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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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59.魔法石と素敵で頑固なお爺さま。





 エリシィーとリズドの街に行った翌日。

 私はいつもの日課の後、魔法の研究を進めていた。

 あの街の魔導具師のお爺さんから得た知識を元に、試したい事があったから。

 それは複数の魔石を使った魔法石の精製方法の話。

 実際、魔法石の能力と言うのは、基本的にその体積に比例する。

 むろん、中には例外があって魔石そのものが小さくても、その数倍以上の大きさの魔石と同等の力を示す物が存在する。

 例えば有名なのが竜種の魔石。

 此の世界でトップクラスの生態系に位置し、その強さは姿を見たならば、死を覚悟するべきと書物に書かれているほど。

 他にも妖精種と呼ばれる希少種の魔石など、いくつかの例外的な魔石が存在している。

 ちなみに、収納の鞄に使われている魔法石も大変貴重な物で、なんらかの理由で死んだ竜種から回収した物らしいけど、その内包する魔力容量は、加工された収納の鞄が魔力切れする事なく、その収納の魔法と状態維持の魔法を維持し続けていた頃から見ても分かる通り。

 しかもそれでも、その竜種は幼体と言えるほど小型の竜種だったと、手記の図面の中に記載されていた。


「本当に、良い事を教えてくれた」


 話が逸れてしまったけど、結局は何が言いたいか言うと、複数の魔石を一つの魔法石に出来るのであれば、その逆である一つの魔法石で小さな魔法石を幾つか作れないかと言う事。

 きっと世の魔導具師さんからしたら、信じられない発想とか言う以前に、愚か者呼ばわりされそうな考えだと思う。

 でも、私はそんな事を言われても気にしないけどね。

 確かに大きな魔法石は、威力の高い魔法を封じ込めたり、膨大な魔力を溜め込んでおけたりと大きな事をやれる。

 でも私がやりたいのは小さな事であり、究極の一ではなく凡百の数々。

 人々を救い、魔物を退け、英雄達を助ける、そんな事は望まないし、私には無理な話でしかない。

 正直に言えばそんな事は、やりたい奴がやれば良いだろうし、私は自分勝手な人間だから、文句がある奴の言葉など気にしない。

 やりたいのは英雄や無双ではなく、ごく当たり前の平凡な日常だからね。


「やり方は、だいたい想像がつくけど」


 複数の魔石を一つにするには、魔石を構成する外殻を構成する物を無くし、更に同じ処理をした他の魔石と重ねて外殻を再構築させる。

 その工程を魔石一個でやってみるだけ。

 取り出したのはペンペン鳥の魔石。

 これ一つでは、火球魔法を模した火炎魔法ぐらいしか封じ込められない。

 予備魔力として、その中に封じられいる魔力を取り出して使うには効率が悪すぎるため、魔導具のための魔力貯蔵用として使うぐらいだろう。


「と言っても、魔法石を作る際の形状変化と手順に加えて、イメージに沿って魔力操作をするだけだけどね」


 アメーバーの細胞分裂とかをイメージしてやれば良いかと、思っていたけど実際の脳裏に浮かんだのはスライムの分裂。

 しかもコミカルなゲーム風の。

 我ながらどうかと思うけど、イメージはしやすいから問題はないか。

 一応はこの世界にもいるらしいけど、間違ってもこんな姿形をしていないのは間違いないだろう。

 問題は何を作るかだけど……、実は決めている。

 ただ、それはたいした物ではないため、求められる魔法石の大きさも、用途としての大きさも必要ないので、この魔石を二つにしても余ってしまう程。


「ふぅ……」


 完成したのは三つの魔法石。

 小さな魔石を半分くらいにした大きさの魔法石が一つに、残りを更に二つに分けた魔法石。

 外殻の再構築のため、本来の魔法石より更に小さくなってはいるけど、確かに思い通りの魔法石が出来上がっている。

 八角形型のエメラルドカットと滴型のブリオレットカットが二つ。

 既に組み込むための魔法の下処理も終わっており、後は魔法を組み込めば終わりだけど終わりじゃないんだよね。

 問題はこの魔法石を固定するための物。

 正直、溜息が出るけど、こればかりは仕方がない。

 女じゃなくて、男は度胸っ!

 当たるだけ当たってみるだけよ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「ああ、構わんぞ」

「え〜と、その頼んでおいてなんだけど良いの?」

「別に一緒に仕事をしたり、商品を開発したりする訳じゃねえ。

 ただの仕事の依頼なら、お館様に文句を言われる筋合いはねえ」


 私が頼ったのはコギットさん。

 家具やちょっとした道具を扱う工房の職人で、一応は私、此処は出禁になってはいるんだけど、挨拶程度に会う分には、見逃してもらっている状態。

 その工房にお仕事、しかも畑違いの内容となるとと躊躇はしていたのだけど。

 それに関しても……。


「確かに本来は、ウチでやるような仕事じゃねえが、やれねえ訳じゃねえ」


 頼んだのは作った魔法石を固定するための台座、と言えば工業的だけど、実質的には装飾品で首飾りが二つと腕輪が一つ。

 意匠図と寸法図と共に断られるのを覚悟で、こうやって持ち込んでみたけど、男前な返事を戴けました。

 コギットさんダンディーです。

 奥様に手作りの指輪やピアスをプレゼントするだけの事はあります。

 しかも、その理由が……。


『あいつに一番似合うと思う奴を、贈りたかっただけだ』


 しかも装飾職人顔負けの一品でしたよ。

 明日には出来上がるって、そう言うコギットさんの言葉に焦るけど……。


「ふん、意匠図が出来ているなら作るだけだ。

 しかも日用向けの物だからな、飲みながら片手間でも出来る」


 うん、相変わらず不器用だけど相手を気遣った言葉。

 急ぎではないけど、私のために急いでやってくれると言う心遣い。

 最後のは多分照れ隠し兼、それぐらいの気持ちでやってくれると言う、私向けの言葉で、本当にそんな事はしないと信じてはいますよ。……たぶん。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そうして、翌日の昼過ぎに顔を出すと。


「流石ですコギットさん。綺麗で可愛いです♪」

「ふん、お嬢さんが身につけるには、負けるだろうがな」

「が〜〜んっ、そんなに似合いませんか!?」

「……そっちを取るか、……そう言えばそう言う奴だったな」


 まさかそんな事を言われるとは思わなかった。

 そりゃあ確かに似合わないかもしれないけど、言われるとまでは……ね。

 確かに片方は彼女のためにデザインしたから、そう言われても仕方がないけど。

 うん、彼女に似合えばそれで良いから、私の物はついでだしね。

 とにかく私としては満足なので、お代を払わないと。

 実際の収入はともかくとして、私自身が此の町で得ている金額は知れている。

 教会が直接受け取ってくれない薬草の販売価格くらいだ。

 中には希少な薬草もあったから、一応それなりの金額は貯まってはいる。


「銅板貨十枚だ」

「……は?」

「銅板貨一枚だ。それ以上はいらねえ」

「いやいやいやっ、おかしいでしょ。そのお金額は。

 だいたい、今、減りましたよね。減らしましたよね」

「ピーチクとうるせえっ!」

「煩くて結構ですから、適正な金額を言ってください」

「それが適正な値段だっていている」

「私、コギットさんの腕がそんな金額だとは思っていませんし、そんなに安く見たくもありません。

 だいたい、そのお値段では材料費にすらならないでしょうが」


 いくらなんでも、そんなお値段では受け取れない。

 コギットさんは私が認める一流の職人ですから、それ相応の対価を支払いたい。

 そう言う私にコギットさんは。


「じゃあお嬢さんは何なんだ」

「え?」

「お嬢さんが、ウチでやった仕事の数々の代価はなんだ」

「……そ、それは」

「どうせお嬢さんの事だから、案を言っただけとか言って、お館様方からも何も受け取ってねえんだろ」

「……」

「その案や、お嬢さんが残していった物が、どれだけの価値があると思っているんだ。

 この先何年、いや何十年、ウチの工房。

 いやウチだけじゃねえ、ダントンの奴や装飾工房や他の工房も仕事が溢れている状態になるのは、ほぼ確実だ。

 どれだけの利益が出るかも、もう想像がつかねえ程だ」


 それを狙っていたのも確か。

 でも私の案を実現し、商品へと漕ぎ付けたのは間違いなく工房の人達の力だし、お父様の商会の人達の販売力があったからこそ。

 私への報酬など、お父様や此の領内の皆んなへのお返しになれば、それだけで十分だし、もともとそのつもりで皆んなを巻き込んだのだから。


「だから俺はお嬢さんからは金は取らねえと決めた。

 だが材料費ぐらいは取らねえと、お嬢さんは物すら受け取らねえと思ってな」

「はぁぁぁぁぁ………。面倒臭い」

「はっ?」

「うん、面倒臭い。

 分かりました、分かりましたから」


 コギットさんが職人魂として、そう決めたのなら説得は無理。

 でも、きっと此処で私が物すら受け取らないと、材料どころかコギットさんの手間暇や心意気すら無駄にしてしまう。

 これを覆そうと思うと、面倒くさい事この上ないし、たぶん本気でコギットさんとの関係も終わってしまう。


「銅板貨二十枚です」

「だからな」

「材料費、此れくらいは掛かっているはずです。

 領内の帳簿の元監査員を舐めないでください」


 使われている銅や銀などの貴金属やその他の材料。

 確かに原材料費そのものは銅板貨十枚くらいかもしれない。

 でもそれは大元の仕入れ用の市場価格。

 しかも工房向けの金額で、その金額も此の町から遠く離れた他領の街で買ってくる値段でしかない。

 実際は其処から運送費や、買い付けに掛かる人件費等が掛かってくる。

 それを鑑みれば、これくらいのお値段になるはず。

 本来はそこに利益などを含めた転売価格になるはずだし、そもそも此れ等は業者向けの価格でしかないため、一般的な売買となれば更に価格はハネ上がる。


「私との関係がコレっきりと言うのならば話は分かります。

 でもコギットさんの一存だけで、これからも工房に損失をさせ続けるのは、それは不正売買です」


 だから、私も最低限譲れないところを狙う。

 一流のコギットさんの職人としての腕とかけた時間を、安く見るどころか無料扱いする事にもの凄く抵抗を覚えるけど、それを此処でこれ以上言ってもコギットさんの職人としての矜持を傷つけるだけ。

 ならば、今回はそれは受けとるしかない。

 職人にとって職人としての誇りと矜恃に泥を塗る事は、それ以上に避けたい事だから。

 でもそれ以上は私も受け取れない。

 コギットさんとの此処での思い出を、良い思い出のままにしていたいし、まだまだ付き合って行きたいとも思っているから。


「……はぁ、分かった分かった俺の負けだ。

 まったくお嬢さんは相変わらず、巧い所をついてくるな」

「生意気ばかり言ってすみません」

「まったくだ。

 これからは、ちゃんと材料費は請求する。

 息子の監査も通してな。

 その代わり必要だと思ったら、遠慮なく仕事を持ってきてくれ。

 お嬢さん個人の頼みの仕事なんぞ、たかが知れているからな」

「コギットさんのそう言うところ男前だと思いますし、甘えさせて戴きます。

 でも、できれば材料費は転売価格でお願いしますね。

 こう見えても、それくらいの蓄えはありますから」

「……まったく、本当に敵わねえぇな」


 ガシガシと綺麗な艶のある頭を掻きながら言うコギットさんは、部屋の片隅に行ったと思うと。


「ついでだ。こいつも持ってけ。

 仕様変更で使わなくなったからな」


 そう言って投げ渡されたのは、白くて太めの糸。……いえ、コード?

 艶やかで光沢のある表面とサラサラとした手触りからして、おそらく絹糸。

 コギットさん曰く、光舞ドレス用に細い魔力伝達用の紐を作ってはみたものの、結局は少し太めの魔法銀(ミスリル)の糸をそのまま飾り糸として使う事になったらしい。

 細いと言ってもコードであるため、ドレスに縫い込んだら生地に硬さが出てしまうため不要となってしまったとの事。

 なにより、これだけ細い絹糸を使っていると、糸を解いて魔法銀を回収するのも手間が掛かり過ぎるため死蔵している状態だとか。

 魔法使いの私なら、何か使い道があるだろうと言う事なんだけど。


「……これ、どれだけの長さあるんですか?」

「ん、まぁ百ほどだ」

「試作品にしては作りすぎです!」

「俺じゃねえよ。

 馬鹿息子が先走りやがっただけだ」

「……魔法銀代だけ払います。

 今は手持ちはないですけど」

「構わねえよ。

 使っている魔法銀の量もしれているしな。

 あと、さっきも言ったがウチじゃあ強度不足で使い道はねえし、装飾工房でも買取を拒否された試作品だ。

 工房をやっていれば、そう言う事もある。

 正真正銘、廃棄処分品だ。

 そんな物に金なんぞ受け取れるか」

「……どっちが敵わないですか。

 まったく、本当にこう言う事はこれで最後にしてくださいよ。

 次に在っても、流石に受け取りませんからね。

 しっかりと言いましたからね」







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