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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
79/976

79.描かれてゆく物語、えっ腐ってませんよ。

今回は短めです。





「〜〜♪」


 ペンを手に、紙面を文字が順調に埋めてゆく。

 時折ペンが止まる事もあるけどそれは、各文節を思案するためであり、書く内容そのものは止まってはいない。

 と言っても、時折戻っては既に書いた文字の上に新たに文字を書いたりと修正する事は度々あるけど作業は順調と言える。

 書いている内容としては、もともと雪の深い実家の冬での暇潰しに、拙い小遣い稼ぎを目当てに始めたもの。

 狩猟などでそれなりに稼げる今は、特に書く必要はないのだけど、ある程度の定期収入があるのも嬉しいので相変わらず続けている。

 ええ、私の趣味の内容の本じゃないです。

 これを求めている人達の趣味の本です。


「楽しそうに書いているわね」


 ですから、それはきっとライラさんの気のせいです。

 楽しいとしたら、それは定期収入の糧が増えるからです。

 そう言う訳で、心の奥底の【ユゥーリィ】はそんなに興奮しないの。

 そして申し訳ないけど、今は返事をしている余裕はないので、ライラさんの事はさておいて、今は話が一段楽するところまで書き上げたい。


 その後どれくらい時間が経たのだろうか、時折お店の方から物音と話し声が聞こえてくるのを意識の片隅で聞き取りながら、只管(ひたすら)にペンを走らせて行く。

 正直、もう話の展開とかなどは細かい事は考えていない。

 物語の中の登場人物達が自分達で物語を描いてゆく。

 私はその情景を第三者の目で見ながら、それを紙面に起こしているだけに過ぎず、ただ、それを表現すべき言葉が思い浮かばない事に忸怩たる思いが浮かぶも、今はそんな事すら後回しにする。

 今はただ、脳裏の中で繰り広げられる物語とそこに在る想いを残すために、ペンを走らせる事に没頭するべき時だから。


「ふぅ~……、はぁぁ………」


 やがて、物語がひと段落付いたところで、私は大きく息をし、身体の中に溜まった色々な思いと共に息を吐きだしてゆく。

 その後に長時間も同じ姿勢でいたせいで、凝り固まった体を解し、何か用事だったのかと思い、書店の主人(あるじ)であり居候先の(ぬし)でもあるライラさんに声を掛けると。


「別にお茶でもと思っただけだけど、……相変わらず、すごい集中力よね」


 そう言われても、単純にモチベーション的に途切れさせ難い作業と言うだけで、私自身其処まで集中力が凄いとは思わない。

 実際に意識そのものは、外にもきちんと向いていたしね。


「すみません、切りの良い所までは一気に書き上げたかったので」

「構わないわよ~。

 ゆうちゃん達みたいな人達の作品が、私達の飯のタネなんだから、邪魔をする気もないし、むしろ応援する側よ」


 そう言って戴けると、私としては嬉しい限りです。

 お店の方は今は人がいないらしく、店のカウンターから居間の方に戻ってきたライラさんは私の作業机に目をやり。


「ゆうちゃんは、こうやって書いてるのね」

「こう言う物じゃないんですか?」


 他の人はどう書いているか分からないけど、私は横書きの原稿用紙に書いている。

 原稿用紙自体は、印刷ではなく印版で定形の物を大量に作っている。

 ちなみに印版とは、印鑑のお化けみたいな板状の印鑑の事で、例によって魔法で木の板に掘って、魔法でドンドンと紙に押しているので、原稿用紙のような物を印刷するには此方の方が楽にできるし何度でも使いまわせる。


「殆どの人は写本と一緒よ。未記入の本に直接ね」

「うわぁ……、それはかなり集中力がいりそうですね」


 いきなり清書するような物だから、かなり注意しないと内容も文章も凄い事になりそう。

 私なんて、原稿用紙を使っていても結構な量を書き直しになるから、とても真似は出来そうもない。

 この世界にはパソコンが無いから書き直しが面倒で、だいぶ気を付けて書くようになってきても、こんな乱雑な原稿状態だと言うのに。

 これからも原稿用紙は手放せそうもない私にとっては、凄い豪胆な書き方だと思う。

 やっぱり本職の人達は凄いと感心する。


「私なんて、最低でも二、三回は見直しながら書き直さないと、とても見せられる内容にならないのに」

「まぁだから、なんでしょうけどね。

 ……って、ゆうちゃん此れは流石に」


 そう言う訳でまだ未完成なので、あまり原稿を読んで欲しくないのですがと思いつつ、彼女の言う部分に目を向けると。

 指摘するのも当然な箇所ですね。

 書かれているのは導入までとはいえ。


「そこは削除する部分なので気にしないでください。

 そこに至る情景を掻き立てる文章に書き直しますから。

 あくまで、そう言った事は読み手の勝手な想像に任せるつもりなので」

「……やっぱり確信犯だったのね」


 確信犯とは人聞きが悪い。

 あくまで想像を掻き立てる文章にするだけで、その先にあるのは読み手の自由な想像です。

 何度も言いますが読み手の空想であって、私は関与しませんし関与したくもありません。

 荒書きの原稿にしたって、そこまで書いてません。

 あくまで導入部分までです。

 そう言う訳で……、


「物語を読む上で一番楽しいのは、物語の場面を想像する事だと思うんです。

 子供向けの絵本も一緒ですけど、敢えて足りない言葉も、簡単な絵も、子供がそれを想像して楽しむからなんですよね。

 大人になってゆくと、それが楽しめなくなったり物足りなくなったりするだけで、基本は同じなんだと思うんですよ。

 だから私が書くのは基本的にそれと同じで、読者の想像任せなところも多いですし、挿絵も同じです」

 

 別に私は歴史に残るような名作を書こうとかは欠片も思っていないし、そんな話は絶対に書けやしないさえ思っている。

 私は、ただ気楽に読めて気楽に楽しめる本であればいいし、それだけの本が書ければ十分だから。


「綺麗ごとで纏めたけど、やっている事は確信犯で、誘導の仕方がエグイわよね」

「……駄目ですか?」

「いいえ、言ってみただけよ。

 ゆうちゃんの困った顔が可愛いから見てみたかったからね。

 とにかく、そういうのはどんどんやりなさいとだけ。

 読者も楽しみにしているでしょうしね」


 人の困った顔が可愛いとか、ライラさん少し屈折してませんか?

 いえ、私もお姉様やエリシィーのそういう顔が嫌いか、と聞かれれば好きではあるけど、やっぱり女の子は笑った顔が一番好きだと思う。

 むろん私以外の話ですけどね。






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