97.アウトドア商品揃ってきました。え、娯楽用品じゃないんですか?
「とりあえず、心臓部である魔法石と伝達路は、これ以上弄りようがないですね」
「だな、魔法石を上下に挟み込むようにした金具が、そのまま台座と伝達路になるからな。このままぶん投げて壁に打つけても、壊れねえ頑丈さだし」
「太めのボルトで留めてありますから振動にも強いですしね、問題は……」
「嬢ちゃん担当の切り替え機の部分か。
そうは言っても露出しているからなぁ」
「軸を太くするにしても限度がありますからね」
コッフェルさんと二人で頭を突き合わせて、携帯竃の試作品を眺める。
構造を極力単純化した事で部品数を減らし、ユニット化する事で頑強さも得る事が出来た。
フレームを太くしたので、側面が多少凹んでも本体は歪まないようにもしたけど、流石に露出する部品はどうしようもない。
仕方ない、多少コストが上がって、使い難さも出てしまうけど……。
「正面の下部を出っ張らせましょう。
両横にはコの字型の金具をつけてやれば、持ち手にもなりますし」
「僅かだが、結構大きく感じるようになるな」
「ええ、なのでスイッチ部を少し中に入れてやれば、多少は小さく出来ます」
「加工賃が上がるか」
ほんの数センチだけど、体積で言うと結構な増加、…そして跳ね上がる部品代と加工代。
「ますます差が開くな」
「ええ」
加工代はともかくとして、素材である金属に差が出てしまう。
鉄を素材としたケースと、アルミを素材としたケースの同時開発。
この世界では、アルミは信頼の無い金属という謂れ無き迫害で、かなり安い。
それに対して量は採れるのに使用用途が多い鉄は、それなりに高価だ。
「これくらいなら、想定内ではあるがな」
「コッフェルさん一人で作る訳ではないですから、その辺りも考慮しています?」
「あたりめえだ、金で済むならそれで済ませちまうさ」
今回の製作にあたって、魔導具としての頑強さの次に気にしたのが、製作のしやすさ。
ええ、魔法石本体の部分以外は外注予定です。
これ全てを作ろうとしたなら、作れない事はないですが、それは数台レベルの話。
百台、二百台となると、とても個人では厳しいし、こう言ってはなんだけどコッフェルさんは年齢が年齢なので、そこまで無理は出来ない。
トレース台の魔導具みたいに、全体を魔法石化しているのならともかく、魔法石以外は通常技術で作れるなら、そうしたいに決まっている。
「ちなみに一台幾らの予定なんですか?」
「ふん、馴染みの知り合いだしな、金貨二枚と言うところか」
「高っ! いったい薪代なら何十年分あるんですか!」
「こう言うのは荷を如何に少なくして、その分だけ機動性を上げるのが目的だから金には変えられん。
一月掛かる遠征の場合、大体これが十台あったら、薪を積んだ荷馬車が何台減ると思っているんだ」
「あの、普通に暖を取るための薪も必要では?」
「そんなもの、そんなに量はいらん。
調理に使わねえなら、そこらの生木でも十分だ。
燃える程度に乾燥させるだけなら、大した魔力は食わねえからな」
なんでも薪の節約で、それくらいの事はよくあるらしく、従軍する魔導士の仕事の一つでもあるらしい。
それに多少の煙や臭いは、虫やダニ除けの効果があるので、そう言った半乾きの木を使う事は行軍中では当たり前の事らしい。
なら、ああ云うのも役に立つのでは?
そう思って、アルミを形状変化で幾つかの部品を作り、数か所を太いボルトで止める。
これを作るときのポイントは、頑強さに合わせて、携帯竈の大きさに合わせる事と、折り畳んだ時に嵩があまり取られない事。
「こいつは、もしかして」
「折り畳みの焚き火台です。
半乾きにしても、火が付き出すまでは大変でしょうから、こういった物もあると良いかと」
前世でよく見たアウトドア用品。
この中に半乾きの木を入れて下から携帯竈で炙ってやれば、かなり楽に火が着くはずはずだし、火が付いたなら、携帯竃を取り出してそのまま使えば良い。
「此奴は確かにあると便利だな。
水に濡れた後は、なるべく早く体を温める必要性もあるからな。
こういった物があるなら、ますます此奴の必要性が出てくる」
そういう事なら、火をつける道具があった方が良いかも。
種火魔法を使えなくても、そこそこの魔力がある方も多いらしいので、以前に分離型の火力違いの魔法石を引っ張り出して、銅とミスリルの合金で周りを覆い、私の拳ぐらいの筒にする。
これなら大人の男の人なら、軽く握れるぐらいの大きさだから使いやすいはず。
魔導具で再現したライターですよ。
「これくらいなら、さして荷物にならないでしょうし、必要とされる方も多いのでは?」
「確かにな、魔力持ちの連中は欲しがるだろうな。
よく、こんな物をぽんぽんと直ぐに思いつくな」
別に思いついたのではなく、思い出したに過ぎない。
前世では便利なアウトドア用品が出回っていたから、この世界でも再現できるものはいくつかある。
例えば簡単なところだと、アルミを使った折り畳みの机。
やや低めなところがポイントで、腰掛ける椅子にも踏み台にもなる。
そんな感じで数個を、即興で作ってみるが、どうやらコッフェルさん的にはどれも斬新だったみたい。
え? これ等も売り込むんですか? 魔導具とは関係ないですよ。
……別に構わないと。
はぁ、コッフェルさんが良いなら別に構いませんけど。
ちなみに、折り畳み机と折り畳みの焚火台で携帯竈を挟んでロープで結んであげれば、専用のケースもいらないですね。見た目的にはアレですけど。
こっちは先方と検討事項という事ですね。
「色々と脱線はしましたけど、肝心な問題は残ったままですよね」
「まぁ仕方あるめえ、こっちは現状じゃあどうしようもねえしな」
問題と言うのは、強化型の魔力伝達用コードの事。
此処まで作り込みはしたけど、全部それが入手できる事を前提に進めてきたし、そちら関係の改良が何も進んでいない。
「これで断られたら……全部無駄ですよね」
「そん時は強硬手段を取るまでの事」
「……あのう、出来れば穏便に済ませて欲しいのですが」
「ああ、穏便に話し合いで済ませるつもりだ。
貴族は貴族同士の話し合いでな。
伊達に彼方此方に貸しは作ってねえさ」
その貴族同士の話し合いって、脅迫とも言いますよね?
なんで、そこで目を逸らすんですか?
本当に穏便な話し合いですか?
大丈夫、半強制的であろうと、相手にメリットがある話し合いになるはず?
それって、話し合いに言った貴族の方にとっての、押し付け的なメリットとか言いませんよね?
よくある話ですよ、相手は恩を売ったつもりでも、実際は迷惑以外の何物でもないって話は。
ええ、此れでも元貴族ですから、その手の話はよく聞いています。
噂は噂に過ぎないって、本当にそう言えます?
私の目を真っ直ぐ見て、言えますか?
え? それでもし嘘だったらどうするかって?
無論、その目を突いてあげるだけですが。
「怖えよっ!
とにかく、そんな心配は返事が帰って来てからすればいいからな」
ええ、分かってます。
コッフェルさんがそんな真似するはずないと…。
余計な心配だという事は……。
でも心配になるじゃないですか。
だって知っているから…。
上位貴族の要請の強引さを…。
例えそれが幼い子供であろうとも、寄こせと言われたら頷かなければいけない事を……。
その要請に、お父様がどれだけ苦悩したかを知っているから…。
どうしても、心配になってしまうんです。
そんな資格など、もう私には無いと分かってはいるのに……。




