でも、こうして偶に休ませてあげる事ぐらいは、してあげられるつもりだもの」


 ある意味拒絶の言葉に、心が安堵してしまう。

 違う、多分拒絶しているのは私なのだと思う。

 こんなに優しくして貰っているのに……。

 こんなに甘えさせて貰っているのに……。

 それでも、そうなる事を望んでしまっている。

 本当に……、私は自分勝手だ。


「だから、せめて今だけでも良いから、

 もう少しだけ甘える振りをして……。

 もう少しだけ甘えている振りをしても良いんじゃないかな。

 ゆうちゃん、そう言うの好きでしょ」


 まったくライラさんは、なんて免罪符を出すのが上手いのだろうと思ってしまう。

 いつもの私通りより、一歩だけ振りをしても構わない。

 虚構でありながらも、何て優しい言葉なのだろうか。

 そんな事を言われたら、私は抵抗なくできてしまう。

 甘えている振りをしながら、甘えていない振りを。

 優しい温もりと感触に埋れながら、安心できる香りを楽しむ事を。

 ぎゅうっと抱きしめながら、身を任せる事を。

 たとえ違うと分かってはいても、代替え行為だと安心できてしまう。

 たとえ今だけの優しさだと分かって履いても、それが逆に安心できてしまう。

 今だけだと安心して甘えれてしまう。




 心を休ませるための、代替え行為だとしても。






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