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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
37/976

37.素敵なお爺様には、可愛い子がハグをしてあげます。





 お父様と絶賛喧嘩中の事、三日目。

 まぁ言葉遣いとしてはどうかと思うけど、自分でも呆れているから仕方がない。

 とにかく、お父様の全面降伏とお母様の取りなしもあって、そろそろ許してあげようかな、と思ったところに、コギットさんの工房の人から使いが来ました。

 何でも試作機として、見せられるレベルの物になったとか。

 一瞬、お父様が私へのご機嫌とりのために、裏から手を回して急がせたのかも知れないと邪推してしまうあたり、私もどうかと思ってしまう。

 ええ、もしそうなら、きちんと口を聞いてあげますよ。

 今までお話しできなかった分を取り戻すかのようにたっぷりと。

 そうでないと、お説教が出来ないじゃないですか。

 とりあえず、今はお父様を信じるとして、早速、工房へと向かう。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「凄いじゃないですか!

 これ、私の想像以上です」


 動力は人力でありながらも、目の前で繰り広げられているのは、まるでどこかの工場のような製造ライン。

 太めのバーベキュー串くらいの型に流し込まれた魔法銀(ミスリル)を、ラインにセットすると延圧ローラーに引っ張られるように押し出されながら次のローラーへと押し出され。

 ローラーを通る度に細長くなってゆき最後には糸ぐらいの太さになってドラムに巻かれてゆく。

 そしてそのドラムを別のラインにセットすると、今度は魔法銀の糸に添うように太い糸と絡みつき、さらに別の種類の糸がその二本を包む様に編まれてゆく。

 そして出来上がったのは魔法銀の糸を保護したコード。


「苦労したぜ。

 糸状にする方はともかく糸を編む方がな。

 鉤針の角度と張りの調整で何とか、ピッタリと編める様になったが、どうしても強度が不足していてな。

 芯材となる糸と、編み込みを二重にする事で何とか形になった」

「コギットさん天才です。

 こんな仕掛けを、こんな短期間で作り上げるだなんて」


 ええ、もう絶賛の雨霰です。

 幾ら褒めても褒めたりません。

 本当にコギットさんの技術には尊敬するばかりです。

 ここまで作り上げるのに、どれだけ苦労した事だろうか。

 そう考えると、どう労って良いのか分からない程です。


「そこまで褒めてくれるのはありがたいが、元はと言えばお嬢さんの発想を元に作り上げた物だ。

 俺は組み上げて調整しただけにすぎん」

「いえいえ、あんないい加減な発想と図面を元に、此処まで形に出来るコギットさんの技術が凄いんじゃないですか。

 だいたい発想と言ったって、延圧ローラーも編み込みの仕掛けだって既存の技術ですから、それを組み合わせただけです」

「それ、金属板を延ばす奴と、手袋の指先を作る機織り機の奴だろ。

 普通はそれをくっつけようなんて思わねえぞ」

「残念、金属板を延ばす方ではなく、小麦の生地を延ばす方でした」

「……そっちの方がありえねえ」


 半分冗談まじりに言い合うけど、コギットさんのやった事は心から凄いと思う。

 前世の進んだ世界でも言えることだけど、どんな新発見な技術でも、それを世間に広めれなければ何ら意味を持たない。

 素晴らしい製品も、それを安定供給する事が出来なければ、存在しないものと同じだ。

 何かを安定供給する技術、実はこれがどれだけ難しい事か。

 その事を前世の知識と経験から知っている私は、惜しみなくコギットさんを絶賛する。

 こんな凄い技術を持った人は、尊敬すべき相手です。

 ええ、だからハグだってしちゃいます。

 私みたいな子供相手であっても、女性から称賛されるのは悪い気分ではないはずだもの。

 感謝の心はちゃんと言葉と行動で表さないと。

 お父様にも、きちんと報告と労いのお願いをしておこう。

 そう言う訳で、お父様との喧嘩の終了を心に決めた所で、ふと気がつく。


「……魔法銀の量が随分と多くありませんか?」


 いくら細く伸ばしたとしても、用意してもらった魔法銀を遥かに上回る量が在る様に見える。

 どうみても数倍レベルで収まらない量が在り、その値段を考えると血の気が引く。

 魔法銀は貴金属で、銀よりも高価なんですよ。


「試運転するにも必要な物だからな。

 あの後で取り寄せた」

「い、いえ、取り寄せたって、これだけの量となると金額が」

「ふん、どうせ遅いか早いかだけの違いだ。

 するつもりなんだろ、商品化」

「も、もちろんです」


 でもだからって、此処までされて私が怖気付く訳にはいかない。

 尻込みする気など更々ないけど、此処まで話を進められていると驚きもする。


「これなら、何とかなりそうですね」


 これ以上驚いていても仕方ないので、早速開発を進める事にする。


「こう半円のような輪っかを作って、体の何処かに引っ掛ける様にすれば」

「なるほど、それならば制限は少なくなるな。

 そうすると魔法銀を保護する糸をもう少し丈夫にした方がいいが、それは可能だ」

「予想されるのが、首や肩、または手首に引っ掛けて使う。

 足首や服に掛ける人もいるかもしれませんが」

「引っ張ったら外れ、それ以外では外れない形状と仕掛けが必要か」

「魔力持ちの方なら、椅子の座面に仕掛ける事も」

「客によって使い分けた方が良いだろうな、理想を言えば椅子に座ったらだろうが、万人向けではないのも確かだ」


 魔力の伝達するために必要な皮膚の接触部分は、いくつか試作してもらう事にして、私は私で進めていた開発の成果を披露する。


「これが新しい輝石なんですが」

「……少し色味が違うか」

「ええ、二ルナ樹木の樹液を一定温度にして輝浮砂に混ぜてから、圧縮成形した物です。

 実用に耐えるくらいには強度が上がりました」

「ふむ」


 コギットさんは私の出した輝石を摘んだと思ったら、そのまま机の上に軽く叩きつけたり、少し手を上げてそのまま机の上に落としてみたりする。


「ふむ、流石に落とすと少し欠けるか」

「当たり前です!」

「そう怒るな、試させてもらっただけだ。

 どれくらいの強度があり、衝撃に耐えれるか知らなければ、今後の開発に困る」


 言いたい事は分かる。

 分かるけど、せめて一言断ってからして欲しかった。


「だが、これならば十分耐えられるか。

 問題は寿命だな」

「ええ、その辺りはこれからですね。

 元が光石なので、そちらの寿命はそう心配していないのですが」

「なら強度に関する寿命だな。

 圧縮成形なら水気や乾燥の変化に弱い可能性もある」

「ええ、ですから」


 私は続きの案を説明する。

 もともと強度に心配もあったし、圧縮成形なので経年劣化で再粉化の心配もあった。

 それらを考慮すると、輝石を保護する物に入れるのが一番手っ取り早い。

 かと言って、木や鉄の箱に容れては輝石としての意味もなくなってしまう。

 特産品の水晶で保護ケースを作るのは加工も大変な上、値段が高くなりすぎてしまう。


「ガラスの箱?」

「ええ、水晶屑を再利用した物です。

 型枠を使う鋳造なら、規程の寸法で此方要望通りの形に出来ます」


 水晶と硝子の関係を思い出さなければ、絹の布で覆う事も考えていたけど、理想の素材を見つけれたので此れを利用しない手はない。

 

「こう言った形で作ってもらえれば」

「確かに下地に固定しやすいな。

 なら飾り枠その物の方が良いだろうから、こっちをこうしては」

「なるほどこれならば、いざとなったら交換も可能ですね」

「いや、単純に流用が利くと言うだけだ。

 貴族向けのこの手の商品に、普通は交換なんぞ考えんぞ」


 コギットさんの言葉にそうなんだと思いつつも、高位の貴族は経済を回すために、そう言う苦労も背負っているのだと感じるけど、なんて不経済だとも思ってしまう。


「とりあえず、これで基本構造は出来たな」

「ええ、次は試作なんですが、ドレッサーの前にこう言うの作ってみません?」


 私がそう言って描くイラストは、照明付きの上置棚。

 問題点を洗い出すには、とりあえず使いやすい物から使うのが一番。

 これなら書類机の時に流用が利くしね。


「ドレッサーでなくても良いのか?」

「とりあえず身近な物をと思って」

「いや、お嬢さんぐらいなら毎日使うもんだろうが」

「私だと髪型や身嗜み確認する程度ですし、だいたいエリシィーだってしてないわよ」

「あのなぁ、お前さん一応は貴族の娘だろうが」

「ん、そう言うの関係ない。

 と言うか、普段から化粧だなんて面倒くさい。

 そもそも、十代前半で化粧なんて不要だも〜ん」


 何故か頭が痛そうに深い溜息を吐くコギットさん。

 お父様の気苦労が忍ばれるとか失礼な事を言っているけど、私の事を一応は貴族(・・・・・)と言うぐらいなら、気にしなければ良いのにと思ってしまう。

 十代前半に必要なのは洗顔と保水と日焼け止め、それ以外はどうでも良いと思ってたりするのは、流石に言わないけど。


「今日だってしていないでしょ。

 それとも私なんて化粧をしていないと、見れた顔じゃないとか?」

「……俺が悪かったから、そう言う受け取り方は勘弁してくれ」


 何故か酷く疲れた声を出すコギットさんに、少し意地悪な事を言いすぎたと反省。

 試作品は出来たら、屋敷に届けてくれるとの事。






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