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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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6.はじめてのお裁縫と魔法とお姉様。




「……巧いわね」

「そ、そうですか?」

「とても初めてには見えないんだけど」

「え、えーと、見様見真似?

 ほら、お母様やセイジさんとかリリィナさんのを見ていたから」


 教会のミサを終え。屋敷に戻って一息ついてから、約束通りお姉様とキツクなった服の寸法直しを始めたのだけど……、お姉様の疑いの眼差しに押されるようにして、必死に言い訳をする。

 これは絶対に私がこっそり練習していたのだと疑っているのだと思う。

 思うんだけど、それは冤罪ですお姉様。

 ユゥーリィは、今まで一度たりともお裁縫などした事はありません。

 ただ、前世の【相沢ゆう】の時にそれなりに経験があるだけです。

 義務教育で学んだ以外にも、コスプレイヤーだった元カノに服の製作を散々手伝わされた過去の経験があるだけです。

 

「深くは突っ込まないけど、怪我だけには気をつけてね。

 あと仕付け針の取り忘れとか」


 どうやらお姉様の中では既にユゥーリィは有罪確定らしい。

 とんだ冤罪判決です。でも執行猶予付きなのでお姉様に感謝一杯。

 有罪であろうがなんだろうが、これ以上突っ込んでこないというだけで、私には勝利判決も同意なのです。

 口煩い言葉かも知れないけど、それは言葉通り、私が針と鋏を使って怪我をする事を心配しての言葉だと思うから、そう言う意味でもお姉様には感謝です。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 翌日、数日ぶりの魔力訓練。

 軽い熱を出して寝ている間に考えさせられたのが、日中の時間配分。

 今までは、病弱を理由にひたすら好きな事をやらせて貰っていた、……と言っても、遊び歩くほど健康でないのと体力が無いので、暇を持て余していたのが実情だけど。

 とにかく例え医者に…この世界では教会か。

 この際は、それはどうでも良いとして、私が病気で成人できないと言われていようとも、この世界の事を色々学び、自分のできる事を増やして行こう決めた。

 だいたいこのまま、ずーと好きにさせて貰っていたら、人として駄目になる気がする。

 それにこれまでの瞑想による魔力感知で得た経験から、もしかしたら病気の原因が、魔力にあるのかも知れないという希望的観測もある。

 制御できない魔力によって体調を崩し、それが病気の原因になっていたのなら、魔力を制御できるようになれば、病気が治るかも知れない。

 この間、初めて魔力を魔力として感じる事ができ、僅かながら魔力制御っぽい事ができた時、あの不快な感覚が、かなり少なくなっていたように感じた事を鑑みれば、決して突拍子もない考えではないと思う。

 そう言う訳で、この仮説が正しかった場合、生き残るためにも魔力訓練は必須。

 だけど、この間の疲労を考えれば、一日中と言う訳にもいかない。

 ならば魔力制御によって生き残れる道が開けた場合の事を考えて、余った時間をこの世界を生きていくために色々学んだ方が良いと考えた訳です。

 と、言っても中身が三十路のオッサンではあっても、対外的には五歳児。

 そして教育にはお金がかかり、そのお金を出すのは親な訳で、今の私では親を説得するだけの材料はない。

 だけれど幸いな事に、このシンフェリア家には無駄にある歴史と比例してか、蔵書量だけは豊富で、しばらく勉強する材料には困る事はないと思える。

 とにかく、しばらくは朝食後から午前中は読書という名の自習。

 お昼前くらいから実践練習と練習の疲労を隠すための休息し、夕食後は家族の誰かを捉まえて色々なお話を聞く。

 大雑把だけど、とりあえずそう決めた。


「うぷ……、う、うぉぉ……んぐ」


 おおよそ女の子らしさからは遠い苦悶の声を上げ、涙目になりながらも喉のすぐそこまで込み上げて来たそれを無理やり飲み込む。

 この国の大雑把な歴史書に目を通した後、意気込んで魔力制御に取り組んだは良いものの、結果はご覧の通り。

 ほんの僅かな時間挑戦しただけで汗だくの上、一気に疲労しためか胃が脈動して見ての通り椅子の背もたれに手を突いて息を整える羽目になってしまう。

 とても今すぐ自室に戻れる状態ではないので、もう少し落ち着いたら動こうと思う。

 前回の反省もあるので、部屋に戻ったら汗を拭いて着替えてから少し横になろう。

 この感じではきっと顔色も悪くなっているはず。

 これ以上、不要な心配を家族に掛けたくはない。

 ……これは私が私のために頑張っている事なのだから。


「はぁ……はぁ……、まさか此処まで負担が大きいとは」


 魔力を意識して、その流れをある程度落ち着かせるのは数日ぶりで心配だったけど、意外にそこまでは緊張を強いられながらもあっさりできた。

 だからこの間よりも、足を一歩だけ踏み入れた。

 体の中を循環させるような魔力の流れに身を任せるのではなく、その魔力の流れを意識的に手に集中させようとしたのだけど、これがちっとも言う事を聞いてくれない。

 確かに私の意識に反応して魔力の流れに抵抗や変化を感じるのだけど、それ止まり。

 魔力の制御を強く意識すればするだけ、抵抗と言う圧力と魔力の流れに淀みができて、それが私の身体を不快な感覚となって襲う。

 魔力を意識しているだけで、普段以上に気持ち悪くなり体力を奪っていく程に。


「はぁ…はぁ……、でも、収穫がなかった訳ではない」


 魔力制御のあまりもの困難さと、身体への負担に泣き言が入りそうにはなるけど、その事がせめてもの救いであり、希望の欠片でもあった。

 だから自分を奮い立たせるように、あえて言葉を口にしてみた。

 魔力の流れを感じその流れに身を任せる事と、魔力を制御する事は全くの別物と言えるほど難しいと言うのは確か。

 でも、それはきっと慣れていないだけの事。

 先日の魔力を規則的に体内に巡回させて、その流れに身を任せる。

 たったそれだけの事で先日は寝込む程に疲労した。

 でも、今日はそれなりに汗ばんてはいたけど、まだ余裕はハッキリ感じられたからだ。

 だから今は少しだけ休む。

 これからも此れを続けてゆくために。

 ……そう思っていました、一時間程の休息でお昼寝だと。

 なのに夕食のためにお姉様に起こされるまでの数時間、ガッチリと私は寝てしまい、体調が悪いのではと心配される羽目に……。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そんな毎日を積み重ねるうちに気がつけば冬を迎え、私は六歳になったらしい。

 更には冬の間に積もっていた雪も解け、暖かな日差しが時折ラウンジの水晶窓から差し込むようになってきている。

 魔力制御に関してはまだまだ前途多難。

 それでも少しは前進したと思えるほど成果はあったと思う。

 魔力制御の前段階である体内の魔力に身を任せるところまでは、一息にできるようになったし、最初の時のように、それだけで汗だくになるような事もなくなった。

 それに伴ってなのか、例の身体を襲っている不愉快さは減っているため、体調は良くなって来ている気がする。

 ……気がすると言うのは、病気のせいなのか、それとも魔力制御の練習の負担のためか、何度か体調を崩しているのが、その理由。


「ここまで四ヶ月か……、長いのか短いのか」


 体調を崩して寝込んだ数は二十回程。

 どれも風邪を引いた程度で、以前のように高熱で魘され生死を彷徨う程ではなかったものの、その度に魔力制御の練習は中断を余儀なくされ、時間ばかりが無駄に過ぎていく事に苛立ちを覚えたりもした。

 それでも、お母様達曰く『今年の冬はユゥーリィは穏やかだったわね』だそうだ。

 なら素直に成果なのだと喜ぶべきだと思う。


 …ずずずつず…。


 まるで音が聞こえるかのように重く感じるそれを、ゆっくりと右手へと押し上げて行く。

 漫画やゲームのように目視する事はできないけど、身体の中に確かに存在する魔力の流れを幻視するかのように意識する事で、やっと魔力と言う物に意識を乗せる事ができた気がする。

 轆轤(ろくろ)の上で回る粘土を押し上げるように、ゆっくりと魔力を絞り上げる。


「…ふぅー…、ふぅー…」


 乱れそうになる呼吸を必死に抑えながら、右手にある魔力を意識する。

 見た目には何ら、変わらない小さな幼児の手。

 でも確かに感じる魔力の圧力が、今にも外へと吹き出そうとさえ思える程に感じ取れる。

 ここまで出来るようになったのは、半月ほど前。

 だたその時は、何時か以上に全身汗だらけになる程に消耗し、それ以上の余裕は無かった。

 せっかく集まった魔力をすぐに開放しなければ、気絶したかもしれないと思える程の疲弊していたからね。

 やっと形になってきたと事が嬉しくて無理をしすぎた自覚はあるし、それで体調を崩した事も自業自得だと思うけど、家族に心配を掛けた事は申し訳ないと思っている。

 でも、だからってお漏らし疑惑は止めて欲しかった。

 地面にポタポタと垂れるほど全身に汗を掻いたので、下着まで濡れるのは仕方ない。

 ただ、そのいつもより汗の量が多かったとも思うし、座っていた椅子と足元が、垂れた汗で湿っていただけだと言うのに、酷い疑惑だし、その疑惑は例え幼児であろうとも心外だ。

 あの後、数日続いた生暖かい目はマジで止めて欲しかったです、はい。

 ともかく、少なくとも今はそんな事を脳裏の片隅に浮かべるだけの余裕をもっての制御。

 ここまでが目標の第二段階で、第一は魔力を感じる事。

 そしてこの第二は掌に魔力を集める。

 そして第三段階である魔法の発動。

 そのためには魔力を集める事だけで力尽きていたらいけないため、第三段階に行かずにひたすら第二段階に留まって魔力制御を磨いてきた訳。


 魔法。


 前世では空想の世界でしか存在しなかった技術。

 でも今世であるこの世界には、確かに存在する技術。

 その発動条件は、書物の中には書かれていなかった。

 ただ発動させるとしか。

 最初は秘匿技術なのかと考えたが、魔法関連の書物を読み続ける内にそうではないと思えてきた。

 呪文の記載はなく、漫画などではよくある魔法陣は発動条件ではなく、魔導具のための技術。

 少なくとも書物にはそう書かれていた。

 そう、技術として書かれていた。

 魔導具に関して技術として魔法陣がある事が書かれているのに、その前段階の魔法の発動条件に関する技術が何も書かれていないのは、不自然ではないだろうか?

 もし魔法に関して核心的な事が秘匿すべき技術ならば、魔法陣が魔導具のための技術だという知識すら隠すのが当然の考えのはず。

 ただ、魔法が使える者のための技術だと書いておけば済むのにだ。

 なら考えられるのは、書物にして残そうと思っても言葉や文字として残せない。

 あの【魔法初級入門】の本を読んだ最初の感想が『肝心な事が抽象的過ぎる』そう感じたのが、実は正解なのではないのかと。

 前世において魔法は想像の産物。

 今世において魔法は実在する産物。

 だけど……。


「光よっ!」


 意思を表すかのような力強い言葉と共に浮かぶ光の玉。

 掌の上にぷかぷかと揺れながらも、眩しいほど力強く光るのは、野球ボール程の大きさの光の玉。

 そう、今世における魔法もまた想像の産物だったんだ。

 初めて見る魔法の光に、そして魔法を発動させる事の出来た事に、今、私はきっと目を輝かせながら驚嘆の笑みを浮かべているに違いない。

 だって、自分で頬が引きつっているのが分かる。

 胸から感動が暖かい何かとなって込み上げてくるのが分かる。

 魔法を使えたのだと。


「……ユゥーリィ」


 そこへ、いつの間にか帰ってきたミレニアお姉様の擦れた様な声が、私の耳に届く。

 見られたっ! と思うと同時に見て見てっ! と自慢したい思いが同時に私を襲う。

 何方が【相沢ゆう】で何方が【ユゥーリィ】としての言葉なのかは分からない。

 ただ、まだ陽が高い内に帰ってきたお姉様の存在に私は硬直し、眩しいほど光っていた魔法の光が掻き消える。


「…お、お姉様……どうして…」


 思っていた以上に動揺していたのか、声が震えているのが分かる。

 頭の中でまるで誰かの別の人の声に聞こえるほどに。


「ぁーー、とりあえず驚くのは後にする事にして、今日は暖かいから、たまには皆でお庭でお茶にしようってお母様が、だから迎えに来たんだけど。

 それにしてもユゥーリィ、凄いじゃない、その年で魔法だなんて、私ができたのってほんの二年前よ。

 それでも早い方だって言われたのに」

「……ぇっ?」


 何か聞き逃す事のできない言葉に、理性ではなく本能が反応する。

 だってその言葉の意味を理解しようにも頭は真っ白。

 同じ言葉がぐるぐると混乱状態だもの。


「ほら」

 ぼっ。

「……」


 お姉様が十秒ほど目を瞑って指した指先に、小さな音を立ててマッチぐらいの小さな火が灯る光景に言葉を失う。


「もっとも、これくらいしかできないから、さして役に立たないけどね。

 あと、大事な事だから言っておくけど、絶対に火事なんか起こさないようにしなさい。

 そうなってからは、誰もユゥーリィを庇えなくなるからね」


 いとも簡単に魔法を発動させる姉の姿に。

 この後、家族団欒のはずのお茶の席で、お母様とマリアお義姉様以外の全員に、似た光景を見せられたのが原因かは分からないけど、四日程寝込む羽目になった事は此処に記しておく。







2020/03/01 誤字脱字修正

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