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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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49.狐と狸の化かしあい。むろん私は狸ではないですよ。




 外出禁止、一ヵ月。


 お父様からそう言い渡された。

 これぐらいの事は覚悟していたので、別に不満はない。

 それくらいお父様を悩ませ、追い込んだのだから当然の処置。

 むしろ自分の事ながら、敷地からの(・・・・・)外出禁止は甘いとさえ思う。

 どう考えても軍事用品の開発など、我が家の許容を超えた商品であり、それを黙ったまま試作品まで持ってゆき、その結果が夜の町の上空を突き抜け、遥か先の山へと光の柱を突き刺した。

 そんな光景が噂にならないはずがなく、翌日からしばらくは、お父様もお母様も、そして商会の人達もその対応で、大わらわだったみたい。

 我が家に遊びに来てくれたエリシィーが、そう教えてくれた。

 うん、こう言う事を許しているお父様は、私に甘いと思ってしまうけど、嬉しくも思ってしまう。

 そして、その一ヵ月を半ばを過ぎた今朝、シンフェリア家当主宛に、早急なお呼び出しがかかった。

 呼出は王都からで、我が家の貴族後見人であるフェルガルド伯爵経由でもってね。

 此処まで王都の動きが早かったのは、間違いなくあの腹黒神父の仕業だろう。

 教会に勤める神父はとしては当然の報告だろうから、それをどうこうは思わない。

 何故なら教会と言うのは、国の情報機関の一つの側面も持つから。

 この世界の教会も、その辺りは前世の昔の教会と変わらなかったと言うだけの話し。

 もちろん、最初からこうなる事を狙ってました。

 お父様を煽ったのも、その覚悟を決めさせる時間的余裕を与えるため。


「我ながら、本当に酷い娘だと思う」

「別に酷くはないんじゃない。やりすぎただけで」


 今日も(・・・)来てくれているエリシィーの言葉に苦笑が浮かぶ。

 彼女からすれば、今回の件は私がシンフェリア領のために商品開発をして、偶々やりすぎてしまった出来事。

 言わば不注意による過失事故扱い。

 だけど実際は、バリバリの確信犯。

 残念ながら、これで反省の欠片もない程、私は悪人にはなりきれない。

 でも敢えてそれを彼女に言う意味もないし、余計な心配をかけても仕方がない事。

 だから今日も適当に話を合わせながら本を読んだりして過ごし、帰り際に一つだけお願いする。

 神父様に懺悔をしたいと。色々懺悔をブチ撒けて楽になりたいと。

 その言葉に彼女は訝るも、教会側の人間である彼女は、その願いを断る事はしない。

 たた、ユゥーリィってそんな性格だっけ? と失礼な事を言いながら。

 ええ、その通り、そんな殊勝な心の持ち主じゃないですよ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「そう言う訳で神父様、色々とブチ撒けたいのですが」

「これはまた、いきなりですね」

「いきなりですか?

 ああも数日毎に彼女を使いに出しておいて、今更に言う台詞ではないと思いますが」


 むろん、こう言う意味でブチ撒けたいに決まっている。

 エリシィーが来てくれる事そのものは嬉しいけど、私としてはあまり彼女を巻き込みたくないし、こう言う使われ方をして欲しくない。

 エリシィーに告げた翌日に早速来てくれた神父様に、こう言う事をいきなり言うのもなんだとは思うけどね。


「彼女自身の望みではあります。

 私めはその力になっただけのこと」

「私もその事そのものを否定する気はないですし、嬉しく感じてもいます。

 ですがそれが全てではないと言う事も分かっています。

 せいぜい半分ぐらい、と言う所ですよね」

「そんな所ですな。

 ふむ、やはりユゥーリィ様は素晴らしい」


 またそれですか。

 いい加減その言い回しは頭にくる。

 いちいち試されている様で面白くない。


「さて、あまり腹の探りあいをしていると、本気でユゥーリィ様に嫌われてしまいそうですな」


 全くである。

 試されて喜ぶほど、屈折してはいないつもりだ。


「では聞きますが、何処まで予定されての事で?」

「仰られている意味が分かりません。

 せめて具体的に言って戴かないと、答えようがありません」

「ではこう変えましょう。

 我々教会を利用して、何処までさせて、何処までお望みになられるつもりかと」


 そう来たか。

 でもその質問には答えるつもりはない。

 そんな見え見えの罠の答えに応える事そのものが罠だから。

 だいたい教会は代価を既に受け取っているも同然。

 そしてこの神父様もそれは同様。

 そしてその事実こそが、私にとって教会を利用出来ている事になるのだから。


「ふむ、ユゥーリィ様はよく深い羊ですな。

 あまり欲を掻く事は、破滅の道を歩む事になりますぞ」

「ぷっ」


 神父の言葉に、つい吹き出してしまう。まさかそんな勘違いをして動いていたのかと。

 もしこれを狙ってやっているとしたら、この時点で私の負けなのだけど。


「それは誤解です神父様。

 私のような小娘が望んでいるのは、そんな大それた事ではありません」

「ふむ私の先走りでしたか」

「ええ、誰しも神父様のように欲を掻く訳ではありません」

「耳が痛いですな」


 元とはいえ、王都にある教会の本殿で司祭をやっていた様な経歴を持つ神父様が、こう言ったらお父様達に申し訳ないけど、こんな片田舎で神父をやっている訳がない。

 答えは簡単、おそらく派閥争いに負けたために、辺境に飛ばされただけの事。

 欲を掻き、身に合わない地位か金か権力を求めたため。

 結局、教会と言えど人の欲で動く組織には違いない訳で、そう言った権力争いとは無縁ではいられはしない。

 そう言う意味では、シンフェリア家はその利用価値を教会に示している。

 僅かではあっても、長く甘い蜜を吸える価値をね。


「私からも、よろしいでしょうか」

「私で答えれる事であれば」

「本当は何を知りに来られたのですか?」


 くだらない腹の探り合いはもういいでしょう、と私はそう告げる。

 何処まで利用するもしないもない。そんな物は最初からある共存関係でしかない。

 互いに重みになれば、利用価値はなくなる関係。

 それだけの事で深く考える必要など、今は何処にもないのだ。

 少なくとも私にとってはね。


「もう少し続けさせて戴くと、私めの役目上は助かるのですが」

「それこそ欲の掻き過ぎではありませんか?」

「手痛いですな」

「そう言う事は私の様な子供ではなく、大人の方を相手にやってください」

「いえいえ、私めはユゥーリィ様を子供と思った事はありませぬ。

 あの時よりね」


 この狸爺いめ。


「今度こそ腹の探り合いは止めますとして。

 今回の一件で、どの様な結果になると考えられているのかと思いまして。

 当然、そこまで見て動かれたのでしょうからね」

「……買いかぶりですよ。

 ただお父様なら今回の一件に関しては、何もなかったとして動くでしょうね」

「……なるほど。

 確かにそれは欲がない。

 確かに私めの早計に違い無いですな」

「でも、それが一番現実的で、誰も損をしない方法です」

「損をしないですか」

「ええ、少なくとも私は損だと思っていません」


 おそらくは、お父様の必死な説明によって、投光器と光水晶の製法の没収と製造の禁止。

 そんな所だろうと私は踏んでいる。

 光石を使った他製品は、危険性がないと言うのもあるけど、既に情報の早い人達に知れ渡ってしまっている上、それを求める貴族関係者が多過ぎる事になるはず。

 特に色々と教会を通して行っているため、教会にとって、今、シンフェリアを手放すには惜しいし、潰れてもらっても困る存在。

 王都の連中からすれば、その教会に損をさせるための交渉材料も旨みもない。

 それよりも無かった事にして、得た知識と技術でもって自分達の都合の良い者達に作らせ、その事で恩を売った方が旨味がある上に、何処からも文句や妬みが出ない。

 しかも身内からなので、安価に早く手に入れられる。

 それなら逆らう意思も力もない男爵家の一つぐらい、放置する事を選ぶだろう。

 投光器と光水晶の開発には、他の製品に比べれば、お金が掛っていないと言って良いほどなので、軍備として広める事が目的の私にとっては、取り上げられても損はない。

 逆にお金と労力を掛けずに、国に丸投げする事が出来たとさえ言える。


「どうやらその様ですな。

 ユゥーリィ様、一つ訂正させて戴きます。

 貴女様は素晴らしくはありませんな」

「ええ、ただの子供ですから」

「いえ、貴女様は恐ろしい方です。

 ただ、その気になる御気性で無い事が、我等にとっての幸いなのでしょう」

「酷い評価ですね」

「いえいえ、最大の賛辞だと自負しております」


 まったく、本当に酷くて不本意な評価だ。

 少なくとも十一歳の女の子にする評価ではないだろう。


「神父様、これからもシンフェリア家と教会が良い関係である事を祈ります」

「ええ、良き関係である事を、私めも神に祈りましょう」




 これで教会はそう動いてくれるはず。






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