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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
73/976

73.お肉が美味し過ぎて困ります。 今、体重計には乗りませんから





 じゅ〜〜っ。

 

 強火で三十秒程焼いてから、魔法でフライパンから少しだけ宙に浮かして、お肉をしばらく休ませておく。

 その間にソース作りの続きで、山で採ってきた山葡萄の果汁をベースに香草にお酢と塩胡椒を混ぜて一煮立ち。


 じゅ〜〜っ。


 二分程休ませたお肉の反対側を、同じく強火で三十秒程。

 その後、もう一度二分ほど休ませておけば、余熱で良い焼き具合になるはず。

 強火は使ったのは、香ばしさを出すためと肉汁を閉じ込めるためで、ステーキを焼くのに大切なのは低温調理だからね。

 付け合わせの人参とジャガ芋とブロッコリーを皿に盛って、タマネギと大根のサラダは、大皿でいいか。

 そうしている間に良い時間になったので、お肉をお皿に盛ってから塩胡椒、そしてソースをその周りに掛け、仕上げに白トリュフのスライスを振りかけ。


「お待たせしました。

 簡単なものばかりですが、戴きましょう」

「……ゆうちゃんって、貴族だったわよね?」

「ええ、一応は」

「意外と苦労していたのね」


 お世話になるので、食事くらいはと簡単な物を作ったのだけど。

 何故か同情されてしまう。


「貴族って、こう言う事はやらないと思っていたから」

「それは偏見です。

 上位貴族の方ならともかく、そう言う方のところに行儀見習いに上がる事もある下位の貴族子女ですと、簡単な食事くらいは出来ないと家に恥を掻かす事になりますから。

 もっとも、家ではお菓子ぐらいしか作らせてもらえなかったので、私も得意とは言えませんが」


 セイジさんやリリィナさんがいたため、その仕事を奪う事は禁じられていた。

 せいぜい簡単な料理を、外でこっそりと作るぐらいしか。

 機材の無い外では、あまり量が食べれない私だと、本当に御摘みぐらいの量しか作れなかったのよね。


「これだけ出来れば十分でしょうに」

「でも時間も掛からない手抜き料理ですよ」

「そう言うのは時間ある時にでも一緒にやりましょう。

 負けたくないから、少し腕を磨かなきゃ」


 なにか最後の方はよく聞き取れなかったけど、一緒に料理と言うのも良いかもしれない。

 今日の材料のほとんどは、この街に来る前に山で手に入れた物。

 お野菜とか調味料は、以前に非常時用としての買い置きを、収納の鞄に放り込んであった物を使用したので、これからは安い時期にまとめ買いしておくのも良いかもしれない。


「………ぇ」

「……〜ん♪」


 フォークとナイフが擦れる音だけが静かに響く食事の光景。

 だけど寂しいとか、つまらないとかは欠片も思わない。

 ええ、お肉が美味しいです♪

 下手な言葉なんて邪魔でしかありません。

 そして黙々と進む食事が一段楽したところで。


「はぁぁ〜〜〜〜〜っ、何これっ?

 いつの間にか無くなったんだけど。

 それよりも美味しすぎなんだけど」

「本当ですよね。

 これで熟成させたら、どれだけ美味しくなるのか想像がつきません」


 前にも食べた事があったけど、下手なA五ランクの牛肉なんて目じゃないくらい美味しい。

 是非とも低温熟成させた物を挑戦してみたい。

 


「これどうしたの? 高かったんじゃないの?」

「いえ、無料(ただ)ですよ。

 途中の山で獲ってきましたから」

「はっ?」


 そう言えば、ライラさんには話した事がなかったかもしれない。


「私、趣味の狩猟で結構な額を稼いでいるので、多少の蓄えはあります。

 もっとも魔導具関連の材料や魔法関連の書籍を買おうとしたら、あっと言う間に無くなってしまう程度ですが」

「もしかして、ゆうちゃんって、結構、強いの?」

「強くはないですよ。

 そう言う訓練は受けた事はないですし、狩猟も自己流ですから。

 はっきり言って私、魔法が無かったら何も出来ません」


 この世界は言うまでもなく、魔物が生態系の頂点の世界。

 そんな魔物と戦う人達からしたら、きっと私なんて赤子の手を捻るような物だと思う。

 普通に考えても虚実を混ぜた動きなんて出来ないし、それを見破る方法も知らない。

 戦略もあくまで前世の知識の漫画やゲームで覚えた物で、戦略と呼ぶのもおこがましい程度の物。


「そうよね、普通の貴族の娘って、そう言う事をしないわよね」

「ウチはそうでしたけど、武系の家ですと一通り身に付ける所もあるようですよ」


 ミレニアお姉様が、護身術を学ばされているとか、以前に手紙に書いてあったし。

 そう言えば、ミレニアお姉様、きっと怒っているんだろうな。

 ある程度落ち着いたら、お詫びのお手紙をしたためておこう。


「私は狩猟は貴族の嗜みと言って、お父様に無理を言って練習用の弓を用意してもらいましたけど、普通は旦那様のお付き合いでやる程度で、あまりしないようです」

「そう言われれば、おかしくはないのかな?

 それで、結局これってなんのお肉なの」

白角兎(ホワイト・ラビット)です」

「ぶぅ〜〜〜〜〜っ!」


 ぅぁ……ライラさん汚いです。

 せめて口に手を当ててください。


「超・超・超っ高級肉じゃない! どうりで美味い訳よっ!」

「お肉屋さんに卸す時、幾つかの部位を貰っておいたんです。

 しかも無料(ただ)でですよ、店長さんには感謝です」


 ええ、冬だけに地上に現れる白角兎(ホワイト・ラビット)ですから、いるかもと思って空間レーダーで探してみたら案の定いました。

 しかも今回は二集団を上手く狩る事ができると言う、幸運にも恵まれました。

 流石にこれ以上獲ると、数が激減してしまうと思って、他の獲物を狙う事にしたのですが……、お肉屋さん曰く、兎の多産で全滅する心配はあまりないそうです。

 でも幻のお肉というぐらいだから、生息数が少ないと思ったのだけど、天敵がいて土竜の魔物に大半がやられるらしいです。

 そう言う訳でで、持ち込んだ白角兎の数に歓喜雀躍(かんきじゃくやく)状態の店長さんが、好きなだけ持ってけと言うので、お勧めの幾つかの部位を数人前づつ戴いてきました。


「でもよく考えたら、このお肉の一般的な相場とか知らないんですよね」

「……そう言うところは、良い所のお嬢さんって感じそのものよね。

 中身はアレだけど」

「アレってなんですか、アレって?」

「アレはアレよ」


 なにか凄く馬鹿にされている気がするけど、変わり者と言う事では否定しきれないところがあるので、黙って頷いておく。

 エリシィーにも偶に似たような事を言われてたしね。

 今頃、どうしているだろうか?


「……やっぱり後悔してるの?」

「いえ、家族に未練はありますが、後悔はしていません。

 ただ、親友の事を思い出して、きっと怒っているだろうなと思って」

「かもしれないわね。

 でもそう言う事情なら分かってくれているんじゃないかな」

「だといいんですが。

 約束を破る事になってしまったので、それが申し訳なくて」


 もしかすると、泣いている……、うん、それはないかも。


「ふーん、どんな約束。また此処に一緒に遊びに来る約束とか?」

「いえ、私が家を出る時は一緒に行こうと約束していたので。

 無論、成人後の約束ですけどね」

「……そう、それはきっと怒っているわね。

 でも、貴女はそれを敢えてしなかったんでしょう?」

「ええ、人の事は言えませんが、彼女はまだ子供ですし、大切な家族もいますから」

「……そう言う判断が自分でできるなら、貴女はきっと大丈夫よ

 それと、もしあの子に再会する事があったなら、謝ってあげて、それから仲直りしなさい」

「もしそれが許されるのなら、その時はこのお肉で彼女との再会を祝します。

 食べ過ぎて太ると、怒られそうですが」

「ふふっ、たしかにそれはありそうね」







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エリシィーが闇落ちしてるんじゃないかと思てます
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