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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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86.浪費と、熱烈な愛情表現?





「………合計で金貨九枚ですか」


 自分の目元が引きつるのが分かる。

 ライラさんの経営するお店とは違う書店。

 ライラさんの伯母であり、書籍ギルドの支部長であるラフェルさんに紹介された書店で、紹介された本の価格に目を見開いてしまう。

 前世の感覚で言う九百万円相当の本の価格に、驚くなと言う方が無理だと思う。

 ええ、この間書籍ギルドに収めた魔導具代を全部注ぎ込めば買えるけど、それはどうかと思う。

 そもそも、それらは貯金しておかねばならないし、新たな魔導具を作るため資金にしておかねばならない。

 一応は今までの狩猟や採取で溜めた貯蓄や、この冬に狩った白角兎(ホワイトラビット)の代金があるので、先日払った魔導具の材料費を支払った後の今でも、買えない金額ではない。


「……でも欲しい」


 魔物の生態や素材の使い道などを、魔物の絵付きで書かれた図鑑。

 植物や薬草の植生や可食の有無以外にも、薬草としての効果や物によっては魔法的効果のある物の説明までもが、同じく絵付きで書かれた図鑑。

 現在発見されている鉱物の種類や特性、主だった加工品の紹介。

 その中には魔導具での使い道などを、事細かに書かれた辞典。

 どれも趣味や知識欲向けの物ではなく、研究用の図鑑や辞典であるため、非常に信頼性も利用性も高い書物。

 特に興味が深いのが、魔導具として使われる時の主立った効果や注意が書かれている事。

 流石に作り方や加工方法までは書いていないけど、出来る事が書かれているだけで、今の私にとっては大きい。


「……でも高すぎる」


 すでに、白角兎(ホワイトラビット)の繁殖期が終わっているのが、心底口惜しい。

 もし、まだいたのなら、根こそぎ狩って来てやるのにとさえ思える価格であり、それだけの物欲が湧く内容の本。

 一層の事、地中探査で掘り起こすかと思わないでもないけど、繁殖の終わった時期と言うのは、どの動物も大抵は味が落ちるもの。

 うん、やっぱり無駄な殺生はよくない。


「あまり数は出ない種類の本だからね。

 今度は何時入ってくる事やら」


 くっ……、店主の言葉がセールストークだと分かってはいるけど、それが決して大袈裟でもないと言う事も分かってしまうだけに、ますます購買意欲が湧いてしまう。


『この際、経費よ。経費。全種、揃えましょう!』


 いつかのマリヤお義姉様の言葉が脳裏を過ぎる。

 こんな時に血が繋がってはいないのに、義姉妹だと感じてしまうのは、私が欲望に弱いからだとは思いたくはない。

 思いたくはないけど、負けそう。


「全部、買います」


 ええ、負けました。

 完膚なきまでに叩きのめされました。

 でも確かに私は物欲に負けたかもしれない。

 でも、決してこの買い物は無駄じゃないはず。

 ええ、自分への投資です。経費です。全部揃えます!




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「そういう訳で、物欲に負けて買っちゃいました。

 ええ、笑ってください」

「……ゆうちゃんって、時折自虐的よね。

 このロクデナシの甲斐性なしのくせに無駄遣いしてからに、とか言って欲しい?」

「ノリとしてはそれも有りですね。

 本気で言われるのは、落ち込みそうになるので止めて欲しいですけど」

「何事も楽しもうとするのは良い事だけど、

 流石に私の歳だとそのノリにはついてゆけないわ。

 もう五歳若かったら付き合えたけど」

「くすん」

「はいはいイジけたフリをしないの。と言うか今のは突っ込むところでしょうが」

「いえいえ、そこは敢えてスルーしました」

「もう……」


 何やかんやと呆れ顔で付き合ってくれるライラさんに、感謝を意味を込めてお茶を煎れる。

 特に感謝を込めて、先日また作った焼き芋をスティック状にした物を添えて。

 以前も、結局は残りのお芋は一人で食べられましたから、相当に好きな味とみています。

 ちなみにライラさんは三本に対して私は一本なのには、深い意味はありません。

 単純にお夕飯が食べれなくなるからであって、決してライラさん一人を太らせようだなんて思ってません。

 思ってませんから、そんなジト目で睨まないでください。

 何なら私と同じ一本にしましょうか?

 ……それはそれ、これはこれと。

 じゃあそんな疑惑の目を向けないでくださいと思いつつ、明日からしばらく、山通いする旨を伝える。

 ええ、浪費しましたから稼がないといけませんから。

 えっ、魔導具ですか? あれはもう少し置いて情報を得なければ。

 大丈夫と言われても、欠陥があるかもしれない商品を無責任に出すなんて、私の精神衛生状良くないのでダメです。

 そういう訳で山籠りです。

 えっ、春先に獲物はいるのかですか?

 いない訳ではないですが少ないですね。

 たまに冬眠に失敗した熊とかに出会うと、凄い勢いで襲ってきますけど。

 そんな心配しなくても大丈夫です。

 ちゃんと逃げますから、だって痩せ衰えた熊なんて毛艶は良くない上、ただでさえ臭みのあって硬いお肉が、更に固くなって筋だらけで不味いですから価値なんてないです。

 そんな無駄な殺生はしません。

 ……そう言う問題じゃないって、そう言う問題だと思うんですが?

 何にしろ、今回の狩猟は肉系ではなく、山菜や薬草系です。

 春先の山菜は人気がありますし、良い薬草も意外に多いんですよ。


「山菜料理、楽しみにしていてくださいね」

「若いのに、食べ物の趣味が渋いと思うのは気のせいかしら?」


 ええ、気のせいです。

 食べやすい天婦羅にしようと思っていますから、塩で食べるのも良いですし、紅茶の葉で作った茶塩で挑戦してみても良いかもしれませんね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「がぁぁーーーーーーっ!」


 そう思っていたのに、本当に何でこんな目にあってしまうんでしょうね。

 春先の山菜と薬草の収穫にホクホクしていたところへ、招かれざる客です。

 ええ、逃げてますよ。

 無駄な殺生は嫌いですから、魔法を使って山道を馬並みの速度で駆けています。

 それなのに、一向に離れない招かれざる客である熊。

 しかも運が悪い事に魔物の熊です。買取不可商品です。

 これ以上速度を上げれない事もないのですが、木々が乱立する森の中では、これ以上は危険。


「ぐぉおぉぉーーーーーっ!」


 ええい、うるさいっ!

 幾らラブコールされても、その愛に応える気は欠片もありませんから、とっと諦めてくださいません?

 だいたい、愛が重すぎます。

 何ですか、人が必死に障害物の木々を避けながら走っていると言うのに、関係ないとばかりに木々を薙ぎ倒しながら突進は。

 よく当たって砕けろと言いますけど、全力の愛にも程があると思いませんか?

 

「がふっ、がふっ」


 しかも小さな小屋ぐらいもある巨体。

 愛が重すぎて私なんて一溜まりもなく潰れてしまいますので、全力で遠慮させていただきます。

 いけない、いい加減にこのネタにも飽きてきた。

 次のネタを考えてもいいけど、そろそろのんびりした事を言っている訳にもいかなくなってきた。

 これ以上、逃げると麓の町に近くなってしまう。

 かと言って、冬眠に失敗して向かってくる熊の表情の凶悪なこと。

 しかも水牛の如き左右からの二本の角が、その凶悪さを一層引き立っている。


 魔獣:赤色角熊(レッド・ベア)


 故郷のシンフェリアに、ごく稀に魔物の領域から降りてくる灰色角熊の亜種。

 こっちは幸いな事に群れではなく単独らしいのだけど、単体での凶悪さはタメを張れるぐらいらしい。

 ただ身体強化の方向性が、灰色角熊が主に回復力に振っているのに対して、赤色角熊は主に速度に振っているらしいのだけど、あの巨体から繰り出す攻撃に、身体強化の有無など関係あるのかと思ってしまう。


「……仕方ないか」


 自分を納得させるように覚悟を決め、作戦を考える。

 と言っても取るべき手は多くない。身体強化系の魔物の怖いのは、文字通り身体強化。

 身体強化で強化された腕力そのものではなく、身体強化で得れる防御力であり、その防御力を纏った攻撃。

 要は此方の攻撃は効きにくく、その上、向こうの攻撃は此方の通常の結界魔法を容易く打ち破る。

 むろん結界の強度を上げてやれば、何時も通り三秒程は保つので、走りながらブロック魔法を設置様に振り返る。

 今までの勢いを、同じくブロック魔法で足止めを作って無理やり止めながら前を向けば、大口を開けて此方に突っ込んでくる赤色角熊の姿。

 ただ、設置しておいたブロック魔法に激突して、一瞬だけ動きを止めているので、その一瞬が勝負。

 こっちはもう準備を終えている。

 方向だけ合わせて、禄に狙いを定める事もせずに放たれた矢は、魔力の紐の導きによって、吸い込まれるかのようにして、真っ直ぐと大口を開けた魔物の口の中へと入り、……次の瞬間には後頭部から、その矢尻を覗かせる事になる。

 幾ら外皮や体毛が硬くても流石に口の中までは、強化は掛けられなかったみたい。

 その上、極小サイズまで圧縮したの火球魔法を先端に付加した矢尻は、ちょっとした岩ぐらいなら貫通してしまう。

 この場合、矢は火球魔法を押し出すための物で、矢に保護の魔法を掛けていようとも、火球魔法の影響は免れないため。


「……欠点は、一度で矢が駄目になってしまう事かな」


 脳をやられて動きを完全に止めた魔物から、魔力の紐で包み直した矢を引き抜いて引き寄せると、先端の矢尻は半分以上融解している上にボロボロと粉が噴き出し、矢本体も半ば炭化していて二度と使えない状態。

 流石にこれだけボロボロだと、溶かしてもしても元どおりとはいかない。

 お父様の用意してくださった弓矢(ボウガン)に何の不満はないけど、魔力のみで強化をかけるのも限界があるから、そろそろ何か対策を考えないと。


「……それにしても、どうしよう、……これ。」


 冬眠の失敗で痩せ衰えていても、体長五メートルを超える程の巨体は、息絶えた今でも、まるで生きているかのような迫力がある。





 

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