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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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66.魔導具師の事情と、封印されし魔導具。





「本当に作ってくるとは思わなかったけど、これがそうなのね?」

「ええ、図を書き写すには楽ですよ」


 完成した魔導具で再現したトレース台。

 基本的にはガラス板二枚でワンセットの魔導具。

 片方を原本の(ページ)の上にかぶせ、もう片方を真っ白な紙の下に置くだけの代物。

 実はこれ、エリシィー関係ではなく、いつもお世話になっているリズドの街で、女性向け専用書店を営むライラさんの愚痴から出た話。

 なんでも写本に図がなかったり図の質が低かったりと、昔から問題になっており、最近では、ミレニアお姉様が出されたお化粧の本なども問題になっているらしい。

 簡単なイラストばかりと言えど、図が大量と言うか、紙面をほぼイラストで埋めているため、需要に対して質の良い写本の供給が追いついていないとか。

 前世の知識から、簡単に出来そうだと言ってしまったのが始まりなんだけど……。

 はい、苦労しました。

 開発期間は実働で三日程ですけど。


「凄いわねこれ、確かにこれなら簡単に写せるわ」

「問題はありますけどね」

「どんな?」

「まず金額です」


 魔法銀(ミスリル)などを使った魔力伝達用コードやコネクタ端子、ガラス板や保護金具など部品点数は多いため、当初想定していた金額に比べて高額になってしまった。

 使っている魔法銀(ミスリル)事態に強度を持たせるために、合金にしている分値段は下がっているとは言え、貴金属には違いない。

 無論、私が実際に作る上では、材料代は利益なしの原材料費+αなのだけど、一応は正規の値段は聞き出してはある。

 ええ、私の金銭感覚を狂わすなと怒りました。

 気持ちはありがたく受け取るから、それだけ価値のあるモノを受け取ったと言う気持ちを大事にしたいとね。


「基礎材料費だけで、銀貨四枚程(よんまん)

「それくらいなら」

「そこに私の技術料……魔導具師の技術料が幾らぐらいか知りませんけど」

「大丈夫よ。十倍要求でも余裕だから」


 どうやら金貨一枚ぐらいは覚悟していたらしい。

 他にも割れやすいので取り扱いに注意とか。

 柔らかい光とはいえ、光を直接見る事になるので長時間の作業には不向きだとか。

 いくつかの諸注意に、ライラさんは特に眉をしかめる事もなく、それくらいは当然の事と受け取ってくれるんだけど、最大の問題があって。


「あと実はこれ、まだ世に出せないんですよ」

「んなっ!」

「最低でも半年は」

「そ、それくらいなら」

「あと、今更こう言ってはなんですけど、今の私は依頼を受けられない立場にあります。

 面白そうなのと、自分の勉強を兼ねて作ってみただけで」

「此処まで凄いのを見せておいて、今更それを言うっ!?」


 眦を上げて声を上げるライラさんの言う事は、最もだとは思う。

 けど、売り物にはならないかも、と言うのは最初から言ってあったと思うんですが。

 ……え? それは品質的な話だと思った?

 それはそちらの勝手な勘違い、と言う事で納得してもらえば。

 ……無理? 無理でも納得してください。

 あと、これの貸し出しも今のところは無理ですから。

 ええ、材料にお父様の商会で扱っている品も関与していますので半年は無理かと。

 ……なら半年後は良いかと言われても。

 多分、仕事として受けられるのは、成人してからでないと。

 ……三年待てと言うのは酷いと言われても。


「すみません。やっと家の騒動が落ち着いたところで、今は、蒸し返したくないので」

「あぁぁ……、そう言う事、納得したわ。

 それならそうと、先それを言いなさい。

 お家騒動の火種になるような真似なんてしたくないのは、此方も一緒なんだから」


 うん、納得してもらえて何よりです。

 そしてそれでもと言うような方でなくて安心です。

 そう言う人だと分かっているからとはいえ、こうして言葉にしてもらえると、心から安心してしまう。まだ早いと分かってはいるんですけどね。


「でも、図を写したいだけなら版画とかは駄目なんですか?」

「版画?」


 手頃な小さな板が無いかを聞いたら、本棚の仕切りに使われている予備の板を渡されたので、そこに簡単なイラストを。


「上手いわね」

「所詮は素人の絵ですけどね」


 書いたのは、小さな女の子が枝に腰掛けながら、足を湖面に浸して遊んでいる線画。

 後はノミ代わりに魔法で線の周りを彫ってゆくだけ。

 むろん飛び散った木屑は必要以上飛び散らないように、ブロック魔法で周りを囲っててあるので店の中でも安心。

 後は、インク壷から少しだけインクを取り出し、水と火の土の複合属性魔法で粘度調整をし、出来上がった版画板に塗って、紙に押し付けて完成。


「一枚二枚ならともかく、何十枚もあるのなら、此方の方が安く、安定した物が出来ると思うんですが」

「……凄いわね」

「そうは言っても、印鑑と同じですよ。

 図に使ってみただけで」


 国の公的な書類には、署名以外にも印鑑などが使われる事は知識として知っている。

 有名なのが王が使う王印。

 あと我が家にはないけど、領印などもあるみたい。

 それを印刷技術に使っただけの事だし、一番原始的な印刷技術とも言えるような物。


「そっちも確かに凄いんだけど、魔法がね」

「あれ? 魔法を初めて見ました?

 これだけ大きな街ですから、それなりに居られると思うのですが」

「居るには居るんだけど、そう言う風に魔法を使う所は見た事がないから」

「はぁ、やっぱり、すごい攻撃魔法とかですか?」

「街中では流石に滅多にはないけど」


 ……滅多にって事は、偶にはあるんですね。

 思った以上に物騒な治安情勢に少しだけ怖くなる。


「大叔父が魔法使いだから、一応は人より見慣れているつもりなんだけど、ゆうちゃんみたいな使い方をしている所を見た事がないからね。

 あと基本的に威張っているから嫌いだし」

「意外に身近にいるんですね」

「ええ、今は現役引退して魔導具を扱っているから、余計にゆうちゃんがこう言う魔導具を作ってきた事に驚いたの」


 幾ら広いこの街でも、魔導具なんて特殊な物を扱っている店は数軒しかない訳で。


「もしかして、西区の」

「ええ、流石は子供でも魔法使いね。

 コッフェル爺の店を知っていているとは。

 感じ悪い人でしょ?」


 ああ、やっぱりなと思いつつも、そう言えばそんな名前だったと思い出す。

 一応、最初に紹介されたけど、すっかり忘れていた。


「でも、色々と教えてもらって感謝してますよ」

「うそっ! あの糞爺にそんな甲斐性ある訳ないじゃないっ」

「いえいえ、自慢げに色々と教えてくれますよ。

 此方を子供と見て警戒が薄いらしいので」

「それならあり得る話ね。

 なら黙っておいてあげるから、どんどん引き出してらっしゃい。

 それにしても、意外にいい性格しているわね貴女も」


 それくらいの図太さが無ければ、魔法使いの成り損ないなんて演じてられないし、中身はオッサンなので全然余裕です。

 それにしても、良いのだろうか? 一応はご親戚の方では? と聞いてみると。

 ……え? 威張っている以外にも昔からイヤらしい目で時折見るから嫌いだから構わない?

 別にそこは男として自然な事だから多少の事は……、なるほどセクハラ発言の連発ですか。

 それはアウトですね。

 ……でも最近は枯れてきたのか、あまりそういう視線は感じなくなったと。

 別に変な事は考えてませんよ。ライラさんはまだ若いし現役で魅力的です。

 むしろストライクど真ん中です。

 ええ、何の事かは秘密です。

 早く御相手の家の方との話が進展する事を、心から祈ってますよ。


「じゃあ、そちらにお願いしても良いのでは? 他の魔導具師とか。

 書籍ギルドで頼むのなら、それなりにいると思うんですけど」

「いたら、こんな愚痴にならないわよ。

 ゆうちゃんも見たんでしょ。

 あの爺いの店の商品、他もだいたいあんな感じよ」


 うん、基本的に対魔物の攻撃用魔導具や、対魔物のための補助魔導具などが商品の殆ど占めていた。

 当然ながら対人用品も幾つかね。

 この世界の生態系の頂点は魔物のため、それだけ魔物が脅威であり、対魔物が最優先になっているため、それだけの余裕が無いと言うのもあるのだと思うけど。


「なにより、こんな安くて手間の掛かる仕事しないわよ」


 多分これが一番大きい問題なのかも。

 ライラさんが、材料費に対して十倍要求でも余裕って言ったのも、依頼の引き受け手が内からのようだ。

 私的には前世の記憶と経験もあって、原価率五割ぐらいかなぁ。

 でも一応は魔導具だし、三割でも行けるかもと思っていたんだけど、あのお店の商品を見る限り、原価率は一割を切るどころか、数パーセント。

 物によっては更に酷いくらい、利益を貪っている。

 需要があるため、それで成り立ってしまうのだから、美味しすぎる商売と言える。

 しかも魔導具を作れる才能を持つ魔法使いとなると、数が限られてしまうので猶更だ。


「生き残るのが最優先のための商売って事なんですね」

「そう言う事だから文句も言えないし、感謝もしないといけない所が悲しい所ね。

 ゆうちゃんはそういうの目指さないの?

 ボロ儲けみたいだけど」

「そう言うのはちょっと興味が無くて、怖いですし」


 ええ、ライラさんの話が本当ならば、今の魔導具師の商売と言うのは、謂わば死の商人。

 その死の商人の勢力争いに参加はしたくないです。

 なにか攻撃魔法が行き交うような事態になりそうで。


「そうよね。

 ゆうちゃんに、何かを攻撃するとか似合いそうもないわよね」

「そうだと思います」


 何か勘違いしたようだけど、別に間違ってはいないので素直に頷いておく。

 ジャンジャン攻撃していますよ。

 主に森の野生動物を。

 ただ、これが対人とかになったら、それが似合うような人間にはなりたくないのは本当の事。


「それなら三年くらい待つわよ。

 その代わり最低は百は行くと思うから覚悟しておいて」

「印鑑で済むのでは?」

「あれは数の出る写本にしか使えそうもないから。

 それに使い勝手もね。

 一応、この印鑑の案もギルドに買い取るようにお願いしておくわ」

「よろしくお願いします」







【こ の 世 界 の 貨 幣 価 値 換 算 表】

 銅 貨 一枚            百円

 銅板貨 一枚(銅 貨 十枚分)   千円

 銀 貨 一枚(銅板貨 十枚分)  一万円

 銀板貨 一枚(銀 貨 十枚分)  十万円

 金 貨 一枚(銀板貨 十枚分)  百万円

 金板貨 一枚(金 貨 十枚分) 一千万円

 白金貨 一枚(金板貨 十枚分) 一 億 円

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