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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
89/976

89.魔力切れ? そんなの知りません。むしろ癒し切れです。




「……っ」


 回転式レバーを使った切り替え機構は、その端子部分の魔法銀(ミスリル)と銅の板バネ部分、何度か行う熱処理を間違えると、バネとして働かなくなるし、強度が下がり脆くなってしまう。

 ただでさえ摩耗が激しいと思われる部分なので、慎重に作業を行い、……よし、今はこれで良いか。

 スイッチの切り替えは、決まった位置に止まる様に溝をつけて加工。

 取り付けのためのネジ加工は難しいので、今回は嵌め込みと既製品のネジをコッフェルさんの作業用の戸棚から拝借。

 この時点で、集中力のいる作業は終えてはいたけど、集中力を維持して作業を進める。

 形状変化の魔法を駆使すれば、鉄板を曲げる事も簡単だけど、やはりキチンとした形にするには熟練の技がいるし、ケガキをした方が作業がしやすいし確実。

 魔法はあくまで器具や工具の代替え品でしかなく、多くの工程では専用の器具や工具を使った方が綺麗に仕上がる。


「ふぅ……」


 周りの覆う箱と、火力調整用のダイヤル機構式スイッチは完成したので、魔法石を固定するための台座と、魔力の伝達回路か……。

 【火】属性魔法は全般的に魔力の消費が大きいため、多くの魔力を流せる物でないといけない。

 コッフェルさんは、火力調整用の魔法陣と魔力伝達葉を兼ねて魔法石を使っていたけど、あれだと絶えず魔法石に手を触れている必要がある。

 コギットさんの作ってくれた魔力伝達用の紐では、許容量がとても足りない。

 足りないのでコードを束にしてやる。

 使用予定のあるトレース台用ではなく、以前に試作で余った物を頂いた物。

 必要とされる魔力量を計算してから、二十メートルある紐を十六分割して編み込んで一本のロープにし、先端を露出させた方に魔法銀(ミスリル)の細い線の束を別の魔法銀で溶着して、端子や金具に取り付けた。そこまで作業を終えた所で。


「こっちは出来上がったが、そっちもだいぶ進んだ様だな」

「………汗びっしょりですが、大丈夫ですか?」


 滝の様にとは言わないけど、汗粒が顔のアチコチに浮かんでいるコッフェルさんに、私はどこか具合が悪いのかと心配してしまう。

 しまうんだけど、余計なお世話だと怒られました。

 どうやら私に深く突っ込んで貰いたくない事の様です。

 でも心配なのでジッと見つめます。

 ええ、睨めっこです。

 こう言う根気なら負けませんよ。

 ええ、睨んでも駄目ですから。

 コッフェルさんより怖い顔の人には慣れてます。

 別にダントンさんの事とは言いませんよ。

 あくまで例え話です。

 あっ顔を逸らしましたね。

 駄目ですよ〜。

 逃がしませんから


「ああ、うっとおしいっ!

 そんなに心配せんでも、本気でなんともねえっ!

 ただ魔力を使い過ぎで、疲労しているだけだっ!

 まったく、言わせやがって」

「本当ですか?

 教会に行かなくても大丈夫ですか?

 無理してません?」


 ええ、だって疲労などを隠して頑張っても、碌な事はありません。

 前世の過労の末の交通事故死した教訓です。

 もし病気なら尚更のことです。


「……はぁ、俺の歳で魔法石を一気に四個も作れば、こうなるのは普通なんだよ。

 言ったろ嬢ちゃんはヘンテコだってな。

 そして、それを自覚だけはしとおけともな」


 その後のコッフェルさんの説明によると、私の魔力容量は異常らしい。

 いくら効率が良いと言っても、身体強化の魔法を半日使い続けて山を駆け巡ったあげくに、赤色角熊(レッド・ベア)を狩り獲って帰ってくる。

 普通なら、この時点でとっくに魔力を枯渇してもおかしくないらしいのに、その上で魔力を多く使う魔導具の製作をして平気な顔をしているのは、私のヘンテコな部分なのだとか。

 そして、それを自覚せずに追求する私の行動は、若い者に負けたと言わせようとする脅迫に近い行動だと。


「すいません、そんなつもりは本当になくて」

「………謝るんじゃねえ、鬱陶しい。

 そんな顔されたら、俺が余計に惨めになるだろうが。

 いいから、とっとと仕上げるぞ」


 それでその話は終わりだと言わんばかりに話を打ち切り、私に出来たての魔法石を手渡してくる。

 ただ、その魔法石を見て驚く。

 大きさは単機能にしたため、以前の物より小さい魔石が使われているのだけど、てっきり出力別に大きさの違う物になっているとばかり思っていたのに、魔法石の大きさは変わらずに、……その色が違う事に驚く。

 通常色の赤意外に、青、緑、黄の四つ。


「凄く綺麗ですね。どうしたんです、これ?」


 なんでも、大きさを変えたり、違う物を探したりするより、色を変えた方が楽なのだとか。

 ええ、それは分かりましたから、その方法は?

 ……えっ? 教えてくれないんですか?

 私の魔力容量なら必要のない小細工と、いえいえ必要ですから。

 ほら、この魔導具のイヤリングも本当は青が良かったんですが、魔法石の色を変えれるとは知らなかったので。

 ……え? これですか?

 日焼け止めの魔導具の試作品です。

 ほらっ私って、色無し(アルビノ)ですから、気を付けないと日焼けで火傷してしまうので。

 夏、薄着をしたくてもできないんですよ。

 ええ、夏は魔法を使わなければ暑くて、熱中症物です。

 後で教えてくれると、ありがとうございます。

 ……あっ、今回のが上手く言ったらと、しっかりしてますね。

 ……でもイヤリングは今の色のままの方が似合うって、ライラさんと同じ事を言いますね。

 そのう、赤だと目立ちすぎる色ですし、私には似合わない気が……。

 ……似合うから気にするなって、コッフェルさんでもそう言うこと言うんですね。

 すみません調子に乗り過ぎました。

 はい、ライラさんの言葉を信用しますから。


「とにかく台座に嵌め込みますね」


 これ以上、話を脱線させると本気で御機嫌を崩されそうなので、作業に戻ります。

 ええ、別に話から逃げ出した訳ではないですよ。

 台座の金具の爪を、形状変化の魔法で魔法石をしっかりと固定。

 後は魔力路として魔法銀(ミスリル)と鉄の合金の爪を、魔法石に被せる様にして魔法で接続し固定する。


魔法銀(ミスリル)は嬢ちゃんの手持ちか」

「ええ、場所が分からなかったので」

「少し分かり難いところに置いてあるからな、後で出すから使った分は持ってゆけ。

 それとこっちは、例の魔導具の予備か、流石にこれはねえな」

「以前に試作品で余った物を戴いて取ってあったのを使いました。

 今回は動作的な試作なので、こうして無理やり使ってますけど、もし本格的に作るのなら、適した物を設計します」

「今回の分も含めて金は出すから、頼む」


 まだ実験もしていないのに良いのだろうかと思いつつ、中の部品の組みつけを終えたコンロに上蓋を被せて完成。

 魔力伝達用の環を手首に引っ掛けて、ダイヤルスイッチをカチッと言う所まで回すと、コンロから小さな魔法の炎が五角形を描く様に五つつ現れる。

 小さくても安定した出力の炎は、ダイヤルを更に回すと消えて、新たに別の炎が先程より大きくなって現れる。

 それを後二回繰り返して動作を確認した後、あらためてコッフェルさんにも試してもらう。

 ただ、結果を見るまでもなくコッフェルさんは笑顔?

 なんと言うか、凄くいけない悪巧みを考えている様な邪悪な笑みを浮かべていて。

 下から炎の灯りによって照らされていて一層、怖く見えてしまう。

 小さい子ならトラウマものの笑みです。

 ニタニタ笑っている表情は、分かってはいても迫力があります。


「成功じゃねえか」

「そうですね機能的には、取り敢えずは」

「なんだ、問題あるみてえな言い方だな?」

「いえ、商品として出すには問題がまだまだ多いかと」

「このままでは拙いか?」

「ええ、拙いです。

 幾ら良い物であっても、問題があれば不要な物になってしまいます」


 まずは魔力伝達用の紐を、これ用に作り直す必要があるのは当然として、調理を行う上で両手はなるべく自由にしておきたい。

 使用環境や使う人達によって、どうすれば一番使いやすいか探る必要がある。

 それに、今回はダイヤル式スイッチによって、いちいち炎がついたり消えたりしたけど、もっと火力を必要とするのならば、火力を上げる都度に、魔法石を並列に作動させても良いかもしれないけど、魔力を食い過ぎても拙い訳だし。

 他にも、携帯目的ならば、誤動作しない様にしないといけないし、荷馬車での移動に耐えられるだけの強度や頑強さも必要だし、その上で軽量さも求められる。

 行軍中であるならば、急遽移動する事態もあるだろうから、余熱で火事や火傷がおきない様にしないといけない。

 幾ら良い魔導具でも、火傷や火事を引き起こしかねないのならば、敬遠されてしまう可能性が高い。

 なんにしろ使う側として見た場合の問題点は、最初のうちに潰しておいた方が言い訳で、そんな話にコッフェルさんは難しい顔をして。


「使う側か、確かにあまり意識した事はねえな」

「そうなんですか?」

「まあな、基本的に俺ら魔導具師が作る物は、使い捨ての武器が殆どだからな」


 そう言われれば、そうなのかもしれないし、コッフェルさんに以前に見せて貰った魔導具のほとんどはそんな感じだったし、武器や防具への魔法の付加にする物だって基本的には使い切りの物。

 魔導具によっては、付加した武具事使い捨てにもなる物もあるぐらいだ。

 求められる能力や汎用性を求めると、そうなってしまうと言うだけで。


「でも、使う人達も命が掛かっているから、少しでも使いやすい物の方が良いと思いますけど」


 そう言って近くの商品棚から、コッフェルさんの作った魔導具を手にする。

 確か以前聞いた説明では、火球魔法を封じた魔導具で、発動用の魔力を込めて数秒後に発動する魔導具で、基本的に相手に投げつけて使う物だけど、前世で言うなら手榴弾みたいなもの。

 これを時限式ではなく衝撃型にして、投擲用のナイフや弓矢に適した物にして相手に刺さってから魔法を発動させる方式にした方が、相手によりダメージを与えられる。

 無論、このままの従来の投擲型でも、岩壁に反射させるとか出来るので汎用性は高い。

 でも、これに命を掛けている人達からしたら、そのほんの僅かな違いが生死を分ける境目になるかもしれない。

 少なくても命を掛ける以上は、選択肢はあった方が良い気もする。

 他にも二、三気がついた事を言った後。


「言われてみればそうかもしれんが、オメエさんこう言うの嫌いで、ああ言う物を作っていたんじゃねえのか。随分と詳しいじゃねえか」

「嫌いと言うか、身の回りの物を作っていた方が楽しいと言うのが本音ですね。

 それに、ほら、こう言うのって、如何にして相手を効率よく確実に殺すかって事でしょ。

 流石にそ言うのを延々と考え続けるのは、ちょっと……」


 詳しいというか、前世でゲームや漫画で得た知識です。

 それに、厨二的武器を考えるのは楽しいかもしれないけど、それを実際に使う事なんて考えたくはない。

 それに魔物を殺せると言う事は、当然ながら人をも殺せる武器となる訳だし、自分の作った武器で誰かが殺される。

 偽善かもしれないけど、そんな事態はできるだけ避けたい。

 魔物が跋扈するこの世界では、そんな戯言は通用しないし、我が儘だって言う事は分かっているけどね。


「……そういう言い方されるとな。

 だか、合う合わないで言えば、確かに嬢ちゃんには似合わねえな。

 言っとくが、その場合の嬢ちゃんの相手は魔物ではなく人間だぞ」

「……でしょうね」


 コッフェルさんに言われるまでもなく、そんな気はしていた。

 アルベルトさんに日誌に隠し残されていた言葉や、この世界の状況。

 魔導具の使用が武具へと偏っており、一般生活には浸透していない事実。

 それらの事から、多分、私が歩もうとしているのは、そういう道なのだと。

 だからこそ、私は書籍ギルドから話があった時、ギルドを利用する事を選んだ。

 自分で選んだ道を貫き通すために……。

 自分勝手な我が儘な綺麗事を、綺麗事で済ませれる様に……。

 多少の苦難や、人として許されるくらいの汚さは、喜んで引き受ける覚悟を。






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