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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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40.山賊親父と職人魂。ええ無茶を言っちゃいます。




「そんな訳で、参考までに描いてみました」

「……コギット爺の言う通り、本当に突然だな」

「なにがです?」

「……いや、気にするな」


 ダントンさんはおかしな事を言う。

 コギットさんの工房と違って、水晶鉱の入口付近にある此処の工房は町から遠く離れている為、お父様経由で今日伺う事は先触れを出してもらっているはず。

 それに今日だってお父様は都合が付かなかったけど、お父様の商会の人が私に付き合わされて、一緒に来ているので少しも突然ではないはずなのに。


「コギットさんから、話が行っている様なら早いです。

 とりあえずこれが詳細の図面です」


 基本的にはシャンデリアの意匠図。

 細かい設計などの図面はコギットさんが書かれているだろうから、私が描いてきたのは、あくまで意匠的な詳細な図面。

 此方もあった方が、仕事がしやすいと思っての事。


「……ふむ、悪くねえ」

「……ふぅ、良かった」

「ん?」

「いえ、この間は問答無用で駄目出しされたので」


 この間と言うのは、作ったワイングラスを見せた時の事で、問答無用でど素人の作品だと駄目出しでしたからね。

 私としては、どうしてもその時の印象が強い為、図面を見せる時に、やや苦手意識が生まれてしまっただけなんだけど。


「ああ、あの時は悪かったな、悪気があった訳じゃねえ」

「職人の方ですから、どうしても自分の視点で見てしまうのは、仕事柄仕方ないと思います」


 それくらいは分かっている。

 ただ、私が新たに描いてきた図面で、私が伝えたい事がきちんと伝わるのか。

 逆に作品イメージを壊してしまい、ダントンさんのお仕事を邪魔してしまっていないか、それが心配だったからです。


「それで、出来そうですか?」

「……そういう質問は狡いな。

 職人が、こんな図面を見せてもらって、出来るかと問われて、出来ねえと言える訳がないだろう」

「す、すみませんそういうつもりでは」

「ああ、勘違いするな。

 俺もそう言うつもりで言った訳じゃねえ。

 光と水晶の輪舞(ロンド)、これほど俺等の水晶職人の魂が踊る題材はねえな。

 お嬢さんが考えている以上の物を作ってやるから、どんどん要望を廻してくれて構わねぇ。

 お嬢さん、アンタからじゃねえ。

 此れは俺等が頼み込んでもやりたい仕事だ。

 俺はそう言いたかっただけだ」


 ダントンさんの言葉に胸が熱くなる。

 だって、こんな事を言われると思っていなかった。

 今迄取り扱った事が無いだろう仕事を持ち込んだ事に、嫌みの一つくらいは言われる覚悟をしていただけに、よけいに嬉しく感じてしまう


「まったく、コギット爺め。

 面倒だが面白い仕事を持ってきたと思ってたが、これ程とは聞いてねえぞ」

「……すいません、私がキチンとこの図面を書いてなかったから」

「……そりゃあお嬢さんの責任だな。

 こう言うのを書けるのなら、最初から書いて話を持っていくのが筋と言うものだ」


 ええ、やっぱり嗜められました。

 だってしょうがないじゃないですか、此処まで話が早く進むと思っていなかったし、あの時はそこまで頭が回らなかったのですから。

 それから私とダントンさんは、コギットさんが書き直してくれた基本骨子の図面と、私の意匠の図面を下に、こちら要望とその可否などを含めて話を詰めます。


「これは、本当に胸が踊るな。

 今からでも、すぐに作業に入りてえぐらいだ」


 私も完成するのが待ち遠しいぐらいに、心躍ります。


「安心しろ、ちゃんと夜は寝る」

「……、……」


 コギットさん、いったい何を話しているんですか。

 きっと私のやらかした事を、色々と酒の肴にしたのだと思うのですが。


「ああ、気にするなアイツは別にお嬢さんを怒ってやしねえ。

 大人相手に、駄目な事を駄目と最後まで啖呵を切れる人間だと、お嬢さんの漢っぷりを褒めてたくらいだからな」

「……少しも褒められている気がしません」

「まぁ、いい。

 じゃあ、完成を待っててくれ、夏に入るまでには仕上げて見せる」


 ええ、確かに完成が待ち遠しいですが、その前に……。


「一応、こんなのも書いてきました」


 そう言って私が肩掛け鞄の中から出したのは、同じくシャンデリアの意匠図面。

 雫型やステンドグラス型、電球のように周りを覆うタイプや、天井で更に反射と散乱させる物まで。

 前世の記憶にあるものや、新たに思いついた物を、とにかく思いつく限りの詳細な意匠図面の束。

 ええ、束です。

 私、勉強も兼ねて頑張りましたよ。


「………」


 椅子から立ち上がり掛けたダントンさんは、再び腰を掛けて図面に目を通してゆくのだけど……。

 ガシガシと頭を搔いたり、貧乏揺すりを始めたりと落ち着かない様子。

 挙句に天を仰ぐように天井を見上げてから、深い深い溜息を吐くと。


「……アイツが言っていた意味が、よーーーく分かった」

「…えーと?」


 何がでしょうか、と最後まで言えなかった。

 何故なら。


「作ってやるよっ! 全部作ってやるさっ!」

「いえ、作るのは取り敢えず一つで良いのですが」

「だあぁぁぁっ! 俺が作りてえんだよっ! それくらい分かれっ!

 って言うか、こう言うのはもっと早く出せってんだっ!」


 ええ、何故か猛然と怒鳴られました。

 もともと山賊かと思うほど凶悪な地顔を、更に歪ませた上に顔を真っ赤にされて怒鳴られると、流石に私も怖いんですけど。

 と言うか、なんで私、此処まで怒鳴られないといけないのか意味不明なんですが。

 とにかくあまりの勢いに平謝りしてしまう。


「はぁはぁ……。

 悪かった、別にお嬢さんが謝るような事じゃねえ。

 ったく、俺は何をやってるんだが」


 なにか自己完結したようで、また頭をガシガシと搔き毟りながら、脱力したように深く椅子に腰掛けてしまう。

 とりあえず落ち着けるように、既に飲み干してあるダントンさんのコップにコップ魔法で冷たい水を注いで渡すと。

 それを飲み干したダントンさんは、ようやく少しは落ち着いたようで。


「こういうのを見ると、お嬢さんが一応は魔法使いなんだって実感するな」

「しょぼい生活魔法しか使えないですけどね」

「まぁ、良いんじゃねえのか。

 お嬢さんの魅力は、別に魔法と言うわけじゃねえしな」

「ふぇ?」

「分かんねえならいい、気にするな」


 気にするなと言われても、気になる。

 私から魔法を取ったら、何が残るのだろうかと。

 まずは、こうして素晴らしい職人の人達とだって、一緒にお仕事も出来なかったと思う。

 そもそも魔法が無かったら、生きていないだろうし、生きていたとしても、今頃はベッドの上で生死を彷徨っていた気もする。

 病気に苦しみながら、世を恨んでいたかもしれない。

 かと言って、これ以上言わせるなと言う雰囲気を纏っているダントンさんに、流石にそれを無視して聞けやしない。

 しょうがないので、別の話を振る事にする。


「そう言えば、硝子細工の方も工房が出来たと聞きましたが?」

「ああ、まだまだ試行錯誤中で売り物には出来ねえな。

 何とか年内には、形にさせるつもりだ」

「あのぉ、見させてもらっても良いでしょうか?」

「分かった、案内する」







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