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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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85.コンフォートの古狸と女狐の親睦会。





【書籍ギルド、コンフォード領支部長】ラフェル・マイヤーソン視点:




 珍しい客人が訪ねて来たので、据え置きの棚からグラスと、隠し置きしてある瓶を取り出し掛けたところで。


「昼間から酒とは、いい身分だな」

「貴方に合わせようとしただけよ、何なら普通にお茶を出すけど?」

「ふん、誰も飲まんとは言っとらん」


 叔父のコッフェルの言葉に、それならば最初からそう言う事を言わないで欲しいと思うのだけど、どうやら今日は大分ご機嫌が斜めのようだ。

 まぁ、彼が珍しく此処に訪ねてきた理由は、だいたいの想像はつく。

 だからこその酒瓶とグラスなんだけどね。


 とく、とく、とく……。


 心地の良い音が部屋に響いてゆく。

 目の前の不機嫌そうに仏頂面した老人の鼻に、芳香な香りが届いたのか少しばかり鼻がひくついているのが、可愛い仕草だと思ってしまうけど、敢えてそこは指摘しない。

 ヘソを曲げられると、あとが面倒臭くなるからね。

 酒に満ちたそれを、付属のコースターと呼ばれるグラス台に乗せて彼の前に差し出しながら……。


「……ほぅ」

 

 コースターに仕組まれた光石によって、僅かに煌めくグラスと酒。

 そして、其処ら漏れ出す幾何学模様の光が、生み出す幻想的な光景。


「少し遠方まで行かせた人間のお土産の一つよ、今、売り出し中みたいね」

「ふん、魔導具もどき(・・・)の噂は、それなりに聞いてはいたがな」


 流石は本職だけあって、この手の情報は早い。

 私としては、此処数ヶ月で知った事ばかりだけど、彼はきっともっと前から知っていたのだろう。


「魔導具もどきね。

 私が聞いているのは、ランプやろうそく代わりに部屋や机を照らす照明に、変わった物でドレスや化粧品や装飾品だけど」

「ドレスや化粧なんぞは知らんが、あとはこの冬の始めに王城や一部の辺境の軍に配備されたという屋外用の灯りだな。

 こっちは、魔導士が放つ物に負けない灯だと、ギルドの上の連中が騒いだという話だ」

「その噂は聞いた覚えがあるけど、本当の事だったのね。

 確か噂だと軍部のお偉いさんの持つ商会の開発品だったかしら」

「いや、俺は宰相だと聞いている。

 まぁ軍備品だ、そう噂されても仕方あるめえ。

 そっちの言う魔導具もどきは、聞いた事もねえ貴族の商会だったが、まぁ近けえ貴族がお零れを貰ったか、その逆かだろうな」

「そうね」


 なるほど、やはり、魔導具もどき(・・・・・・)に興味に惹かれはしたけど、それ以外には興味は惹かれなかったみたいね。

 それも当然でしょうね、叔父の性格もあるけど、現役から引いて十年以上の歳月が経つもの。

 

「それで叔父さん、わざわざ姪の職場にまで何をしに?」

「ふん、しらばっくれるな。

 俺が此処に来た理由なんぞ、とっくに想像がついているだろうが」

「ええ、でもそれが正解とは限らないから、念のためにね」

「この老いぼれの女狐が」


 歳をとったとは言え、可愛い姪に酷い言い様である。

 まあいい、叔父の言葉を無視して、私の方の用を済ませておきましょう。


「これ、頼まれていた本。

 何かの時に持って行こうとは思っていたけど、ついでだから先に渡しておくわ」

「ふん、手間をかけた」

「本当よ。いくら書籍ギルドでも、こういう使い方はされたくはないわ」


 手にした本をパラパラと流し読みをし出す叔父の姿を見れば、つい愚痴を言いたくもなる。

 此処は書籍ギルドであって書店ではない。

 だから著者名と、おおよその内容だけで本を探して取り寄せろと言われても、出来ない訳ではないけど本業ではない。

 そんな私など知った事ではないとばかりに、酒のグラスを片手に、もの凄い勢いで本を捲っているけど、あれで中身が頭に入るのかしらと思いつつ、ページの項を捲ってゆく度に眉間に皺が寄っていく事からして、あまり面白い内容ではなさそうね。

 本のタイトル的には叔父らしくはあるけど、今更、叔父程の魔導具師が読むような本でもないと思う。


「なるほどな。嬢ちゃんみたいのが出来上がる訳だ」

「そうなの?」

「この本の通りに出来るような人間がいるとしたならば、と言う前提が付くがな」

「随分と変な言い方ね」

「軽く目を通しただけだが、百人が百人とも挫折するようなやり方だな。

 俺が若い時ですら無理だろうな、こんなやり方を身に付ける時間があるなら、まともな魔導具師に弟子入りした方が、よほど早く魔導具師には(・・)なれる」


 【魔導具入門 〜魔導具師を目指す者に告ぐ〜】


 そう書かれた本を片手に叔父は大きく溜息を吐く。

 そのあと幾つか愚痴らしい解釈を聞きながら、叔父でも無理と言う言葉に内心驚きを隠せない。

 なにせ王国南西部では、叔父より腕の立つ魔導具師はいないとされているからだ。


「それで、その嬢ちゃんに、あんな物を作らせて、テメエ、ライラを巻き込む気か?」


 ああ、やっぱりその事ねと思いつつ。

 口や態度、ついでに性格の悪いこの叔父が、なんやかんやと文句を言いながらも、私や姪を気に掛けているのは知っている。

 色々と曰くのある人だけど、実は身内には甘くて優しい人だからね。

 だからこそ、ライラを危険に巻き込ませたくないのだと。


「大丈夫よ。

 いつまでも一緒ではないし、あの娘を余所にやる予定はあるわ。

 それに幾ら貴方達でも、そこまで情報も早くないでしょうし、まだそこ迄の事にはなっていない、そうでしょう?」

「俺の所じゃねえ、上だと言いてえが、今はそう言う話じゃねえな。

 確かに今はまだ、ウチのギルドの上層部の馬鹿共が動くには何もかも足りねえ、お前等が此のままで済ませる気ならばな」


 まだ、あの魔導具の事を知っているのは、叔父以外ではギルドの極一部の人達だけだし、あとは噂程度に過ぎない。

 そして当然ながら、当ギルドとしては、彼女の様な利用価値のある人間を放っておくつもりはない。


「彼女の後見人になる事をギルドが承認したわ」

「囲い込みか。

 なるほど、それでなら表立っての動きはそれで封じれるな、気やすめだがな」

「そうね、でも時間を稼げはするわ」


 彼女が作るような魔導具は、魔導士達の価値を賤しめる。

 そんな馬鹿な考えが、魔導士達と言うより魔導士ギルドの中にある。

 むろん、そんな魔導具を作る余裕があるのならば、一匹でも多くの魔物を殺せる魔導具を作れと言う意見が世間にも無い訳ではないし、そう言った言葉や思いも理解はできる。

 だからと言って、彼女のような魔導具師を無意味に危険視して、秘かに葬るような考えにはとても賛同できない。

 少なくともこうして、人の生存には役に立たなくても、人の生活に役に立つ魔導具はあっても良いと思うし、ああ言う魔導具を安定供給してくれる事で、ギルドに利益を生み出す彼女を囲おうと動くのは、ギルドとしては当然の事。


「ほう、それでその後は、どうするつもりだ?」

「たぶんあの娘自身が、どうにかするでしょね」

「てめえ馬鹿か! あんな小娘に何ができる。

 確かに魔導具師としての腕は俺より上かもしれねえが、知識や経験が決定的に足りてねえ。

 それにな、忘れているかもしれねえが、俺も含めて魔導具師と言うのは魔導士の成り損ない(・・・・・)だ。

 ギルドの暗部連中を相手に、どうにか出来る訳ねえだろう」


 そうね、幾らあの娘が凄いと言ってもそれは魔導具師としてだし、魔導士としての実力はあまり(・・・)知らない。


「そう言えば以前にも似たような事を言っていたけど、魔法使いと魔導具師との差と言うのは良く分からないんだけど」

「魔法使いじゃねえ、魔導士だ。

 まぁいい、その辺りは一般人には関係ねえ話だし置いておくとして、この際きちんと教えておく、魔導具師と言うのは、言ったとおり魔導士の成り損ねえだ。

 一流の魔導士に成れねえ魔導士が、魔導具師を目指す事があるが、誰しも成れる訳ではねえ。

 理由は簡単だ、魔導具師と言うのは、細やかな魔力制御が出来なければ魔導具師には成れねえんだ、いくら素質があろうがな」

「そう言うものなの?」

「ああ、そして優秀な魔導士と言うのは、素質に恵まれすぎたが故に魔力がありすぎて、威力のある魔法を放つには良いが、細かな制御は無理なんだよ。

 逆に言えば、細かな制御ができる奴は、大きな魔力が扱えねえから、威力のある魔法を放つ事は出来ねえんだ」


 なるほど、そう言う意味だったのね。

 言い方こそ悪いけど、補足で人の背丈ほどもある巨大な金槌と、普通の金槌で例えてくれる辺り、意外に親切なのよね。

 ライラはまだ、その辺りの事が分かっていないようだけど。


「それで、その魔導士の貴方から見て、あの娘では生き残れない程度の魔導士と判断しているのね?」


 挑発的に言っては見るが、叔父の判断は妥当だと思っているし、実は私もそう思っている。

 いくら私の知っている魔導士達に比べたら異質ではあっても、彼女は所詮子供でしかない。

 ただし、それは今の彼女に対しての事で、逆に言えば彼女は子供だからこそ、まだまだ伸びる可能性も非常に大きい。

 何より、彼女の助けになる人達が出てくる可能性もある。

 そうだからこそ、私もギルドも彼女の居場所を用意している。


「……それが分からねぇんだよな。

 最初は魔導士や魔導具に憧れているだけのガキだと思って、適当にあしらっていたんだが。

 本当に魔導士だと知って、久々に本気で驚いたくれえだ」


 妙な事を言う。

 アレだけ言っておいて分からないとは、それこそ意味が分からない。


「確か、以前に魔導士は魔導士を知るとか言っていなかったかしら?」

「ああ、魔導士ってのは、そこらの人間より魔力が大きい。

 俺等はそれを感じ取り、相手が格上か格下かをだいたいで見極めるんだが」

「それが出来ない?」

「そこ等の人間と同じだ。

 アレだけの魔力操作ができ、あんな魔導具を作れる人間が、そんな程度の分けがねえのにな」

「どういう事?」


「いいか、魔石でもない物を、魔法石化なんてする馬鹿な真似は普通はしねえ。

 なんでか分かるか? それは効率が悪すぎるからだ。

 そんな真似をするには、それなりの魔力がいるし、その割に保持できる魔力量が小せえ上に、材質によっては寿命も短けえ、要は無駄が大きいんだ。

 そんな事をやれる奴が、魔力を感じ取れねえほど、魔力が小さいわけがない」


 確かにそれは変な話ね。

 魔法に関しては素人の私から見ても、魔導士としての彼女はそれなりの逸材に見える。

 趣味程度と言う狩猟で、ベテランの猟師を上回る稼ぎを得ている事は、調べが付いているので、程度の差はあれど、彼女に実力がまったく無いとは思えない。


「俺達が相手が格上か格下かを判断しているのは、相手が纏う魔力の揺らぎと圧の差だ。

 考えられるのは、嬢ちゃんが揺らぎを全く感じられない程、魔力制御を成している場合だが、それこそ現実的な話ではねえな。

 そこまで魔力制御を求める意味がねえし、机上の空論の技術でしかねえからな」


 結局は分からないままという事ね。

 それはともかく、そこまで彼女の事を分かっているのならばと思うのだけど。


「じゃあ、いっその事、弟子にしてあげたら?

 貴方ならあの娘を守れるだろうし、彼女の足りないものを教えられるでしょう?」

「はっ、冗談じゃねぇ、そんな面倒臭ぇ事を、なんで俺がせないかんのだ。

 だいたいなぁ、そう言う意味ではあの嬢ちゃんに未来はねえな」

「どう言う事?」

「知識はともかくとして、誰が自分(てめえ)より腕の立つ弟子なんか取りたがるってんだ。

 自分が惨めになるだけってもんだ。

 誰かの弟子になれたとしても、すぐに追い出されるだろうな……ちっ!」


 叔父は自分で言っていて面白くねえとばかりに、グラスの中の酒を一気に煽り、グラスを前に出して黙ってお代わりを要求してくる。

 その代わりと言わんばかりに、新しいお酒を数口飲んだ後、懐から紙とペンを取り出し何かを書き留めて渡してくる。


「そいつを嬢ちゃんに渡してやれ、ちっと値段は高いが今よりマシになるだろうぜ。

 あと俺からの情報だと言う事は黙っておけ、懐かれても困るからな」

「貴方にしては、身内でもない相手に珍しく親切じゃない」

 

 私の追及に面白げもなくと言うか、するだけの理由があったからだと言わんばかりに教えてくれる。

 あの子のおかげかどうかはともかく、あの子の助力もあってライラの恋路が上手くいった事や、一緒に住むようになってから料理の腕が上がっているらしいから、その礼だと。

 あの子の亡くなった母親の代わりに、心配してあげているんでしょうね。

 でも素直じゃない性格が災いして、下品な冗談で毎回話を誤魔化すから、あの娘にスケベ親父呼ばわりして嫌われている事が、少しだけ不憫に思える。


「それで話を戻すが、真面目にどうするつもりだ?

 俺としてはライラを泣かしたかねえがな」

「私としてもそのつもりよ。

 それに関わった以上は、それなりに責任はあるつもりだし」


 ちっ覚えていたか。

 やっぱり、これくらいの長話じゃ誤魔化せないわね。

 しょうがない、ある程度は正直に話しましょう。

 もう少し叔父を巻き込めるかもしれないし。


「言ったでしょ、あの娘自身がどうにかするって。

 ウチのギルドの方針には反するけど、ギルドはあの娘の事はそれなりに調べたわ。

 その上で、あの娘の後見人になると上が決めたの。

 むろん私も後押しはしたけどね」


 どう言う事か聞かせろと言う鋭い叔父の目に、流石は数年間とはいえ【元魔法使い】だった事を彷彿させる。


「彼女、実家の方では【魔法使いの成り損ない】と呼ばれていたらしいわ」

「……随分と皮肉な渾名だな」


 正直、そんな呼ばれ方をしていたにしては、素直で明るい性格をしていると思いつつ。

 それなりの苦労をしてきたのだとも思える。


「それで肝心なのは此処からなんだけど、叔父さんの持っているグラスを含めて先程上がった物って、全部、そこが製造元なのよね。

「……っ」

「叔父さんが今脳裏に浮かんだ奴も、おそらくはね。

 知っているかしら? 彼女の実家、次代に陞爵(しょうしゃく)が決まっているらしいわ。

 不思議と思わない? 田舎の下級貴族程度が、少しばかり貴族受けのする魔導具もどきを世に出したぐらいで陞爵なんて、この平和な時代にはあり得ない事よ。

 魔物の領域を解放したとか言うならともかくね」

「……あり得る話だな。

 軍備品、しかもギルドの上の連中が騒ぐような物の配備なんて物に、下級貴族が入り込めるはずがねえ。……チッ、そう言う事か」


 やはり気づいたようね。

 おそらく全ての魔導具もどきに彼女が関わっている事に。

 その上、先日に彼女が納品した魔導具の完成度を見れば、試作品との違いに驚くばかりだけでなく、その考えが正しいと言わざるを得ない。

 だからこそウチのギルドも、今回の魔導具が偶々巧くいっただけの物ではなく、彼女の実力からして当然の物なのだと判断したのでしょうね。

 ギルド長からの手紙には、時間稼ぎも含めて、彼女の家名は伏せて後見人になるつもりだと書いてはあったけど、目端の効く人間は、いずれ彼女の存在と利用価値に気がつくでしょうね。


「……なら、あそこに放り込むつもりか。

 悪くはねえが、よく相手が通したな」

「流石に私や知り合いの貴族だけでは無理だったけど、ギルド長の手紙であっさりと通してくれたわ」

「だが、やっていけるかねえ、あんな嬢ちゃんが、あんな所に放り込まれて」


 柄にもなく心配げに言う叔父の顔は、皮肉を込めてはいたけど、その瞳の奥に映るのは心配する年寄りの目。

 でも叔父には悪いけど、私は何とかなると思っている。

 あの子は確かに年相応と言うか、見た目ほどの弱さと危うさを持っている所がある。

 でも、それとは反して強かさや、自分を律っしきる自制心、何より今を楽しもうと必死に生きる強さを持っている。


「あの子、見た目よりよっぽど強い子よ」


 商談をしていて思った事は、あの子と仕事をしていて楽しいと思った事。

 互いに求めているものを察し、互いの利益損を考えた上で、良い仕事をしたと思わせるところを突いてくる。

 また仕事をしても良いと、自然に思わせてくれる辺り、ある意味感心せざるを得ない。

 ただ、金銭感覚に関しては、少しばかり思うところはあるけど、今回は此方が甘えさせてもらった。

 彼女の言う条件を飲むと言う形でね。

 そして楽しいと思うと同時に、恐いとも思ったわね。

 特に、彼女の言う条件にその思いが確信に変わった。


「少なくとも商談において、私はあの子を子供と思う事は止めたわ」

「ほう、その歳でギルドの支部長になれる程のお前さんに、そうまで言わせるとは、たいしたものだ。とてもそんな風には見えねえがな」


 あの子が出した条件の一つ一つは、たいした物ではないわ。

 でも全体で見れば、あの子にとって、都合の良い条件になっている。

 無論、此方にとっても、必要以上に欲を搔こうとしなければ、良い条件であるままにね。

 でも其処に含まれた意図は……。

 互いに(・・・)利用しあいましょう。そんなメッセージだった。

 言い方を変えれば、此方の意図を理解した上で、利用されてあげるから裏切るなと。


「でもね、そんな汚い大人の思惑はさておいて。

 あの子に今一番必要なのは、同年代の子達との触れ合いじゃないかしら」

「……ふん、そんなもんかねえ。

 だがまあ、年寄りや婆あの相手をしているよりはマシだろうがな」


 うん、一度くらい思いっきりぶん殴りたいわね。

 本当に捻くれた言葉を使わずに、もう少し素直な言葉を使って欲しいものね。

 実際に何度も手を出した事はあるけど、それでもこの人は一度たりとも、絶対に反撃はしなかったから、本当に悪い人でない事は分かってはいる。


「しっかし、あの嬢ちゃん。

 魔導具を作る才能はともかく、名付けの才能はねえな」


 分かってはいるが、今の叔父の言葉には全面的に同意したい。


 魔導具:闇影移しの鏡台。


 いったい、何処をどう捻ったら、そう言う名前付けになるのか理解ができない。

 不気味で物騒この上もない言葉の響きだし、まず間違いなくこの魔導具に対する最初の不満は、その名前に対してだろうと確信している。

 それで、もう確認したい事は終わったとばかりに残りのグラスを飲み干し、残った酒瓶を片手に部屋を出ていく。

 その姿に、お金持ちのくせに残った酒を持って帰るだなんて、随分とセコい真似をと思う反面、支部長が昼間から酒をと言う陰口を防ぐために、あくまで客に付き合わされたと言う態を見せるためだとも信じられるから、困った叔父である。


「あとは、叔父が動いてくれるか、それとも静観していてくれるかか」


 無論、私達を裏切って、所属するギルドに報告すると言う考えはない。

 口が悪くて態度も悪い、しかも色々悪い噂はあっても、身内には甘い人だから、その辺りは信頼している。

 叔父は何やかんやと、ライラだけでなくライラと関係の出来たあの子を心配しているけど、私としてはそんなに心配していない。

 彼女自身の前向きで明るい性格や、下手な大人顔負けの判断力と先を見る目。

 その上で例え魔法使いのなり損ないと言われていようとも、彼女は確かに魔導士だし、歳不相応とも言えるほどの強かさをも持っている。

 それに、本当にどうしようもない時は、彼女にはいくらでも逃げる手段があるはず。

 此処から馬の足であっても遠く離れたシンフェリア領から逃げ出してくるだけでなく、その前には、何度も通って来れただけの手段がね。

 彼女の故郷の場所には驚きだったけど、それこそが彼女が力ある魔導士の証の一つだと思っている。

 その上に治癒魔法の使い手でもある。

 それで何とかならないのであれば、それこそ彼女自身の甘さと言うものだし、ギルドとしては利用価値はなくなる。

 結局は、幾ら私達やギルドが後ろ盾になろうとも、彼女自身で乗り越えるしかないのだから。







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