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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
39/976

39.計算尽から始まる友情があっても良いと思います。





「ユゥーリィ、綺麗! 似合う! 可愛い!」

「これは、なかなかですな。

 此処まで来られるのに、さぞや視線を浴びられたのでは?」

「神父様、私のような子供にまで、その様にお褒め戴き有難うございます。

 あと、エリシィー興奮しすぎだから」


 お父様に贈り物に付き合うと決めた日数の最終日。

 私は用事があって教会に足を運んだのだけど、御覧の通りの反応。

 反応が面倒くさいので、一応はナチュラルメイクにしてあるのだけど、女性陣にはキッチリと反応され、社交辞令に長けた神父様も御覧のとおり。

 ちなみに途中で会ったダルダックお兄様は、不思議そうに首を傾げていました。

 どうやら何か違うのに、何が違うのか分からないと言ったところなんでしょうが、ダルダックお兄様、そんな調子で奥様を怒らせていないか心配です。

 無論、私はお兄様のそんな所を咎めたりしませんよ、面倒くさい。


「でもどうしたの、どうしたの。ユゥーリィ、遂に目覚めちゃた?

 ユゥーリィの中に眠っていた女の子を自覚しちゃった?」

「どうどう、エリシィー落ち着いて」


 何やら大きく勘違いしているエリシィーを宥める。

 だいたい、以前に屋敷でドレス姿をさせられた時に、私の化粧した顔を一応は見ているでしょうが。

 まぁ、あの時は肌の色に合う物がなかったので、簡易的な化粧止まりだけど。


「私は馬か!」

「違った?」

「違うわよっ。

 で、真面目な話、どうしたの?」


 うんノリの良い友人で、私としてもそう言う反応は嬉しい。

 でもやっぱり話は戻るのね、と苦笑しつつ。


「お父様が勝手に私用の化粧箱を用意しちゃったから、少しぐらいは付き合ってあげないとと思ってね。

 今日で最後の予定だけど」

「うん、納得したわ。

 やっぱりユゥーリィはユゥーリィね。

 心の底から、本気でもったいないとは思うけど」

「そうですな、私もそう思います」

「神父様、我が家はもともと化粧っ気の少ない家ですから。

 それとエリシィー、貴女とは一度とことん本気で話し合いたいわ。

 貴女の中の私が、いったいどうなっているのかを」


 神父様の反応はともかく、エリシィーの『え? ユゥーリィはユゥーリィでしょ』と言う反応には突っ込みたい。

 それを一度話し合いたいと言っているのにその返しはないと思う。

 ノリとツッコミという意味では正解ではあるけど。

 まぁ、今日はそんな事を言いに来たのではなくて。


「今日はエリシィーにお願いがあって」

「ん、なになに?

 また着せ替え人形になるっていう以外なら喜んで」


 いつか我が家で催したエリシィーのファッションショーの事を言っているのだろうけど、せっかく可愛かったのに、そんなに嫌がらなくてもと思いつつ。


「新商品の試作品を試用してもらって、忌憚の無い意見が欲しくて」

「私で良いの?」

「ええ、もちろん。

 だってエリシィー私に遠慮なんてしないでしょ」

「ええ〜、一応はしているつもりなんだけど」

「私がそう言うのを求めていないと分かっているから、気を使って遠慮なく接してくれているんでしょうが」

「あっ、ばれてたか」

「当たり前です。

 これでもエリシィーの事を、親友だと思っているんですから」


 教会である以上、関係者であるエイリシィーも当然ながら、それなりの教育をされている。

 実際に今まで苦労している分、同年代の子よりよほど利発だし、周りをよく見て機転をきかせている。

 だけどそれを私に敢えてしないのは、エリシィーが聡明で、それでいて色々と気を使える子だから。

 あと、本来の性格と言うのもあるだろうけど、やっぱりエリシィーがとても優しい子と言うのが一番しっくりくる。

 まぁ多少の計算もあるだろうけど、それはお互い様。

 そうでなければ、神父様や小母さんが黙っているはずがないもの。

 だからそれを分かった上で、これからも付き合って行きたい。

 例え、いつか別れる時が来るとしても。


「お待たせしてすみません。

 此方の方にお願いいたします」


 私が教会の敷地の入口付近で待っていた人達にお願いして、エリシィー母娘の住う部屋の前まで運んでもらったのは、コギットさんの工房で作られた試作品の照明付きの上置棚。

 せっかく屋敷に運んでもらったけれど、正直、私には魔法があるので不要な物。

 かと言ってお父様が使うには、少し格が足りない。

 下級貴族である男爵家とは言え、仮にも領主の書斎に置くには少しばかり問題があるし、なにより上置棚と言うのがありえない。

 基本的に貴族の書類机は、社長室にある様な見渡しの良い机。

 一方、私の部屋にある様な私室の机や、エリシィーが使っている様な一般的な机は、壁や窓向きが前提の机。

 つまり学習机のような上置棚その物が、お父様が使う様な書類机にはありえない。

 あくまで、この照明の使い心地を元に、見栄えも良く使い心地も良い照明を設計する必要がある。

 そして主目的は、照明器具の問題点の洗い出し。

 そう考えると、魔法を使える為必要性を感じていない私は対象外であり、化粧気の少ない我が家の女性陣も同様。

 最初から、エリシィーに試させるつもりで上置棚にしてもらったの。

 試用頻度が高そうで、忌憚無い意見を言ってくれる人物。

 なにより……。


「始めたんでしょ、写本のお仕事。

 なら、あった方が便利でしょうし、これなら油代もいらない」

「えーと本当に良いの?」

「ええ、その代わりダメな所や、こうだったらなぁと思う事は、遠慮なくキチンと教えて欲しいの。

 お父様の商会の新商品が成功するかしないかも、それに掛かっているから」

「うわっ、責任重大」

「ええ、だからこれは貸与と言う事になるわ。

 新商品の本体部分の寿命の確認もあるから、もう貴女の物と言っても良いけど、その代わり製品になるまでは外部への情報流出には気を付けてね、私の責任にもなるから。

 そう言う訳で神父様もお願いしますね」


 私の刺す釘に神父様は困った顔をされるが、これくらいは巻き込まれてください。

 教会経由で安く融通している商品のお代の一部、そう思えば問題ないでしょ。

 どうせこれらの新商品が出回り始めるまでの間の事ですから。

 あっ、違いますか、自分も欲しかっただけですか。

 でも神父様、最近日が暮れると、すぐ寝てしまわれると聞いていますけど?

 ああ、なるほど、最近目が衰えて、薄暗い部屋の中での書類仕事や、お手紙のやり取りにですか。

 ええ、新製品が出たら、是非とも御購入をお考えください。

 その頃には教会の神父という役職に相応しい格のある商品が、きっと出来上がっていると思います。

 無論、日頃お世話になっている神父様のためですから、お値段は勉強させていただくよう、お父様にお願いしておきます。

 ええ、それはそれ、これはこれです。


「あとエリシィー、これだけは注意しておくけど、

 夜遅くまで起きてちゃ駄目よ。

 貴女自身の健康も心配だし、小母さんに心配を掛けさせるのも問題よ。

 それとも、貴女にはこう言った方が良いかな。

 貴女が遅くまで起きていると、小母さんも眠れないから身体を壊す原因にもなってしまうわ」

「ゔっ、確かにそれだけは避けたいわ」


 ここまで言っておけば、母親思いのエリシィーは無理しないと思う。

 もともと写本の仕事を紹介してくれるようにお願いした時に、相手はまだ子供で本業が別にあるから、決して無理させないような量という事でお願いしてある。

 リズドの街で本屋を営むライラさん曰く、書籍ギルドの写本のお仕事は、もともと副業としている方が殆どなので、仕事量よりも信頼できる相手と、長い期間で仕事をする事を好む傾向があると言っていたから、大丈夫だと信じているけど、保険は掛けておきたかったの。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「と言う訳で、コギットさん、次の商品の開発に入ります」

「……あのなぁお嬢さん、いきなり『と言う訳で』と言われても、俺には意味が分からんのだが」

「そこは分かった振りをしてくだされば十分です。

 そう言う訳で、次は広間用の照明です」

「まだ、ドレッサーも書類机も出来とらんのだが」

「どうせ其方は其方で設計は進めているのでしょう?

 試作品での問題点や改善点の洗い出し待ちな所もあるし、ある程度は期間をおかないと分からない事も多いですから」

「お嬢さんには敵わねえな」


 何か天井を見上げて色々と諦めたような顔をされているけど、この際それはどうでも良いので放っておく。


「コギットさんのおかげで、魔力伝達用の紐を実用化出来たので、そう複雑ではありません」

「……これがか?」


 私が描いてきた新商品の意匠図と簡単な図面に、コギットさんは訝しげに私を見てくる。


「そうですか?

 基本、輝結晶に魔力伝達用の紐を繋いで、反対側に椅子の座面、又はマットに繋ぐだけですよ。

 無論、フックと言う選択もありだとは思いますが」

「そうだな。それだけなら、大した問題ではないな。

 俺が言いたいのは、此処の所なんだが」


 そう言ってコギットさんが指差したのは、この輝結晶を使った照明の最大の売りであるシャンデリア部分。

 この世界にある燭台のお化けのような物ではなく、輝結晶を中心にして、小さな水晶を光の散乱材としてふんだんに使った逸品。

 既存のシャンデリアにはあまり使われない理由としては、ロウとヤニとススが付着して、すぐに曇ってしまう為、お手入れにあまりにも手間が掛かり実用的ではないと言うのが主な理由。

 でもこの輝結晶では、そんな心配は一切ない。


「試作は安価な硝子細工でも良いですけど」

「そう言う事じゃなくてな」

「ちなみに此方の作業は、ダントンさんの所の工房にお願いしようと思っています。

 商品化になれば、部品の加工そのものは彼方のお仕事になるでしょうし、一度全体を作って貰った方が、これからの仕事もしやすいでしょうから」

「……なるほど、そう考えれば確かに複雑じゃねえな。

 ダントンの奴はさぞ困るだろうが、……いや、アイツも職人の端くれだ、こう言う面白い仕事は喜んでするはず。

 無茶な設計に頭を悩ますだけでな」


 とりあえず納得はしてくれたようです。

 でもそんな無茶な事を言っているつもりはない。

 一応は前世でもある物だから、おかしくはないはず。

 ただ効率良く光の散乱させるカッティングや、なおかつ美術性の高いデザインにするのにそれなりの苦労をするとは思うけど。


「大丈夫です。

 ダントンさんはコギットさんと同じく、素晴らしい魔法の手をお持ちの方ですから」

「はぁ……、魔法の手か。

 お嬢さんに、そんな笑顔でそんな事を言われたら、断れる職人はいねえな」

「買いかぶりです。

 私は、ただお二人や、皆さんが素晴らしい腕をお持ちになっているって知っているだけですし、その腕を信用しているだけです。

 私の勝手な思い込みですけど」


 なのに何故か深いため息を吐かれた挙句。


「分かった分かった其処まで持ち上げんでも、やる事はやるさ。

 此処まで付き合ったんだ、最後まで付き合う覚悟はとっくに決めてある」


 と言われてしまう。

 別に持ち上げているつもりはないのですが。


「ダントンの所には俺が話を持っていく。

 もう少しマシな設計にしてからの方が、打ち合わせもしやすいだろうからな」


 ついでに駄目出しも出されました。

 確かに意匠図と簡易図面だけですから、シャンデリア用の設計図面を起こし直す必要はありますよね。

 うん、その辺りも少し勉強しておかねば。






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