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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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38.鋼線使いと封印されし魔導具。




「………ふぅ〜」


 集中していた神経と身体を解すように、ゆっくりと息を吐き出す。

 目の前に置いてある浅い木箱の中には一枚の鏡。

 ではなく、実は魔法銀(ミスリル)

 形状変化の魔法で、髪の毛一本ほどの厚みで均一に伸ばす練習をしていた所。

 嘘です、髪の毛一本ほどは流石に無理で、二本ぐらいです。

 それはともかくとして、鏡の様に写るのならば、一応は成功の部類だと思う。

 春頃にやった時には、もう酷かった。

 今、使っている木箱より小さいものを使っていたにも拘わらず、あちこちに穴が空いているわ、表面が凸凹だわ。

 こうして、やっと十回やれば数度程度は上手く行く様になった。

 コギットさんが大量に魔法銀を仕入れて来たので、もう少しだけ量をお借りしたんだけど、小さい箱から大きい箱に変えるのは、そう難しくはなかった。

 ある程度の魔力の出力を安定させるコツさえ判れば、単純に集中力の違い程度の差。

 あとは同じ事を数秒でやっても、数分でやっても同じ結果を得れる様になれば、今のところは満足かな。

 ちなみに時間を掛けてやる方が難しいけど、短時間でやるのもそれなりにコツがいる。

 魔導具で扱う材料の中には、時間を掛けて馴染ませるものもあれば、時間を掛けずに一気にやらないといけない物もあるらしいため、両方とも練習している。


「とりあえずこれが出来る様になると、形状変化の基礎は習得かな」


 この練習方法は、アルベルトさんが書いた魔導具師入門書に記載されていた方法。

 魔法銀は何度でも練習できるけど、基本的に未加工であれば、魔力を帯びた物質はこの魔法で形状変化が可能らしい。

 つまり魔物を素材にしたものを加工しようとすれば、この技術が役立つ。

 ただ魔物の素材の加工は必須ではなく、それなりの職人であれば加工は可能らしい。

 あくまで上位魔導具の加工に必要な技術と言う事。

 私の場合、職人になれるほど手先に自信がある訳ではないので、逆に言うと覚えないといけない必須技術だったりする。

 と言うのは建前で、基本的に広く浅くやりたいだけとも言う。

 そのためには、覚えておいて損はない魔法だからね。


「次はこっちを試してみるかな」


 収納の鞄から取り出したのは、コギットさんのおかげで作れる様になった魔力伝達コード。

 これも少しだけお借りしてきた、……ほんの二十メートルほど。

 ええ、ちっともほんのと言う量じゃないですよ。

 でもねコギットさんに少し借りたいと言ったら、そのまま束を寄越してきたんだから仕方ないじゃないですか。しかも二束もです。

 機械の調整時に作った奴だから、製品用には回せないと言って。

 じゃあ試作品用にと言ったら、今度は怒鳴られました。

 試作品であろうが、製品と同じつもりで作らなければ何ら意味がないと。

 製品開発に関わるつもりなら、それぐらい分かっておけと。

 しかも私が持っていかないと、バラして魔法銀だけ回収するのも結構面倒だと。

 なんでも機械の調整で一番時間がかかったのが、この回収作業だとか……。

 すみません、面倒な仕事を頼んでしまって。

 そう心の中で謝りながらも、お借りしてきたのだけど。


「それでコッチを先端に結んで」


 もう一つ取り出したのが、柱が真っ直ぐに立っているかを確認するため道具で、下げ振りと言う名の道具の先端の重り。

 要は円錐状の鉄の塊に、紐を吊るための輪っかがついた物。

 今回は紐の代わりに魔法銀のコード。

 それで持って部屋の反対側の壁には、立てかけた分厚い木の板。


 ガッ!


 視線と共に魔力操作に従った円錐状の金属の塊が、分厚い木の板に突き刺さる。

 そして次の瞬間には、小さな輪を何層にも作りながら私の腕に巻かれ、重い先端の部分だけが掌に収まっている。


「……凄い」


 形状変化と力場魔法の複合魔法による結果に、自分でやっておいて驚く。

 いくら魔力で補強をしていたとはいえ、今の動きに耐えられる魔力伝達コードを作ったコギットさんの技術力に改めて驚くばかり。

 何故なら魔法銀の糸だけでは今の動きには耐えられない。

 それは散々形状変化の練習で、魔法銀を扱った私が言うのだから間違いはない。

 しかもコードと言っても、イヤホンのコードぐらいの太さ程度なので、二十メートル在ったとしても(かさ)その物は知れている。

 もともとは鋼線使いと言う厨二的発想だったけど。

 力場魔法だけでは動きにキレが悪いので、形状変化魔法と組み合わせてみたら、御覧のとおり。

 我ながら恐ろしい物を作ってしまった。


 ガッガッ。


 今度は一瞬の中に二往復、もとい二連撃。反応速度も上々。

 魔法銀の糸の太さ的に流せる魔力量は知れているので、魔法の発動とまではいかないけど。

 十二分に脅威となり得る威力と操作性。

 今の私の魔力制御なら他の攻撃魔法を片手に、余裕で十本以上を操れる自信はある。


「……封印かな」


 別に戦争をしたい訳でも、暗殺者になりたい訳でもない。

 厨二的な発想はあっても、そう言う殺伐とした生活は、全力で御免被りたい。

 狩猟にはボウガンがあるので十分なので、使い道があるとしたら、せいぜい崖を降りる時に楽ができるくらいかな。

 それもブロック魔法で大抵は用は済んでしまうから、使う事はまずない。

 魔導具の商品には使えない、武器にも使わない、となると非常時用のロープ代わりにしか用途が浮かばない。

 なんとも高価なロープだと我ながら思う。

 コギットさんが返却不要と言うのだから、さして邪魔になる物でもないので、御好意に甘えることにしておこう。

 いつか何かの役に立つかもしれないしね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そんなある日の夕食後、家族の団欒中に改めてお母様に呼ばれて向かった部屋で。


「お父様から、ユゥーリィへの贈り物だそうですよ」


 そう言われて視線を向けた先には、………どう見ても化粧箱。


「……ユゥーリィ、面倒くさいとか思ってませんわよね?」

「……正直」

「はぁ……、ミレニアが貴女くらいの時には、黙っていても人の部屋に入り込んでは、化粧をしていたと言うのに。

 まぁ結果は貴女が想像している通りでしたが」


 いえいえ、お母様、別にお化け屋敷メイクだなんて思ってませんよ。

 親愛なるミレニアお姉様に、そんな失礼な事を思う訳がないじゃありませんか。

 ……ただ、愉快な結果になっただろうなとしか。

 すみません、お姉様、心の中でさえフォローできません。

 それと化粧の腕前が上達している事を、心より祈っています。


「結果、嫁入りの話が出るまで、口紅くらいで終わっていたんですけどね」

「我が家の化粧気の無さは、そう言う理由だったのですね」

「……こほん、ユゥーリィの思いは分からない訳ではありませんが」


 でうですか、お母様も本当は面倒だと思っているのですね。

 でも、教会のミサの時以外にも時折してはいるから、そうとも言いきれないのか。


「あの人的には、この間の件での御機嫌取りのつもりなのでしょうが」

「もう気にしていないのに」

「そう言わないの。

 水晶工房に行った時、貴女が珍しく自分から化粧をしたので、お父様としてはそれが嬉しかったのだと思います」

「別にあれは、お父様に恥を掻かせないためですから」

「そう言うユゥーリィの心遣いは、母として嬉しく思います。

 何方にしろ貴女の肌の色に合わせたものばかりですから、貴女にしか使えません」


 お母様の言葉に観念して、お父様の贈り物を受け取る事にする。

 アルビノである私の肌は白く、この世界にはないけど白磁の様な白さ。

 普通の市販品の化粧品では、この肌の色に合う物は存在しない。

 つまり私用の特注品。

 此処までされて受け取らないのは、お父様の顔を潰す事になってしまうし、流石のお父様も娘のために用意した贈り物を突き返されたら、凹むと思う。

 立ち直りさせるのに面倒臭いほどに。


「……とりあえず、お父様に恥を掻かせる訳にはいかない場でのみ、と言う事なら」

「せめて、明日からは三日ぐらいはしてあげて頂戴」


 確かに贈り物がそのままタンスの肥やしになっていたら、贈り主としては凹むよね。

 お父様には色々として戴いているから、それくらいは我慢するのもしかたないか。


「……お母様、贈り物と言うのは、相手に喜ばれる物を贈るのが基本だと思うのですが」

「ユゥーリィ、殿方の贈り物と言うのは、大抵は自己満足の物と言う事を覚えておきなさい。

 自分の望む物が欲しい場合は、相手が動く前に此方からそれとなく伝える物です。

 それと親からの贈り物と言うのは、親の期待や要望と言うのもありますから、今回はあの人に付き合ってあげて頂戴」


 前半はともかく、後半は分かる話なので、諦めてお父様に付き合う事にする。

 お母様の言う三日は流石にと思うので、せめて十日ほどは。

 別に、脳裏に三日坊主という言葉が、浮かんだからじゃないですからね。






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