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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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87.老魔導具師と駆け出し魔導具師。





「そう言う訳で、お願いがあります」

「……俺は忙しいんだ」


 またまた、コッフェルさんご冗談を、誰もお店にいないじゃないですか。

 それに作業中でもなさそうですし。

 え、私がくる前に客の相手をしていたと?

 ではお疲れでしょうから、今お茶を煎れますね。

 ああぁ、カップが汚れたまま、しかも洗い物が溜まっている。

 え? 勝手に触るな?

 大丈夫ですよ、すぐに終わりますから。

 ほらほら、こうして魔法でやれば十数える間に終わっちゃいます。


「……っ」


 どうしたんです? 変な顔をして。

 何時もの苦虫を潰したような顔をなされないんですか?

 いえ、別に喧嘩売ってませんよ、素直な感想です。

 そんな訳で、あとは茶の蒸らしだけですので、今、そっちに戻りますね。


「……ふぅ……」

「本当にお疲れなんですね」

「……誰のせいだと思っているんだが。

 まあいい、話だけ(・・)は聞いてやるから、とっとと話して出て行け」


 随分の言われようではあるけど、これくらいは言われると思っていたので、話を進めちゃいます。

 山に山菜採りに行ったのはいいけど、魔物に襲われてしまい。

 逃げるにしても逃げきれず、これ以上逃げると麓の町に近づきすぎてしまう為に、仕方なく相対したのだけど、その処分に困っていると。


「……色々と突っ込みてえが、その判断は正しいぜ。

 魔物なんぞ人里に呼び込んだ日にゃ、エライ事になる。

 無事に騒ぎが終わったとしても、逃げ込んだ人里の人間に、袋叩きで殺されても文句言えねえぐれえにな。

 魔物の領域に近いにところに住むに人間は、魔物と遭遇したら人里と逆の方に逃げろと教えられているぐれえだからな。

 ちなみにその事は知っていたか?」

「……いえ、そこまでは。

 ただ、魔物を人里に近づける事の怖さは教えられてはきました」


 シンフェリア領は、そこまで魔物の領域が近い訳ではない。

 ただ数十年から百年に一度のレベルで魔物の生域が広がる事があり、その時に魔物が群れで降りてくる事がある為、そこまで極端な教えではなかった。

 村や町の為に、自ら生贄に成れと言うような教えは……。


「まあいい、そう言う事を理解して行動でき、その上で帰って来れるのなら、それ以上は俺の言う事じゃねえ。

 あと、そう言う事情で此処に来たと言うなら、肉屋では買い取ってくれねえような獲物か。

 オメエさんは一般の未成年だから、冒険者組合は無理だろうからな。

 半値だ。それで良ければ買い取ってやる」


 だから余計にコッフェルさんの言葉が嬉しくなる。

 ええ、だって例え半値でも買い取ってくれるんですよ。

 無駄な殺生をしなくて済んだ訳ですから。

 あれ? お出かけですか?

 え、獲物を取りに行くって、持ってきていますよ。

 とりあえず此処だと無理なので、裏のお庭に行きましょう。

 そうして裏庭に出た後、収納の魔法を腕輪型の魔導具から開放して、虚空に収納の魔法を大きく展開します。


 魔導具:闇孔の腕輪。


 そこから引きずり出した魔物の身体を、魔法でゆっくりと石畳の部分に置く。


「っ! 赤色角熊(レッド・ベア)じゃねえか。しかも無傷とはな」

「何時ものお肉屋さんでは、流石に無理だと断られました」

「そうだろうな、完全に門外漢だからな。

 それよか、此れを一人で狩ったのか?」

「ええ、引き寄せて大口開けた所を、弓矢で」

「……弓矢で仕留めれるような獲物じゃねえだろう」

「其処は其処、魔法で細工をして何とかしました」

「……口から脳天へ一撃か。

 確かにこれなら強化の仕方次第で行けるだろうが、真正面に立たなければいけねえ。

 よく狙えたな?」

「アレだけ引き寄せれば、何とかなります」


 二、三メートル先の獲物を外すのは、流石に逆に困難だと思う。

 軌道修正も角度を調整したぐらいなので、威力その物はあまり下がっていないはず。

 私の説明にコッフェルさんは、なぜか目元を引くつかせた後、一度首を横に振ってから。


「あとその袖の下の腕輪なんだ」

「此れですか?

 ただの収納の魔法を小さく固定するだけの魔導具ですよ。

 本当は収納の魔法の魔導具を作りたかったのですが、今の私では此れが精一杯で、……悔しいですけどね」


 幾ら図面や理論が書いてあっても、そこから原理や自分なりの魔法にするには時間が掛かるし、分かっている材料だって手に入れ難い物が多く、その加工方法も分かっていない。

 その上で魔法を連携させるための方法など、まだ数年は掛かると思うし、出来たとしても問題がある。


「ただ、出来たとしても世には出せないと思いますよ」

「ほう…、なんでそう思う?」

「材料の問題もあるでしょうが、困る人がたくさん出ますし、悪い事を考える人も出てしまいます。

 なにより、与える影響が大きすぎます」

「よく分かってるじゃねえか、ではその腕輪はどういうつもりでいるんだ?」

「此れですか? この程度は今更でしょう」


 収納の魔法そのものは、使い手がそれなりにいるらしいし、この街にも何人かいるとは聞いている。

 それにこの魔導具で悪い事を考えれる人なら、こんな魔導具などなくても幾らでもやりようがあるでしょうし、収納の魔法の欠点がなくなった訳ではなく、少しだけ楽ができる程度の魔導具でしかない。

 それに魔法があるこの世界において、魔導具の悪用など当然のように起こりうる事であり、取り締まる側とて馬鹿じゃないはず。

 厳しい罰則以外にも、それなりのノウハウがある。

 実際、この街の門兵でもある衛兵の人は、きちんとこの腕輪の事には気がついていた。

 収納の鞄には気がついてはいなかったけど、その辺りはアルベルトさんの技術故で、その辺りは今は置いておく。

 とにかく、そう言った説明にコッフェルさんは、ニヤリと笑みを浮かべ。


「なるほど、ただの魔導具好きではなく、キチンと回る頭は持っているって訳か。

 少し嬢ちゃんをナメていたな」


 あのコッフェルさん、そう言う事を、そう言う笑みで言われるのはどうかと思いますよ。

 本気で悪人面に見えますから止めた方が良いです。

 小さな子供なら、泣き出してしまいそうですから。

 せっかく良い人なのに、誤解されたら勿体ないですよ。

 え? 誰が良い人かって、コッフェルさんですよ。

 口は悪いけど、この間もライラさんを心配気に見ておられましたし、なんやかんやと私にも、色々と教えてくださったじゃないですか、先日の本の件は本当にありがとうございます。

 まだパッと見しか…え、なんの事だって? そう教えてくださいましたよ。


「……あのクソババァーめっ」

「あっ、やっぱり。

 あらためて良い本を紹介していただき、ありがとうございます。

 お心遣いに応えれるように、これからも精進いたします」


 私のあらためての言葉に、コッフェルさんは一瞬ポケっとした後で、その顔に手を当てて悔しがります。

 ええ、嵌めさせていただきました。

 そもそも幾ら書籍ギルドの支部長でも、今の私の状態を見抜き、最も必要としそうな本を、あそこまで的確に選べる訳がないと思ったんです。

 人に紹介できると言う事は、その本をよく知っていると言うこと、そしてあの手の本を読むラフェルさんの関係者で、私を知る人と言うと、コッフェルさんしかいない訳ですから。

 お礼を言いたい事もあって、駄目元で冒険者組合に行く前に立ち寄ったのですが、正解だったようです。

 魔物と魔導具の件もあって、良い具合に意識がそちらに向いていてくれました。

 ……やり方が汚い? つい先ほど人を試すような真似をしておいて、それを言いますか?

 私だって腹の中を敢えて一つ晒したんですから、お互い様と言う事で。

 ……その前に散々人の魔導具を見て手の内を知っているって、それお店の品の事ですよね。

 ええ、大変、勉強になりました。

 魔導具の効果や目的はともかくとして、その元になる魔法の現象や素材の説明などの知識は、私には得れない物でしたから。

 そう言う訳で、本当に感謝しています。


「……かぁ、俺とあろうものが、こうも手玉に取られるとわな。

 あの婆あの言ってた意味が良く分かったぜ、可愛い顔して油断も隙もねえ。

 まあいい、これからは同業者として見ておくから、今までのようにはいかんからな」

「あ、ありがとうございます」

「……あのなぁ、なんでそこで礼の言葉が出てくるんだ。巫山戯てるのか?」


 いえ、だって嬉しくなるじゃないいですか。

 コッフェルさんのように凄い魔導具師が、同業者として見てくれるだなんて。

 だいたい、私なんて魔導具師としては駆け出しにもなっていないんですよ。

 資金だって四苦八苦ですし。それで今日は少しでも現金を手元に置いて行こうと山に行ったら、こんな目に合うし。

 え? 書籍ギルドから受けた依頼のお金ですか?

 その、本を買ったので手持ちが心許なかったので。

 いえ、生活する分には全然あるんですが、魔導具師でやって行こうとする資金が……。

 あの本ぐらいは、余裕で買えるぐらいの依頼だったろうって、なんでそこまで知っているかは敢えて聞きませんけど、ギルドに納めたのは極一部ですから、残りは時期を空けて少しづつです。

 なんで一度に納めないのかって言われても、改善の余地があるかもしれない物を一度に出せる訳ないじゃないですか。

 そしたらそれでまた売り付けって、そんな悪徳商法はやれません。

 あのう、そんな盛大に溜息を吐かれなくても、商売が下手だと言う自覚はありますから。

 でも未熟とは言え、私も物を作る人間として譲れないものがあります。

 私の作った物を受け取った人が、少しでも喜んでもらいたいですから。


「……はぁ、……分かった分かった。

 まったくこれじゃあ、俺がどうしようもねえ意地の悪い爺ぃみたいに見えるだろうが。

 しっかし、それだったら家に居た方が、よっぽどやりやすかったんじゃねえのか?

  良いところの嬢ちゃんのようだしな」

「ぁっ、ぃえ、その……」

「別に詳しい事を聞く気はねえ。

 そう言う道もあったろうに勿体えねえと言う話だ。

 だいたい聞かんでも、嬢ちゃんみたいな子が家を出るなんぞ、高が知れている。

 親と反りが合わなくなったと言うタマじゃねーから、跡目争いか、意に沿わねえ婚約でも結ばれたかだ」

「……その、…孕ませたいから、直ぐに嫁に寄越せと言われて」


 ええ、最初以外は全部正解です。

 家族と反りが合わなくありません、むしろ表面的には良好です。

 跡目争いも一時期は危うかったのは確かです。

 私自身、継ぐ気が無いので問題はないと言えますが。

 最後のは、……ええ、自分で言ってて気持ちが悪くなるし、全身に鳥肌が立ちます。

 でも多少大袈裟ですが、要約すればそう言う事です。


「……ありえねえ馬鹿な話と言いてえが、貴族ならあり得る話か。

 ちっ、家の中に入るぞ、そんな青い顔されて倒れられたら、俺が堪らねえ」


 大丈夫だと言う私に、自分も身体が冷えてきたと言って、私の背中を押しながらも強引に家の中に連れて行かれます。

 本当に口も態度も悪いですが、それだけです。

 根はとても親切で優しい人なのだと、理解するには十分でした。

 ……むろん、魔導具師は根が捻くれた人間ばかりと言う、その捻くれた人間の筆頭であろうアルベルトさんの言葉は忘れませんけど。






【豆知識】=========================

 魔物、それは魔力を一定以上内在する動植物の総称。

 大気や地面に含まれる魔素の濃度が多い地域に生息する事を好み、その生息域を【魔物の領域】、又は自然の多い事から単に【森】と呼称する。

 ともあれ、普通の動植物と大きく違うのは、身体強化を始めとする魔法を使う事もあるが、何よりもその強さが、人間を含む動植物と段違いで、人類が軍を率いたところで、太刀打ちできない。

 そのあまりにも理不尽な強さを持つ魔物達だが、やはり生態系に含まれているため、その強さにも差があり、強さと脅威度に合わせて八つに大別されている。


【無害級】

 刺激をしなければ、進んで攻撃しては来ない魔物で、腕に覚えがある程度の人間であれば容易く倒せるものの、それでも油断をすれば、あっという間に逆に命を奪われる。


【有害級】

 縄張りに入ったり遭遇すれば、襲われる可能性が高い魔物。

 一般人では太刀打ち出来ない相手故に、見かけたのならば、即座に逃げるべきであろう。誰かが犠牲になれば、その間に逃げれる可能性が高くなる。

 ある程度の訓練をした猟師や衛兵や若い冒険者であれば対処出来る相手ではあるが、油断してはならない。

 彼らの特殊な魔法の前には、相性次第ではあっと言う間に地に伏する事になるだろう。

 万全を期するのであれば、チームを組んで対処すべきだろう。


【人災級】

 遭遇したのならば、人里とは逆の方向に逃げろと言われ原因となる魔物達。

 小さな集落や村であれば、壊滅する事もあり得る相手。

 騎士や傭兵、または腕利きの冒険者であれば対処は出来るものの、基本的にはチームでもって対処にあたるが、単騎で倒せるのであれば一流と評価される事から、毎年無茶をする人間が、その無謀の代償に若い命を落としている。


【戦災級】

 魔物の領域の奥に生息しているものの、街に降りてきた日には二、三百人もの被害が出るとされる脅威の魔物。

 このクラスの魔物から剣や槍が効き難くなり、腕に覚えのある程度の人間など、戦災級の魔物の前では赤子と変わらない。

 対魔物用によく訓練した騎士や傭兵達が、チームを組んで全力で持って対処してようやく均衡するが、魔導士を主軸にした戦法でなければ、被害を増やすだけの消耗戦となるため、戦災級を想定した討伐戦となれば、必ず魔導士と治癒術士を作戦に組み込むのがセオリーとなっている。

 もしあなたが魔導士でないのならば、功名心信に駆られて、戦災級を単騎で倒そうとは思ってはならない。

 余程の鬼才か達人でもなければ、生きては帰る事はできないであろう。


【災害級】

 街が滅びるクラスの魔物で、魔導士部隊を含む軍を率いて、ようやく対処出来る可能性がある相手。

 だが真面にぶつかれば、千人を超える規模の被害が出るため、その被害や損失があまりにも大きくなり過ぎてしまう上、確実に討伐できるとは言えないため、大抵は時間を稼ぎながら、人々の避難に力を入れて、只管過ぎ去るか魔物の領域に戻るのを待つ事が多い。

 


【大災害級】

 国が全軍を挙げても、なんとか被害を最小限に抑えれる可能性が出てくるだけに過ぎない魔物。

 討伐するのであれば、三千、四千の被害が出る事は覚悟しておかねばならない。

 半ば人の手に負える相手ではなくなっているため、只々、理不尽に耐えて諦めるしかないとされている。


【厄災級】

 既に幾ら魔導士や騎士達を掻き集めようとも、既に人の手に負える相手ではなく、人々は只管身を潜めて、厄災が過ぎ去るのを天に祈るしかない。

 けっして、歯向かおうとしてはならない。

 悪戯に被害を増やすだけになる故に。

 けっして、その姿を見ようとしてはならない。

 その瞬間に、その命が尽きるであろうから。


【天災級】

 幾つもの国が手を組もうとも、逆に国ごと灰燼に帰する事になる言い伝えられる神話級の魔物。

 強力な魔物の領域の最深部にて、深い眠りについているとされているが、一度目を覚ませば、世界を滅ぼして回るとされている。


 





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― 新着の感想 ―
 もしあなたが魔導師でないのならば、功名心信に駆られて、戦災級を単騎で倒そうとは思ってはならない。 魔導士ですよね!
強力な魔物の領域の[最新部]にて 最深部だと思います。 執筆頑張ってください。
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