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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
45/976

45.塞ぎ込んだ私って、そんなに魅力がないですか?





 まだ本格稼働の前だと言うのに、コギットさんの工房の片隅に運び込まれている樽の数に……。


「随分と輝浮砂が貯まってきましたね」

「まぁな。

 だが商品が出始めれば、一気に無くなるだろうがな」

「まだ一つも商品は出来上がってませんけど」

「試作品は出来ているし、組み込むだけ状態の物も一通りある。

 お館様は、そろそろフェルガルド様の処に納めたいような事を言っていたが」

「早くても夏の終わりまでは出したくないなぁ」

「俺も同じ意見だ」


 試用期間が短すぎる。

 最低でも三ヶ月は使ってからでないと、納めたものの不具合が出て突き返されました、では商会的にもシンフェリア家的にも色々と拙く、信用問題になる。

 ちなみにコギットさんが口にしたフェルガルド様と言うのは、シンフェリア家の貴族後見人である伯爵家の御当主様の事。

 依子である貴族が商会を運営していた場合、高価な新商品を出す時は、まず貴族後見人である方にお納めするのが、この世界の貴族界の習わし。

 お姉様の時は、結婚式と言う裏技を使った上、一応は結婚式の前日の夕刻に届くように念入りに手配してあった。

 でも、それは貴族の礼儀としてはギリギリなグレーな行為で、シンフェリア家としては、お姉様の結婚式と言う最大の商機を優先した結果なんだけど、そう言う事を頻繁にやると、フェルガルド伯爵家に要らぬ不信感を与えてしまう。

 あくまでシンフェリア家は、フェルガルド伯爵家の傘の下に庇護されている立場なのだから。

 無論、最大の傘の持ち主は、シンフォニア王家ではあるのだけどね。


「ダントンさんは・」

「あいつは若造だが、根は徹底した職人だからな。

 不安がある商品なんぞ世に出すくらいなら、お館様と殴り合いをしてでも止めるだろうな」


 私が言い切る前に、言いたい事を察したコギットさんが先に答えてくれる。

 何やら物騒な言葉が混じっていた気がするけど、この際それは気にしないでおく。

 それにしてもダントンさんも、コギットさんに掛かったら若造呼ばわりなんだと、少しばかり驚いてしまう。

 でも、よくよく年齢差を考えたら、それも当然の事なのかもしれない。

 むしろ、ダントンさんがあの若さで工房長と言う立場になっている事の方が、世間的には驚きなのかも。

 もっとも、若いと言ってもお父様と同じぐらいだけどね。


「一応、ダントンの奴と一緒にお館様を説得するつもりだがな」

「お父様が勝手に動き出すより前の方が良いですね」

「お嬢さんも、よ〜〜く分かってきたじゃねえか」

「ええ、以前に勝手に人の名前で、新たに商会を作ろうとしましたからね」

「硝子細工の商会の件か。

 勿体ぇねえな、普通は自分の名前が商会名になるのは誇らしい事なんだがな」

「自分で商会を立ち上げたのならば誇らしくも思うでしょうけど、あれは違います。

 断って当然です」

「ほとんど立ち上げた様なものだろうに」


 コギットさんも変な事を言う。

 新たな商会を立ち上げようとしたのはお父様だし、その商会の商品になる予定の硝子細工は、お父様が運営する商会が所有する工房の職人、つまりガイルさん達の作品。

 うん、私はちっとも関係していない。

 せいぜい前世の知識を利用して、硝子細工を見せただけだ。

 売り物になるまでに技術を磨くのは、ガイルさん達だから、むしろガイルさん達が商会を立ち上げるのなら分かる話だと思う。

 結局は商会そのものを立ち上げる話自体が立ち消えしたのだけど、そんな事はどうでも良いので。


「お父様としては、グットウィル家の貴族後見人の伯爵家より、フェルガルド伯爵家を立てている、と言う姿勢を改めて見せておきたいんでしょうね」

「化粧品や装飾品が、あれだけ話題になっているからな。

 お館様のそう言う考えも分かると言えば分かる話だな」

「時間稼ぎで良いなら、納める物がない事もないかな」

「良い案でもあるのか?」

「良い案って言うか、既存品の流用です。

 と言うかコギットさんのおかげで、出来る様になった事かな」

「はぁ?」

 

 訝しがるコギットさんを前に、私は案とも言えない案を披露する。

 要はお姉様の時に使ったウェディングドレス。

 光石の粉末や小石を使った輝くドレスで、光舞ドレスと名付けられたシリーズの服。

 使用条件が着る当人が魔法使いか、または魔法使いが近くにいる必要があると言う厳しい使用条件がある。

 その使用条件が厳しすぎて、今のところ数着しか予約が入っていない程。

 これにコギットさんが生産化に成功させた、魔力伝達用の紐を組み合わせれば、厳しい使用条件が一気に下がる。

 この世界の住人は、大なり小なり魔力を持っているので、魔力持ちの方でなくとも、十分に光らせる事ができるはず。

 無論、光らせる事の出来る数や、光を維持する時間には個人差が出てきますけどね。


「す、凄えじゃねえか。

 フェルガルド様の奥様や長子の奥方は、確か魔力持ちだったはずだから、石の数も増やせるな。

 それなら、さぞかしフェルガルド様を喜ばす事ができる逸品じゃねえか」

「でも、光舞ドレスと魔力伝達用の紐を知っていれば、誰にでも思いつく事だと思いますし、ドレス用に使うならば伝達用の紐をもっと細くするか、魔法銀(ミスリル)の糸を太くする必要が」

「そんな物は数日あれば調整できる。

 と言うか俺は思いつかなかったぞ」


 それはコギットさんがドレスに興味がなかっただけでは? と思うのだけど、男の人は女性用のドレスなんて興味がないのが普通だと思う。

 綺麗か綺麗でないか、似合うか似合わないかぐらいだろうし、それ以上を求める方が気の毒と言うもの。

 現状の魔力伝達用の紐は、中に数本の魔法銀(ミスリル)の糸と芯材の糸を撚って強度と、魔力の流量と、柔らかさを実現しているけど、ドレスに使うには改良が必要。

 ただ、何方を取るかはともかく、コギットさんの反応から可能みたい。


「服飾工房の方に話を通しておいた方が良いですね」

「その前にお館様に報告だな。

 それこそ明日にでも勝手に動き出しているかも知れんからな」


 ないと言い切れないところが怖いし、その結果が洒落にならない。

 それぐらい貴族同士の繋がりは、気を使わなくてはならない物だから、お父様が特段おかしいと言う物ではない。

 それが貴族と言う物だからね、……うん本当に貴族って面倒くさいよね。


「それにしてもお嬢さん、調子が戻ってきたみてえだな」

「え?」

「隠してはいたが、最近、塞ぎ込んでいるってお館様が言っていたぜ」

「ゔっ」


 まさかお父様にバレていたとは。

 いえ、きっとお母様あたりが気が付いてお父様の耳に入っただけ、と言う可能性の方が有り得る話ね。

 何にしろ、そんな話がコギットさんにまで行っているとは、予想だにしなかった事。


「まぁ原因は知っているがな。

 あの糞餓鬼めっ。

 ダントンの野郎も、しっかりと手綱を締めておけっていうんだ」


 いったい何処まで広がっているのだろうか。

 と言うか、私のプライバシーが軽く扱われている気がする。


「一応、真相を知っているのは、あの場にいた人間とお館様、あと俺ぐらいなものだ。

 俺は報告が来た時に、偶々お館様と打ち合わせをしていたからな。

 まったく、怒り狂うお館様を止めるには苦労したぜ」

「……それはお父様がご迷惑を」

「まぁ俺はこれでもダントンの奴をそれなりに信頼しているし、お嬢さんも信用しているからな」


 私もですか。

 それはそれで嬉しい言葉ですが、信用とお父様を止める関連性が分からないのですが。


「だから言ってやったさ。

 お嬢さんがお館様に泣きついたり報告したならば、煮るなり焼くなり好きにすれば良いと。

 でも、何も言わないのならば、お嬢さんが必要ない事だと判断した事だと。

 その判断を親であるお館様が信用しないのかとな」


 少しだけ胸が熱くなる。

 そう言ってくれるコギットさんに。

 そしてその言葉で、私の事を信頼すると決めてくれたお父様に。

 何よりそれだけの信用が、私にはあるのだと。

 それはそれで嬉しいし誇らしい事だと思う。

 だけど……。


「……でも、私が単純に泣き寝入りしているだ・」

「ないな」

「最後まで言わせてくれても」

「お嬢さん、いくら何でも有りえない事を最後まで聞くのは、時間の無駄と言うものだ」

「私って、いったいどう思われてるんですか?」

「短え付き合いだが、お嬢さんがそんなタマじゃねえって事くらいは分かるさ」


 酷い言い草である。

 しかも笑いながらである。

 さっきの私の感動は何だったのかと言いたくなりますよ。


「まぁ、お嬢さんがもし泣きついていたなら、俺が真っ先に行ってあの糞餓鬼を地獄に叩き落としてやったがな」

「……えーと」

「まぁ、お嬢さんはそう言うのを望む人間じゃねえ、ってのは分かってるからな。

 それに免じて今回ばかりは、お嬢さんの意を汲むと決めている。

 お館様もな」


 色々と突っ込みたいし言いたい事はあるけど。

 どうやら私が此処十日ばかり塞ぎ込んでいた事で、色々な人に心配を掛けていたみたいです。

 おちおち塞ぎ込んでもいられないなと思う反面、心配してくれて、なおかつ信用してくれる人がいる事が少しだけ不謹慎ながらも、つい笑みを浮かべてしまうぐらい嬉しく感じてしまう。


「ふん、そうやって笑っていれば、お嬢さんは将来間違いなく美人になるぜ」

「笑っていない私は美人にはなれないと?」

「……そう言う受け取り方は勘弁してくれや」


 いつか繰り返した様な問答に、私は今度こそ心から笑みを浮かべる。

 うん、やっぱり私はこうでないと。





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