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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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65.影使いの実力を見せてあげましょう。





 あくる日、机の上に置いた二枚のガラス板を睨みつけながら、制作中の魔導具に対して作戦を考え直す。

 硝子板は陶器や魔法石と違って、魔法陣が刻みにくい。

 微妙に魔法陣を描く魔力が、反射するかのように周りに滲もうとする。

 そのくせして水晶だとそんな事はないので、まったく不思議だ。

 これだけなら然程問題なく、時間を賭ければ出来なくはないけど、私を悩ませているのは、ガラス板の厚みそのもの。

 その薄い側面に魔法陣を刻むのがかなり厳しく、それこそ職人並みの技術が必要だと思う。

 今、そこに時間を掛けるより、他の方法を探した方が賢明だろうと判断。

 やろうとしているのは、ただの光の屈折を魔法を使って補助してあげるだけの物。

 私自身なら魔法で簡単にやれるのだけど、魔導具にしようとすると、かなり面倒だと発覚。

 もう少し大きな物になってよければ、実は魔法なんてものを使わなくても作れたりするんだけど、ただ、この世界で再現できる物には色々と欠点もあって、それを魔導具で持って克服した上で使いやすさを求めようと挑戦してみたのだけど、結果は見ての通り。


「よし、根本的に発想を考え直してみよう」


 実現に出来る出来ないに関係なく、もう一度『こうしたらできるかも』を基準で考えてみる。

 ぶっちゃければ、作りたい物はトレース台の様な物。

 でも、この世界の本に使われている紙は厚い上、それを透過する程の光となると本が痛むし、紙と紙の間にあまり厚みのある物は挟めない。

 当然、原紙の上に紙を当てて書くなんて真似は厳禁。

 何故なら、この世界の本は高価で貴重なため、基本的に傷を付けるなんて真似は許されないからだ。

 そうなると、鏡に反射した原本の幻像を写すのが良いのだけど、その方法だと大きくなりすぎるし、姿勢的にもきつそう。

 そんな訳で、【無】属性魔法で光の屈折を先をもう一つのガラス板の上にして紙の下から透過させようとしたんだけど……、まぁ見事に魔導具化するには私の技術が足りない状態。


 なら別の方法を、まずは【火】シルクスクリーンみたいに熱でって、それなら最初から印刷技術を公表した方が早い。

 でも印刷技術が発展する事で、色々と問題も起きていると言う事は、前世の歴史で学んでいるので、当分は公表する気はなし。

 【水】属性、本や紙が濡れるからパス。

 【風】属性、ページの自動送りの魔導具には使えそうではあるものの、需要があるかは微妙。

 【土】属性、……黒歴史的作品を葬るには便利ではあるけど、目的からしたら正反対。

 【時空】属性、時間軸をずらして虚像映し出す。

 此れは出来るかもしれないけど、トレース台には使えそうもない。

 何より必要な魔力が凄い事になりそう。

 【聖】属性、ただでさえ使い道が限られすぎていて、転用先が思いつかない。

 【闇】属性、そもそも資質があるかすら分からない。

 けど今はそういうのは置いておくとして考えると、……悪くないか。

 もし【闇】属性魔法が、厨二的魔法で影を扱えるとしたら、影の槍とかいう魔法が出来るはず。

 でも影で攻撃できるという事は、影その物を攻撃用に扱うという事だから、当然他の用途にも扱えるという事になる。

 むろん【闇】属性魔法が影ではなく、精神攻撃とか重力攻撃とかいった類の物と言う可能性もあるけど、今はそれは考えない事にする。

 逆にそれら全部と言う可能性もなきにしもあらずだしね。


「影か」


 机を照らす光球魔法に照らされ、自分の手の影が机上に映し出されている。

 この影に添うように魔力を形作ってみる。

 流石にこれだけだと無理か。

 王道だと、魔力と影を浸透させる。

 どうやって?

 あるとすれば、意外と簡単な発想だとは思う。

 影に魔力の紐を剣の様にして刺してみる。……だめ。

 じゃあ刺した後、影に染み込む様に魔力を……最初と変わらないか。

 やっている事は、結局は最初の奴と変わらないもんね。

 魔力を針と糸の様にして影を布用に縫い付け……机に穴が開きかねないからボツ。

 影に合わせた魔力を影に溶け込む様に……これも駄目か、実は本命だったのに残念。

 他にも前世のファンタジー物の知識を、適当に片っ端からやってはみるけど、なんら手応えを感じない。


「ふぅぅ……アプローチを変えてみるか」


 この辺りのトライアンドエラーの結果が早いのは魔法の長所ではあるけど、あっと言う間にネタが尽きてしまう錯覚を覚えそうで怖い。

 アレだけ試したから駄目、と言う思い込みがね。

 なんにしろ影を扱う以外で、影で連想する物と言うと……何か目的がズレてきた気が。

 別に今はズレててもいいか、やる気になった時にやるのが大切だし。

 影と言うともう一人の自分。

 他にも物事の裏側とか、影響とか。

 後は異界の入り口とか通り道とか。……異界、……世界……影。

 影は世界を映したもう一つの世界が、こちら側に映した影とか言う話もあったな。

 流石にいくらこの世界が魔法のある世界でも、それは突拍子もない話し過ぎるので、ないと思う。

 問題はこの世界を写す影。

 この言葉に惹かれた。

 

「魔力を……」


 魔力の流れが私の想像と意思に合わせて流れてゆく。

 基本は、先程に行った影に重ねる事と変わらない。

 重ねた魔力を溶けゆく様にして影に合わせる。

 そして影が生まれ出で、意識をのせた魔力に沿って影が伸びてゆく。


「なるほど、やり方そのものは、【時空】系属性魔法を使ったレーダー魔法とさして変わらないのか」


 これが【闇】属性魔法なのかは分からない、私が【闇】属性を無意識に使ったかどうかもさえ、いまいち使ったと言う感覚がないと言うか、弱い?

 ただ使ったのは【時空】系属性魔法の【空】に近いと言えば良いのかな?

 影を異界の写す影と考えた時、影はこの世界と薄紙一枚分だけ異世界に近い空間の中にその本体があるのかもと言う、これもまた前世の漫画の知識なんだけど、当たりだったみたい。

 しかも、よほどこっちの世界に近いのか意外にも省エネ。

 もっとも魔力を流し込んで影に溶け込ませるまでの話で、影を操作するのはそれなりに魔力を使うみたい。


「うん、これは使える」


 逆に言うと、影を動かそうと思わなければ、さほど魔力は食わないと言う事で、影を映すだけなら、比較的少ないまま。

 帳面を取り出し、走り書きする。

 とりあえず浮かんだこの魔法の利用方法の発想だけ。

 やれそうか、やれなさそうかは後で考える。

 単語だけでもいいし、図とさえ言えない図でも構わない。

 とりあえず浮かんだ事で帳面を埋めてゆく。


「今は、こんなものかな」


 書く事が浮かばなくなり手が止まったところで、一息入れる。

 収納の鞄からティーポットを取り出し中身をカップに注ぐと、煎れたてのアップルティーの良い香りが、私の鼻を擽りながら部屋中に漂ってゆく。

 ゆっくりと温かい紅茶を飲みながら、先ほど浮かんでいたモノを共に飲み込んで、時間を掛けながら、自分の物にしてゆく様に心を落ち着かせてゆく。

 

「まずは、やり直し」


 七枚ものガラス板を駄目にした得た結果は、あのやり方と設計では、今の私では無理だと言う事は既に結論付けられている。

 だから最初からやり直し。

 設計は疎か、やり方まで。

 でも開発と言う物はそう言った物だし、そう思えばそれだけの事でしかない。

 トライ・アンド・エラー。

 それは製造方法の開発だけの事だけではない。

 発想そのものから、挑戦し直す事まで含まれる。

 前世で散々やった事。

 でも前世と違って、使っている金額が金額なので気楽にできる。

 まぁ……、失敗をすればするだけ、ガイルさんが無料(ただ)働きと思うと、逆の意味で気が重くなる。

 ええ、今朝、追加のガラス板をお願いするお手紙を書いたところです。

 うう、……すみません、ガイルさん。

 決して無駄にした訳ではないんです。

 成功のための大きな礎になったんです。


「光の屈折を使ったトレース台は、とりあえずは断念と」


 代わりの技術を使ったトレース台の設計。

 とりあえずは、魔法で再現するから原理だけを設計。

 ガラス板に映る文字や図という名の影を、もう一枚のガラス板に移動させるのは現実的では無いわね。

 影の移動に魔力をかなりに使うし、元の様に綺麗に並べられるかというと、素直に写本したほうが早い。

 ちなみに此処で言う魔力のかなりとか言うのは、普通の人の感覚を想定してる。

 魔導具を使うのは自分ではなく普通の人だから、普通の人が持つ魔力で使う事を前提にしなければ意味がない。


「着目ポイントは【時空】魔法かな」


 正確には【空】魔法と言うべきだろう。

 この【闇】魔法の影を使う前提が【空】魔法。

 しかも影の本体と言うべき物がある【異()間】は文字通り隣り合っている。

 右手と左手というレベルではなく、くっつけた人差し指と中指の間くらいほど遠くて近い空間。

 つまりその薄紙一枚以下と言える隣の空間に繋げる魔力は少ない。

 そして、ほんの少し離れた場所、……つまりもう一枚のガラス板に重ねる様に空間を開けるのも、同じように意外に少ない。

 ええ、空間と空間を繋げると言う空間移動の魔法の応用です。

 かなり感覚的な低いレベルでの話で、物質的な移動でないからこそ、低燃費が成立すると言える。

 そして、その結果として、片方のガラス板に写った影が、もう一枚のガラス板に同じ様に映る魔法の完成。


「後はこれを魔導具にする上での設計だけど」


 この設計そのものは以前の設計の物より簡単と言える。

 前と違って魔法陣を描くのは広い面を使えるので、かなり複雑な物も組み込める。

 問題はトレース側か。

 読み取り側の方は、ガラス板に反射したモノを影として扱う時に、ガラス板の反対側を何かで覆って影が二重にならない様にすれば良いだけ。

 受信側であるトレース台となるガラス板に、下から光を当てれば上に置いた紙には確かに文字や図は透けるけど、反対側にもやろうとすると当然ながらか、既に書かれた物も透けてしまう訳で………。

 

「よし、無視しよう」


 光で紙が痛む? 基本的に新品の紙を使うので問題ないし、光石の光は自然光ほど紙を傷めないからね。

 透かしたい文字以外の物が透ける問題は、心の目で余分なモノを除去してくださいと言うのは冗談として、板をズラして書いてもらうなり、紙を裏表を一枚の紙に書いてから山折りして圧着なり色々手はある。

 そもそも、図を書き写す事の方が主なので用途とすれば問題なし。

 ええ、割り切って拘らずに機能を削除したりするのも時には必要。

 板と板との間を魔力伝達用コードで繋げば、魔力消費を抑えれる上に、必要な魔法陣を減らせられる。

 コード自身は照明家具で使った、取り外しの利くコネクタ式の方が良いかな。

 それ以外にも魔力供給用のコードと金具も必要。

 ガラス板の保護も必要か。

 完成度を高めるのは、まだ後にするとしても。


「よし、これなら私でもできそう」


 手間は増えるけど、作業内容その物は楽だしね。






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あんまり仕組みが理解できんけどすごいことしてるのはわかる
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