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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
43/977

43.気怠い午後に、少女は憂いの表情でケーキを頬張る。





「………はぁ」


 アンニュイな気持ちと共に吐いた溜息が、辺境都市リズドの街の空気に吸い込まれてゆくのを感じる。

 鬱憤ばらしに狩りまくってはみたものの、気分は晴れなかった。

 大丈夫です、狩りまくった命に無駄なんてありません。

 美味しくお腹の中に収まります、……誰かのですが。

 こう言う気分の時の定番である食い倒れは……残念ながら私の小さな胃袋では、許容量不足で不可能。

 無理してもお腹を壊すだけなのでやりません。

 と言うか、そんな状態で食べても美味しくないです。

 ご飯は美味しく食べたいです。

 

「……全体で見れば、良い事が続いてはいるんだけどね」


 春以降、化粧品や装飾品の受注はひっきりなしで、今や一年待ち状態。

 輝石を使った家具の開発は順調。

 輝結晶の方もシャンデリアも工房全体でやる気が(みなぎ)っている状態。

 廃棄処分していた水晶屑を使ったガラス細工も、あの素敵な作品でさえ満足いかずに、更に腕を磨いている最中と聞いている。

 しかも切子硝子職人も増えたと。

 おまけに私自身も、魔導具の資質があるのが分かったのに加え、今まで不可能と思われた【聖】属性魔法の修得に成功する快挙。

 これが嬉しくないと言ったら、嬉しくない訳がない出来事が続いている

 でもね……。


『ユゥーリィ。今、お前の漢っぷりが商会内でも噂になっているぞ』


 何を? と聞いても、お父様はニコニコと笑うだけで何も答えてくれずじまい。

 ええ、身に覚えはあります。

 ありますからせめて怒るなりお説教なりしてください。

 そうすれば、ある程度落ち込んだ後に浮上できますから。

 此方が、やっちゃった感がいっぱいで反省しているのに、それをこう言う風にされると私としても困る。

 だいたい、漢っぷりってなんですか?

 そりゃあ私は中身は男だと自負していますよ。

 でも外観は一応女の子なんですから、それはあんまりだと思います。

 デリカシーがないです。

 せめて女らしい……それは嫌なので女将っぷり……は既婚女性が大半、いえ、やっぱり今のままで良いです。

 あまり女や結婚を意識したくないので、そこは我慢します。

 とりあえず自主的に反省し、こうして自己を見つめ直していたりしてはいるんですが、どうにも気持ちが沈んだままで、我ながらどうしたものかと思案中。


「シフォンケーキのセット、お待たせしました」

「美味しそう♪」

「どうぞごゆっくり」


 うん、ふわふわな生地に甘さ抑え目の生クリーム、生地に紅茶の葉を混ぜているため、後から口の中に香りが広がって、嫌な事を忘れてしまいそうになります。

 ええ、自己反省中です。

 決してお茶を楽しんでいる訳ではないですよ。

 美味しく戴いてはいますけどね。

 だいたい職人達の中で、忙しい時や没頭している時は徹夜が当たり前、なんて風潮があるのがいけないんです。

 睡眠不足で集中力が落ちた状態で、本当の意味で良い作品なんか作れる訳ないですし、怪我の原因にもなります。

 そりゃあ前世でも、神が降りてきたとか言って、作品に没頭しだす元カノがいましたよ。

 コスプレだけでなく、そちらにも手を出し始めたか、と私は呆れてはいたけど。

 でもそんなものは年に数回程度の事だったし、大抵はその後で乾いた笑いと共にシュレッダーの音が部屋に響いていました。

 私の黒歴史も、そんな風にシュレッダーに掛けれたらと切実に思う。

 とにかく、迸る職人さん魂と言うのも分からない訳ではないので、お父様とも掛け合いましたよ。

 商品の品質向上と安定化のために、仮眠室と徹夜禁止の商会内規則を設置すべきだと。

 質より量ではなく、今は量より質で攻める時ではと、それが他商会の追随を許さない結果に繋がると。

 そう言う訳で、お父様とも一戦かましました。


「……本当、何をやっているのだか」


 他にも反省すべき事はある。

 私ではなく、お姉様の面影を追っての事での暴走だとは思っているけど、つい反射的に力を振るってしまった事。

 基本的に争い事は嫌いです。

 しかも考えなしの暴力はもっと嫌いです。

 むろん、時には必要になる事は分かっていますが、条件反射的に暴力を振るうのは決して褒められたものではない。

 しかも魔法を使ってです。

 これは凶器を使ったも同然の事。

 とっさに手加減したのか、それともとっさの事でそれだけの出力を出せなかっただけなのかもしれないけど、結果的に重症を与えずに済んだのは幸い。

 でも逆に言えば、ただの偶然に救われただけの事です。

 私が本気の本気で身体強化の魔法を使った状態で殴りつければ、そこらの民家の壁程度ならブチ破れると思います。

 少なくても岩ぐらいは割れます。

 ええ、この街に来る前に確認してきました。

 それを生身の人間に振るえばどうなるかは、想像するまでもない事。

 そう思うといくら私でも、落ち込みぐらいはします。


「……かと言って、魔法を使わない私なんて」


 きっとあの時、手を振り払う事すらできなかったと思う。

 それくらい、今世の私は力が無いし、もし大人の男性に捕まったり組み伏せられたら、必死な抵抗すらも抵抗にすらならないだろう。

 そう言う所でも、やっぱり自分は女なんだと自覚させられてしまう。

 いくら自分が中身が男だと思っても、周りはそうは思ってくれない。

 たとえ相手の勘違いで、馬鹿な身代わり論法であっても、私は求婚される側なのだと。


 無理っ!!


 何度も言いますが、そんな未来は考えられない。

 そもそも男性を相手に、そう言う対象に見る事など未来永劫無いと言える。

 うん、これ絶対。

 そう言う意味では、あの事件は私にその事を再自覚させる事件でもあった。

 ちなみに、事の元凶のガイルさん。

 あの後、追加の案が出たので後日に訪れた時、見事に繋がれていました。


 鎖と首輪に。


 頼みますから止めてあげてくださいと、必死に懇願しました。

 私が訪れている時だけだと言っても、本気で止めてあげてください。

 ええ、分かってます。

 そうして見せないと、ガイルさんの立場が色々と拙いと言う事は。

 私が貴族で、領主の娘で、何より工房が所属する商会主の娘だから、ガイルさんを守るためには、そうせざる得ないと言うのは分かっています。

 でも、これはやりすぎですし、ガイルさんの自尊心にも関わります。

 これから作る作品にも影響出るはずですよ。

 何より私が耐えられません。

 ええ、私がそうさせているみたいにも見えるじゃないですか。

 私、そう言う趣味は無いですから。冤罪です。誤解です。

 なら足にって、場所の問題じゃないです。

 じゃあこうしましょう。

 年内に上位貴族相手に売れる作品を作り出せるようになったら、その御褒美で今回の事件はなかったと言う事で。

 ええ、それまでは保留と言う事で。

 大丈夫です。こんな素敵な作品をもう作れてしまうガイルさんなら、出来るって信じてますから。

 だいたい、人に首輪で繋ぐって言うのは良くりません。

 逆の立場で考えてください。

 もし私がこんな目にあったらどう思います?


『テメエっ! なに鼻血なんて流してやがるっ!

 せっかくお嬢さんがテメエを許そうと言ってくださってるのに、不届きな想像をしやがったなっ!!』


 すみません、ガイルさん頼みますから変な想像は止めてください。

 ええ、何を想像したかは敢えて聞きませんし咎めません。

 と言うか知りたくないです。

 あと、ダントンさんも落ち着いてください。

 暴力は駄目ですよ。

 疑惑が確定に変わったって?

 いえ、そう言う問題じゃないですから。

 ええ、この後の説得に骨が折れましたけど仕方ありません。

 私の心の平穏のために、凄く頑張りました。


 結局、私が出した案に加えて刑確定までの妥協案として、ガイルさんは私から半径五メートル以内への接近禁止。

 私が居る時は常時二名以上の監視要員との同席。

 と言う事で、話を付ける事ができたのですから、我ながら本当に頑張ったと思いますよ。

 だって、ガイルさんに関しての件では、誰も私の味方をしてくれないんですもの。

 孤軍奮闘状態です。酷いものです。


 などと、此処のところ色々な意味で疲れました。

 こうして、現実逃避と反省を兼ねて街に繰り出すくらいしても、罰は当たらないと思うんです。

 あっ、店員さん、クッキーを一袋追加で。

 ええ、お土産用ですが包装はいりません、此方の布袋で大丈夫です。

 近くですし、身内用なので割れても気にしません。

 取り敢えずエリシィーへのお土産をゲット。

 一緒に本を読みながら摘まむお菓子にするつもり。

 収納の鞄に入れておけば、湿気る心配もない。

 ああ、そうだ、この後は本屋さん巡りをしよう。

 お腹を減らす必要もあるし、面白い本も見つかるかもしれない。

 えっ? 満喫しているように見える?

 気のせいです。本当に心を痛めているんですから。

 こうして目を瞑って振り返ってみれば、反省すべき事が走馬灯のように廻ってくるんです。

 本当ですよ。信じてください。

 反省だってしているんですからね。







2020/03/30 誤字脱字修正

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