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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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75.変わる日常、そして内臓をその手に。





「はぁ…、はぁ…、はぁ……、ふぅぅぅ〜〜〜」


 必死に息を整えながら、家の壁に背をもたれ掛けさせて身体を休ませる。

 リズドの街は王国の南部とは言え、流石に空気が冷えてきたため、かいた汗が冷えすぎない内に布巾で汗を拭き取る。

 正直、その行動すら億劫だけど、この寒い時期にそれを欠かす訳にはいかない。


「……本当に毎日やっているのね」

「はぁ……はぁ……」


 ライラさんが話しかけてくるけど、少し待って欲しい。今は流石に無理です。

 ちなみに今いるのは、ライラさんのお店の裏側にある小さな庭。

 洗濯物とかを干したりするスペースだけど、五十畳程の広さがあるため、軽い運動をするためのスペースは十分にある。

 流石に走るのは外の通りに行っているけど、此処でも日課を繰り返している。


「はぁはぁ……、見ての通り体力が…はぁ……、ないですから」

「もう少し落ち着いてからで良いから」


 それはありがたいです。

 その間に、脇に置いておいたコップに水を出して水分補給。

 流石にこの時期に冷やしすぎは体に悪いので、温る目にしてありますが。

 やがて体が落ち着いてきたところで、クールダウンのストレッチングをしてから家の中に戻ります。


「もともと病弱で同世代より体力がないからと言うのもありますが、病気に打ち勝つにはまず体力も必要でしたから、ずっと続けています。

 ……六年近く続けていて、あの程度ですけどね」

「そんなので、よく山歩きをしようなんて思ったわね」

「魔法を使えば、普通の散歩とさして変わりませんから。

 なにより、同じところ只管グルグル回るのはちょっと」


 居間で着替えながら、それらの事情をライラさんに話しておく。

 山歩きに関しては、半分は本当の事なので嘘は言っていない。

 あと、別に女同士なので視線は気になりませんよ。

 向こうも興味はないでしょうし。

 

「食事は出来ているから食べてしまいましょ」

「ありがとうございます。

 あとで洗濯しちゃいますから、洗濯物を出しておいてくださいね」

「了解」


 生活環境の変化のため、体力作りづくりは早朝に回して、その後に朝食を戴いている。

 一応、家事は交代で分担しているけど、どうみても楽をさせてもらっている気がする。

 ただその事に関しては……。


『私は花嫁所業も兼ねているからね。

 それと別に楽はしていないでしょ、交代で同じ内容をしている訳なんだし。

 ……掛かっている時間が圧倒的に短いと言うだけでね。

 ……本当、色々と規格外の子よね』


 最後の方はよく聞き取れなかったけど、花嫁修行を兼ねているから譲れないと言われたら、私としては黙って受け入れるしかないわけで、非常に申し訳ないと思う。

 だって、洗濯に関しても、生地や汚れ具合で分けた後は洗濯魔法と洗浄魔法、無論、脱水も濯ぎもあっと言う間です。

 干すのだって、魔力の紐を操ってあげれば、背の高い干場でも簡単です。

 ええ、もちろんきちんと皺を伸ばしますよ。

 風魔法で生地の両側から押さえるようにしてあげれば、布地を傷める事なく綺麗に伸ばせます。

 乾燥機魔法を使えば、乾かすのもすぐなのですが、やはりお日様に干した方が匂いも取れますし、殺菌効果もあります。

 洗濯物を取り込むのも畳むのも、同じく魔力の紐を使っているのであっという間です。

 え? 手を使わないのかって?

 だって、手は二本しかないじゃないですか。

 魔力の紐なら十本以上出しても余裕です。

 しかも魔力制御の練習にもなりますから一石二鳥です。


「……やっぱり、色々な意味で外れているわね」

「ん? 何の事ですか?」

「いいえ、少し此方の予想から外れた事が続いていてね。

 あなたの住居もだけど、もう少し待って貰う事になりそうだから」

「すみません何から何まで」

「別に構わないわよ。

 伯母さんが心当たりがあるから、そこへ推薦状を書くって言ってきたから」

「推薦状ですか?

 どこか住み込みで働く場所という事でしょうか?」

「私も詳しい事は聞いていないけど、そうだとしても真面な所だろうから安心して」


 嫌なら断って貰えば良いし、その時は屋根裏を改造するからって、……あのう、そこまでして貰わなくても。

 はぁ、結婚後も書店は続けるから、店番代わりの子がいた方が助かると、しかも家賃収入が入るって、……しっかりしてますね。

 いえ、その時は払いますけど、今は払わなくて良いんですか? 多少は払えますよ。

 家事の手伝い代でトントンだから良いと、そう言われるなら甘えさせて貰いますけど。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「それにしても、だいぶ良い匂いしてきたわね」

「ええ、もう後は煮込むだけなので」


 アルベルトさんの秘蔵の魔導書の解析をしながら、片手間に料理をしていたら、ライラさんが声をかけてきた。

 一応は匂わないように裏庭でやっていたけど、最初はどうしても匂ってしまったようだけど、今はご覧の通り良い匂いしかしない。

 作っているのはモツの煮込み料理。

 作るのは前世以来なので、上手く出来るか不安ではあったけど、今の所は大丈夫な様子。

 

「……まさか内臓を料理しだすとは思わなかったわ。

 庶民の私ですら食べた事ないのに」


 私が狩猟で穫ってくるお肉は、ごく一般人のライラさんにとってはハードルの高いお肉なので、慣れてしまったら今後が怖いと言うので、何時もお世話になっているお肉屋さんで、ほぼ捨て値と言える価格で戴いてきました。

 基本的にこの世界の人達は内臓は食べません。

 おそらく魔物の内臓が人に害する物が多いので、そう言った習慣になったのだと思う。

 ごく普通の牛や豚などの内臓は、普通に食べれるのに、勿体無いと思っていたら、やっぱり食べる人達はいるみたい。

 ええ、下級市民と言うか……不法居住者とも言いますが、スラムの人達は貴重なタンパク源として食べているみたい。


「下処理さえキチンとすれば、美味しい料理になるみたいなので挑戦してみました」

「……普通は挑戦しようと思わないものだけどね。

 まぁ美味しそうな匂いだから良いけど、こんな良い匂い彼処でしてたっけかな?」


 きっと、スラムの方達は下処理が不足な上、臭み消しの材料などの不足からか、凄い匂いのまま食べられているのだと、ライラさんの言葉から何となく推測できます。

 とか言っているウチに、時間が過ぎ去り完成。


「……普通に美味しいわね」

「今回は塩味がメインですけど、トマトや香草煮もいけそうですね」

「この味をあの値段で出来るって言うのが凄いわ。薪代を考えてもかなり安いわよ」

「その薪代すら掛かってませんけどね」

「それは貴女だからよ。

 それと、次に作る時は私も手伝わせて、覚えておいて損はない料理みたいだし」


 良い匂いに我慢できなかったのか、少し早めの夕食となりましたが、感想を聞く限り気に入って戴けたようで何よりです。

 あいにくと今日は、内臓の見た目の不気味さにライラさんが引いたため、一緒には作れなかったけど、美味しさを知って苦手意識を克服した模様。

 え? 後ろに干してある奴ですか。

 小腸を使った詰め物ですよ。

 ええ、本で得た知識であったので、後で薫製にしようと思います。

 ベーコンみたいなものです。

 え? 食べませんよ、明日用です。

 試したいって、……その出来る頃に食べたら、……その、身に着いちゃいますよ。

 付き合えと言われましても、私は流石にお腹が膨れて食べれないので、……道連れが欲しいって、………それならラフェルさんを呼んでは?

 きっと、麦酒が合うと思いますよ。

 料理も余っていますから、出せますし。

 えっもう行かれるんですか?

 彼方の夕食が始まる前にですか、そうですね。




 ライラさん、物凄く良い笑顔でした。

 ……でも、きっとあれは悪魔の微笑みですね。







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