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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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96.狩猟道具の改造と、甘い甘いクレープ。





「あら、弓矢のお手入れ? ゆうちゃんもマメねえ」

「そうなんですが、今回は少し改良をと思って」

「ふ〜ん、買い換えた方が早いと思うけど、ゆうちゃんにとっては大切な弓矢だもんね」

「ええ、とても大切です。

 なので、この子の寿命が来るまで、しっかりと使ってあげたいですから」


 私がこの弓矢(ボウガン)を大切にしている事を知っているライラさんは、そう言う意味では良き理解者だと思う。

 コッフェルさんも言っていたけど、本来はいくら大切だからと言って、練習用の弓矢で狩りを続ける事は、感傷に浸っている以外の何物でもない事は分かってはいる。

 だけど幸いにも私は魔法使いで、それを許されるだけの手段と補う術を持っている。

 それに本当にどうしようもない時は、今までも魔法を使って対処しているので、少しばかりの感傷は許して欲しい。


「でも改良といっても、弦を強くするくらいじゃないの?」

「そうですね、基本的にはそういった強化と耐久性を上げる処理ですね」


 今回は弓本体を魔法石化はしない。

 それをやると全く別物になると言う事もあるけど、一度それをやるとそれ以上の事はできなくなってしまうし、木が素材では効果も寿命もしれている。

 そんな僅かな効果と短い寿命のために、お父様から贈られた弓を駄目にしたくはない。

 なので基本的には本体部分の耐久性の強化を第一として、弓と弦には今まで通りの魔法の補助を後押しするための加工を行うつもり。

 とりあえずその前に、弓矢(ボウガン)の本体部分に使われている木の部分の手入れも必要。

 本体の加工を行う前に、収納の魔法から銅を取り出し形状変化の魔法で形を整える。

 ええ、要所要所の補強です。

 どうしても持ち歩いていて、木や地面に打つけ易い箇所を保護するための金具です。

 前もって用意しておいた図面に合わせるように形成。

 ええ飾り金具ですよ。

 鉄よりは強度は下がりますけど、別に此れで相手を殴りつけるわけではないし。

 此方は本体部分と違って、遠慮なく魔法石化できますから、耐久性の魔法陣を焼き入れれます。

 金属を素材とした魔法石化は、木や陶器と違って魔法陣の寿命はそれなりに保つし、寿命を迎えたら再度付け替えてあげれば良いだけの事。


「蔓草の飾り金具ね。古典的だけど品格は上がるわよね」

「ええ、王道ですけど、王道なだけはあります」

「それにしても、鉄じゃなく銅を使うあたり渋いわね」

「そこはやはり飾りたいと言うのもありますが、銅ですと衝撃を吸収しますので、本体を痛めにくいんです」

「じゃあ、そろそろお店に戻るから頑張ってね」

 

 そう言い残して、居間と隣接しているお店の方に姿を消すライラさんを見送ってから、次の加工に移る。

 収納の魔法から鉄を取り出し成形。

 先ほど以上に神経を使いながらの処理に意識を集中させる。

 形状変化の魔法で熱もなく柔らかくなっている鉄に、力場(フィールド)魔法で思いっきり圧力を掛けながら、鉄の分子が綺麗に配列するようにイメージする。

 できるだけ強度を上げただけではなく、炭素を混ぜ込み粘りのある鋼にするため。

 問題は此処から、図面の上に書かれた線の通りに、真っ直ぐな中空の鉄棒にする。

 その上で、鉄棒を高速で回転させながら、定規に当てた魔導具制作用の指示棒をまっすぐと横に動かしてやる。

 材料に合わせて横へとスライドする指示棒の先端が、鉄棒の表面の微妙な凹凸に触れる度にが削れてゆく。


 ちぃぃー。


 小さな切削音を立てている光景は、所謂、旋盤加工で、前世の記憶を基に魔法で再現している。

 そして鉄棒の中の部分も同様の処理を行うのだけど、前もって専用の治具を作ってあるとは言っても、流石に直接見えない箇所への処理は神経を使う。

 でも、これはまだ下処理の段階でこれからが本番。

 再び虚空の穴から取り出したのは、特殊な用途のドリルの刃。

 緩やかに捩れの付いた刃を専用の治具に取り付け、一定の速度で回転させながら、同じく一定の速度で鉄棒の中に押し付けてゆく。

 ドリルの刃には、先日の群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪の付加魔法を真似た超振動の魔法を掛けてあるので、中で削れた鉄がどんどんと下から落ちてくる。

 

「ふぅ、まずは出来たかな」


 所謂、ライフリング加工。

 ええ、銃筒です。

 これを弓矢(ボウガン)の台座部分に埋め込みます。

 一応小さな魔法石を使って、強度の補強をして安全対策。

 弓矢(ボウガン)台座部分のお尻から、銃弾を入れられるようにも加工。

 でも銃を作る気ではないですよ。

 ですので火薬も使いません。

 使うのは撃鉄代わりに、風魔法を封じ込めた魔法石。

 攻撃魔法としては攻撃にすらならない程度の風量ですが、密閉空間で圧縮された空気が一気に解放されるので、かなりの威力が出ます。

 別で実験済みなので、これで問題はないはず。


 あとは、小さな魔石を更に幾つかに分けた魔法石、これが銃弾になります。

 ライフル弾の大きさとはいえ、この程度の大きさの魔法石に込めれる魔法は小さいですが、威力そのものは銃の機能が補ってくれるので、基本的には各属性に特化した貫通力と、特殊効果弾が目的とした魔法銃。

 だけど、この場合は魔法弓銃と呼んだ方が良いかも知れない。

 例によって厨二病が発症してしまったけど、大切な弓矢に組み込むため、きちんと実用性を考えて色々と実験済み。

 あくまでサブの兵装だけど、これがあると思うと少しだけ心強くなる。心の安心剤的存在です。


 魔導具:練習用魔法弓銃【お父様との思い出の品(改)】


 生まれ変わった弓矢は、魔法銃の部分も見た目的にも飾り金具に紛れ込んでいるから、一見して分からないだろうし、この世界には銃の概念がないから、まずバレる事はないと思う。

 おまけ的部分はこれくらいにして、メイン兵装の肝心の部分の魔導具の矢の作成に入るかな。

 基本的にはコッフェルさんに教わった通りなんだけど、矢尻と棒の部分が同じ素材だと重心が後ろに下がるため、飛距離が落ちる上にブレが生じたりする。

 なので棒の部分はアルミと魔法銀(ミスリル)の合金で作成。

 矢羽は止めて、ライフリングのように捩れの突起を入れる事で、高速の回転を生んで、ブレをなくしたり飛距離を伸ばす役割をする。

 魔法銀を混ぜ込んだのは、魔法石に回転を増幅する魔法陣を追加してやるため、少しでも魔力伝達の効率を良くするのに必要だから。

 紅結岩石の矢に埋め込んだ魔法石に組み込んだ魔法陣は三つ。

 一つは紅結岩石による付加による魔力タンクとして……。

 一つは矢の回転を上げるためのもの……。

 一つは、耐久を上げるためのもの……。


 大変だったのは、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った矢の方。

 上の三つに加えて、更に付加魔法を増幅するための魔法陣を加えるため、一本作る度に休憩がいる程の神経を使った。

 いくら積層構造の魔法陣があるからと言っても限度がある。

 これでもブロック魔法を応用した拡大鏡を使用して、やっとの作業。

 よく前世の職人の人達は、こういう細かい作業を一日中やっていられるなと思う。

 いや本気で、そう思いますよ。

 ええ、もう今日は何にもしたくないと思うほど、精神的に疲れましたから。

 この疲れを癒すには、甘い物が食べたくなるのも当然かと。


「そう言うわけで、クレープを作ったので食べませんか?」


 ちょうどクレープが完成したところで、接客を終えたライラさんに声を掛ける。

 ええ、掛けると言ってもほぼ強制ですけどね。

 こんな大きなクレープ二つも食べれませんから。

 フルーツたっぷり、それ以上に生クリープをたっぷり、おまけに蜂蜜もかけちゃってありますから、疲労回復もバッチリです。

 どうですか、焼き立てで良い香りですよ。


「くっ、この妖精めっ!」


 此処数ヶ月で、すっかりと聴き慣れたお馴染みのセリフに、私は笑みを浮かべる。

 ええ、この妖精と言うのは、悪魔の囁きと言う意味なんですが、ちっとも構いません。

 だって、この後は本当に美味しそうに食べてくれるから、私にとって褒め言葉です。


 ぱくっ。


「う〜ん、美味しいですよ♪」

「……駄目だと思ってはいても、結局は抗えないのよね」


 はむ。


「でも、本当に美味しいわよね♪

 つまらない事なんて忘れそうになるくらいね」


 それは良かったです。

 大丈夫ですよ。ちゃんと明日の朝も起こしてあげますから、一緒に頑張りましょう。

 それにこれでも一応は手加減したんですよ。

 これでもう少し暖かい時期なら、此処にアイスクリームを混ぜていましたし、ついでにナッツも振りかけて。

 え? アイスクリームがどんな食べ物かですかって、それはその時のお楽しみです。

 ただ体重を気にするライラさんにとっては、天敵のような食べ物とだけ。


「……最近、貴女が妖精そのものじゃないかって思えてきたわ」

「でも、そんな事を言っても、結局は食べるんでしょ?」

「当たり前でしょっ!

 だから妖精の誘惑と言うんじゃないっ」


 でも時々思うんだけど、こうして人間が何でもかんでも妖精のせいにするから、妖精自身が人間を目の敵にするのではないかと思ってしまう。






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