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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
44/976

44.中身がおじさんでも、甘えたいと思う事もあります。





「そう言う訳で、私は癒しを求めて来ました」

「……ユゥーリィのそう言う所には慣れたけど、また突然ね」


 教会の裏にある広場で、エリシィーに詰め寄ってみます。

 日当りの良いこの場所は、私達だけではなく色々な人達の憩いの場。

 ただし、きちんと手入れがされていればとなる。

 そして、手入れの内容の殆どは草毟り。

 一応、此処は教会の敷地になるので、手入れは信徒のボランティアの方々以外では、教会の関係者である修道士の方やエリシィー母娘のお仕事。

 そして見れば分かるけど。


「残念ね。

 ただいまお仕事中なので、ユゥーリィを甘やかしてあげれません」


 なんて友達甲斐のない事を言うのか。

 と、それは冗談としておいて。

 ふふふっ~ん♪

 それはつまりお仕事がなければ、甘やかしてしてくれると言う事。

 言質は取ったから、あとで駄目なんて言わせないからね。


「それとも魔法でパパっと」

「できないし、やらない」


 むろん、乱暴な手を使えばできない訳ではない。

 そこまで彼女を甘やかす気もないし、エリシィーだってそこまで求めていない。

 彼女自身、自分の仕事だと理解しているし、そのおかげで教会に居られると言う自覚もある子だもの。

 だから普通に手伝うだけ。

 この場所の一番の特等席である大きな樹の下辺りを、勝手に草毟りするだけ。

 勿論、多少は魔法を使うけどね。

 緑の絨毯になるように植生されているヒメリュウのような草、その緑の絨毯のそこかしこから生える雑草。

 その一本一本の根元の土に、土起こしの魔法である耕起魔法を極小範囲で掛ける。

 【土】属性魔法と『時空』属性魔法を使った地中レーダーで草の根がどう張っているかは分かるので、それに沿って耕起魔法を掛けたため、指先で軽く引っ張るだけで深い根っこから抜けてくれる。

 小石と紐を使った草刈り機を再現した草刈魔法もあるけど、こう言う場面ではあまり使えないし、雑草は根っこごと抜かないと、すぐにまた生えて来てしまう。

 魔法は使ってはいるけど、エリシィーと一緒で一本一本丁寧に抜いてゆく地道な作業。

 使っている魔法としては小規模な生活魔法。

 無くても普通に手でやれる作業で、抵抗なく抜ける分だけ楽かもと言う程度。

 あくまで、そのスタイルで行きます。

 結局は、それが一番早道だと思うから。

 そもそも、いっきに草刈が出来る様な大規模魔法なんて凄く危ないし、植えてある植物も駄目にしてしまう。

 せっかくの皆の憩いの広場だから、そんな場所を駄目にする真似なんてできない。

 安全第一が優先で、少しずつでも確実に、これが大事です。

 時間を掛けて木の周辺十メートル四方、こんな所かな。

 見ればエリシィーも似たような範囲を終えている。

 私が来る前にやっていた分も含めてだけど。


「此れで良いわよね」

「……はぁ、どこまで飢えているのよ」


 私がやった分をやる時間だけ、エリシィーの時間を私に寄越しなさい。

 そう、等価交換。

 お互いに必要以上に甘やかさない。

 私もエリシィーも計算尽くで打算な所はあるけど、でもそれが普通だと思う。

 互いに互いが必要だと思うから、一緒に居られる。

 むろん、そんな事など関係なしに一緒にいる事の方が多いけどね。

 でも、互いに一方的なのは良くない。

 それを人は依存と言うし、そんな関係は長く続かない。

 エリシィーは親友であって、家族ではない。

 親友であるなら、親友にふさわしい関係がある。

 決して依存であってはいけなのだから。

 むろん一方的に恩を売りつける関係、そんな関係は私も彼女も求めてはいない。


「しょうがないなぁ」

「そうそう、しょうがない」


 そう言って、特等席である木の根元に二人して腰掛ける。

 大樹が生む木陰。そしてその枝葉からの木漏れ日。

 うん、天気も良いし。甘え日和♪


「聞いてよ。もう」


 とすっと軽い衝撃が草の絨毯に伸ばした太腿の上に掛かる。

 長いスカート越しに伝わる柔らかい感触と温もりと、心地良いと言える程度のエリシィーの頭の重み。

 その感覚に……。


「……ねぇ、逆じゃない?」

「え~、ユゥーリィは私に甘えられるのは嫌?」

「ん~、嫌じゃない」


 ええ嫌じゃないです。

 彼女だって私と同じ十一歳。

 やれる事が増えてきた半面、色々と苦労も増えてきたはず。

 そんな親友に、こうして甘えられるのは嫌かと言われたら嫌ではないし、どんとこいとさえ思ってしまう。

 だから、そのまま膝枕をしている彼女の茶色い髪を指で梳く。

 頭を優しく撫で、時折その柔らかい頬を突いてあげる。

 ええ、こうして愚痴を聞いてあげてるのだから、それくらいさせなさい。

 うん、本来の目的とは逆だけど悪くない。

 もやもやしていた心の中が、落ち着いて温かい物に変わってゆくのが分かる。

 これぞエリシィーパワー、ホットスポットなのかも。

 もしかするとエリシィーは魔性の女になる素質があるのかも。


「なんか変な事を考えてない?」

「イエイエ、ソンナコトナイデスヨ」

「ふ~ん、怪しいなぁ」

「キノセイ、キノセイ」

「まぁいいか。うーん心地良い」

「ぐりぐりしないでよ」


 スカート越しとはいえ人の太腿に顔を埋めて何を堪能しているのか。

 くすぐったいので、そこそこにしてくださいね。

 後で同じ事をやるから、そのつもりで。


「良い匂い」

「こら、何を嗅いでいるのよ」

「ん~、だって良い匂いだもん」


 流石に、それは女同士でも恥ずかしくなる。

 この世界と言うか、少なくとも私が知っている限りは、お風呂の習慣はない。

 基本的に水浴びしたり、水を含んだ布巾で身体を拭くだけ。

 リズドの街には蒸し風呂屋さんがあったりしたけど、それだけで私の知るお風呂では無い。

 私は魔法が使えるようになってからは、水ではなくお湯で拭いているし、ここ数年は石鹼を自作して使っている。

 もともと前世では妹の健康上の問題でオーガニック製品には強かったし、その関係の研究職に就いていたので、これぐらいの物は簡単に作れる。

 だから彼女が言っているのは石鹼の香りなのだと思うけど、気恥ずかしい事には違いない。


「後で同じ事されるって判ってる?」

「別にユゥーリィ相手なら問題なし」

「いいのかぁ」

「うん、いいの。

 そう言う訳でもう少しこうしていたい」

「……もう勝手にして」


 こう開き直られると、私も開き直るしかない。

 自分一人が気恥ずかしがっても疲れるだけだもん。

 そんな他愛のない会話の中で語られる彼女の愚痴に、彼女は彼女でたくさんの気苦労を背負っているのだなと、なんとなく連帯感を感じてしまう。

 だから優しくできる。

 彼女の辛い所を受け止めてあげたいと思える。

 やがて……。


「ああー、すっきりした。

 やっぱりこういうのって偶には必要よね」

「確かに、小母さんには言いにくいよね」

「うん、甘えすぎて負担になりたくないもの。

 じゃあ今度はユゥーリィの番」


 そう言って今度は立場を反転して。

 うん、エリシィーの太腿の感触が心地よい。

 女の子特有の甘い香りが気持ちいい。

 布越しに伝わってくる彼女のぬくもりに、心が落ち着く。


「ん、何か話さないの?」

「うん、これだけで十分。

 エリシィーの身体、気持ち良いもん」

「言い方」

「何の事かなぁ」


 我ながら親父くさい言い方だったと思うけど、実際に中身がオジサンだから仕方がない。

 別に如何わしい気持ちは欠片もないですよ。

 純粋にエリシィーの膝枕の心地良さを堪能しているだけです。

 ……黙ってられると恥ずかしくなるから何か話せと。

 え~~~っ、私は別にこのままでも問題ないけど。

 むしろこのまま、この感触を堪能したい。

 ……話す事が無いなら止めると?

 エリシィーのいけず。

 しょうがないので、何か雑談を。

 そうだエリシィーの好きそうなコイバナで。


「この間、求婚されちゃった」

「えっ!」


 ごすっ。


 いきなり立ち上がった彼女によって、私の頭は哀れにも地面に落とされる。

 うん、痛かったです。


「どこの変態よ、そいつ!」


 求婚しただけで、いきなり変態疑惑ですか。


「いや、実際は私自身じゃなくミレニアお姉様の面影を追っての暴走なの。

 だから対象は私であって、私じゃないようなものよ」

「なお悪いわよ!

 それ以前に、ユゥーリィみたいな小さな子に求婚なんておかしすぎっ!」


 小さな子って、一応はエリシィーと同い年のはずだけど、と言いたくはなったけど、彼女も含めて小さな子供である事には違いないか。


「相手は!?」

「いや、その、流石にそれは」

「じゃあ、どれくらいの年の奴?」

「ダルダックお兄様ぐらいかな」

「完っ璧に変態ね」


 ガイルさん、変態確定だそうです。

 とりあえず暴走と言う意味では、今のエリシィーも十分に暴走状態な訳で。


「どうどう、エリシィー落ち着いて」

「私は馬かっ!」

「うん、馬じゃなくて、可愛いエリシィーだって分かっているから落ち着こう。ねっ」

「……もう、ユゥーリィは、すぐにそうやって人をおちょくるんだから。

 それで、その後どうなったの?」

「思わずブン殴っちゃって、自己嫌悪中」

「なるほどね、でも言っておくわ。

 ユゥーリィは少しも悪くないからね。

 相手は、当然の報いを受けただけよ」


 エリシィーがそう言ってくれて、少しだけ心が晴れる。


「でも、私、魔法を使っちゃったから」

「あ~~~、それでか。

 珍しく引きずって落ち込んでいるのね、納得が言ったわ。

 でもしょうがないんじゃない、ユゥーリィって魔法使わなきゃ見た目通りか弱いし、私でも組み伏せれる自信があるわよ」

「ゔっ……」

「ユゥーリィは優しいわね」

「そう? お姉様やエリシィー程じゃないと思っているけど」


 それは本当の事。

 だって私って、基本的に自分中心だもん。

 魔法だって、生活だって、こっそりと色々やっている事だって、全部自分の都合。

 今日だって自分の都合に、こうしてエリシィーを巻き込んでいる。

 なのに私は、彼女やお姉様みたいに皆に優しくできていない。

 商会の人達との揉め事だって、極論を言えば私が嫌だからだもの。

 言葉を交わし、それなりに気心が知れてきた人達が、前世の私のようになってしまう事が。


「まぁいいわ。

 それで、その変態は?」

「私に殴られた後、その人のお父さんによってズタボロに」

「なら安心ね。

 もしそうでなかったら、人をかき集めて山狩りでもしていたわ」


 なにやら怖い事を言い出す。

 きっと私を安心させようとする冗談なのだろう。

 

 ぱふっ。


 不意にエリシィーの手によって、包み込まれるように抱きしめられる。

 顔全体に彼女のぬくもりが伝わってくる。


「ユゥーリィ、怖かったんでしょう。

 相手にもだろうけど、自分が相手を傷つけすぎたんじゃないかって。

 それと、相手を傷つける事で自分が傷つく事が(・・・・・・・・)怖かったんでしょう。」

「……」

「大丈夫だから。

 ユゥーリィはちゃんと手加減できたんでしょう?

 そうでなきゃ、もっと落ち込んでいるだろうし、大事にもなっていると思う。

 だからユゥーリィは大丈夫。

 ちゃんと出来ているから」

「……」

「それと何度でも言うけど、そんな奴は殴って当然だから気にしちゃ駄目」


 ゆっくりと優しい言葉が、彼女の想いと共に私の中へと流れ込んできてくれる。

 その事に私は、ぎゅ~~~っと彼女を抱きしめる。

 彼女の温もりを確かめるように、柔らかい彼女の体に頭を埋める。

 私が何を怖がっているか、ちゃんと分かってくれている。

 ほんの数秒だったけど、もの凄く勇気をもらった気がする。

 ついでに、また大きくなっているなとも実感。

 これに追い付ける日が来るのだろうか、と少しだけ不安になってしまう。

 でも、それ以上に……。


 ぽふっ。


 私はエリシィーから身体を離し、そして少しだけ上に飛び上がって彼女の頭を両腕で包み込む。

 彼女を私の胸に埋めるようにしてから、優しく頭を撫でて今度は私がエリシィーを励ます。

 エリシィーが、たくさん頑張っている事を。

 母親思いなところや、遠くにいるお父さんを思いやっている事とか。

 写本のお仕事だって、小母さんを少しでも楽にしたいと思っての事だと言う事も。

 辛い出来事があっても、教会に来る皆に一生懸命に愛想笑いを浮かべて耐えている事も。

 そしてエリシィーの優しさでどれだけ私が救われたかを。

 彼女の一杯良い所を、私は彼女を抱きしめながら優しく語り掛ける。

 私がされたように、せめてその何分かの一でもいいから、それを返したい。

 彼女が少しでも心から笑えるように。




「……ユゥーリィ、ついに着けたんだ」




 私の感動を返せ。






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― 新着の感想 ―
[良い点] この子すこし百合の気があるなぁ ガキにババァみてぇって言われたこともあるし、今回のことと併せて説得すれば結婚は回避出来そうだね 旅に出るなら魔法のことは言わなきゃ無理そうだけど
2023/12/06 06:10 退会済み
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