47.光舞う灯火に熱狂する年寄り達。皆さん若いですね。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
日が沈むのを心待ちにし、試作品のシャンデリアに灯された白い明り。
されど水晶が生み出すプリズム効果によって、所々に虹色の光が散乱し、より一層幻想的な光景を生み出している。
誰もが言葉を発する事なく、ただ無言で光と水晶が織り成す光景に魅入る。
と、思っても良いのだろうか?
なにか此処まで只管無言だと、逆に不安になるのですが。
お父様をはじめ、コギットさん、ダントンさん、商会のお偉いさん。
そして、将来上の顧客になるであろう教会の関係者として、御招待した神父様。
うん、もう少し反応が欲しいので、魔力干渉しちゃいます。
ゆっくりと時間を掛けて、光石特有の八色の変化を演出してゆくのだけど、実はこの変化、かなり高度な魔力操作です。
どう言う理屈かは不明だけど、光石の色の変化は完全な断層。
従って、その変化を自然に見せるには、理論的には目に見えないほど素早い魔力量の変化と正確性が必要。
私としては脳裏に波形を思い浮かべて、それが高速に変化していくイメージをもとに変化させている。
実際は、そこまでの高速な魔力操作はできやしないい。
せいぜい一秒間に数回程度の波だけど、光石その物がその変化に追随できないので、結果的に段差は見えずグラデーションが掛かったように変化しているように見えるものの、強弱に関してはかなり神経を使う操作。
やがて五分ほど掛けて変化させた光景を終え、本来の白い輝きへと戻ってゆき。
「うおぉぉぉぉーーーーーーっ! 燃えてきたーーーーっ!
旦那、次の作っても構わねえよなっ!
今、貯めこんでいる構想の奴を全部作りてぇんだっ!」
「待て待て待てっ、まだ売り先すら決まっていないのに、全部はいきなりは無理だろう」
「旦那様、たぶんいけます!
と言うか生産が追いつかなくなる可能性も」
「そうなっても俺の方は余裕だがな。
こいつに関しては、作業量は知れてるしな」
「私めも、自信をもって上の方々に推せます」
うん、何か色々と盛り上がっているところを見ると、良かったのだろうと思う。
えっ私? もちろん私としてもそれなりに感動しています。
ただ、前世の知識をもとに作っただけあって、シャンデリアが生み出す光の造形にはある程度慣れていると言うだけです。
でも、こう喜ばれると嬉しいし、ダントンさんが作ったシャンデリアの装飾も本当に素晴らしいと思います。
だからつい、脳裏に浮かんでしまう。
「天井全体を色つき水晶や色硝子で絵を書いて、光らせたら綺麗でしょうね」
発想そのものはステンドグラス。
前世でもLEDパネルが出始めてから、そういう製品も出回っていたけど、基本的には小さな製品が多かった。
やはりイメージとしては前世で見た、世界的に有名な大聖堂のステンドグラス。
そしてこの輝結晶は、光石から治金した輝浮砂を溶かして型枠に入れる鋳物。
今回のは作りやすく、光が散乱しやすい雫型にしてあるけど当然ながら板状にも成型できる。
「そう考えれば、別に光結晶も形に拘る手もあるわよね」
型を作る手間は増えるけど、雪の結晶型、焔型とかもあるし、別に天使型とかも様々な形にだってできるはず。
要は銅像の造形美術のような物で、こうでなければいけないと言った決まった形なんて無いので、塊から削り取る事も可能と言えば可能だから、そう考えると夢は広がるよね。
輝結晶は直接見るのは眩しいから、それに相応しい形にはなるだろうけど、極端な話をするとそう言う事で、実現出来るかどうか別の話。
まぁ取り敢えず脳裏に浮かんだだけなんだけどね。
作るとしたら物凄い大変な事だし、型を作るのにお金も掛る。
がしっ。
そこへ、何故かか肩を叩かれるようにして掴まれる。
しかもダントンさんだけでなく、商会のお偉いさん、……確かドリノアさんだったかな?
その手には何故か私が普段、図面や衣装のデザインに使うデッサン帳と同じ物を持っている。
あのコギットさん、そんなに顔を近づけて来られると、流石に少し困るんですが。
「……あの?」
「書け」
「…えっと?」
「いいから、今、頭ん中に浮かんだ奴を全部書けっ!」
「いや、作れるかどうか考えずに」
「そんなもんは俺等が考える。だから書けっ!」
はい、なんか怖いので書きますよ。
でも思い付きですから、きちんとした物では……。
乱雑でも構わないから書けと。
なにかアルベルトさんの日誌のような書き方になってきたけど。
とりあえず書きますから、三人とも鼻息荒い顔を、そんなに近づけないでください。
ついでに書いている内に思い付いたのも書いて良いですか?
そう言うのは、どんどん書けと。
ええ、分かりました。
アイデア帳の感覚で良いなら書きますよ。
実現出来る出来ないは関係なしですから、後で文句を言わないでくださいね。
「……ふぅ~」
どれだけ書き、どれだけ時間が経ったか分からなくなった頃、やっと手を止めて一息ついたところに、何故か神父様自らが淹れて下さった紅茶を有難く戴く。
あぁ、紅茶の温かさと香りが身体に染み込んで行くようで、心地良いですね。
ちなみに視界の隅で、先程まで私が書いていたデッサン帳を、神父様以外の皆さんがああでもないこうでもないと、興奮した様子で何やら討議を始めている。
当分は放っておこう、今、アレに巻き込まれるのは少しだけ勘弁してもらいたい。
「そう言えば、先程、天井に色付き水晶で絵を書くとおっしゃってましたが、それはどんな絵でも可能なのでしょうか?」
神父様の質問は、たぶんステンドグラスの事だろう。
今世で再現するには、技術的に色々問題があると思うけど、私として一番脳裏に浮かぶのが、やはり大聖堂のステンドグラスな訳で、神父様も一番興味を引く内容だと思う。
一応、先程のデッサン帳にも書いたけど、……あの様子では、見せてもらえるとはとても思えない。
だから口頭で……。
「美しい幾何学模様も良いでしょうし、神様の絵やその物語を描いてみたら面白そうですよね。
なにせ絵が浮かび上がるように照らされますから、普通の絵とはまた違う技術が必要でしょうが、教会の天井に施されたら、荘厳で神々しいと思います」
うん、本当にそう思う。
ある意味、発展してゆけば、いつか前世を超えるような物も出てくるかもしれない。
そう思うと、そんな日が来る事が物凄く楽しみ。
例え、その日を迎える事が出来なかったとしても。
「そう言えば硝子でやれば、一番簡単かも」
厚いガラス板に色ガラスや顔料を乗せて、そのまま再度片面を溶かして融着させる。
それだけの炉や窯を用意しないといけないし、大きなガラス板を作るには硝子より比重の重い油を熱したプールとかも作らないといけない。
簡単だと言っても、実現しようとすれば問題は山積み。
一応はダントンさんに渡してある意匠図面の中にも、ステンドグラス風の物は入っているので、実際の工法はダントンさんの方が詳しいと思うけど。
「試作用の額縁サイズの物なら、ガイルさんなら直ぐにでも作れるかもしれませんね」
私の何でもない呟きに、何故か熱い論戦を広げている四人に混ざりだす神父様。
最近、歳でどうにも動きが悪くなってきたと聞いていたのですが、……どう見ても元気ですよね?
今の動きは、絶対にお父様達に負けない動きでしたよ。
「ああ、頭を使った後は紅茶が美味しい♪」




