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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
76/976

76.私、妖精らしいです。そんなに可愛いですか? え、違う意味と。





 軽く炙ったベーコンを小さく刻んで、ドレッシング代わりにサラダの上に。

 ベーコンの油と香りが野菜に絡まって、良い仕事をするんですよね。

 他にも昨晩の料理の余りを、少しだけアレンジして控えめな量にして、今日の脇役に変身です。

 主役はソーセージと目玉焼きです、ええ定番です。

 卵焼きは邪道なので却下、本音は好きなんですけど、お米とお味噌汁が欲しくなるので封印中なだけです。

 パンは先日の物がまだあるので、適当に籠に積んでありますので、あとはお皿の縁に野菜の酢漬けも添えて完成。

 後は飲み物を出すだけですが、……そろそろ起こさないと。


「あぁ……、ゆうちゃんおはよう」

「ライラさん、おはようございます。

 はい、冷たいお水です、目が覚めますよ」

「ん〜……、この気遣い、ゆうちゃんを嫁にしたい」

「お嫁さんになるのはライラさんでは?」

「ん〜、そうなんだけどね」


 何となくお酒の匂いを全身から漂わせている事から、昨夜は遅くまで飲んでおられた様子。


「まったくこの子は、少しはユゥーリィさんを見習ってはどう。

 それとユゥーリィさん、おはようございます」

「……今の伯母さんに、それを言われたくはない」


 キチンと着替えられてはいるけど、同じくお酒の匂いをさせているラフェルさんに、思わず苦笑を浮かべそうになる。

 それでも、見た目だけで言うならば、ライラさんよりキチンと体裁を整えられている辺りは年の功なのだと思える。

 そんなラフェルさんにも、冷たいお水を渡してから、互いに食事の机につき。


「その様子だと、もう今日は日課の運動は、済ませたんだ」

「ええ、お二人共ともよくお休みの様でしたので、今日は外の方で済ませてきました」

「気にしなくても良いのに、と言うか今日は付き合いたかった。

 あと、ゆうちゃん、アレやばいわ。

 お酒が進み過ぎる上に、それに合わせて食べ過ぎてお腹がヤバくなる。

 服が着れなくなったら、ゆうちゃんのせいよ」


 美味しかったのなら嬉しいですが、そこは自己管理でお願いします。

 それに一晩飲み食いしたぐらいで大袈裟ですよ、普段キチンと摂生していれば。

 えー、それでも私のせいって酷いです。

 いえ、素人料理を気に入ってもらえたなら何よりですけど。

 うん、そう言われても困る。

 困るので華麗にスルーします。

 無視じゃありませんよ、聞き流すだけです。


「昨日と似た様な物ですみません。

 一応昨日とは違う味付けのものなので、違いをお楽しみくだされば」

「いえいえ、十分に美味しいそうです。

 これも違う味付けの腸詰なんですね」

「ええ、これにはローズマリーを入れてあります」


 昨日、出したのはプレーン、胡椒多め版、セージ、ガーリック、ナツメグ、バジル、パセリ、オレガノ、タイム、ジンジャーの九種類に加えて、内臓の腸詰料理であるアンドゥイエット。

 昨晩と似たものになってしまうので、せめて味付けくらいは変えてあげたかったから、ローズマリーは朝食用に避けておいた。


「ライラの言う事は言い掛かりだから、気にしなくてもいいわ。

 ……と言いたいけど、言いきれないわね。

 まさか、あの量を食べ切れるとは思わなかったわ」

「……えーと、まだ昨夜のものがお腹に残っておられるのなら、無理に食べられなくても」

「これが食べれちゃうから、困る事になるのよね」

「そうなのよ、これが食べられちゃうのよ」


 なら問題ないのではないだろうか?

 むしろ私なんかは、胃袋が小さいのか量を食べれないため、羨ましいとさえ思っている。

 でもこれを言うと、逆ギレされるかも知れないので言わないけどね。

 ええ、以前にエリシィー相手に言ってキレられました、

 食べれる量と体重は女性にとって永遠の課題なのかも知れない。

 残念ながら、私には縁のない話だけど。


「お気に召したのなら、少しお包みしますね。

 昨日は焼きましたが、茹でた物も美味しいですし」

「……ライラ、私、この子が妖精に見えてきたわ。

 昨日の今日で、なんて恐ろしい誘惑を言ってくるのかしら」

「ダメだと分かっているのに乗ってしまうのよね」


 ちなみに妖精というのは魔物の希少種だけど、人や他の魔物を幻で誘惑して、その命を奪うと言われているので、人に抗い難い危険な誘惑をする行為を【妖精の囁き】と謂われていて、前世でいう悪魔の誘惑の様なもの。

 でも、だからって、朝から人を悪魔呼ばわりは流石に止めてほしい。

 美味しいなら美味しいで、それで良いと思うんだけど、其処は其処、人それぞれだから。


「いえ、余計な・」

「有り難く戴くわ」

「伯母さん膝を折るの早すぎ、せめて最後まで言わせてあげたら良いのに」

「せっかくの家族へのお土産よ。

 それと言わせないのも心遣いの一つ」

「ふーん、じゃあ食べないの?」

「そんな訳ないじゃない」


 放っておくと、すぐこの二人は戯れ合いをしだすので、本当に仲が良い伯母と姪なのだと感じ、その様子が微笑ましくて、ついつい頬が緩んでしまう。

 いいなぁ、こう言うの。

 

「そんな事よりも、この子がいる内にしっかりと料理を習っておきなさい、春からは別々になる予定なんだから」

「あっ」

「ふーん、決まったんだ。

 でも、えらく先の話ね」

「まだ話を軽く通しただけだから詳しい事は言えないけど、この子のためになる場所なのは間違い無いわ」


 どうやら新居が半決まりの様です。

 まだ未成年である私の場合、色々と難しい部分があるので、それなりに苦労させてしまっている様なので感謝の言葉しかありません。

 少なくとも殿方専用の変なお店とかでは無いのは信じられます。

 ただ、まだ色々と捻じ込まないといけない事があるとか、何か物騒な事を言っている気がするのですが。

 ああ、人気がある場所だから、そこにギルドの権力もとい力業って、どっちも隠せて無いですから。

 ええ、気にするのは止めますよ。

 お世話になっている身ですからね。


「それにしても、本当に美味しいわね、まさかあんな物が使われているだなんて誰も思わないでしょうね」

「そうなのよね。

 私も下賤な食べ物で、食べるのに困った人達の食べ物と思っていたけど、正直見直したわ」

「でも、野生動物なら、真っ先に食べる場所ですよ」

「はい正論をありがとう。でも昨日は正直、引いたわよ。

 こんな子が笑顔で、桶一杯の内臓を抱えてきたんだから」

「……それは私も引くわね。見た目との差がありすぎて」

「でしょう」


 何やらまた人を肴に談話の花を咲かせ始めたので、もう放置しておく事にした。

 何か私が口を出せば出すほど、ネタを提供している様な気がしますから。

 二人を放っておいて、小さな木桶にお土産のソーセージを各種数本づつ放り込んでおく。

流石に腸の腸詰であるアンドゥイエットは、あまり量は作らなかったので昨日で売り切れたので無しです。

 ついでに昨日余ったパセリを備え付け用に一緒に入れておく。

 こうすると桶の蓋を開けた時に、見た目のグロテスクさが減る。

 ぁ……そうだ。

 思い浮かんだ事を実行するために、一度居間に行ってから、それを一緒に入れておく。


「腸詰の赤ワイン煮のレシピを入れておきましたから、よかったら使ってください」


 ほとんどが前世の知識だけど、この世界でも近い味が作り出せるはず。

 今回、書いたのはバターもたっぷり使ったシチューなので、寒い冬には最適の料理です。


「……やっぱり妖精ね」


 いえ、悪魔の囁きですよ。

 それとも体重計の妖精かも。

 でも別に悪意はありませんよ。

 ただ、美味しい料理を食べてほしいだけですから。






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