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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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41.幼女愛好家と怒れる幼女。





「流石に綺麗ですね」


 ダントンさんに案内されて向かった工房は、まだ真新しい木の板とレンガに覆われており、レンガに覆われている所から煙突が出ているので、炉と作業場が中で分離した作りになっているのが外観からでも分かる。

 鍛冶場の物とは違って、溶かす水晶屑の量が少量だからこそ出来る事なのだろう。

 作業の邪魔にならないように静かに建物中に入ると、ダルダックお兄様ぐらいの男の人が炉に向かって真剣な顔でポンテ棒を操り、まだ赤身の残るグラスを引き出しているところでした。

 素早く木ゴテで形を整えて最後に切り離す姿は、とても始めたばかりとは思えないほど熟練した手付きに見える。

 きっと、職人としての基礎がしっかりと出来ているからこそなのだろう。

 焼けたガラスが徐々に冷えて色味が落ち着いた所で、あらためて真剣な眼差しで己が作り上げた作品を見つめており、その姿を私は眺めながら、やっぱり職人の方が物を作っている姿は絵になるなぁと思っていると、此方に気が付いたのか顔を上げる。


「ガイル、作業中邪魔するぞ」

「こっちは」

「結婚してください」

「えっ?」


 ダントンさんの言葉も途中に、いきなり訳の分からない事を言われる。

 しかも、あっという間に目の前に立たれ、此方の手を握ってきて。


「一目惚れしました。

 どうか俺と結婚してください」


 ぞっぞぞぞぞっ!

 言葉の意味を理解すると共に、全身を這うように襲う寒気に身体が震え。

 掴まれた両手から伝わってくる、気色の悪い生暖かい肌を伝わる感触に。


「てめぇいきなり何を言・」

「いーっ、やぁーーーーーーーーっ!!」


 ゴスッ!


 気が付けば、悲鳴と共に身体強化した右腕を振るっていました。

 ええ、身体強化した腕です。

 咄嗟に手加減はしたと思うのですが、鳩尾付近を深く捉えられた相手は、悲鳴を上げる事も出来ずに、部屋の反対側の壁まで吹き飛び。

 やがて、鈍い音と共に床に倒れる相手を見て、やっと自分が何をしてしまったのか理解する。

 するんだけど……。


「テメエ、なにとち狂った事を言ってやがるんだっ!

 相手を見て、ものを言いやがれっ!

 と言う以前に、テメエ何時の間に、子供に手を出すような下衆に成り下がりやがったんだ。

 俺はテメエをそんな風に育てた覚えなんぞ、欠片もねえぞっ!」


ガスッ!

どすっ!

バキッ!

ボゴッ!


 ダントンさんが、情け容赦なく追撃している姿に、なんと言うか他人事のように冷静になってしまう。


「……あのっ、それくらいで」

「黙っててくれっ!

 この馬鹿の親として黙ってられねぇ!」

「それ以上やったら死んじゃいますからっ」

「うるせえっ! 死んだら生き返らせて、もう一度地の底に叩き込んでくれるわ!」

「それ駄目だからっ! 無理だからっ!

 とにかく駄目ーーーーっ!」


 ダントンさんの腰にしがみ付いて、なんとか止めてもらうように懇願して数分。

 なんとか息の根を止められる前に、ダントンさんを止められました。

 その、ダントンさんの息子さんの、…えーと確かガイルさんは、顔中を赤や青に染め腫らしている。

 とりあえずハンカチを水魔法と冷却魔法で冷やして、……すみません近づくのが怖いのでダントンさんに経由で。


「ほれ、お嬢さんの情けだ。

 くっ、こんな奴にまで」


 顔に投げつけるようにして、なんとか渡してくれます。

 見るのも痛々しい顔に、せめて治療魔法が使えればと思ってしまうのだけ、あいにく私は使えませんし、使えたとしてもコレに近づいて触れないと、……あれ?

 そういえば神父様、治癒魔法を使う時、必ず相手に触れていた気が……。

 うん、間違いない。

 確か服を着ていても必ず服を避けてたり、捲ったりして直接手を当てていた。 

 この世界の魔法は、基本的に術者の発する力場の中で現象化する。

 でもその力場は、他者または他生物の持つ力場に弱く、相互干渉を起こしてしまうのか、相手の力場の強い所では自分の魔法を現象化できない。

 あくまで現象化した魔法でもって、相手に放つ事で他者や他生物へと干渉できる。

 でもその原因は、おそらく力場の固有波長の違い。

 私はそう考えていたのだけど、神父様の治癒魔法はその考えを覆すかのような他者へ直接干渉をする魔法。

 その仕組みが、どうしても理解できなかったのだけど。


 共鳴。


 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

 学校の授業で習った記憶がある。

 音叉など同じ固有振動数を持つモノ同士が、同期して同じように揺れる現象、確か共振とも言うんだっけかな?

 もし他者への魔力による直接干渉できない理由が、魔力の固有周波数の違いと言う説が正しければ、同じ固有周波数同士ならば魔力の直接干渉ができると言う事。

 神父様が必ず相手の体に手を触れていた理由が、相手の魔力の固有周波数を読み取り、それに同期させた自分の魔力を流し込むためだとしたなら。

 なら、……すみません、やっぱり怖いです。

 でも相手の怪我の幾らかは、私の責任でもありますし。

 ええい、男は度胸!

 すみませんダントンさん、少しお願いが。


「ぐぉっ」


 私のお願いに、ガイルさんは地面にうつ伏せにされた挙句に、ドガっとダントンさんに座られ、顎に手をやられて上半身を無理やり反らされて苦悶の声をあげる。

 キャメル・クラッチ。

 この世界にもあるんだと思いつつ、顔を見ないように後ろから、そっと脇腹に手を当て。


「……」


 身体に流れる魔力の流れを感じようと、目を閉じて手の平に意識を集中する。

 基本は自分の時と変わらないはず。

 ただ他者の魔力を感じるために、薄くて弱い魔力を膜を手の平に作る。

 弱い魔力の膜は、ガイルさんの魔力によってどんどん消されてゆく。

 でも、その一方で私は、薄くて弱い魔力の膜を作り続けるけど、魔力が消される一瞬一瞬の差を確かに感じる。

 これがガイルさんの魔力の波長。

 それに私の魔力の波長を合わせる。

 自ら魔力に波を打たせるのだけど、無理やりは駄目。

 それは私に対する諸刃の剣であり、病に寝込んでいた頃に後戻りしかねない。

 そんな恐怖が少しだけ生まれる。

 だから、リズムを合わせる。

 ガイルさんの魔力の波動と言うリズムに、自分の魔力を流すタイミングを合わせる。

 そう、音を合わせるように、奏でるように合奏をする。


 魔力が踊る。

 人の魔力と言うリズムに合わせ。

 魔力が歌う。

 後は想いの力。

 想像する力。

 治ってほしいと。

 健全だった頃の姿を思い浮かべ。

 ただ祈るように、魔力で謳う。

 後は想いと想像を確固たる物にする、力ある言葉を歌に乗せるだけ。


治癒魔法(ヒール)


 魔力から伝わる手応えに、そっと目を開く。

 此処からでは、上手くいったかは分からない。

 でも私のやれる事はやれたはず。

 これで上手くいかなくても、仕方ないと思う。

 そうして、ダントンさんに終わった事を告げ、解放されたガイルさんの顔の腫れは、綺麗に引いており。


「い、痛くない」

「すげえ」

「よかった、上手くいって」


 安堵の息を吐く。

 自業自得だと思うけど、流石にあれは痛々しかったし、私の殴った個所は骨折では済んでいなかったもしれない。

 そう思うと……。


「天使だ!やっぱり俺と結婚・」

「寝言は寝て言いやがれっ!」


 ごがっ!


 ダントンさんの手によって、再び鈍い音と共に壁まで吹き飛ばされます。

 私は私で、反射的にダントンさんの後ろに隠れてしまうのだけど……、うん、これくらいは許してほしい。

 だって、怖い物は怖い。

 だいたい私みたいな年端もいかない子供に求婚だなんて、とても普通じゃない。

 私は十一歳だけど、病気のため成長が悪かったのか、見た目的にはもう少し幼く見える。


 幼女愛好家。


 そんな言葉が脳裏に浮かぶと共にに、再び全身を襲う寒気に、思わず両手で身体を抱きしめてしまう。

 ええ、こんな経験、前世を含めてもないです。

 と言うか前世で経験していたら、それはそれでかなり問題あると思うけど、とにかく、訳が分からない不安と寒気に怖くなってしまう。


「だいたい、テメエはミレニアのお嬢さんに、くびったけじゃなかったのか。

 それをまぁ、ミレニアのお嬢さんが嫁に行ったとたんに鞍替えか?」

「今でもミレニアさんは好きだ。

 でも仕方ないだろう結婚してしまったんだからっ。

 そこへミレニアさんに、そっくりな雰囲気の子が目の前に来たら、誰かにとられる前にと思うだろうが」


 ぴくっ。


 目の前で広げられる親子喧嘩に、聞き逃せない台詞があった。

 その事実の前に、体の震えが止まる。

 だってそうでしょ。


「それって、お姉様にも私にもすっごく失礼な事じゃない!」

「え? あっ、その」

「私がお姉様の代わりと言うのもそうだけど。

 お姉様を好きになっておいて、私にお姉様の面影を見て求婚するって事は、お姉様が代わりの効く人間だって事でしょ。

 それは、絶対に聞き逃せない!

 お姉様は代わりの効く誰かなんかじゃない!

 お姉様は、お姉様しかいないの!

 それを私なんかを代わりにしようだなんて、お姉様にすっごい失礼!

「あっ、いや」

「謝って。

 今すぐにお姉様に謝って」

「ご、ごめん」

「私じゃなくお姉様に謝って。

 私はそう言っているの、聞こえなかったの」

「ミ、ミレニアさん、すみませんでした」


 やっと聞けたガイルさんの謝罪の言葉に、自分も冷静になる。

 また、やっちゃったーと思いつつも、今回ばかりは私も謝る気はしない。

 だって、悪いとは思わないもの。

 あーー、でもダントンさんには悪い事をしちゃった。

 これだけ啖呵切っておいて、しっかりとダントンさんの後ろに半分隠れながらだもん。

 しかもズボンの裾を掴んだままで。

 うん、流石に恥ずかしい。

 かと言って、単身で彼の前に出る勇気はないです。

 先程の求婚も実はお姉様に向けていたような物で、私ではないと分かってはいても、植え付けられたばかりの恐怖は、そうそう簡単に無くせない。

 そう言う訳で、ダントンさん。

 もう少しだけ、盾になっていてくださいね。






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