69.最近、私の親友がおかしいいんです。えっ、どっちが?
「ん、さっきから何やってるの?」
「ん〜、研究?」
「なんで、そこで疑問形なのよ」
エリシィーとのお泊まり会の第二回目。
明後日にはお父様達も戻ってくるので、当分はこれで最後の予定。
彼女には付き合わせて申し訳ないと思いつつも、今日は昼前から来てくれたので、彼女としてもお泊まり会は嫌々ではなさそうなので、私としてはその事の方が嬉しい。
それはさておいて、エリシィーの疑問は最もの事。
先程から私は、帳面を片手に唸っては何かを書いてを繰り返している。
しかも、紙面は文字でほぼ塗り潰されて真っ黒に近い。
黒が七部に白が三分、黒が多過ぎて紙が白く見えない。
そんな感じだから、首を傾げられてもおかしくはない。
「まだ研究にもなっていないからね。
こっちは文字に起こす事で考えを纏めているだけだから、読めなくても問題はないの」
やりたい事はある。
ただその方法をどうやったら、やれるのかを考えている段階。
そう、良い方法を探しているのではなく、どうやればそれが出来るのかを考えている最中なので、基礎研究に入る前の段階。
運動後の休憩がてらの読書会、と謳ってはいてもそれぞれ勝手に本を読んでいるだけで、しかも私の場合は本すら読んでおらずに、こうして勝手な事をやってたりする。
「それで、今度は何をやろうとしているの?」
「ん〜、自分用の魔導具をね。
ほら、私は陽の光に弱いから、その対策の魔導具を作れないかと思って」
アルビノでもある私は、生来身体が弱い事と相俟ってなのか、強い日差しに弱い。
対策をせずに昼間の外を出歩けば、すぐに真っ赤になってしまうし、酷い時は水膨れが出来たりなど、軽微とは言え火傷をしてしまう。
前世の知識から作った日焼け止めと、薄い結界魔法を体に這わす事で、なんとかなっているけど、気にしなくて良いレベルにはほぼ遠い。
夏なども長袖なので、そこに冷却の魔法と、風の魔法を重ね掛けしているくらいだからね。
要は、少なからず集中力を割かれていると言う事。
ほぼ無意識レベルまで出来る様になってはいるとはいえ、最小限は気にしないといけないし、夏は夏らしい服装でいたい。
「ふ〜〜ん、魔導具ってそんな事まで出来るんだ」
「知らな〜い。
だから出来ないかなぁ〜と思案中」
「そうよね。
普通の人は、そんな物を作ろうとは思わないものね」
「魔導具師を普通と言って良いのか、判断に困るけどね」
「確かに」
彼女にはそう言っては見たものの、たぶん、こんな魔導具を考えているのは私だけかもしれない。
この世界は魔物の脅威に晒されている事もあって、口の悪い神父様曰く、歩く軍事力である魔法使いや魔物に対抗できる騎士団や傭兵は、そちらに力を入れているらしい。
当然ながら、魔導具師もその傾向にあって、基本的には手榴弾やミサイルを作っては売って生計を立てる武器商人のような人達ばかり。
ライラさんがトレース台に感動したのもそれが原因だし、都会に住むライラさんからしても、そう言うのは見た事がないと言っていた。
そもそも幾ら教会の暗躍が在ったからと言っても、軍事利用出来る投光器の製法を献上しただけで、シンフェリア家が男爵から子爵へと陞爵が約束された辺りを鑑みれば、如何に魔法の使い道が軍事関連へ一辺倒しているかが伺える。
なにより民生品と軍用品を作るのでは、労働力に対しての儲けが違うだろうしね。
「私の場合は、半分は体質が体質だからね」
「そうよね、下手すれば命に関わるものね。
それで半分は?」
「もちろん趣味♪」
「だろうと思ったわ」
呆れながらも優しい笑みを浮かべてくれる彼女は、私のそう言う部分の理解者。
と言うか呆れ果てて、放置した挙句に生暖かく見ているだけかもしれないけど、其処は其処、自分にとって都合の良い様に解釈をしている。
「ん、ん〜〜〜〜っ、でも疲れた」
「休憩してたでしょうに」
「ん〜、身体はね。
考え事していたから頭の方が疲れたの」
思考を深くしていると、脳のカロリー消費は上がると言われているけど、あれは実は迷信。
実際は、思考する事で呼吸が変動したり、深く呼吸したりするし、私の場合は手を動かすけど、人によっては貧乏揺すりをする人もいる。
ちなみにこの貧乏ゆすり、実は血液の流れを良くするなど健康に良く、カロリー消費にも貢献していたりするけど、それはまた別の話なので置いておくとして。
エリシィーと会話した事で思考が途切れたので。
「気分転換にお風呂に行こうか?」
「……別にいいけど、まだ昼間だけど大丈夫なの?」
「まだ昼間だから二人で出かけても、おかしくはないでしょう」
「それもそうね」
早速、部屋に戻って準備をして出発。
いつも通りに、お風呂を準備。
ちなみに、使ったお湯は床下に開いた穴から、遥か下の坑道跡に廃棄しているし、風魔法で空気の入れ替えもしているので、此処がカビに侵される心配はない。
さて、今回は前回と違う事が少しだけある。
「はい此れに着替えて。
あっ、下は何も無しでね」
「これは?」
「湯着、リズドの街の蒸し風呂屋さんとかでは着るらしいから、作ってみたの」
基本、一枚布だし、可愛く作ってみても作業量は知れている。
ええ、彼女のためにと言うより、自分のためです。
前回、人のデリケートゾーンを見て、あんな感想を漏らされるとは思わなかったので、その対策です。
中身が男の私だって、敢えて彼女の其処には目をやらなかったと言うに、酷い話である。
そう言う訳でガードです。
あと彼女に着てもらうのも、ある意味私のため。
むろん、間違っても変な目で見ないためですよ。
彼女は男のそう言う視線が嫌いとか言っていたので、念のためです。
今は一応女同士だし、まだ子供である彼女を、そう言う目で見るつもりはないとは言っても、無意識に見てしまう可能性は否定できないし、その事で彼女を傷つけたくないから、その防御策です。
だと言うのに、彼女は何故か不満げな顔……。
「えーと、何故にジト目?」
「ん〜、却下♪
せっかく気持ち良いから、こう言う物に邪魔されたくないもの。
ほらほらユゥーリィも脱ぐ」
「ちょ、こら、自分で脱ぐから、変なところ触らないの」
その後は引っ張られる様に湯船の中へ。
なにか前回とは逆だと思いつつも、彼女がそれだけお風呂を気に入ってくれたのならと思うと、同好の士ができたと自然と笑みが浮かぶ。
「もう、髪もまだあげてないのに」
「今からあげれば良いじゃない、まずはユゥーリィから」
今日は少し緩めにしてあるから長時間入れるし、逆上せそうになったら湯から上がっては冷ますを繰り返せれる。むろん水分補給も大切なので用意済み。
そうは言っても、幾ら仲良く喋りながらだろうと、精々一時間が限界なんだけどね、特に私がだけど。
ほら、お風呂って長時間入るには意外と体力がいるんですよ。
そんな訳でエリシィー、悪巫山戯はしない方向で。
こらっ、足の裏をこしょぐらない。
やめ、本当に止めっ、そこ弱いから、変な声出ちゃうから。
「ふ〜〜、堪能♪」
「……悪逆非道なエリシィーに弄ばれた」
「すぐに止めたじゃない、溺れない様に気をつけたし」
「人が悶えるまでやったくせに」
「ユゥーリィの鳴き声って可愛いと思うのよね」
「うわぁ〜、こんな嫌な可愛いって初めて思った」
悪巫山戯はお互い様なので、これくらいの事で怒ったり拗ねたりはしないけど、もう少しだけ早めに止めて欲しかったと思うのは本当。
なにか変な感じになってしまいそうで怖いから。
「なにか一気に疲れたから、そろそろ出ましょうか」
「そうね。ユゥーリィが中々声を上げないから、手が疲れちゃった」
「うぅ、酷い」
と言いつつも、大抵こう言う後って、エリシィーは甘やかせてくれるので、それで許しちゃうあたり、酷いとも言い切れないんだけどね。
ちなみに、仕返しに彼女を擽り倒そうとは考えていない。
流石に中身のが男の私がやるには、色々と問題があると思い自重している。
ええ、流石に色々とマズイですから。
「領主様達って明後日帰ってくるんだっけ?」
「その予定。でも二、三日遅れる事はあり得る話だから、あまり気にしてない。
帰ってきたら笑顔で迎えるだけの事だし」
就寝前のまた〜りタイム。
すでに就寝前のお手入れも終わって、互いにベッドの中でお喋り放題。
ラウンジスペースや部屋の絨毯の上で喋っていても良いんだけど、冬も近いこの季節は、こうしていた方が暖かい。
一応は、お泊まり会という事で、軽い焼き菓子としてクッキーとかを用意してあったけど、今回も彼女は辞退なので私も摘ままない。
私自身はあまり間食はしないけど、彼女の場合は、どうやらある時期から最近までしていた様子。
その結果が何を生んだかは敢えて語らない。まぁ頑張れとしか。
夜に机に向かっていると、口が寂しくなる気持ちは分からないでもないからね。
そう言う訳で、人の腹回りを羨ましそうに撫でないの、擽ったいから。
服の上からだからと言う問題じゃないから、エリシィーだって私にやられたら嫌でしょ?
……別に嫌じゃないと、でも摘んだら怒るけどって。
いや摘めるほどないでしょうがっ、気にしすぎだから。
実際、一時期より痩せたからね。
その一時期に関しては、それでもエリシィーが可愛い事には違いなかったからと言う事で。
ええ、こればかりは目を逸らしてませんよ、まっすぐと言えます。
「……ズルイ」
「別にズルくはないです。
私の場合、食べたくても食べれないだけです」
「そっちじゃなくてさ。
ほら、ユゥーリィって、変な時だけ真っ直ぐに言うじゃない」
「食事は大切だから真面目にも・いたい、いたい、ひはい、ひっひゃらはいへ」
「そう言うところもズルいわよ。
それにしても、柔らかいわねユゥーリィのほっぺ」
「うぐぐっほおぉ」
人の頬をいきなり引っ張り出したと思ったら、今度は頬を両手で挟んでフミフミと優しく挟んでくる。
最後に、額と額を優しく当てて、ごめんねと優し声色で言って来られると、額から伝わってくる彼女の体温と、目の前での甘い吐息に、私としては何にも言えなくなる訳で……どっちが狡いだか。
「……もう寝ようっか」
そう言って、小指を絡ませてくる彼女の言葉に、私も小指を絡め返す。
暖かな布団の中で互いに伝わる体温と吐息。
そんな、ある意味幸せな時間に、こう言う時は女として生まれ変わった人生も悪くないと思ってしまう。
「おやすみ、エリシィー。良い夢を」
「おやすみ、ユゥーリィ。貴女にも良い夢を」




