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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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83.何時までも落ち込んでられません。さぁ商談です。





「……本当に手の方は良いようですが。

 ……その、もう大丈夫ですか?」

「……正直、大丈夫かどうかすら分からない状態ですが、気にしないでください。

 その方が私も楽ですから」


 戻ってきたらフェルさんの心配げな言葉に、私は自分勝手なお願いをする。

 あれだけの醜態を見せておいて、この人達に気にしないように等と出来ない事をお願いするだなんて、本当に我が儘なお願いだと自分自身で思ってしまう。

 それでも、そのう方が楽だからと、もう一度お願いする。


「そう、貴女がそこまで言うのなら、なるべく気にしないように心がけます。

 でも無理をしては駄目とだけ言わせてちょうだい。

 そう言うのは経験上、溜め込んでも碌な事にならないし、私もライラも幾らでも相談や愚痴は聞くから」


 ええ、たった今また一つ経験させてもらったばかりなので、ラフェルさんの言う事はよく分かる。

 前世でも今世でも、学習しない自分に呆れつつも、多分またやってしまうのだろうと予兆する自分に気が付き、更に呆れてしまう。


「そうですね、此れからは適当に泣かせてもらって、その都度スッキリする事にします」


 ただ前世と違って、今世では自然とそんなふうに考えれてしまう自分がいるから、自分でも驚きだ。

 此処まで自分が女々しくなっていた事に、……でもそれは前世での感覚からしたらの話で、きっと今世の今の自分ではこれが普通なのかもしれない。


「そう言えるなら、少しは安心できるわね」

「そう言うものなんでしょうか?」

「そう言うものよ、女はね。

 男はそう言う点では駄目ね、いつまでもグチグチとみっともなく悩んで」

「伯母さん、それ愚痴が入っているわよね」

「勿論よ。

 ウチの旦那にしたって息子にしたってね」


 うん擁護したいけど、今の私は少しも擁護できない。

 前世で思い当たる節が沢山あるからね。

 そして本当にありがたいと思う、こうして目の前の二人はいつも通りを演じてくれている事に。

 

「あと、お仕事の方は落ち着いてからで良いから、もともと三年待つ予定でしたから」


 そして、当然ながらの言葉であり気遣い。

 でも、申し訳ないけどその気遣いは不要な気遣い。


「いえ、明日からでも製作に入ります。

 故郷の皆んなに、背中を押されちゃいましたから、立ち止まってなんていられません」


 そう、たとえ皆んなと一緒にられなくても。

 皆んなの声を聞き、皆んなの顔を見る事が叶わないとしても。

 私達は共にいるのだと、あの故郷で過ごした日々は、今も続いていて、こうして今もあるのだと。

 皆んなとの思い出と過ごした日々は終わってはいないし、こうして私を支えてくれている。

 コギットさんからの手紙は、私にそれを教えてくれた。

 手紙に込められた想いが、私の足を歩ませてくれる。

 たとえ思い込みであろうと、そこにある想いは確かにあるのだと信じられるから。


「まずは二十を今月中に納めれるようにはしますが、その前に改めて商談をしましょう」


 私の言葉にラフェルさんは驚くけど、それぐらい忙しい方が今は楽だと思うし、無理はしていない。なにせ今月はまだ十日近く残っている。


「材料の仕入れ価格は如何程でしたでしょうか?」

「ユゥーリィさんがそう言うのなら、話を進めましょうか。

 納期の件は伸びてもらっても構わないので、丁寧な仕事でお願いします。

 材料の仕入れ価格に関しては、こちらが明細になっていますが」


 受け取った明細の内容に目を通すけど。

 やっぱり値段はかなり上がっている。

 原価そのものは大した事はない上昇だし、多分、これでも現在の価値からしたら割安な方なのだと思うけど、以前にはなかった追加の材料もあるから、これくらいは仕方がない。

 問題は、シンフェリアから遠く離れた、此処までの輸送料金。

 材料費の倍とまではいかないけど、全体的にはそれなりに上がっていて銀貨四枚(よんまん)から銀板貨一枚(じゅうまん)程にまで上昇している。

 空間移動の魔法を使えば抑えられるけど、あいにくとそれは私の事情でできないし、途中の街だとしても、基本料金そのものの割合が高いため、あまり意味はない。むしろ私が空間移動が使える事が知られる事によって、其処から招く問題の方が高くつく事になる気がする。


「此処まで原価が上がっていると知った以上、此方としても価格を上げざる得ないのですが、金貨一枚に収めて戴けけばと。

 これ以上となると、写本自体の価格にも大きく影響を与えざる得ないので」


 でしょうね。

 写本に係る原価が上がれば、当然ながら写本の値段を上げざる得ないし、それに相対して原書の価格も変動する可能性もある。

 横で聴いているライラさんも、当初から金貨一枚くらいまでが出せる限界みたいな事を言っていたから、彼女としても私に利益を与えたいけど、それを口にするのは憚れる状態なのだと分かっているのだと思う。

 自分で自分の首をしめかねない事だからね。

 でもそんな事は私には関係ない、私は自分勝手な人間だから、自分勝手な価値を相手に押し付ける。


「元の金額で構いません。

 もともと未完成と言える品と言うのもありますが、それでも原価率二割で利益も確保できています」

「そ、それではあまりにも」

「無論、条件はあります。

 それを聞いてくださるのならば、その金額で構わないと言う事です」


 この世界の価値観からしたら、魔導具であるトレース台の価格は破格なのかもしれない。

 ライラさんも言っていたけど、コッフェルさんのお店の原価率は相当低い。

 でもそれは他の魔導具のお店でも同じ事。

 でも前世の記憶の持つ私の価値観で言えば、十二分に美味しい商売だし、経費の掛かるお店もないし、作業する場所も居候先であるライラさんが貸してくれている作業机で十分足りる。

 つまり原材料費以外に掛かるお金がない上に、そこに条件を付けられる。

 ならば私にとって、十分に有りな条件だと思う。

 なにより………。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「本当に良かったの? あんな金額と条件で」

「ええ、利益も確保していますし、私にとって(・・・・・)は都合の良い条件です」


 商談を終えた後、私を心配するように、優しくて暖かなハグをしてくれたラフェルさんを見送った後、ライラさんが聞いてきますが全然問題ありません。

 確かにライラさんの知っているような、本来の魔導具師程の儲けはないのかもしれない。

 でも、私の魔導具は人の命に関わっていない生活魔導具だから、そもそも同じにする事からしておかしい。


「だって百個作ったら金板貨四枚の利益ですよ。

 そこから税金を二割払っても、三枚以上も残るんですから」

「……そう考えると、凄いわよね。

 ゆうちゃん、純利益だけなら私を超えたわ」


 自分で言っていて驚きの収入である。

 確かに一つ辺りの利益は普通の魔導士達の何分の一程度かもしれないけど、生活魔導具は売れる数からして違うため、全体の利益は大きい。

 それでも扱う金額だけで言うのなら、書店を商うライラさんには及ばないようだ。

 この世界では、ある意味宝石以上に高価な本を取り扱う書店の店主が、当然低収入の訳が無い。

 しかも、女性向けの書物専門とはいえ、その顧客の殆どが貴族や富裕層の貴婦人達がとなれば猶更の事。

 そう言えばライラさん、以前に貴族の顧客の大半が、お任せで纏め買いしてゆくとか、……しかも本棚を埋める程の量を。




 そりゃあ、結婚後もお店を続けたいと思う訳ですよね。

 美味しい商売ですもの。







【こ の 世 界 の 貨 幣 価 値 換 算 表】

 銅 貨 一枚            百円

 銅板貨 一枚(銅 貨 十枚分)   千円

 銀 貨 一枚(銅板貨 十枚分)  一万円

 銀板貨 一枚(銀 貨 十枚分)  十万円

 金 貨 一枚(銀板貨 十枚分)  百万円

 金板貨 一枚(金 貨 十枚分) 一千万円

 白金貨 一枚(金板貨 十枚分) 一 億 円



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