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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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88.老魔導具師と封印されていた魔導具。





「適当に座っていろ、今、茶を煎れ直す」


 先程とは違って、今度はコッフェルさんがお茶を煎れようと、薬缶のお湯をあっという間に沸騰させ、ポットにお茶の葉を適当に放り込むと同時にお湯を注いで行きます。


「ちっ、やっぱり嬢ちゃんのようにはいかんか」


 何やら、ぶつくさと言っているようですが、小さくてよく聞き取れません。

 ただ、コッフェルさんがお湯を沸かす時、感じた変な揺らぎが気になっていたというのもあるのですが、よく考えたら私、神父様以外で他の魔法使いの方が、こうして魔法を扱う所を初めて見た事に気が付く。

 故郷の神父様の聖魔法は、修行の上で身に付けた物らしいので、魔法使いとは違いますけどね。

 ですから生粋の魔法使いと言う意味では、コッフェルさんが初めてです。


「ん、どうした? 変な顔が一層変な顔をしているぞ」


 多分こういう所が、ライラさんを怒らせている原因なのだと思いますけど。

 私の場合、外見が人と違う事は子供の頃から自覚しているので、そう言われても特に気にしませんけど、言われて面白くないのも事実です。

 まあ、こう言う性格の人で、さして悪気はないだろうから、聞き流しちゃいますけどね。


「いえ、こうして魔法らしい魔法を、人が使う所を見るのは初めてなんで」

「ふん、だろうな。

 でなきゃ、嬢ちゃんみたいなヘンテコにはならんだろう」

「が~んっ! ヘンテコって言われたっ!」

 

 ええ、ショックです。

 容姿のヘンテコはともかくとして、魔法のヘンテコは流石にショックです。

 そりゃあ、私の魔法は本と前世の記憶頼みでの我流ですけど、ヘンテコ呼ばわりされるとは思いませんでした。

 せいぜいが、変わっている呼ばわりです。

 あと、まず、私みたいな人間はいない呼ばわりです。

 魔法の無駄遣い以外の何物でもないとか。

 思い返してみると、言われていた気がします。

 ただ、ここまでショックを受けなかっただけで。


「……そんなに変ですか?」

「自覚がねえのは仕方ねえが、別に卑下して見る必要はねえな。

 そもそも俺達魔導士は、人から離れた変種、…いわば変人だ。

 嬢ちゃんぐらいの変人なら、変人を極めても良いんじゃねえか」

「真面目な顔して、人を変人呼ばわりは止めてくださいっ!

 と言うか、そんなもの極めたくありませんっ!」


 ええ、思わず叫んじゃいましたよ。

 その私の反応にニヤニヤと笑うコッフェルさんに、してやられたと思いつつも、人を元気づけるのなら、もう少しだけ真面な手段を選んで欲しいとも思ってしまう。


「元気、出たじゃねえか」

「ええ、おかげさまで」


 気持ちは嬉しいけど、面白くもないのも確かなので、気持ちを落ち着けるためもあって、せっかく煎れてくれたお茶を口に付ける。

 うん、少しだけ香り足しに入れてある洋酒の香りに、コッフェルさんらしいと感じる。

 なんか、こう言う味は前世以来だなと懐かしく思ってしまう。

 よく考えれば十年以上経つ事になるんだもんな。

 記憶を取り戻してから入れても六年半か……、幾ら必死な毎日だったとはいえ、月日が経つのも早いと感じてしまう。


「まじめな話、ヘンテコで良いじゃねえか、それはテメエさんの武器になるからな。

 人と違う事をやりてえなら、同じである必要はねえ。 違うか?」

「そうですね、多分、私が目指そうとしているのは、魔法使いの人達の中でも違う事なのでしょうから」

「ただ、自覚だけはしておけ。

 でねえと厄介ごとに巻き込まれかねねえ。

 あと魔法使いじゃねえ魔導士だ。

 ど素人相手ならともかく、知っている奴なら五月蠅い事を言う奴がいるから使い分けとけ。

 それと、ほれっ、獲物の代金だ」


 そう言って投げ渡してきたのは、金貨二枚。

 どう見ても多すぎる。コッフェルさんは半額と言っていた、詳しい事は知らないけど、これでは相場の満額に近いはず。


「多すぎます」

「ちっ、これだから世間知らずは……。

 真面に冒険者組合に売ったら、赤色角熊(レッド・ベア)の相場は金貨二枚ってとこだろう。

 だが、あれだけ無傷に近い完品の獲物だ、毛皮は素材ではなく好事家が高く買う、己が権力を自慢にするためにな。

 肉は精力剤や滋養効果のある干し肉、骨や筋は魔導具の素材、肝は薬になるし、それ以外の内臓は毒ではあるが、発酵させれば薬剤にもなる」


 売るところに売れば、毛皮だけでも金貨三枚にはなるらしく、合わせれば金貨四枚は固いらしい。


「その辺りを黙って安く買い叩いているのは冒険者組合の闇だが、割の良い仕事を回すのも冒険者組合だ。

 持ちつ持たれつなんだろうが、組合を通して仕事をする気がねえなら、そう言う伝手を作っておけ、幾つかは紹介してやる」


 業者を紹介してくれるのは大変ありがたいけど、そこまでして戴く理由がない。

 コッフェルさんなら、自分で獲ってきた獲物の使わない部分を、そちらに回す事が出来るはず。

 コッフェルさんの商売敵になれるほどの腕は無いけど、影響が出ない訳ではないと思う。

 そんな私に………。


「あのなぁ、何が悲しくて俺みたいな爺が、山歩きせにゃあかんのだ。

 楽隠居してえから、こんなところで店を開いてるんだ、それぐらい察しやがれ。

 あと、腕の良い人間を紹介するのは、此方にもそれ相応のメリットがあるんだよ。

 信頼とか、紹介先や紹介した相手に貸しを作れるしな」


 確かにコッフェルさんの年だと、普通なら山歩きが厳しいでしょうけど、魔法使いである私達にはさして厳しくはないと思うのだけど、如何せん今世はもちろん前世でも、そこまで年を取った事が無いので、実感がない分あくまで想像でしかない。

 言っている事は分かるけど、本当にそこ迄してもらっても良いのかと首を傾げていると、コッフェルさんは、普段座っている机の奥から、何やら鞄ほどの大きさの四角い物を出して私の前に置く。


「嬢ちゃん、こいつを見てどう思う?」


 目の前に置かれた厚みのある四角い箱、そしてその上に後から置かれた薬缶。

 こうなったら、これの正体は簡単に想像はつく。

 前世の世界ではコンロと呼ばれていた物だけど、この世界風に言うならば携帯(かまど)だろう。

 ただ、点火や火力調整のためのツマミの代わりに、箱の横に飾られている魔法石。

 そこへ手を当てて魔力を送ると、魔法石に吸い込まれていくのと引き換えに、コンロの上部から火が吹き出し一瞬にして薬缶を包み込む。

 その光景にびっくりして慌てて魔力を引き絞り、前世のコンロで良く見るような火力になるのを見て安堵の息を吐く。

 そんなに魔力を送ったつもりではないけど、私が思っていたより、よほど魔力の変換効率が良いのだと思う。

 とりあえず加減が分かったので魔法石から手を離し、力場魔法だけで魔力を送り薬缶のお湯が沸くまでは放っておく事にする。これくらいの火力なら、五分も待たずに沸くだろうと思う。


「悪いが俺は嬢ちゃんみたいに物好きじゃねえ。

 これも軍閥系の貴族から相談を受けて試作した物だが、……見ての通り失敗作だがな」

「軍閥系と言う事は軍用品ですよね?」

「まあな。

 人が集まれば食料以外にも、大量に消費する物がある」

「水と御飯を作るのに必要な薪ですか」

「水は水系の魔法を使える魔導士がいればなんとかなるが、薪はそう言う訳には行かねえからな」


 そのままこのコンロ型の魔導具の開発コンセプトを教えてくれる。

 大量の薪を運ぶ荷馬車を減らすための魔導具。

 魔法の炎は魔導士の数が少ないし調理には不向きで、そんな事に時間を掛ける暇があるなら、少しでも火力を上げる事に精力を注ぎ込むのが一般的な魔導士だそうだ。

 なにより、いざと言う時に魔力切れでは堪らないので、魔力持ちならそれなりにいるから、彼等だけでも使えるような魔導具が欲しいらしい。

 それで魔導具にすると、魔法の威力の割に魔力を消費する効率の悪さを利用し、火力調整できる魔法石を開発したとの事。

 そう言う事なら、私が最初に火を吹き出させてしまった理由も分かる。

 この魔導具が魔導士でない方達向けと言うのならば、むしろ少しの魔力で、あれだけの魔法の炎を発現させたのだから、コッフェルさんの技術力の一端が分かると言う物。

 でも、確かにそう言う意味ではこの魔導具は失敗作だと思う。


「火力調整が難しいでしょうね」

「ああ、それが一番の原因だ。

 知り合いの魔導士の奴にも無理だとな。

 今じゃ、俺が冬にお湯割を作るために使っているだけだ」


 その言葉に、普通の魔導士はお湯を沸騰させてしまうと、いつか神父様が言っていたけど、本当だったのだと実感する。

 あの時は神父様が、お世辞を兼ねて大袈裟に言っていると思ったのだけど、どうやら本当の事みたい。

 火力重視の弊害というのか、魔物を相手にしていては、それだけの余裕がないのだろう。

 そう言う意味では、確かに私は異端で、ヘンテコの魔導師なのだと思う。

 まぁ、それは今は置いておくとして、この失敗作を私に見せてコンセプトを説明したという事は、早速貸しを返せという事なのだと思う。

 思うけど、……勝手に思い込むだけでは駄目。


「紹介する代価と言う事ですね?」

「フン、言質なんぞ確認せんでもそのつもりだ。

 だが、その様子だと良い手があるんだな?」


 ならば、安心して提案はできる。

 無論、私なら、違う方式を使うけど、たぶんそれを作れるのは、前世の知識がある私だけだから、教えても意味がないし、商品化をした日には私が過労死する羽目になりかねない。


「軍用品という事なら、値段が上がっても大丈夫ですよね?」

「多少はな」

「なら、もっと効率を悪くしましょう」

「はぁ?」


 そこで、お湯が沸いたので、薬缶をコンロの魔導具から外して、魔導具を分解させてもらう。

 無論、力場魔法でですよ、今、素手なんかで触ったら火傷してしまいますから。

 私の流した魔力の流れから、だいたい構造は分かっていたので、周りの箱の部分を外すと、思った通りの構造でした。

 形状変化をさせた魔法石が二個というか、瓢箪型の魔法石が箱の中央部分と、箱から飛び出ている部分に嵌っています。

 武器と違って火力が小さいため、使い捨てずに再利用が可能なのだろうけど、私が思っている以上に大きな魔法石が使われている。

 魔法石のほとんどが火力調整機能と、一瞬一瞬の魔力切れ対策のための魔力タンクとして使われているのだと思う。


「まずは火魔法の調整機能は失くしてしまいましょう。

 その代わりに、火力の違う魔法石をとりあえず四つ用意してください。

 単機能で良いので、魔力の強弱に関わらず必ず一定の火力になる物で」

「そんな単純で良いのか?」

「ええ、こう中心に魔法石を並べて、火力の調整は機構的に行なうようにすれば」

「……っ、その手があったか!」


 火力の調整を魔導具の魔法陣で行うのではなく、スイッチで使う出力の違う魔法石を切り替えてやれば良いだけのこと。

 私やコッフェルさんのような魔導士は自分が出来るからこそ、それで成してしまおうとする。

 特に魔法や魔導具となれば、尚更、顕著に現れやすいもの。

 洗濯物を干すにしろ畳むにしろ、生活の中で何でもかんでも魔法で済ませてしまう私が言うのもなんだけどね。

 ただ言っておくけど、別に私は楽がしたくて、そう言う事をしている訳ではない。

 あくまで魔力制御の訓練でもあり、家事の時間を短縮して、勉強や研究、そして訓練の時間などに当てたいからである。

 そこに楽をしたいと言う気持ちが、まったく無い訳ではないけどね。

 どっちとは言わないけど。せいぜいが半分くらいだ。


「機構的な部分は私が作りますから、出来次第試してみましょう」

「……今からか?」

「今からですよ。

 あっ、此方の机を借りますね」


 おかしなことを言う、せっかく客もいないし、こうして魔導具に関わる人間が二人もいるだから、当然の流れだと思うのですが……。


「もしかしてお約束でも?」

「いや、そんな物はねえが、おめえさん今日は山に行ってきたんじゃねえのか?」

「ええ、行ってきましたよ、酷い目に遭いましたけどね。

 でも、コッフェルさんが高く買い取ってくれたので、結果的には大変に得した日です」

「そうじゃなくて、魔力のほうは大丈夫なのかと思ってな?」

「魔力ですか? 大丈夫ですけど、……言われてみれば、今まで魔力切れはした事はなかったですね」


 せいぜいが空間移動魔法を調子に乗って連発しまくった時に、枯渇しそうな感じがしただけで、それでもまだ余裕はあった。

 あれから二年近く経って、身体の成長はともかくとして、魔力と魔力容量はしっかりと成長している自覚があるので、今なら空間移動で五百キロ以上離れたシンフェリア領まで、十往復以上しても、魔力は半分も減らないと思う。


「そもそも、今日はたいした魔法を使ってませんから、そんな心配は無用ですよ」

「あんな獲物を狩って来たら、普通は信じられんぞ」


 互いに手と意識を目の前の作業に集中しながらも、脳裏の片隅で会話を続ける。

 そもそも私の狩猟は弓矢が中心で、魔法はその補助でしかない。

 赤色角熊には魔法を使ったけど、あれ一発では高が知れているし、その一発も火力より圧縮の方に割いているため、魔力の消費その物は、それほど高くはない。

 あとは基本的に身体強化と、結界魔法の利用したブロック魔法で、半日ほど山道を駆けていただけに過ぎない。

 流石に移動時間の短縮のための空間移動や、空間レーダー等の魔法は黙っておいたけど、そんな感じで会話をしていたけど、流石に此処から先は集中力がいるので、口を閉じて目の前の作業だけに集中する。






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