表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
78/976

78.チョーカー? いいえ首輪です。





「随分と可愛い物を作ってるわね」


 作業の横手から、居候先の書店の主人(あるじ)であるライラさんが声を掛けてくる。

 私の目の前には、赤子の拳ほどの銅製の置物で、犬、馬、ペンペン鳥。

 他にも銀製の白角兎と花、鉄製の猫と熊。

 ええ、前世で北の大地でよく売られている、鮭を咥えた熊の置物です。

 そして今、挑戦していたのが、銅と銀が絡め合う蝶。


「コッフェルさんには本当に感謝です。

 まさか、こんなに簡単だとは思ってもいませんでした」

「……簡単なの?」

「ええ、物凄く」


 この街の魔導具店主であり、魔導具師でもあるコッフェルさんに教えてもらった形状変化の魔法の使い道のおかげで、魔導具の制作に幅が広がりそうです。

 昨日から色々試してみたのですが、魔力が掛かっていない物は、確かに形状変化の魔力を通すのにコツがありますが、魔力が通りにくい分、程よい抵抗があって魔法銀(ミスリル)に比べて、さほど魔力操作に気を使わず形状変化をさせる事ができるんです。

 驚きの簡単さです。

 例えるのなら、魔法銀が箸で持ったペンで絵を描く様な精細さを必要とされるに対して、ごく普通の鉄や銅や銀は、広い黒板にチョークで絵をいっぱい描く豪快さでやれます。

 むろん、黒板アートレベルの物を描こうとすると技術が必要な様に、細やかな物を作ろうとしたら繊細な魔力操作が必要とされますけど。


「形状変化の基本は出来てましたから、あとは実践だけだったみたいです」


 でも、これ等が簡単に思えるのも、アルベルトさんのお陰と言えばお陰なんですよね。

 昨日はそれなりにショックを受けましたが、落ち着いて考えてみれば、アルベルトさんの書いた本に書かれた事は、魔導具師にとってある意味当たり前の事。

 コッフェルさんが言う魔力の通りやすい物は、形状変化の魔法が効き難いと言うのであれば、魔物の素材を多く使う魔導具師にとって、当然必要とされる技術。

 当然ながら、魔法銀(ミスリル)より形状変化が難しい素材もあるはずだから、間違ってはいません。

 ただ、基本とする設定基準として、最初に挑戦すべき素材の選定がおかしいとは思いますが。

 もっとも、私のように身近な魔導具を作る事を前提としている時点で、一般の魔導具師から外れた存在のようですから、魔導具師として要求されるレベルが違うため、仕方ない事と言えば仕方ない事です。

 私みたいな出来て当たり前の技術で、魔導具師をやって行こうとする方が異端なのでしょうから。


「でも驚いたわよ。帰りに寄り道して素材を買った時は」

「ええ、その件でもコッフェルさんには感謝しています」

「あの強欲爺いにも人の血が流れていたって訳ね」


 目の前にある素材は、コッフェルさんが紹介してくださった、工房向けの問屋さんから購入できたので、思った以上に安く購入できました。

 他にも木材や石材以外にも、魔物の素材などもありましたが今回は見送り。

 今の私では、色々と知識不足で扱いきれない


 一括現金払いが基本ですけどね。


「それよりも、まさか内臓と同じように、桶に一杯分ずつ買うとは思わなかったわ。しかも大桶で」

「そうですか? これくらいは使い出したら直ぐ無くなると思いますけど」

「そうだろうけど、重さがね」

「魔法を使えば軽いですけど」

「そうね。でも、もう少し回り見た方が良いと思うんだけど。

 買う時に目立っていたわよ」


 素材に限らず、物は細々と買うより、ある程度まとめて購入した方が安いです。

 今回買った分にしたって、雄の白角兎(ホワイトラビット)一頭分あれば、倍の量を買ってもお釣りが返って来るくらいですし。

 手で持ったのは収納の魔法に納める時だけだし、お店から帰る時は特に問題はなかったと思うですけど。

 うーん、でも確かに、お店の人達から注目されていた気はするけど。


「私はこんな髪と目と肌ですから、どうしても目立ってしまいます。

 それに、もうそう言うのを気にするの止めましたから」


 アルビノで生まれた私の髪と肌は白く、瞳の色は兎の目の様に赤いため、例え雑踏の中であろうと、どうしても目立ってしまう。

 人は自分と違う物には凄く敏感な生き物だから。

 そのため、以前は髪を隠し男装をしてこの街を歩いていたのだけど、ライラさんに言われてしまった。

 隠そうとしても隠しきれないし、分かる人には分かってしまうと。

 だからもう隠すのは止める事にした。

 多少の誤魔化しは効いても、結局は無駄なら止めた方が良い。

 最初は面白かったけど、だんだん面倒になってきたのもあるけど、嘘を言い続ける方が辛かった。

 だから………。


「以前にライラさんに教えられました。

 自分を誤魔化さずに前を向く事を」

「……そんな大そうな事、あったっけかなぁ?」


 直接ではないですが、私にとっては同じ様な事。

 ライラさん自身は首を傾げていますが、感謝する気持ちには変わりません。

 

「さてと、とりあえず練習はこんな所ですね」

「うわっ、もったいない」


 形状変化の魔力操作と共に像は溶けだして、それぞれの素材毎に集まり、元の様に固まってゆく姿に、ライラさんが声を上げるので、何か欲しい物があれば作りましょうかと聞くと、流石に高価だから断られてしまう。

 鉄はともかく幾ら銅や銀が貴金属と言っても、装飾品と違って工房向けの素材原価なので、そこまでは高くはないのですが、本人がいいと言うものを無理に勧めるのもなんですので、作業に戻る事にします。

 意匠(デザイン)用の帳面にペンを走らせ、頭に浮かんだ意匠を絵にしてゆく。

 途中から、既に書いた部分を目が追いはじめ、考えなくてもペンが勝手に動いてゆく。

 感覚が浮かんだ意匠を修正して形にしてゆく。


「イヤリング?」

「ええ、最初は別の物だったのですが、自分で作れるのなら欲が出ちゃって、意匠をやり直しているんです」

「こんな複雑のも出来ちゃうのね」

「分かりません、今は出来る出来ないかは関係なしで書いていますから。

 出来なかったら出来なかったで、練習の目標になりますから、それはそれで問題ありませんし」

「……そう言うところが、貴女の凄いところよね」


 ライラさんは、おかしな事を言う。

 自分で設定を決めて、それが出来なければ頑張ってできる様にするのは、ごく当たり前の事だと思う。

 無論、いくらやっても自分には達成できない事もあるし、その場合は別の方法を模索すれば良いだけの事。

 それで駄目なら、素直に他人の力を借りるだけでしかない。

 なんにしろ、今の私でどこまでやれるかを試したいだけなので、気楽な作業には違いないかな。


「でも、これは複雑かもしれませんが、一番最初の案よりは大分マシですよ」


 そういって、(ページ)をめくって、一番最初の案をライラさんに見せる。


「……首輪に見えるわね」

「私にもそう見えます」

「随分と斬新で荒廃的な意匠ね」

「書いた本人は冗談でしょうけどね」


 ええ、私ではなくエリシィーです。

 日焼け止めの魔導具は、まだ家にいた頃から考えていたので、もし出来たらどんな形のものが良いかをエリシィーに書いて貰ったのだけど。

 だいぶパンクな意匠に……。


「……もう少し大人しめの首輪なら、似合わない事もないでしょうけど」

「多少の意匠性はありますが、どうみても本気の首輪ですよね。

 鎖もついてますし」


 これを見て固まった私を笑っていたから、どう考えても冗談なのだけど。

 あの時は、エリシィーはいったい私をどうしたいのだろうかと、少しだけ茫然と疑ってしまった。

 この鎖の先あるのは、彼女の手ではないのかと……ね。


「ちなみにしませんよ」

「ここでしなさいと言うほど、屈折していないつもりよ。

 見てみたいとは思うけど」


 その意見には私も同意できるあたり、私もエリシィーの事をとやかく言えないのだろうなと思わず苦笑してしまう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ