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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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48.生み出す虹色の光でもって、お父様を叩き伏せます。





「……えーと」

「言えっ!

 言いたい事があるなら言え!」


 あまりにも忙しいそうな工房の様子に、流石にいつもの調子で言いだすのに躊躇いを覚えていたのですが、やはり目障りだったのだろうか、怒鳴られてしまいました。

 つい一月程前に行った、新商品であるシャンデリアの試作品の点灯式。

 あの騒がしい夜を境目にダントンさんの工房だけでなく、コギットさんの工房も活気が溢れており、言い換えれば忙しすぎて、何かを言い出すような雰囲気ではない。

 まだ商品として出荷するのは先ではあるのだけど、それに付随する開発や初期製造が既に始まっていますからね。

 ちなみにお父様の商会が抱える他の工房も、ただいま絶賛フル操業中。

 ただでさえシンフェリア領は兼業職人が多く、冬以外は職人の数が少ないと言うのに、注文だけは引っ切り無しに増えている。

 今後の事も考え、職人を教会経由で増やしてしてはいるものの、まだまだ追いつかない状態。


「いえ、また来ます。

 流石に今は、新商品の開発の余裕はなさそうなので」


 ええ、これ以上邪魔をしては申し訳ない。

 これは別に急ぐ訳でもないので、今日、明日でなくても問題はない。

 状況は揃いつつはあるけど、時期的にはもう少し余裕はあるはずと考え、直ぐさま回れ右をして屋敷に帰ろうとしたのですが。


 がしっ!


 後ろから大きくてゴツゴツした手で肩を掴まれる感触に、ついこの間も同じような事があった気がすると、頭の片隅で思ってしまう。


「入れっ」

「……えーと、忙しいのでは?」

「いいから入れっ」


 入れと言いながらも、ズルズルと人の身体を勝手に部屋の中へと引き摺り入れらている気がするのですが……、これって、ある意味事案では?

 そう一瞬思ってしまうけど、なぜか誰も味方してくれません。

 部屋の奥で作業しているほかの職人さんも、此方に一瞬目を向けてくれたものの、直ぐに自分の作業に戻ってしまわれる。

 もし私が誰かに(さら)われても、きっと私は誰にも助けられず、そして覚えられもせず攫われてしまうのかもしれない。

 うん、やはり自分を守るには、自衛する手段を身につける事だと思う。

 そう思い至った所で、私の身体は部屋の中の何時もの椅子に座らせられる。

 どうやら私に自由意思はないようです。


「お仕事を放っておいていいんですか?」

「こっちが優先だ」

「でも」

「ただ図面を書いてただけだ、急ぎじゃねえ。

 いいからいつも通り遠慮なく、人を巻き込みやがれってんだ」


 なんか、そう言われると私が横暴な人間のように聞こえてしまうけど、そこまで言うなら遠慮するだけ無駄と言うもの。


「と言う訳で、新商品を開発しましょう」

「それでいい。

 俺はもう覚悟を決めたからな、本当に遠慮などいらん」

「……えーと私って、コギットさんの中ではどう扱われているんでしょうか?」

「気にするな」


 気にするなと言われても気になるのですが、言っていても仕方がないですね。


「明るい照明を作りましょう」

「……この間、作ったじゃねえか」

「いえいえ、照明の意味が違います。

 外を明るく照らす、まぁランプのお化けみたいなものです」


 そう言ってから、私は机に図面を広げる。


「随分とシンプルだな」

「ええ、構造そのものは簡単です」

「この程度なら、硝子でいいなら明日にも届けさせれるぞ」

「別にそこまで急がなくても。

 ガイルさんも商品開発に忙しいでしょうし」

「あそこはお嬢さんの仕事が最優先だ。

 断る権利は彼奴にはねえ」

「……あの、どうしてそんな事に?

 私、無理を言う気はないですよ」

「お嬢さんが気にする必要はないな。

 とにかく此処に書いてある程度の物なら、明日にでも揃えれるが、どうする?」

「いけると言うならお願いしますが、本当に無理をしてませんよね?」

「こんな板を組み合わせただけの物、半日も掛からん」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 翌日、夕刻前に工房に顔を出すと、本当に揃っていた事に驚く。

 コギットさんの担当の物はともかく、ガイルさんやダントンさんの工房の部分は、それなりに複雑な形状の上、鏡化加工の処理もお願いしているので大変なはずなのに。


「なにか不備があったら言ってくれ、直ぐに作り直させる」


 机の上で何か図面を書いているダントンさんが、そう言ってきます。

 きっと、運んだのはダントンさんなのだと思うけど。


「ぱっと見は問題はないようですよ」


 既にコギットさんの手によって、ある程度組み立てられているので、寸法などの問題はなさそう。

 コギットさんはもう使用用途が想像が付いた様で、魔力伝達用の紐を繋げた輝結晶を内部に設置し、照らしながらも位置合わせをしていますが、それ全体の姿は。


 投光器。


 ええ、外を明るく照らすアレです。

 裾広がり状の物ではなく、やや筒状にして光が広がり過ぎない様にしてありますが、機能そのもの的にそう言っても間違いない物です。

 でも、輝結晶では幾ら明るくても、広めの庭園を照らす程度。

 舞踏会の夜に庭を照らすには便利だろうが、それくらいだ。

 たぶんコギットさん達もそう思っているはず。


「実際の点灯は、また陽が落ちきってから行ないます。

 ですので・」

「最後まで付き合うぞ」


 私が何かを言いきる前に、ダントンさんが居残り宣言をしてしまいます。

 忙しそうなので気を使おうとしたのですが、……そこまで仰られるのなら付き合ってもらいましょう。

 お父様もその頃なら此方に顔を出せると言ってましたし、ある意味予定通りです。

 やがて陽が落ちきった頃。


「なかなか明るいじゃねえか」

「此れなら坑道でも使えそうだな」

「庭園とかには、外観を何とかすれば良いだろう」

 

 早速、輝結晶が照らす明るさに、お父様達は感想や使い道を探っていきます。

 でもこの程度の事なら、放っておいても誰かが作ってくれたであろう商品。

 一応は、これも目的の一つではあるけど、本当の目的はこれではない。

 なので一度明りを落としてから、その場で解体。

 予め用意しておいた石に取り替えるところで、後の作業はコギットさんに交代。

 ええ、お手洗いですので、お気になされずに。

 そう言って席を離れた際に、ある物を作業部屋の机に置いておく事は忘れない。

 別に極く普通の帳面で、只の書き溜めておいたアイデア帳です。

 きっと、今後において参考にしてくれると思います。


「おまたせしました」


 その言葉と共に、私の魔力を受けて新たな石を得て再度灯された光りは、何処までも真っ直ぐと闇夜を切り裂いてゆく。

 輝浮砂を圧縮成型した輝石では明るさが足らず。

 融解成型した輝結晶では、それなりに明るいものの、分散した光は辺りを照らす留まり。

 でも、この融解圧縮成型した光水晶は、まさに光の奔流そのもの。

 どこまでも眩しすぎる純粋な輝きは、その照射方向に光の柱を打ち建てる。

 光の柱と闇夜の境界を虹色に輝く光線が漂い、その様は光の柱を光の水晶へと昇華させていた。

 レンズも無しに、数キロ離れた山肌を明るく照らす程の光量と収束性は、貴族を含めた一般家庭用品の枠に収まるものではない。


「夜間の国境や、お城の警備の助けになるでしょう。

 使い方次第では夜間戦闘も有利に進められます。

 光量を落とした物ならば、お城などの建物の壁に照らし闇夜に建物を浮かび上がらせ幻想的な光景を。

 小型な物なら馬車や船の灯となり、旅の安全に寄与するでしょう」


 もともと投光器の案そのものは、三種類の輝石を作った時からあった。

 でも普通の投光器ならば、輝結晶の灯だけで十分にいけるため、このサイズの光結晶では能力過剰と判断し封印していたのだけど、お姉様からのお手紙を読んで私はその考えを改めた。

 ミレニアお姉様が嫁ぎ先であるグットウィル家は、昔から武官を多く輩出する武系の家。

 そこの長子であり、お姉様の旦那様にあたるグラードお義兄様も、また王国に仕える武官の一人。

 シンフォニア王国は、ここ数百年戦争らしい戦争はないものの、小さな紛争はそれなりに起きており、グラードお義兄様が所属する北方領域辺境師団もまた、時折小競り合いが起きている。

 なにより魔物の領域が近くにあり、どちらかと言うと国境よりそちらに対して睨みに重点を置いた辺境師団だとのこと。

 そして一番、戦死者や重傷者を生むのが魔物との戦闘であり、とりわけ夜間における戦闘が最も多い。

 本来は避けるべき夜間戦闘ではあるけど、夜行性の魔物や夜襲を掛けてくる相手に、そのような選り好みをできる訳もなく、毎年それ相応の被害者が出ているらしい。


 お姉様としては、ただの不安を手紙にしただけ。

 自分の夫は大丈夫だと信じてね。

 でも、お父様も神父様も、似たような事をおっしゃっていた。

 正直、見も知らない誰かの事なんてどうでも良い。

 私はそれを救いたいと言えるほど、聖人君子ではない。

 でも、せっかくそれなりに幸せだと言っているお姉様を、早々に未亡人にはしたくないとは言える。

 かと言って私が出来る事など知れている。

 たとえ、本来の魔法使いの力を明かしたとしても、個人の持つ力など知れているし、そもそも私は子供でしかない。

 出来る事は、こう言った魔導具で戦う環境を少しでも良くする事で、そういった悲しい未来の可能性を回避出来ないかと祈るのみ。


「お父様、これを国に売り込めますか?

 お父様に出来なくても、フェルガルド伯爵様を通してなら可能性はあると思います」


 私は真っ直ぐとお父様を見て、そう問いかける。

 今までの化粧品や美術品とは全く意味が異なる世界。

 中位貴族くらいまでならともかく、上位貴族相手となると、お抱え商人経由での商売でしかなかった。

 でも、これの真価はどう隠そうとも、軍事利用が可能な商品である事は、誰の目にも見て明らか。

 そんな危険な物は、今までのような売り方では売れない。

 だけど此れの軍事的利用価値を考えれば、これを秘匿し続けるのは国への裏切り行為となってしまう。

 お父様の意図はどうあってもね。


 なら突き進むしかない。

 だけど国のお抱え商人、しかも軍備となるとそれは容易な事ではない。

 シンフェリア家では、明らかに家の格が足りないからだ。

 そんな事は子供であるユゥーリィならともかく、前世の記憶と価値観を持つ私なら想像がつく事。

 それが分かっていてお父様を煽って見せた。

 胸が苦しくなる、お父様にそんな無茶をさせる事が。

 お父様では頼りないから他の人に頼れと言った。

 心が締め付けられる、そんな悲しい事をさせると選択をした自分に。

 でも、お父様なら分かりますよね?

 この国を渦巻く状況を、子供の私なんかより良く知っているお父様なら。

 この魔導具が生み出す光が、その先に何を指し示す事になるのか。

 同時に闇をも生み出す事も。

 それを選べますか?

 戦えますか?

 私ができるのは此処までです。

 この先を歩むかどうかを決めるのは、当主であるお父様しかいないんです。






2020-04-04 誤字脱字修正

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― 新着の感想 ―
猫みたいに自分の指揮を悟ったら人前から姿を消すのかな
[気になる点] なんか、本人画自分の評価に疎いから出て行く時闇堕ちして出ていきそうだな
2023/12/06 06:41 退会済み
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