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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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55.魔導具製作は職人への道。でも職人になる才能はないです。





 翌日、いつも通り日課を終えてから、一度、リズドの方まで足を伸ばす。

 別にライラさんに会いに行った訳では無く、ちょっとしたお買い物です。

 まぁ……、会ってはいないとは言いませんけどね。


「次は、いよいよ魔法を組み込む練習かな」


 とにかく気持ちを取り直して、目の前の事に集中する。

 収納の鞄から取り出したのは、手の平に乗るサイズの小さな陶器の瓶。

 ええ、これを買いに行ってきました。

 地元でも売っているような物ではあるけど、五百キロ以上遠く離れた街まで態々買いに行きましたよぉ〜。

 その理由は後回しにするとしてね。

 とにかく魔法石の精製には成功したしその感覚も知る事が出来た。

 だから魔法石の精製の練習も兼ねて、この小さな瓶を魔法石として精製する。

 ええ、何を言っているか分からないと思うでしょうが、この考えは間違っていないはずです。

 必要とする出力やその特性を考えれば、別に魔法石にするのは必ずしも魔石である必要性はないだろうと言う事が、昨日までの魔法石の精製の末に、導いた私の推論で、その用途や必要とする性能からして、魔石が最も相応しいと言うだけに過ぎない。

 極端な話、魔力を殆ど使わない様な物なら、目の前の小さな陶器の瓶でも構わないはず。


 だからそれが何なの?

 そんな物、なんの役にも立たないじゃない。


 それが誰もが魔力を持つこの世界の人達の感覚。

 私には逆に、それが不思議でしょうがない感覚なんだけどね。

 そう思いながら、目の前の陶器の瓶を魔法石と化する魔法を掛ける。

 その後に指先に神経を集中して、形状変化の魔法を駆使して、彫り込むように描くのは小さな魔法陣。

 小瓶の底へ一つ、正面へ一つ。

 これが魔法陣の基礎部分になる。


「問題は此処から、魔力操作を誤らないようにしないと」


 必要なのは、安定した魔力操作と、瞬間的な魔力量の変化。

 求める効果の魔法を魔法陣の中へと焼き付けるには、繊細で安定した魔力操作が必要。

 流れる魔力量と強度を段落を付けるように、リズムを付けて。

 薄い紙の段差のみで絵を描くように、魔力を描く。


「あ……っ」


 ちょっとした指先の震えが、魔力の糸が魔法陣から外れて小瓶に焼き込まれてしまう。

 それだけの事で、既に今までの作業は無駄になってしまうし、この小瓶も再利用は出来ない。

 中途半端に描かれた魔法が、どんな悪影響をもたらすか予想だにつかないからだ。

 魔法陣の焼き込みは、やり直しの利かない一発勝負。

 仕方ないので、その小瓶を脇に置いてある廃棄用の小箱に入れておく。

 むろん魔法で粉々にしておく事を忘れない。

 後で処理用の魔法を掛けてから、廃棄をしておかないといけないからね。

 再び収納の鞄から、ジルドの街で大量に購入してきた同じ小瓶を、予め十個ほど出しておく。

 多分、それくらいは軽く消費してしまうだろうと、今の失敗の感触でそれだけの難度があると理解できてしまった。

 同時に集中力と慣れの問題だとも。


「………これで十三個目か」


 成果は出ている。

 今のもあと少しだったし、出来るようになるまで時間の問題とも言える。

 でも、とても効率が良いとは思えない。

 魔法を発動するギリギリの状態で、魔力の筆で魔法陣と共に魔法を描いて行く。

 出来ない訳ではないけど、慣れるのに時間が掛かる。

 たぶん、明日にも出来る様になっていると思うけど、ただでさえ想像任せな魔法が、魔法陣を描く上で、更に想像力任せな状況を生み出してしまっている。

 これが当たり前に何個も同じ事が出来るようになるには、ある意味職人の技の域なのだろうと思う。

 そして、それは私が苦手な領域。

 只管に同じ作業を武骨に繰り返して修得する。

 それが前世を含め、私が昔から苦手としている事。

 手を変えて、同じ効果のある事を繰り返して行く事は、そう苦にならないんだけどね。


「ん〜〜、何か良い手はないかな〜」


 やっている工程を見直す。

 基本的には最初に描いた魔法陣の中に、魔力でもって更に細かい魔法陣を描いてゆく。

 ただ、それだけなんだけど、そこに魔力の強弱が加わってくる。

 せめてもの救いは、描いたばかりの魔力の魔法陣は、数分程度は目に映るように魔力を感じれ、魔導具師の才のある者ならば残光のように見えるらしい。

 魔導具師の才能がある魔法使いは、自分の魔法を魔導具にする事を意識する事で魔法陣のように捉える事が可能となる。

 だからこの捉えれた魔法陣は私オリジナルで、他の魔導具師には使えない。

 あくまで自分の想像した魔法を、図として捉えた形でしかないのだから。

 それが魔法陣が図として残らない理由でもある訳だけど、魔法に関する思考や理論体系が似ていれば、参考には出来るみたいだけどね。

 

「……描いてみるか」


 自分しか使えない魔法陣。

 それを残す事にさして意味はないかもしれない。

 でも、自分の考えを纏め、イメージを固定するには役に立つ作業のはず。

 そうして図に起こした事で、ある事に気が付けた。


「やっぱり、お絵描きも馬鹿には出来ないわね」 


 幾何学模様の様な魔法陣。

 練習として描いた模様に添うように指先を当てていて、ある事に気付き指先きの動き止まる。

 新商品などの意匠図を起こす時に使っていた筆入れを取り出して下書きをし、描いた図に色を落として行く。

 自作の色鉛筆を用いて使った色は八色、色を塗らない白を入れれば九色ではあるけど、魔力を流さない部分を除けば光石と同じ八色。

 この色の違いは、流す魔力の強弱の違い。

 そして今描いたばかりの図では、魔力を流さない部分を白で、一番多い部分を黒にしているけど。

 他の色も強弱に、光石と同じにしてやれば、もっと分かりやすいはず。


「出来上がった図を小瓶に当てれば」


 その状態で十四個目に挑戦。

 影響を受けるのは、魔法石と化した小瓶のみ。

 小瓶に重ねた紙は、魔力を素通りするだけで何ら影響はない。

 あとは、その図と色に合わせて魔力操作をしながら、真の魔法陣を描いてゆくだけ。

 そう、やっている事は魔力の筆を使ったお絵描き。

 しかも下絵が描かれた物に色をのせるだけの簡単な物で、それくらいの事ならば細かな魔力の制御をしながらでも、魔法陣の焼き付けに集中してやすい。

 魔法を想像するだけでいい。

 今まで焼き付けと同時にしていた魔法陣化以外に、その魔方陣を維持し続ける作業をする必要はないのは大きい。

 此処まで簡易化出来るのであれば、こうなると、後は唯の作業でしかない。


「完成~♪」


 さっきまでの苦労は何だったのだろうかと思うくらい、魔法陣に魔法を焼き付ける作業は、そう思えるぐらい楽な作業と化した。

 金属の塊から、炉を相手に叩いて削ってと鍛造を行い、同じ物を作る技術は無くても、鋳物のように金属を溶かし、流し込む型枠さえあれば、ある程度の技術さえあれば簡単に同じ物が出来上がる。

 それと同じような事だ。

 小瓶の形をした魔導具に焼き込んだ魔法陣は、状態維持の魔導具の簡易版。

 状態維持に関しては、収納の魔法が最高峰ではあるけど、あれは世に出すには色々と問題がありすぎるし、そもそも普通の人では収納時に魔力もそれなりに消費するので、一般向けとは言えない。

 そして状態維持の魔法の消費魔力は、単純に体積に比例する。

 リズドの街で見せてもらったような状態維持を掛けた兵糧保管用の魔導具は、人が余裕では入れるような大きな木箱。

 そりゃあ魔法石が必要となるくらいの魔力が必要になるだろうし、逆に言うとそれくらい大きな箱でなければ、兵糧を運ぶのには足りないのだろう。

 でも、そんな物は私にとって過剰能力でしかない。

 いわばオーバースペックの商品で、コスパが悪すぎる。


「出来る物で、欲しい物を作るのが一番」


 だから私が手の中にある小瓶に求めるのは、防腐用の状態維持と魔力吸収の魔法。

 前者もそうだけど、後者は本来の魔法の能力に対して、魔法陣が刻まれる物の材質の問題もあって、本当に微弱な量の効果でしかない。

 実はこれ、アルベルトさんが隠していた例の理論から私なりに再現した物で、まだまだ研究中の代物だけど、数秒程触れれば一握りサイズの光石を数分間光らせれる程度の量を、魔法石と化した小瓶にその魔力を溜め込む事が出来る。

 材質的にもそれが限界で、吸引力も弱く溜め込めると言っても、その程度の微量の魔力では種火の魔法すらも発動する事はできない。

 その上溜め込んだ魔力を保持する力も弱く、時間と共に微量に魔力を失っていく。

 だけど私的には、それらの欠点が逆に都合が良かったりする。

 必要以上に溜め込まずに、溢れそうな魔力は漏れていってしまう。

 これは、別の視点で考えれば安全装置となる。

 それに少ないと言っても、既に出来上がっている魔法を維持するには十分な量でもある。

 初期の状態維持としては半月程、使用する度に吸った魔力で三日ほど更に維持できる量。

 毎日使うような物なら二ヵ月近く中身が保つはず。

 状態維持と言っても腐敗を遅らせれる程度なので、それが限界。

 でもそれで十分でもある。

 あと素材が素材なので、魔法陣そのものが、それくらいしか保たないだろうから、それも都合が良い。

 まぁ、なんにしろ、何度も試用してみる必要はあるけどね。


「まずは自分用で」


 とりあえず小瓶に入れるのは、化粧水などの化粧品。

 基本的にこの世界の化粧水などの水系の物は、保存が効かないので一定期間毎に作るのが当たり前になっている。

 一応、瓶口に工夫したり、天然の防腐剤を使用しているけど、その効果は前世の物と比べるまでもなく短い。

 私の場合、収納の鞄があるので楽はしているけど、それでも一々出し入れするのは面倒であるし、保存するための瓶も私には大きい。

 特にアルビノである私の場合、日焼け止めは必須で、これを塗っておかないと肌が直ぐに赤くなってしまうし、日差しの強い時期などは薄らと火傷してしまう事も。

 今は外に出る時は、薄っすらと結界を身体を覆うように張っているおかげで、以前のように気を付ける必要はなくなったけど、日焼け止めをするのとしないのとでは違う訳で。

 結論を言えば、少しでも楽をしたい。

 ドレッサーの前に置いておけば、朝の一連の流れ作業で済むし、二か月近く保つならば、両手を上げて喜べる性能だと思う。


「やっぱり身近な物が一番、制作意欲が沸くよね」


 上手くいったら、きちんとした素材で作った物をエリシィーに用意してあげよう。

 うん、望まれたのじゃなくて、私がしてあげたいからだけどね。






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