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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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81.ふはははっ、この誘惑に耐えられるか見ものだな。





 今は冬です。

 誰が何を言おうと冬です。

 例え、ここが南の地であろうとも、雪深いシンフェリア領からたかが五百キロ程度の距離でしかありません。

 それで何が言いたいかと言うと、寒いです。

 むろん、この地より遙かに寒いシンフェリア領で生まれ育った私からしたら、大した寒さではないのですが、それでも寒い事には違いません。


「そりゃあ、そんな外にずっといたら寒いと思うけど、いい加減に家の中に入ったら?」

「いいえ、これは実験なんです。

 きちんと結果を見定めないといけません」


 ライラさんの言葉に甘える事なく、私は寒風吹きすさぶ中、庭の一角に佇む。

 無論、それなりの防寒はしてますよ。

 着ぶくれしない程度には厚着はしていますし、ブロック魔法の壁を三方向に二重に張っているので、寒風など殆ど入ってきません。

 しかも残り一方向には、遠赤外線効果を発するものが二つも佇んでいます。

 私はそれを見張るために、こうしているのですが、ただ待っているだけではありませんよ。

 ライラさんにも言いましたが、ある実験です。

 私の前に佇む二つの物体は、片方にはレンガを積んだ物で、もう一つは大きな素焼きの壺で、共に私の半分ぐらいの大きさがあります。

 レンガの方は実家で光石の実験で、簡易の炉を作るために拝借したままになっていた物を使用。

 大きな素焼きの壺は、使っている様子がなかったので、お隣さんからお借りしました。

 レンガの方には大量の石が入っており、もう片方には砂利と砂が底の方にだけ。


「じっくりと温度を上げすぎず、下げすぎずが大切なんです。

 あと、中の物を時折ひっくり返す事」

「妙に拘るわね」

「大切な事ですから」


 特に初めてやるのですから、付きっ切りになるのは当然の事だと思う。

 時間や温度や返す作業の全てが初めてなのだから、目の前でじっくりと観察して見極めたいと思うのは至極当たり前のこと。

 何より、この待っている時間もまた楽しいのだから。


「そろそろかな」


 大体に時間を過ぎた頃、火属性魔法で一定の温度にしていたのを止め、フタを開けると共に、中の熱気が青空の中に吸い込まれてゆく様に立ち上がってゆく。

 中の物の返しは魔法でやっていたので、余計な熱が外に逃げる事はなく、仕上がったそれを同じく魔力の紐で持っていた籠の中へと入れてゆく。


「ライラさんお待たせしました」

「やっとね。妙に拘るから何かが違うんでしょうけど」


 家の中の居間へと戻り、たった今実験が終わったばかりのそれを机の上に置く。

 湯気を揚げ、美味しそうな香りが部屋中に広がってゆく。

 ええ、焼き芋です。

 しかもただの焼き芋じゃありません。

 石焼き芋です。

 そして壺焼き芋です。

 知識としてあったけど初めて作ったから、内心ドキドキです。

 各五本ずつ焼いて、半分を冷却魔法で冷やしてあります。

 え? 焼き立てを何でわざわざ冷やすのかですか?

 お芋の甘味は、温かい時より冷えてた時の方が、甘く感じるらしいですよ。

 そんな訳で、まずは石焼の温かい方を。


「ん〜〜〜〜〜、美味しい♪」

「ほこほこで甘味があるわね。

 これ焼いただけなのよね?」

「ええ、焼いただけです。

 正確には蒸し焼きですけど、あの焼き方にこの美味しさの秘密があるんです」

「これなら拘る訳ね」


 ホクホクと甘味のある芋をゆっくりと味わいながら、時折ホットミルクを流し込む。

 うーん、この組み合わせは、まさしく幸せな味です。

 前世の時は此処まで芋は好きではなかったけど、今世ではハマりそうな予感です。


「ちなみに此れ、バターを付けると、また美味しいらしいですよ」

「くっ、この妖精め。えーい、此処でそんな事を言われたら試さずにいられないじゃないのよ」

「うわ、たっぷりといきましたね」

「はい、ゆうちゃんもね、この際道連れよ」


 そう言って私のお芋にも、たっぷりとバターを乗せて来る。

 ちなみライラさんの言う妖精というのは、前世で言う悪魔の誘惑の事で、争い難い誘惑を妖精の誘惑と言うそうで、それをなす相手を妖精と表現するので、決して私を褒めている訳ではないです。


「こっちの壷で焼いた方も美味しいわね」

「外はカリッと中は柔らかく、良いですよね」

「本当よね、私お芋を見直したわ」

「他の芋も、この焼き方でやってみると面白いかもしれませんね」

「例えば?」

「じゃがいもは定番として、里芋や山芋もありだと思いますし、芋ではないですが栗もイケると思います」

「やっちゃおうやっちゃおう、あっでも次から寒いから土間の方でやりましょう。

 ゆうちゃんなら土間に持って来れるでしょ」

「そうですね、初めての試みで火事が怖いので外でやりましたが、次からは中でやっても大丈夫だと思います」


 熱源は魔法を使っているので換気の心配はないし、台所はそれなりに風通りもあるので、炭を使ったとしても問題はない。と言うか、普通に薪の台所だしね。

 そう思いながらホクホク顔でお芋を食べていると、どうやらライラさん、二本目も残り半分はバターに挑戦の様です。

 きっと明日は私の日課の運動に付き合う事になりそうです。

 ええ、彼女も全身運動のフルバージョンを覚えています。

 それも当然ですよね、何度も食べ過ぎて私に付き合っていますから。

 私の方は、相変わらず三回に分けてですが。


「本当に冷ますと甘くなるのね。

 しかも柔らかさを残したまま」

「ええ、これだけ甘くなると、此れは此れでお菓子の完成形の一つだと思います」

「そうよね、このまま何一つ加工しようと思わないわよね」


 この世界の薩摩芋は、それなりに甘いけど、それでも前世で品種改良された薩摩芋ほど甘くはないしトロミもない。

 それでも、これだけ美味しく感じるのは、やはり低温焼成でじっくり焼きあげる、この焼き方のおかげなのだと思う。

 そしてもう一つの冷ましたお芋を、美味しそうに食べるライラさんをみながら、おしゃべりを続ける。

 え? 私ですか、私はもうお腹が一杯なので、気にせずにどうぞ。


「胃が小さいというのも、良し悪しね」

「私にとっては悪ししかないですよ、美味しい物をあまり食べられないんですから」

「くっ、此処で羨ましいと思ったら負けなのよね」

「ライラさん別に太ってないですし綺麗ですよ」

「分かってないわね、そういう油断が悲劇を招くのよ、貴女と違ってね」


 うん、これ以上この会話を続けても、不毛な会話になりそうなので、話題の変更。

 ええ、やばそうな会話はスキップです。


「でもやっぱり都会ですよね。

 実家と違って色々な食材があるから、ぜんぜん試しきれません」

「当番の度に色々と買ってくるけど、よく作れるわね」

「お店の人に教えてもらうんです。流石に皆さん詳しいですよね」

「そりゃあ商売だからでしょうけど、私が言いたいのは、よく知りもしない物を買って来れるなぁと思って」

「だから面白いんだと思いますけど。

 ほらっ私って、実家では碌に料理させて貰えなかったから」

「それでもねぇ、……まぁ、ゆうちゃんらしいと言えば、らしいわよね」


 なんか、最近よくライラさんから聞く言葉。

 ただ馬鹿にしたり呆れているのではなく、温かい目で見守ってくれる感じの事が多いので悪い気はしません。

 ライラさんの優しさが込もった言葉なのだと。


「まだ温かいうちに、壺を貸してもらっているお隣さんに二本づつ、お裾分けしてきますね」

「行ってらっしゃ〜い。あっでも残り一本ずつは?」

「いつでも食べれる間食用に置いておきますので、良かったらどうぞ」

「くっ、やっぱり貴女、妖精ね」


 言われるとは思ったけど、別に四本全部食べなければ、そこまではと思うのだけど。

 まさか……ね。







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