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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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4.感じる魔力は死の香り。




「……すぅ………はぁ……」


 薄く、そして長く息を吐き、同じように時間を掛けて息を吸う。

 その事を意識せずに自然と出来るようになるまでに、七日の時間が掛かった。

 瞑想の方は、……形だけは何とかなってきたと思うけど、意識しすぎれば気持ち悪さが増大して吐き気を催しそうになるそれを、意識しすぎないギリギリを探って、余裕ができた分を自分の身体の内へ向ける。

 だだ、それで何かを感じると言う訳でもない。

 気がつくのは自分の内にある音。

 とくとくと奏でる心臓の音や呼吸音。

 はては肌に触れる僅かな空気の流れを感じて、それに身を任せるというだけの事。

 たったそれだけの事だけど、凄く落ち着く自分を感じられた。

 意識の向け方を少しでも間違えれば、気持ち悪さに吐き気をもよおすか、集中できずに瞑想にならない繊細なバランスの果てに得た、前世でも感じなかったこの感覚からして、少なくともユゥーリィの身体には、この座禅による精神修行は合っているのだと思う。

 例え椅子の座面に支えられていなければ後ろに、ころんとひっくり返ってしまうとしても。


「すぅ……、はぁ……」


 更に三日の時間が経つ頃には、ふとある事に気が付く。

 これが瞑想と言えるか分からないけど、座禅に集中できている状態の時は、例の四六時中身体に不快を与えてくれる感覚が、普段以上に落ち着いている事に。

 相変わらず、むわんむわんと身体の中を不快に巡っている感覚はあるのだけれど、不規則な波のように揺れて襲っていたそれが、比較的規則的な波になっているため、前ほど不快に感じないだけなんだど。

 それだけで物凄く楽に感じる。

 大袈裟に例えるなら、以前は横向きのドラム洗濯機に洗われている洗濯物の気分だったのが、今は鳴門海峡の渦巻の外側でグルグルと一定方向に回されている程度。

 何方も酷い事には違いないけど、酷さに差があると言うのは分ってほしい。

 だから、余計に座禅に集中できる。

 それで何かが分かると言う事はないけど、

 ゆっくりと、小さくて薄い胸がゆっくりと起伏する呼吸も。

 とくとくとリズムよく刻む心音も。

 白い肌を優しくなでてくれる空気の流れ。

 屋敷の外から聞こえてくる鳥達の囁き。

 風に揺れる木々のさざめき。

 それが心地よく感じる。

 自分がその中の一部出るかのように、それに身を任せる。


「ユゥーリィ!」


 だから、いきなりのお姉様の叱責の声に驚き、身体がビクつく。

 目を大きく開ければミレニアお姉様が、私、怒っていますという顔でズンズンと向かってくる。

 ぇ……えーと、何故?

 周りを見れば、いつの間にか陽が大きく傾いてはいるから、お姉様が帰宅された事に何ら驚く事ではない。

 だけれどお姉様の表情を見るかぎり、普段は優しくてかわいい顔を崩させている原因は私にあるようだけど、その原因が分からない。

 その態度が表に出たみたいで、お姉様は呆れた様に大きく息を吐いて。


「ユゥーリィ、なんて格好しているの!

 足を戻しなさい」

「え?」

「聞こえなかったの?

 私は大股開きにして組んでいる足を下ろしなさいと言っているの」

「……ぁ」


 聞こえていなかった訳ではないけど、どうやらお姉様からしたら、座禅は怒るに値する事らしい。


「ユゥーリィも、もうすぐ六歳になるんだから、そろそろ女の子としての嗜みを少しは身につけなさい。

 女の子が大股開きしたり、胡坐を組むと言うのは物凄い恥ずかしい事なんだからね」


 ぁぁ……どうやら、この世界では女性の胡坐は、とても恥ずかしい事みたい。

 座禅の足の組み方と胡坐は違うのだけど、座禅を知らないお姉様からしたら同じにしか見えないだろうから、それは仕方がないだろう。


「えーと、でもこの方が楽で」

「楽でも駄目なものは駄目なの」


 珍しいお姉様の強い言葉に、思わず零れ出た本音が癇に障ったのか、お姉様の綺麗な眦が一層きつくなる半面、口調は優しいままなのが逆に怖い。

 うん、前世の元カノや妹もそうだったけど、こうなったら抗うだけ無駄で、大人しく言う事を聞くのが一番だと学習している私は、素直に足を戻す。


「ほら、服に皺が寄っているでしょ。立って立って」


 そう言ってお姉様は立ち上がった私の服を手で払うように、優しく服を整えさせてくれる。

 今着ている私の服は楽なワンピースで、薄い若草色の服はお姉様のお古ではあるけど、裾は足首近くまであるため、多少の事では捲れるような事はない。

 その辺りはあまり考えずに座禅を組んでいたため、少しだけ捲れあがっていたけど下着までは見えていないはず。

 胡坐や座禅で足を組んでいる事がはしたなと言うなら、次からは……。


「一応、言っておくけど、スカートの裾を広げて足を隠したって、はしたない振舞いには違いないからね」

「ソ、ソンナコト、…カンガエテ…ませんよ」

「……ユゥーリィ、駄目だからね」


 この夜、ミレニアお姉様から報告を受けたお母様から、しっかりとお説教と淑女としての心得を延々と聞かされた挙句、今回の件を【ユゥーリィ大股開き事件】として家族全体に報告され、しばらくの間、【淑女の嗜み初級】として立ち居振る舞いに家族全員の目が光ったのは、また別の話しだったりする。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「うぅ、……足が痺れる」


 もうすぐ六歳とは言え、五歳で淑女の嗜みを自覚しろと言うのは無理があると思う。

 それに確かに【ユゥーリィ】として生きてきた記憶とかあるけど、中身の大半は三十路に入ったオジサンです。

 ユゥーリィとして生きていた年数を加算すればアラフォーであり、淑女として自覚しろと言われても、困るとしか言いようがない訳で……。

 そのおかげか知らないけど、病気を理由に今まで甘やかしすぎた、最低限の淑女としての立ち居振る舞いを身につけさせねばと、お母様とミレニアお姉様が張り切り、お父様もその意見に大賛成。

 お兄様は一応は『ユゥーリィはまだ小さいんだから、もう少し伸び伸び育てても』と言ってくれたのだけど、お母様とマリアお義姉様から反論にアッサリと白旗をあげる始末。

 味方をしてくれるのなら、せめてもう少し頑張るか、最初から意見を口にしないで欲しかった。

 これでは反対意見は一応出たけど、家族全員で話し合いをした結果で、貴女のための苦渋の決断なのよと言っているようなもの。

 そんな訳で座禅が禁じられた為、正座にての瞑想を励んでいた訳だけど、……結果は見ての通り。

 前世では正座は苦手ではあったものの、やっぱり子供で体重が軽いせいか、前世の時よりだいぶ楽。

 それでもやっぱり長時間正座していると痺れるのは免れない訳で、……うぅ、まだ痺れてる。

 一応、正座の前に女の子座りや普通に椅子に腰かけた状態とか、色々試してはみたものの、座禅ほど集中できなく、次に集中できたのが正座だったと言うだけ。

 ちなみにこの正座、お母さまやミレニアお姉様曰く『はしたなくはないけど、痛くはないの?』だそうで、疑問に思われながらも黙認をもらっている。

 正座って、姿勢としては綺麗だと言うのもあるでしょうけど、子供のする事だから、と言うのが正直な感想だとは思うけど。


「……それでも、なんとか慣れたかな」


 うん、試行錯誤するのに三日、さらに正座に切り替えて三日しか立ってはいないけど、基本的に毎日が暇なおかげで慣れたと言えるようにはなった。

 でも、それは瞑想に入る事に慣れただけで、肝心の魔力を感じ取ると言う事は、相変わらず少しも感じ取れない。

 瞑想している間は体調が少しだけ良くなるから、これまでの事が全く無駄だったと言う訳ではないけど、本来の目的と結果が違っているだけの話。

 せっかくファンタジーな世界に転生したと言うのに、それを体験もしないうちに病気で短い人生を終えるなんてのは流石に嫌すぎるから、まだまだ続けるつもりではある。

 はっきりと直接言われた訳ではないけど、生まれたから何度も生死を彷徨うような高熱に、直ぐに寝台に伏せる病弱な身体。

 物心つく前からずーっと続いている原因不明の、むわんむわんと不規則に体を揺するように身体中をめぐる不快な感覚。

 そしてそれに伴う吐き気と嘔吐が、その言葉の信憑性を語っている。

 家族はそんな私を不憫に思いながらも、なるべく普通に育てようと接し、愛してくれている事は、とても嬉しいし感謝もしている。

 下級とは言え貴族の家に生まれたからこそ、今まで生きてこれた事を許されている事実と、それだけ迷惑をかけているにも関わらず、愛されている環境を考えれば、私はとても幸せなのだろう。

 それは分かってはいる。

 それでも成人する事はできないと言われている以上は、魔法も見てみたいし、扱ってみたいと言う夢ぐらいは許されて欲しい。


「……魔力か。

 ……せめてその魔力がどんな感覚なのかさえ書いてあれば良かったのに」


 だから、つい愚痴が溢れる。

 感じとれ、それだけで何を感じ取れと言うのか。

 前世の俺は超能力者でもジェダイでもない。

 どこにでもいる、ごく普通のサラリーマンだったのだから、あまり無茶を言わないでほしい。

 ここ半月の試行錯誤で得れたのは、僅かばかりの実践を共わない魔法に関する知識と、瞑想による集中力の向上に、淑女の立ち居振る舞い初級、それと足の痺れくらい。

 これでは愚痴の一つも言いたくもなる。

 運動にしろ勉強にしろ、結果がを望むには早すぎる期間だと言うのは分かってはいるんだけどね。

 だからこれは、ちょっとした気分転換のための愚痴であり、どうせ病気のおかげで時間だけは持て余しているのだから、せめて半年は続けてから次の手段を考えてみようとは思っている。

 もしかすると何か別の方法が見つかるかもしれないし。

 あっ、そう言えば、例の不快な感覚の軽減も立派な成果といえば成果か。

 半年も続けてたら、絶えずその状態に持ってこれるかもしれないと思えば、少しだけやる気が出てくる。


 あれ?


 ふとそこで疑問に思う。

 あまりにも当たり前すぎて浮かばなかった考えに。

 生まれてからこの方、ずーーっと付き合ってきた感覚で、私にとってそれは当たり前すぎていて、【相沢ゆう】の前世の記憶と意識が目覚めた事によって、初めてそれが不快であり、苦しみだと気がついた感覚。


「……もしかして、これが魔力とか?」


 つい笑ってしまうような考え。

 だから駄目元で試してみる

 不規則に身体中をめぐる嫌な不快な感覚を、正座で時間をかけて瞑想する事で、不規則で揺れる感覚を、なるべく規則的な流れに意識する。

 だから、これからやる事は初めての挑戦で、今まで、この嫌な不快な感覚に意識を向けすぎると、不快さを強く感じてしまい、吐き気と嘔吐を引き起こしてきた。

 でも、それはよくよく思い返してみれば、不快な感覚が不規則で揺れるような間隔の時。

 時間を掛けての瞑想によって、やや落ち着いた状態の感覚に強く意識を向けた事はなかったと思う。

 だから、この状態であえて意識を向けてみる。

 ううん、この流れに身を任せるように意識してみる。

 ぐるぐると、ゆっくり流れるように。

 身体中の血管に酸素と血液が巡るように、その不快な感覚を幻視してみる。

 ぐるぐると、流れるプールにゆったりと身を任せるように。


「……すぅ……はぁ……」


 あぁ〜、やっぱりだ。

 不快な感覚を制御してみる事に意識する事によって、不快な感覚は不快ではなく、身体の中をゆったりと巡るのが分かる。

 実際、人は血管の中の酸素や血液の流れを感じる事はできない。

 前世の最期、交通事故によって体から何かが抜ける感覚だってそうだ。

 その一つは確実に血液が身体の外に抜けている感覚だったと思うけど、あれは違う。

 身体の中の圧力が減ったのと、流れ出た血が皮膚を伝う感覚だっただけにすぎない。

 だけど、今、感じているこれは、なんと言うか暖かい水がゆったりと身体の中を巡っている感覚で、でもそれは物理的ではない何かで、感覚は錯覚でありながら実態という言いようのない感覚。

 多分、これが魔力を感じると言う事。

 【ユゥーリィ】には、あまりにも存在が当たり前過ぎていて気がつかなかった存在であり、【相沢ゆう】にとっては、【ユゥーリィ】の記憶と病気ゆえの症状として当たり前の存在としていた物。

 ただ、それが魔力という名の存在だとは知らなかっただけで。


「はははっ、……ぁっ」 


 思わず笑ってしまったことで再び大きく乱れる魔力に焦る。

 魔力の流れが大きく乱れる事によって、例の不快さが一層強くなって吐き気を呼び起こす。

 だから強く意識する。

 ぐるぐると身体中を巡る魔力の流れを誘導する事を。

 暴れ馬のようなそれを必死に宥めるように、呼吸を浅く長く行い、制御の言葉を意識しながらも今はまだ魔力の流れに身を任せる。

 そしてそれはどれくらい続けていたのだろうか?

 はっきりと時間の感覚はない。

 ただ……。


「ユゥーリィっ!」


 お父様の慌てた声に、瞑想が途切れてしまう。

 何故かいつもより早く帰宅したお父様、そのお父様が此方にくる足音がいつもとは違っている事に気がつき、更には慌てるお父様の向こうに見える景色から、すでに陽が大きく傾いているのだと知る。

 どうやら思っていた以上に、長い時間魔力を制御するための瞑想を続けていたみたい。


「こんなに汗びっしょりでっ!

 おいっ誰か! ユゥーリィがまた熱を出したみたいだ」


 私を慌てて抱え起こしたお父様の言葉に、初めて自分の状態に気がつく。

 べったりとする服に、顔に張り付く髪の毛。

 身体の中はどこか熱っているのに、汗によって冷える相反する感覚。

 そしてお父様の突然の行為に、抵抗しようにも力の入らない身体。

 魔力をただ感じ制御を試みてみただけ、と言う慣れない事をしたためか、それともそれだけの負担がかかるのか、この日から三日ほど私はまた寝込む事になった。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「もう大丈夫そうね。

 でも良かったわ。今回は酷くならなくて」


 手で額の熱を測っていたお姉様の言葉に、やっとベッドから出るお許しをもらえたと安堵する。

 熱そのものは翌日には下がっていたにも関わらず、安静のためと言ってお手洗い以外ではベッドから出してくれなかった。

 そこまで過保護にしなくてもと思いつつも、今までに何度も生死を彷徨った事があるだけに、そんな事は思っても口にはできないし、こうして見捨てられずに心配してくれるだけ有り難い限りで、感謝の言葉しかない。


「ユゥーリィ、まだ小さいからというのも分かるけど、少しでも体調が悪いと感じたら、きちんと部屋に戻って寝る事。

 お父様、物凄い慌て様だったんだからね」

「……ごめんなさい、ただ今回は本当に気がつかなくて」

「……そう」


 お姉様の当たり前の言葉に返した私の言葉に、お姉様は視線を少しだけ他所に外して小さく答えてくれる。

 その事に、やっぱりお姉様も私の病状の事を知っているんだと確信すると共に、申し訳なく思う。

 ミレニアお姉様は私と七つ違いの十二歳。あと二月もすれば十三歳とはいえ、前世ではまだまだ子供と言える年齢。

 本当は自分の事で精一杯だろうに、それでも病弱な妹に愛情を向け、こうして気を使ってくれている。


「とにかく、お父様達をなるべく心配かけないように、自分で気をつけれるだけ気をつけて。

 ユゥーリィはやればできるんだから、ねっ」

「はい、分かりました」







2020/03/01 誤字脱字修正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字が多いですね; 接続詞が苦手なように見えます。 恐らく書き直した際に接続詞で区切って書かれているのかと思われます。 今のところ、随時誤字報告していきます。
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