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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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35.目覚めた羞恥心と、職人への憧れ。




 とりあえずドライヤー魔法で服と下着を乾かして。

 ゔっ、くすぐったい。

 流石に近くに人がおり、しかも水晶壁のある部屋で、服を脱ぐ訳にはいかないので、服と肌の間に風が通るようにしたのだけど、風がくすぐったくて仕方ない。

 妙に生暖かい風が全身の肌を擽っているようで、落ち着かないけど此処は我慢。


「はぁ〜………」


 正直、落ち込む。

 別に恥ずかしい格好を、お父様に見られた事ではなくて、……いえ、それもそれで落ち込むんだけど、それ以上に私を落ち込ませているのは、その恥ずかしいと思ってしまう事。

 魔法で遠くの街に行く時とかは、人気のいない山の中で平気で着替えているから、そう言った感情とは無縁だと思っていたし、中身が男だから気にならないとばかり思っていたのだけど。

 どうやら、そうではなかったみたい。

 なんとなく前々から思っていたのだけど、だいぶ中身が【ユゥーリィ】寄りになってきている気がする。

 自我そのものは相変わらず【相沢ゆう】なんだけど、趣味や嗜好、考え方が女の子らしくなっている。

 ふと脳裏に浮かぶのが、前世で読んだ転生物や精神交換物の小説の中にあった『魂が器に引っ張られる』と言う言葉。

 まさに、そんな感じなのかもしれない。


「……確かに、それもあるかもしれない」


 自然と口に出る言葉。

 多分、本能が分かっているのだと思う。

 もう自分は【相沢ゆう】ではないのだと。

 無論、【ユゥーリィ】でもない。

 この六年弱で互いに溶け合い、そして過ごした事で、既に別のモノになってしまっているのだと。

 それを認めるのが怖かったのかもしれない。

 今回の女の子らしい羞恥心を切っ掛けに思い起こせば、いくら前世の記憶と自我があったとはいえ、前世の自分なら、まずありえない女の子女の子した事をやってきた。

 料理や裁縫は前世からやっていたとはいえ、まずは女言葉を使う事に抵抗を感じなくなったな。

 大股も柔軟運動くらいでしかやらなくなったし、胡座よりも女の子座りの方が楽に感じたり。

 身嗜みに気を使うようになり、髪型を弄って鏡の中の自分を可愛いと思った事がない訳では無い。

 他人限定だけど、服を着せ替えて可愛くなる姿に喜んだり。

 甘いものを食べ歩いて、いちいち感激したり……、あっこれは前世でも時々やってたか。

 女性特有の月の物に悩んだり。

 変な小説書いては、心の奥底で誰かが喜んでいたり。


 ……あれ?


 最後方のはともかく、後はあんまり関係なくない?

 お母様達の淑女教育の影響が強いものばかりでは?

 人間、長い期間かけて習慣づけられると、それが自然と思うようになる。

 誰かの言葉だけど、人間は環境変化に強く馴染む生き物だと。

 そう考えると、今の私はお母様達の教育の賜物が産んだ結果?

 うん、半分そんな気がしてきた。

 多少変質した所で私は私だもん。

 だって、じゃあ中身が女の子化してきたからと言って、自分が女の子かと言われると中身は男ですと言える。

 なにより、じゃあ結婚して子供産めるか?

 と聞かれると、全身全霊を持って。


 無理っ!!


 ええ、はっきりそう言えますます!

 男なんかに欠片も抱かれたいとは思いませんっ!

 抱きしめるなら女性が良いですっ!

 感触が気持ちいいです。

 お肌がもちもちのすべすべです。

 お髭がザラザラ、ゴツゴツした身体は嫌です。

 家族の親愛な抱擁だから出来るのであって、それ以外はハグでさえ、できれば御遠慮したいです。

 それに、無邪気で純粋で可愛い中身の女性なんて物は、この世に存在しないと知っているのに、それでも可愛いと思うし守りたいと自然と思える。

 目で追うならイケメンより断然女性です。

 目の保養にもなりますから、この際、年齢は関係ありません。

 ついでに鎖骨や頸に色気を感じますし、この世界だとあまり拝めないけど太もも大好きです。

 でも一番好きなのは女の子の笑顔です。

 ええ、これ、絶対正義論。

 この世の真理です。


「よし、自信、取り戻してきたっ!」


 たとえ、もう【相沢ゆう】や【ユゥーリィ】ではなくても、私は私である事に変わりない。

 今世は確かに女の子として生まれ育ったけど、前世も今世の中身も私は変わらず男。

 それだけで自信を取り戻すには十分だし、これからも生きて行ける。

 できれば物理的に男の自信の証拠(あかし)を取り戻せれば良いのだけど、それはそれでヤバイ気がする。

 今世で、今一番身近な女性というと、まぁ彼女な訳で。

 前世も含めて、幼女趣味はないと自負していはいても、女の子同士ってスキンシップ激しいから、間違いが起きてはまずい。

 そもそも彼女は幾ら魅力的でも、親友として見ていて、そういう目で見てはいない。

 むしろ妹的存在で、守るべき大切な相手とさえ思っている。

 ええ、だから、いつかの着せ替え人形と化していた時も、彼女の下着姿を見てもなんとも感じませんでしたよ。

 そもそもそういう意味では私達ぐらいの年齢の子など対象外だし、微笑ましく可愛いなと温かい目で見ていたのですから。


「そう思ったら落ち着いたわ。

 着替えは流石に持っていないし、此処で着替える気もないからしょうがないとして」


 くんくん、と思わず自分の身体を嗅いてしまう。

 少し汗臭い。

 とりあえず服の隙間から濡れた布巾で拭こう。

 しないよりマシだもの。

 あとは汗で乱れた化粧も、きちんと洗い落としておかないと。

 男の時なら、気にせずに服を脱いで汗をゴシゴシと拭き、服が乾くまで下着一枚なんて事もできたのになぁ。

 その点、女の子って本当に面倒だなと思いつつも、迷わずこっちを選択している事に気がつき、我ながら苦笑してしまう。


「お父様、お待たせしました」

「お、おう、もういいのか?」


 身支度ができたので、建物の入口付近で待っていたお父様に声を掛けたのだけど……、やっぱり先程の事が脳裏に浮かび、顔が若干熱くなるのを自覚する。

 うん、これは仕方ないという事にしよう。

 なるべく気にしない方向でね。


「先程はお見苦しいものを、お見せしてすみませんでした。

 しかも、こうしてお待たせしてしまって」

「いや、まぁ、ちゃんと育っていたんだなと安心して」

「お・と・う・さ・ま・っ」


 自分で自分の声が酷く冷え切っているのが分かる。

 うん、きっと凄く冷たい目をしているのも。

 ええ、理不尽だと分かってます。

 分かってはいるけど、もうこれはどうしようもない。


「今の言葉、お母様に報告しておきます。

 実の娘の恥ずかしい姿を見ての感想が、今のそれだと」

「まてっ、今のはすまんっ!

 この通り謝るから! 妻には内緒にしておいてくれ」

「しりませんっ」


 ついそう言ってはしまうけど、お父様の必死な姿に、もうどうでも良くなっているのが本当のところ。

 それよりも、お父様のその必死な姿を可愛いいと思ってしまうし、お母様がそれだけお父様に愛されているのだと思うと、自然と目尻が下がってしまう。

 だから……。


「お父様が先程の事を綺麗さっぱり記憶の中から消してくださるのなら、私も先程のお父様の言葉は聞かなかった事にします」

「おう、消した消した。

 あいつの怒る姿を想像したら、いくら可愛いユゥーリィの事でも綺麗に消せる」

「それはそれでどうかと思うのですが、まぁいいです」


 そう言って、お父様に笑顔を向ける。

 もう怒っていないと、お互い先程の事を気にするのは止めましょうと。

 そこで、ふとお父様の手に持っている物に目がいく。

 先程まで色々あって気がつかなかったのだけど、お父様の手には先程の元凶の一つである水晶屑で出来たワイングラスがある。


「お父様、それ」

「ああ、これだがな」

「あっ少しお待ちを」


 私は、お父様の手から先ほど作り上げたばかりのワイングラスに、コップ魔法で水を注ぎ、一度洗浄魔法を掛けた後、再びコップ魔法で水を注ぐ。

 無論、冷却魔法で冷却済み。


「お暑い中お待ちして、喉が乾かれたのでは?」

「ああ、そうだな」


 道具の真価は使ってこそ判るもの。

 私が求めるのは美術品ではなく、生活の一部となる物であって、美術的要素は、その次で構わない。

 少なくとも私はそう考えているし、お父様にも知ってもらいたい。

 ゴミとされていた物の真価を。

 まだ彼等には価値があるのだと。


「ふむ、悪くないな。

 陶器とも木とも違う滑らかな口触り。

 水晶を加工して滑らかさを出そうとすると、かなりの労力が必要だ。

 なにより、こうして光に透ける様は心が躍る。

 これが水ではなく、ワインではない事が非常に残念だがな」

「ふふっ、お父様ったら。では」

「ああ、これを商品とするにはまだまだ荒いが、専用の職人を育てる価値はあるな」


 可愛い娘の力作に対して酷い感想だと思いつつも、領主としては当然の判断。

 そして私が望んだ結果なのだから、そこに文句を言うのは無粋と言うもの。


「今回は魔法でだいぶ誤魔化しましたけど、専用の道具も開発しないといけませんね」


 今回は火搔き棒で代用したけど、ガラス細工には吹き竿やポンテ棒、ピックやペンチやコテ等、様々な道具があったはず。

 前世の記憶にあるそれらを、地面に木の棒で描きながらその役割を、お父様に説明する。


「そんな色々な道具の代わりをあの短い時間で」

「魔法で代替えしただけです。

 きちんとした道具さえあれば魔法なんて必要ないですし、技術を磨けば魔法では足元に及ばないような物が出来上がるはずです。

 私、言いましたよね。

 職人さん達の手は、人々の生活を豊かにし幸せな物を作る魔法の手だと。

 本当にそう思っているんですよ。

 私が出来るのは思いつきを元に筋道を立てるだけで、それから先は、きちんとした技術と誇りを持っている職人さんだけです。

 そこは私みたいな魔法使いのなり損ないでは、とてもできない領域で、……正直、悔しですけど」


 確かに魔法は想像力次第で、万能に思われるかもしれない。

 でも実際はやれる事が広がるだけにすぎず、その範囲がとてつもなく広いと言うだけ。

 それに、やはり想像力頼りなところがある。

 魔力の操作にどうしても意識が行ってしまうため、道具を自分の手として無意識に扱える職人の手には遠く及ばない。

 彼等は、その手と体にその技術を覚え込ませている。

 良い物を作る事にのみ意識を向けられる。

 この差はとても大きい。

 少なくとも、私がいくら魔力操作を磨こうとも、せいぜいが手の代わりで、職人の域にまで到達できるとは思えない。

 なぜなら、魔力を手の代わりになるまでに魔力操作を扱える事が、職人の領域だから。

 そこで終わってしまうのだから。






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― 新着の感想 ―
[一言] 「なにより、じゃあ結婚して子供産めるか? と聞かれると全身全霊を持って、無理っ!!ええ、はっきりそう言えますます!男なんかに欠片も抱かれたいとは思いません!」 最後まで、この考えを維持して…
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