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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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54.魔法石製作で大失敗。えっ、破産ですか!?





 自業自得の読み違えの結果とは言え、色々と憂鬱になる毎日を過ごしてはいるけど、時間は無情にも過ぎてゆく訳で。

 そんな中、私が何もしていないかと言えば、そんな事は当然ながらある訳が無い。

 ええ、別に現実逃避にライラさんの所に足繫く通っていたり、エリシィーに癒されてばかりいる駄目人間ではないですので、あしからず。

 例えば目の前の成果がその証の一つ。


「ふぅ……今度こそ出来たかな」


 目の前にあるのは、三センチ程の深紅の石。

 六角形型のステップカット状の石は、光を受けて美しい輝きを放つも宝石の類では無い。


 魔法石。


 魔物の心臓近くにある魔石と呼ばれる結石を材料に、魔導具師の手によって加工されて生み出されるとされるそれは、私の手によって精製を終えたばかり。

 アルベルトさんの指導書に導かれて研究していたけど、三つ目でなんとか成功したと言えるぐらいには形になった。

 ええ、相変わらず挑戦的な内容でした。


『魔法石の作成は魔導具の核になる基本的な作業だけど、

 いくつも基本的な技を覚えないと、上手くできないんだよね。

 それで、こんな本を読んでいる君は大丈夫かな? 挫折しないか心配だよ』


 とかね、ええ、もう本の中で喧嘩を売られてます。

 そして、その売られた喧嘩を買う私も私なんだけどね。

 しかも、こうして完成したから分かるものの。

 あそこまでの技術いらねーやんっ!

 と言う怒りの感情と共に、ああ、なるほどなと、素直に感心する想いも浮かぶ。

 魔法石を作るだけ(・・・・)なら、不要と言える技術の数々。

 その基礎技術に挑戦し、納得できるレベルになるまで覚えるのに夏を費やしてしまった。


 でも、習得した技術を持っているか持っていないかとでは、大違いだろうと言うのも理解できてしまう。

 例えば、魔法石の形状変化。これも、魔法石を作る上では関係ない技術ではある。

 ただ、見た目と言う以上に何かに固定したりする上で、あった方が作業がやりやすいと言うだけの事。

 他にも、魔法石の中に魔法陣を仕込むための下処理や、魔法を封入するための前処理として覚えた技術の幾つかも、魔法石を作る上では関係ない技術で、その技術を習得していなくても作れる物だったりする。

 そんな感じで、他にも後々を考えれば必要な加工処理ではあるけど、同時にやる必要性が必ずしもあると言う訳ではなく、魔法石を作ってからでも可能な事だとかがあったりした。

 わざわざ一度にやらなくても、一つ一つの処理を丁寧にやった方が集中できると言う考えもあるし、逆に最初から出来るのであれば、そうした方が手っ取り早いし、無駄な処理をしなくても良いと言う考えもある。

 だけど、こうして完成品に魔力を通してみると、決定的な違いを感じるんですよね。


「大変だけど、魔力効率が違い過ぎるか」


 一度に同時に処理する。

 それだけで専用設計品と汎用設計品との差程に、魔法石内の魔力の流れに差が生まれてしまう。

 そう言って、目を向けた箱の中にあるのは以前に失敗した魔法石。

 一つは、輝きを失い半分灰と化した石塊。

 そして、もう一つは輝きのある丸い魔法石。

 ただし、前者はともかく後者は安定し終えてしまい、加工が出来なくなってしまったもの。

 魔法石はある処理をしておかないと、時間を置くと安定しすぎてしまい、次の加工が出来なくなってしまうらしい。

 ええ、その事は書いてありませんでした。

 加工手順の一つとして、説明もなくその方法は書いてあったけど、魔法石の精製がそこまで時間との勝負だとは書いていなかったです。


『此処で一度、時間をおいてからやると良い事があるよ。

 面白い事が判るから』


 としかね。

 魔法石そのものが出来た事に安心と言うか満足して、アルベルトさんの言葉を信じて続きは明日~~♪ なんてやっていたら、そうなっていました。

 おかげで今回は面倒でも、それら迄を含めて全て同時処理した事で、色々と見えてきたのだけど。

 これを『良い事』とは言わないと思う。

 そして『面白い』のは私ではなく、著者のアルベルトさんだけです。

 だいたい今回使った魔石は、自分で捕ったペンペン鳥の魔石だから無料(ただ)みたいな物だから良いけど。

 この大きさの魔石を真面にお店で買うと、最低でも一個で銀貨五枚(ごまん)もするらしく、完成品を含めてこれまでに三個使用しているので銀貨十五枚分。

 前世換算で十五万円ですよ。

 当然、失敗が多ければ、その分だけ余計にお金が掛かる訳で、十一歳の身には決して安くない出費に『良い事』で済ませてもらいたくはないです。

 アルベルトさん、絶対に魔導具師らしく屈折していると思いますよ。


「でも、此れだけ見ると一見宝石には見えるか」


 素直に綺麗だと思う。

 不純物が無くて綺麗すぎて硝子製に見えてしまう、と言う欠点があるけど、硝子だろうが魔石であろうが綺麗な物は綺麗なので、私は少しも気にしない。

 正直な話、私にとっては、宝石だろうが、硝子だろうが、魔法石だろうが、綺麗な物は綺麗、それだけの事。

 後は用途別に使い分ければ、それで良いじゃないかと言うのが本音。

 ちなみに、収納の鞄に使われているのもそうだけど、基本的にこの世界の魔法石は半球のカボションカットか真球か、原石である魔石のようなゴツゴツした石の形状の物が殆どらしい。

 その辺りの事は、ジルドの街にある魔導具のお店の一つで見せてもらいました。

 基本的に一言さんお断りで、お店に入るだけで銀貨一枚を要求するような、お高いお店ですけどね。

 お店への紹介者は、いつもお世話になっているお肉屋さん。

 ペンペン鳥の魔石の件で自分用にと言う私に、店主に私が魔法使いだと知られ、どうせペンペン鳥の皮と羽を納める用事があるからと紹介してくれた。

 貴重なペンペン鳥を卸してくれたお礼だと言ってね。

 魔導具店の店主であり、魔導具師でもあるお爺さんは、偏屈爺と言う言葉が似合う方で、ジロジロと見られながらも、幾つかを品を見せながら説明してもらえた。

 はっきり言って自慢であり、幾ら足掻こうと貴様の様な小娘に真似できる様な物じゃねえと言う態度ありありでだったけど。

 ええ、感謝です。

 その程度で見せて戴けるのなら、幾らでも軽んじてください。

 貴重な魔導具を見せて頂き、尚且つその性能や特徴を説明して戴けるんです。

 自慢だろうが侮られようが安いもので、どんと来いです。

 こっちは銀貨一枚分の元を、少しでも取り戻したいですからね。


「私はあんな性能は求めてないし、使い捨ての予定ではないから、見た目が良いのに越した事はないか」


 ちなみに見せてもらった魔導具の殆どが、予想通り兵器になるような物で、火炎の魔法や、結界の魔法が封じ込まれた物などの使い捨ての魔導具や、武具に一時的に能力負荷したりするもの。

 おまけに魔法使いの魔法の威力に対して、魔導具の放つ威力は大きく下回るため、あくまで魔法使いの代替品的な存在。

 だけど魔導具が高いと言っても、魔法使いは数が少ないため確保出来ない事が多い。

 なので威力は低いが保管が効いて、使い勝手が良い魔法使いの代替品。

 この世界の魔導具はだいたいは、そんな立ち位置らしい。


 お店の中で唯一興味を引いたのが、状態維持の魔法が掛かった魔導具で、基本的に兵糧を運ぶための箱なんだけど、一般的には使われていないのだとか。

 なんでも余程の高級食材でもない限り、値段に合わないそうだ。

 その辺りは魔導具関連の書物から感じた通りと言うか、神父様やお父様達の話し通りと言うべきか、それらの事を確認できただけでも、銀貨一枚分の価値はあったと思う。

 だから、それだけにアルベルトさんの『魔法を大衆に!』と言う考えが、如何に異端な考えなのかと言う一端が伺えれたし、アルベルトさんが開発した(・・・・)収納の鞄が規格外の魔導具だと言う事も。

 ええ、つい先日、出てきましたよ。

 収納の鞄の詳細な設計構想と理論がね。

 しっかりと縫い込まれた手記の表装の内側から発見。

 そして一定の数を作った後に、姿を消した理由もね。

 身の危険を感じるようになったらしい。

 魔法使いの価値を貶める存在として、魔導士ギルドから目を付けられた事によって。

 三男坊であった自分が、貴族の当主へと望まれる声が大きくなった事によって。

 だから家を出て、放浪の旅に出る事にしたと、愚痴交じりに書かれていた。

 ある意味、自分と同じだったのだと感じた。

 そして同時に、まだ自分は恵まれている方なのだとも。







【こ の 世 界 の 貨 幣 価 値 換 算 表】

 銅 貨 一枚            百円

 銅板貨 一枚(銅 貨 十枚分)   千円

 銀 貨 一枚(銅板貨 十枚分)  一万円

 銀板貨 一枚(銀 貨 十枚分)  十万円

 金 貨 一枚(銀板貨 十枚分)  百万円

 金板貨 一枚(金 貨 十枚分) 一千万円

 白金貨 一枚(金板貨 十枚分) 一 億 円

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