84.豊胸への想いと憧れ。え、夢ぐらい見て悪いですか?
「……おはよう。大丈夫?」
「……大丈夫です」
起きてきた私に、心配げに声をかけてくれるライラさんに、大丈夫と声を掛けられるけど、正直大丈夫じゃないです。
心の問題的にはだいぶ落ち着いてはいるのですが、目と目の周りが痛いです。
昨日、あれだけ大丈夫と言い張っておいて、また夜に泣けてきてしまったのだから、我ながらどうかと思う。
でも昨日の時とは違って、少なくとも素直に泣けたためか心は楽だし、言われるほど落ち込んではいないあたり、実は自分は自分で思っている以上に薄情な人間なのではと、少しだけ其方方面にはショックを受けてはいたりするけど、それはそれでまた別の話。
「目元、冷やした方がいいわね」
「一応、それはもうやりました」
何時もより遅く起きてきた理由は実はそれにある。
起きた時よりはマシになってはいるはずだけど、知らない振りされる程ではないみたいで。
「そう言うのも魔法で治せたら良いのにね」
「………そう言えば、そう言う手があったか」
治癒魔法と言うと怪我に対してのイメージがあるけど、よくよく考えたら泣き顔が原因の目や目の周りの腫れは、涙に含まれている塩分による炎症反応や、目を擦ったり、強く押し付けたりする事が原因で、……つまり一種の怪我。
「治癒魔法」
治癒魔法の手応えと共に引いていく痛みと腫れに、私の考えがあっている事が証明される。
「此れからは、起きて直ぐに治せそうですね」
「……できれば下に降りて来てからにしてほしいかな。
知らない所で誤魔化されるより、その方が私としては心休まるし、心配する事で安心できるから」
正直、みっともない泣き腫らした顔を見せたくないとは思うのだけど、ライラさんの言う事も分かる。
自分が見ていない所で落ち込んで泣かれていると思うと、目の前でその片鱗を見せてもらえた方が安心するだろうし、自分にできる事があれば何とかしたいと思いもできる。
もしこれがライラさんの立場が私で、泣いているのを隠そうとしているのがエリシィーやお姉様だとしたら、きっと私も同じ事を心配するし、そうして欲しいと願うと思うから。
「……なるべく善処します」
「ええ、約束よ。
何ならお姉さんの胸に泣きついても良いわよ、ゆうちゃん大きい胸が好きみたいだし」
何故バレているっ!? と思いつつも、うん、どうしようもなくなったら、その立派な胸を貸してもらおうと思ってしまう辺り、私もだいぶ調子が戻ってきたと感じてしまう。
「この間、人の胸当てを、お尻に当ててたし」
「……ああ、え〜とあれは、お尻が入りそうな大きさだったので、つい」
「うん、貴女ぐらいだと、そう言う事したくなる気持ちも分かるわね」
そこで人の胸を見て納得しないでほしいです。
え? 洗濯当番の時、人の胸当てで遊んでいたからお互い様だと、それを言われると弱いですが、せめて哀れみの目は止めてください。
私の年齢的に、まだまだ可能性はあるんですから。
お母様やお姉様のように、約束された勝利の胸の可能性が!
ええ、大きな胸に憧れますよ。
温かいし、こう程よい柔らかさと弾力があって心地良いですし、大きな胸に顔を沈めて眠って見たい衝動に駆られます。
ええ、赤ん坊みたいで結構ですよ、本当に良い物に大人も赤ん坊もないですから。
「開き直ったわね。
イヤらしい目で見ている訳ではないから、別に良いけど」
「そんな失礼な事はしません。純然たる興味と好みです」
「ふふっ、人は自分にない物を求めると言うしね。
じゃあ、あらためておはよう、ゆうちゃん。
少しは元気が出たようで良かったわ」
「おはようございます、ライラさん。
色々ご心配を掛けましたし、これからも掛けるでしょうが、私なりに頑張って歩んでみせます」
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硝子板が二百二十枚。
輝浮砂が五キロ。
コネクタ差込加工をされた保護銅版二種類が百五枚ずつ。
魔力伝達ケーブルが三十メートルが四本と二十メートルが一本。
専用コネクタがオスメス三百十五個。
魔力伝達用金具の手首用が百五個。
専用の木箱も百五個。
魔法銀が一キロ。
鞣した鹿革が十一枚の他にも幾つかの消耗品。
何時もの日課を終えた後で、納められた材料を一つ一つ丁寧に確認。
硝子板だけは割れやすため多めだけど基本的には、予備を含めた百五個分の材料。
一部は近場の商会から手に入れたようだけど、基本的には故郷のシンフェリア領から齎された物で、基本的には中ぐらいの木箱一つに収まるような物ではあるけど、やはり距離が距離だけの送料は割高なのは仕方ない事だろう。
硝子板も数枚程、皹や欠けが生じていたので、きっと今頃シンフェリアでは運送手段に頭を悩ませているかもしれない。
すでに材料費、金貨九枚と銀板貨三枚は支払済。
この辺りをキチンとしておくのも条件の一つ。
流石に私みたいな子供が、金貨九枚以上を即決で払った時には驚かれはしたけどね。
「それにしても流石はコギットさん。
しっかりと面取りもしてあるし、バリなんて一つもなく、端を指であっても驚くほど滑らか。
コネクタの所は合金で強度を上げているのに、違和感がない辺りが巧みの技と言える。
ガイルさんの方は、また腕を上げたみたい。
これだけの枚数があっても、歪みや気泡がある品は一つもないなんて、きっとダントンさん辺りに検品を徹底されたのかもしれないと思うのは、流石に可哀想かな。
素直に腕をあげられたのだと思っておこう」
「随分と嬉しそうに見ながら語るわね」
「えー、だって凄いじゃないですか、全て規格通りなのは勿論ですが、各所に職人の粋きな仕事や、仕事に対する妥協の無さを感じられるし。
何より使う人達の事を考えての仕上げ方。
これ見てくださいよ、硝子板が枠に吸い込まれるように入るんですよ。
しかも緩みやガタつきもないんです。
違う工房の品だと言うのに凄いと思いませんか」
見ていても興奮するけど、こうして凄さを話していると益々興奮してしまう。
多分に身内贔屓も入っていると分かってはいるけど、それでも工房の皆んなが凄い事には変わりない。
「なるほどね、ゆうちゃんの事が少し分かったわ。
じゃあ、そんな良い物を送ってくれたのだから、良い仕事をしないとね」
「もちろんです。一つたりとも無駄にできません」
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「ふぅ……、まずは一つ目」
試作品を含めれば二個目とは言え、数ヶ月ぶりに作る上に、今回はきちんとした商品。
まずは丁寧に一つ目を作り上げて、色々と作業工程の確認と出来上がった品の品質確認。
動作的には問題なし、透過用の光源は明るすぎず暗すぎずだけど、こればかりは使う人達の意見を聞かないとね。
本当は明るさの調整機能をつけれれば良いんだけど、今の所、魔導具的にも機械的にもコストが跳ね上がる方法しか思いつかない。
一応他にもないか考えておくとして、……今の所は、向こうから相談があったら、要相談かな。
滑り止めと汚れ防止の革は、よくよく考えると、最初のうちは良いけど、何かで汚れた場合、汚れを広げてしまう可能性もあるかもしれない。
この辺りは最初の納入時に、要調査項目としてお願いしておこう。
他にも、試作品には無かった改良部分があるから、それらの確認もしっかりしないと。
「へー、もう出来たんだ」
「まだ一個目ですけどね」
「それでも早いと思って」
「基本的に私は組み立てるだけに近いですから」
初期考案型ならともかく、影魔法を使う今のやり方なら広い面が使えるため、魔法陣の焼き付け作業そのものは五分もあれば終わる。
後は今、言ったように丁寧に組みたててゆくだけ。
此処で手を抜いては、皆んなの作業が無駄になってしまうからね。
後は木箱に入れておしまい。
うん、自然と入れやすく、それでいて余分な遊びがない。
このスリットへの差込み口部分の絶妙な角度が、コギットさんの拘りを感じます。
「はいライラさん、試作品から多少改良した製品版第一号です」
「へー、見た目的に少し豪華になったけど、他にはどこか変わったの?」
「魔力伝達用の輪管の形状もそうですが、コネクタ部分を鹿革で包む事で曲がりにくくする事で、中の線を切れにくくしてみました。
他にも発光部分の繋剤や配合を弄ってムラを少なくしたり、掛けてある魔法も少し効率化を図っているので、前より疲れにくく、それでいて長持ちできるようにしたつもりです」
他にも角の丸みを増やしたり、取っ手をつけたり、専用の木箱を用意したりと、細かな事を言えば他にも幾つかあります。
それら一つ一つを丁寧に説明する。
「そう聞くと随分変わったのね。
と言うか、前のでも十分だったのに、よくそれだけ変更箇所を思いついたわね」
「以前のはあくまでの機能的な開発品でしたからね。
ライラさんから話があった時から、商品としての開発は考えてはいたので、……こんなに早く商品化する羽目になるとは思いませんでしたけど」
「ああ、そこで暗くならないの。
そう言うつもりで言った訳じゃないから」
あの時はまだ数年先のつもりでいたから、気楽に案だけを帳面に纏めていただけだったんだけど、……うん、人生ままならないものです。
さて、今日中にあと四個を、工程を確認しながら完成させてしまおう。
正直、魔導具化の作業より、組み立てと確認の方が時間が掛かるため、後で纏めてやるかーなんて油断していたら、雑な仕事になってしまうし、広げた部品で作業場が凄い事になってしまう。
まずは一つ一つ確実に。それが仕事をする上での基本です。
【こ の 世 界 の 貨 幣 価 値 換 算 表】
銅 貨 一枚 百円
銅板貨 一枚(銅 貨 十枚分) 千円
銀 貨 一枚(銅板貨 十枚分) 一万円
銀板貨 一枚(銀 貨 十枚分) 十万円
金 貨 一枚(銀板貨 十枚分) 百万円
金板貨 一枚(金 貨 十枚分) 一千万円
白金貨 一枚(金板貨 十枚分) 一 億 円




