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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第七章 〜新米ママ(パパ)編〜
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976.中央の勢力争いに、私を巻き込むのは止めて貰えませんか?





 とりあえず陛下からのお話は、最初に王都の秋祭りのパレードでの出来事。

 既にヴォルフィード家のシャルド様から概略は聞いているけれど、三つの家門が消える事になったのと、何名かの関係者が王都の外に移動になるものの、一年以内に病死するなり、消息を絶つ事になる予定だとか。

 何故、病死や消息が絶つ事が前もって判っているのかは突っ込まない。

 王侯貴族における、穏便な責任の取り方だと理解して貰いたい。

 本当、貴族の世界って怖いよね。

 ただね、先程も言ったけれど、既に知っている事なのよね。

 その事は陛下だって、おそらく判っているはず。

 なら、敢えてそれを口にする理由がある。


「陛下、私の嫁への配慮ですか?」

「……そこは黙って受け取りたまえ。

 だいたい口実は必要であろうが」

「感謝はしませんよ」


 何方かと言うと、陛下自身への誤魔化しにしか聞こえない。

 これ以上は流石に不敬になるので、これも突っ込みませんけど。

 陛下の御配慮どおり、王都で私が参加したパレードでのテロ事件に関して、ともなればデート日を潰されたジュリへの言い訳は立つのも事実。

 そんでもって本題はと言うと、案の定、【混沌を導きし者(自動硬貨計算機)】【コインストッカー】【釣銭機】の三点セットの件だった。

 なんとガスチーニ侯爵家のヴァルト様が王都討伐騎士団の事務に持ち込んで、実に画期的な道具だと、討伐騎士団勤めの文官が王城中に触れて回っているそうだ。

 その結果、お金を管理している関係各所からの問い合わせと要望書の山で、王城の財務部長と経理部長が胃を痛めて倒れ、現在療養中と言う名の時間稼ぎが行われているらしい。


「……ジル様、抑えられなかったのですか?」

「残念ながら、儂が戻って来た時には既にな」


 どうやらヴァルト様、自分の家に所属する空間移動持ちの魔導士を駆使して、【混沌を導きし者(自動硬貨計算機)】【コインストッカー】【釣銭機】の三点セットと共に命令書を即日に王都討伐騎士団に送り込んだらしい。

 私はヴァルト様が秋祭り期間中、自領におられると聞いていたため、すぐに帰られるジル様なら問題ないと思っていたのだけれど、その裏を掻かれたと言うべきか……。

 いや、そこまでするなんて、誰も思いませんよっ!

 城に持ち込んでも、てっきり次の納品した物をと思っていたもの。

 あとジル様との打ち合わせが、当初は手紙で済ます予定だったものの、実際にお会いして打ち合わせが行えた事から油断したというのも大きい。

 結果的には私とジル様の打ち合わせは、ほぼ無駄に終わったと言える。


「ガスチーニ家はお主に多くの借りがあるからな、注文が多く入るようにと応援のつもりなのであろう」

「……借りがあるのは寧ろ我が家だと思うのですが。

 と言うか、これ、私が財務と経理に恨まれる展開ですよね?」

「恨まれるのは一時的で結果的には感謝される、と考えている事は間違いない。

 事実、そうなるであろう事は儂も同意見だ」


 まぁ間違いなく我が家に大量発注が来るであろうけれど、工房と職人の手配が間に合わない。

 何のために手土産として配ったと思っているのか。

 私、ちゃんとヴァルト様に各家が使う程度は予約として引き受けますけど、売りに出すのは早くても夏頃だから、それまでは発注は手加減して下さいとお伝えしたわよ。


「陛下、最初に申告しておきますが、現状は大量生産に向けて職人を確保するための交渉中の段階であり、現時点で確保している職人の数では注文に対応出来るのは、私の後ろ盾の家から発注されている数だけです。

 元々、来年の夏頃に市場に出回らせる予定の代物を、日頃からお世話になっている感謝の意味を込めて特別に見本としてお納めし、予約販売の御紹介をしただけに過ぎません」


 【混沌を導きし者(自動硬貨計算機)】は魔導具師ギルドにも登録してあるから、魔導具師ギルドでも生産が出来るけれど、彼処も結構一杯一杯だとコッフェルさんから聞いているので、急な仕事にはあまり数を当てに出来ない。

 なので初期分に関しては私が核になる魔法石だけ作って、後は村の魔道具士達に丸投げ。

 それだって全て作る必要はなく、外観部分などは外注に出せば良い。

 何方にしろ此れが一番高価になる事もあって、要求数も少ないので何とかなると言えるものの、私以外の魔導具師に出来るものならば、なるべく仕事を振りたいのが実情。


 【コインストッカー】は商業ギルドに登録して、全て外注するつもりではあるし、比較的簡単に作れる小物なので、引き受けてくれる職人は確保しやすいとは思うけれど、予想される数が数だけに職人の数を揃えるのが難しいのよね。

 とりあえず現状での注文は、粉体成形で専用の魔導具と型を作れば、誰にでも作れるため、村の人間に冬の農閑期のお仕事としてお願いしているものの、あくまで職人が確保出来るまでの一時的な処置。


【釣銭機】は形状変化の魔法が使える魔導具師や魔道具士なら、比較的簡単に作れるものの、やはり通常技術で作れる物なので商業ギルドに登録して鍛冶師と彫金師を確保して作らせた方が安上がりだし、全体的には数を熟せる。

 当分はレイチェルに丸投げ、と言いたい所だけれど、今、彼女は本邸の改装に使う金具関係も抱えているのよね。

 実家から帰って来たレイチェルは、私の狙い通り程良く(・・・・)鍛冶に対する飢餓状態(・・・・)になっていたため、折角、今はちゃんとした生活を送っている事もあって調子が良いのに、許容量を超えた仕事を押し付けて、元の状態にするのは我が家にとっても損失。

 そうなると港街の方にある他の鍛冶師達に協力して貰いながら、私と村の魔道具士達で対応するしかないのだけれど、私には他にも遣るべき事や遣りたい事もあるため、これもあくまで専門の職人達が見つかるまでの一時的な処置なのよ。

 と言う訳で、これ等の事情も話しながら、正式な発売は夏頃を予定しており、国が大量発注を掛けるのであれば、販売が来年の冬以降にズレ込む可能性も高くなる事を説明する。


「─────以上の理由から、どんなに要求されようとも無理です」


 陛下もジル様も難しい顔をされるけれど、無理なものは無理。

 文官、その中でも経理的な事を行う人達は地味で光の当たらない仕事ではあっても、国を支える大切な人達。

 その事を判っておられるから、陛下もジル様も悩まれているのだと思う。

 はぁ……仕方ない。


「もういっその事、お城で作られたらどうですか?

 我が家は利益さえ保証されれば良いですので、その分を戴ければ問題はありません。

 無論、一時的な緊急処置としてですが」


 お城にだって専属の職人を多く抱えている。

 剣や鎧の調整や修復、馬車のメンテナンス等、様々な事を行う人達。

 当然ながら魔導具師だってね。

 彼等は各ギルドに所属はしていても、年俸が保証されている代わりに一般的な注文は滅多に受けずに、城の敷地内の仕事のみを受けている。

 おまけに優秀な魔導具師の何人かが飛行の魔導具を作るためだったのかは知らないけれど、ほぼ強制的に宮廷魔導士達の下請けとして、魔導具師ギルドから引き抜かれているんですよね。

 以前にコッフェルさんが愚痴っていた記憶があるので、よく覚えている。

 そんなお城の魔導具師達も、飛行の魔導具の開発中止を受けて暇をしているはず。


「問題があるとしましたら、宮廷魔導具師が宮廷魔導士団の下部組織に置かれている事によって、魔導具師達への依頼を渋られる可能性があると言う事ですね。

 ギルドも別れた事ですし、何時までも城の魔導具師達を魔法使い達の下に置いておくのも見聞が悪くありませんか?

 陛下、今なら例の件を理由にすれば可能かと思います」


 なので、もっともらしい理由を付けて、組織の再構築を提案。


「ふむ、確かに飛行の魔導具の開発の失敗を理由にすれば、魔法使い達から魔導具師達を切り離せれるな。

 ジルはどう考える?」

「城の魔導具師達が宮廷魔導士である魔法使い達の下部組織になっているのは、いざと言う時の予備選力とするためと言う名目でしたが、元々殆どの魔導具師は何らかの理由で現場から身を引いた者達。

 この数年で城内に増えた魔導具の整備の事を考慮いたしますと、予備選力の確保よりも余程望まれる名目になるかと」


 流石に要求される数を熟せれないでしょうけれど、少しずつ手に入るともなれば、不満をある程度抑える事が出来るはず。

 そのかわり魔法使い達が不満を爆発させそうだけれど、そもそも今や魔導具師が魔導士の下と言う考えその物がおかしい。

 何方が上も下も無く、得意にしている分野や専門にしている事が違う、と言うだけにすぎない。

 魔導具師に求められている仕事内容も、何方かと言うと装備や設備に関する物だから、宮廷魔導師団の下部組織にする意味は最早ないと言える。

 予備選力?

 本来は宮廷魔導士達が頑張るべき事なのに、何を甘えた事を言っているのか。

 聞いた話だと、予備選力のはずの魔導具師が本来赴くべき魔導士達の代わりに、戦力として現場に送られる事もあると聞いているのよ。


「ふむ、議会に掛ける価値はあるな」

「当座の仕事として最初に提案しておけば、魔法使い達が反対しようとも、他の者達が賛同してくれるでしょう。

 そのように手配しておきます」


 うん、宮廷魔導師団長を除く他の議会に出席する方に、前もって根回しすると言う訳ですね。

 真面目な話、今の王城内には魔導具が彼方此方にありますからね、どの部門も他人事ではないため、宮廷魔導師団に話しを通さずに頼めるのは大きい。

 流石はジル様、根回しをした状態で反対しようものなら、宮廷魔導師団長は四面楚歌に陥る事になうだろうから、この際に力を削ごうという訳ですか。

 只の事務用品の問題だったはずなのに、そんな大事にするだなんて、やはり王城は魔窟ですね。

 怖い怖い、私の様な田舎者は近寄らないに限ります。

 あっ、そうそう、序でにアレをお渡ししておこう。


「ジル様、先日、国からの依頼(・・・・・・)で、この様なお手紙を戴いたのですが、本来の依頼方法(・・・・・・・)でない上に、納品方法も何時もと異なり(・・・・・・・)ますので、大変に申し訳ありませんが、今回はお断りをさせて戴けないでしょうか?」


 リズドの街にある屋敷経由で来たお手紙だけど、偶々かもしれないけれどとある魔導具(・・・・・・)に関係する主要素材と同じ物を納品するようにと命ずる内容。

 おまけに納品も王城ではなく、リズドの街まで取りに行く用に手配すると書かれている。

 まるで、売買その物を誤魔化すかのようにね。

 しかも支払いは来年の上に、国に納品するのは名誉な事だからと、市場価格の百分の一にも満たない価格で納めよと、随分と面白い冗談まで書かれている始末。


「……愚かな」


 手紙を一読したジル様、お腹に手を当てて摩るだなんて、百戦錬磨のジル様が見ても胃が痛む様な内容でしたか。

 それもそうだろうね、宮廷魔導師団長如きが辺境伯である私に対して、国の許可を得ずに、勝手に私に対して国からの指示として命令している訳ですから。

 新型魔導具の開発の成功させて汚名を返上した上で、勝手に開発を勧めていた事も帳消しにしようと考えたのだろうけれど、まず成功は無理だと考えている。

 材料を手にした所で、ジェットエンジンの構造と理屈を知らなければ、碌な代物は作れないし、龍種の素材をそのまま加工するのは、よほどの腕のある魔導具師でないと製作不可能。

 その上、燃費は極悪なのだから、例え魔法使いであっても、実用的な飛行時間が確保出来るとは思えない。

 と言う訳で、時間とお金と労力と素材の無駄にしかなりそうもないので、お断りするのは当然なのよ。

 依頼を断った私は悪くない。

 悪いのはジル様とジル様から手渡された手紙を読んだ陛下に、おもいっきり眉を顰めさせた手紙を書いた人間です。


「僕を通さずに国を語るとは、随分と舐めた真似を。

 議会終了後、更迭も視野に入れねばならぬな」


 陛下お怒りです。

 これだから国の政治には関わりたくないですね。

 怖い、怖い。








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― 新着の感想 ―
過去の阿呆どもがどうなったか、学ばないのは本当に愚か。 真面目に学んで受け入れていれば魔導師の技術はどれだけ進歩したか… それはともかく、久しぶりの陛下が嬉しいです! この3人のやりとりが一番好きで…
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