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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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34.水晶細工と二つの突起。





 新緑の季節が到来し、そろそろ唾の広い帽子が恋しくなってきた頃、私は日課を済ませた後、お父様とお出かけ。

 行き先は水晶鉱床、……の麓にある工房。

 以前、お父様に輝石や輝結晶の商品化の材料を頼んだ頃から、見学したいと頼んでいたのを、なんとか予定を合わせてくれたのが今日。

 お父様は可愛い娘とお出かけで、少し楽しげ。

 私としても、この世界の水晶工房の様子を見られるから幸せ。

 ダブルWINです。

 そんな訳で、今日はお父様の好きな髪型にして好感度アップで、御機嫌取りだってしちゃってます。

 本当は手間が掛かる髪型なので、私としては好きではないのだけど、この際お父様のためですから、此処は我慢の子で頑張っちゃいました。

 ついでにお母様の化粧品をお借りして、軽めの化粧でお嬢様度もアップ中。

 こっちは、お父様の顔を立てておかないといけないので、仕方なくです。


「知ってはいるとは思うが、領内で取れる水晶は主に白水晶でな。

 純度の高い物が多く採れるのが強みだが、他にも乳水晶や、少しだが黄水晶が採れる。

 まぁ宝石としては価値のない物ばかりだな」

「価値がないんですか?」

「ああ、宝石として価値があるのは紫水晶や紅水晶でな。

 宝石の世界では、白水晶は金剛石(ダイヤモンド)の偽物扱いだ」


 なんと言うか、世界が変われば時代も価値も変わるのか、驚きの価値観だ。

 確かに白水晶は前世でも一般的に紫水晶ほど価値はないけど、屋敷にある水晶壁は等外品であっても、透明度の高いところは本当に透明で、歪みも不純物もない状態。

 目の前にある全面にあるような一級品の水晶壁なら、前世でも値段がつかないような物のはず。

 それが金剛石(ダイヤモンド)の偽物扱いですか。

 直径三メートル四方の不純物無しの透明な水晶壁。

 天然の水晶で此れが数多く採れる事に驚きなのに、あくまで富裕層の生活品扱い、驚きの事実です。


「凄い大きな鏡ですね」

「ああ、ある顧客からの特注品だ。

 薄く切り出した水晶の裏に、特殊な方法で銀の膜を圧着してから、銀より強度のある銅の膜を同様な処理をしてな。

 その後で枠に填めるんだ」


 吹き付けとかでなく、全部手作業で貼り付けているなんて、本当に職人技だと思う。

 お父様の説明を感心しながら、工房の作業の一つ一つを見て回り、小さな窓から水晶細工まで、魅せられる職人技に息も忘れるほど食い入ってしまう。

 特に研磨が凄い。

 切り出したばかりの水晶は曇った状態なのに、それがどんどん表面の凹凸が無くなるにつれて透明さを増して行く様は、まるで魔法を見ているかのよう。


「こうして改めて見ると、職人の方達の手は魔法の手ですね。

 人々を生活を豊かにし幸せにする、素敵な魔法の手」

「……ユゥーリィは、本当にそう思うのかい?」

「はい、もちろんです」


 本当に心からそう思う。

 なんでもなかった物が、その手で次々と素敵な物へと変えて行く光景は、まさに魔法そのもの。

 巨大な火の玉を出す訳ではなく、強烈な鎌鼬で岩をも切り裂くのでもなく、誰かが幸せになる物を作り出す手。

 これを魔法の手と言わずなんて言おうか。

 その技術を身につけるまで長い年月を掛け、汗と埃に塗れて得た職人としての誇りと魂。

 私にはその事が、とても輝いているように見える。


「……そうか。

 その想い、大切にしておくんだな」


 何故か物凄く優しい笑みを浮かべるお父様に、私は戸惑いを覚えるも、素直にその言葉を心に留めておく。

 前世からある職人への憧憬。

 今世でも改めて心の奥に刻むのは、そう悪い事じゃないと思うから。

 そして休憩を兼ね、工房長の部屋兼応接室で温かい紅茶を頂いたおかげで、工房見学でまだ興奮冷めやらなかった心を、少しだけ落ち着ける事ができた。

 だからふと思ってしまう。

 気が付いたのは、工房の敷地に隅に置かれた幾つもの山。


「お父様、加工の際に出た破片や研磨屑などは、再利用されないのでしょうか?」

「ん、ああ、そうだな。

 確かに溶かせば水晶のようにはなるが、脆いと言う欠点がある。

 あと、やはり手間が掛かるし、そんな事などせずとも切り出した方が早いからな。

 ……と言うのが表向きの理由だが、それをすると価値がな」

「水晶壁の価値の維持のためですか?」

「そんなところだ」


 確かにその考え方は理解できる。

 でもこれから先、水晶もずっと採れ続ける訳ではない。

 本当にそれで良いのだろうか?


「価値が問題なら、水晶細工以外では駄目なのでしょうか?

 再利用だからこそ、できる物を作り出すとか」

「ふむ、どんな物があると思う?」


 お父様の質問に、考えを巡らせる。

 小さな、破片を集めて教会のステンドグラスもどきでも良いけど、私が考えてたのはガラス細工。

 うろ覚えだけど、確か水晶とガラスは基本的に同じ物質で、結晶か結晶でないかの違いだった気がする。

 そして、この世界にはガラス細工がないのは、たぶんお父様が言ったような理由でないのだろう。

 あとはこの世界が魔物の脅威に晒されているため、そこまで芸術分野が発達する土壌と余裕がなかったのだと思う。


「大きな物ですと、お父様が言われたように脆くて危険ですし、加工も大変だとは思います。

 なので、コップや花瓶などはどうでしょうか?

 陶器や木の物とは違う味わいの物が出来ると思いますよ。

 ああ、あと髪飾りとかの装飾品なども作れるかもしれません」


 私の提案に、お父様は難しい顔をする。


「そうは言うが、そんな複雑な物を作れるとは思えん。

 水晶を溶かしたものは、鉄と違って打って形を作る訳にはいかん。

 そんな真似をすれば、割れて砕けてしまうからな」

「型に容れると言う方法もあるのでは?

 鉄でもそうやって作る物があると聞いています。

 逆に考えれば、削り出しでは作りにくい形状の物も、型に流し込めれば作れると言う事になりますし」

「なるほどな。

 だが、それだとやはり価値が維持出来なくなる可能性がな」

「ええ、ですから区別するために、思いっきり安くしてしまえば良いんです。

 価値を出すのであれば、水晶のままでは作り出せないような作品を作るなど、やり方はあると思います」


 水晶とは全く別の物として売ってしまえば良いと言う提案に、お父様は呆れんばかりに溜息をつく。

 ええ、その気持ちは分かります。

 本来ならば高く売れる水晶を、別の物として安く売れ。

 これでは人は生活できない。

 利益があるからこそ多くの人間が生活できるし、そのために職人は技術を磨いてもいるのだから。

 そう言う意味では、私の言っている事は荒唐無稽どころか、馬鹿な考えなのだろう。


「でも、何もしなければ、あれはゴミですよね?

 しかも捨て場が一杯になったら人を雇ってまた遠くに移すか、同じく遠くの場所に捨てに行くか。

 なんにしろ、人手とお金が更に掛かりますよね?」


 本来ゴミとしているものを、価値ある物として売る。

 そう考えれば、別に私の言っている事は、この世界の考えから見ても突拍子のない物ではないはず。


「確かに、そう考えれば道理は通る。

 実際に水晶と屑を溶かした物は、別物と言えるほど脆いからな。

 問題は人手を割くほどの価値が出るかだ」


 お父様の考えも分かる。

 新たに事業を起こそうとするには、それなりの冒険がいるし、そのために動くお金もそれなりに大きな物になってしまう。

 それに価値のある物を生み出せば良いと言っても、私みたいに前世の記憶を持っているならともかく、普通はそう簡単にはいかない。

 理屈は分かるが、そこに価値を見出せなければ投資家は動かない、それと同じ事。

 なら、私がやるべき事は決まっている。


「試してみましょう。

 鉱山に隣接した工房なら、鉱山で使う道具を直したり作るための鍛冶場がありますよね?」

「本気か?

 言っておくが女子供が入るような場所ではないぞ」

「コギットさんの工房に出入りしているのですから、今更では?」

「あそこは小さいからな、此処の鍛冶場ほど危険ではない」

「大丈夫です。

 私にはショボくても魔法がありますから、少しくらいの事ならなんとかなります」


 相手を動かすには、まず自分から動かないと。

 それに、ガラス細工は前世でテレビでよく見たし、工房体験でやった程度で一応は経験もある。

 まったく、こうと決めたらテコでも動かないのは誰に似たんだか、とか失礼な事を言っている気がしますが、この際それはどうでも良い事なので放っておきます。

 ほらほら、お父様、早く鍛冶場まで案内してください。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 建物の入口に立つだけで、むわっとした熱い空気が体に纏わり付いてくる。

 確かにコギットさんのところとは規模が全然違うし、そもそも目的とした物が違う。

 お父様が心配するのは、もっともな事かもしれないけど、前世で見た製鉄所ほど危険な場所ではない。

 お父様が此処の鍛冶場の責任者に、何やら声をかけているのは、私に水晶屑を溶かしたものを見せるためなのだろう。

 責任者の方が近くの職人に声をかけ、持って来てもらった水晶屑を、本来は鉄を溶かすための専用の鍋に入れて、炉の中に高熱に掛けているのが分かる。

 専用の鍋の中の水晶屑が溶け出すまでの間、ひたすら汗がダラダラと流れてくるけど、此処は我慢。

 此処の人達は、こんな熱い中で毎日お仕事をしているのだから、それを考えたら、一瞬だけ此処にいるぐらいは平気な顔をしなければ、此処の人達に失礼だ。

 だって、今は私の我が儘で付き合ってもらっているのだから。


「これが溶けた物で、鉄ほど柔らかくはなりません」


 やがて炉から出した鍋の中に、長い鉄棒を入れて溶けた水晶を絡ませて見せてくれる。

 その見覚えのある光景に、やはり水晶を溶かした物はガラスだと確証する。


「鍛冶用の手袋を貸してください。

 ええサイズが合わないのは承知の上です。

 それとあそこにある長い火かき棒と、ええ、そこにある短めのも貸してください」

「ユゥーリィ、本当にやる気か?」

「ええ、魔法を使うので大丈夫ですし、危険な事はしませんから」


 お父様にそう言って、私は職人お方にお願いする。

 本来は炉の中にある炭を掻き出すための長い火搔き棒を、敢えて逆にして持ってもらい、鍋の中の溶けた水晶を巻き取るように、どんどんと絡めとってもらう。

 やがて一定以上大きくなったところで、私がもう一つの長めの火搔き棒を同じく逆に持って、持ち手の先端を溶けて赤くなっている水晶にあてがい形を整えて行く。

 飴のようになった水晶は、私の持つ鉄棒の先に展開した力場魔法に従って段々と安定した丸みを帯びた所で、一度このまま炉に入れてもらう。

 此処までで冷めた分を再加熱するためなので、短い時間。

 それでも数歩分だけ炉に近づいた分、炉の熱気が肌を焼くような錯覚を覚える。

 再加熱を終えた水晶に、力場魔法で穴を開け中に空気を送り込む。


「ふーーっ」


 自分の吐き出す息に合わせるように、空気をガラスの中に入れて膨らませる。

 その後は棒をくるくる回してもらいながら、力場魔法でいつかの工房体験の経験をもとに完成形まで一気に形作る。

 作ってみせたはワイングラス。

 使った水晶屑は白水晶と乳水晶だったのだろう。透明な部分と乳白色の部分が良い感じに混じり合ってなかなか綺麗な逸品になったと思う。


「どうです。お父様。

 魔法で多少ズルはしましたけど、素人作品ながら良い感じに出来たと思うのですが」


 自慢げにお父様へと振り向く私に、お父様は何故か慌てた様子。

 何を慌てているのでしょうと思ったら、今度は壁まで走って行って再び戻ってきたと思ったら、その手には先ほど御脱ぎになった上着が。


「ユゥーリィ、いいからこれを羽織りなさい」


 叫ばんばかりに口を大きくして言うお父様の言葉に、自分を見下ろしてみると。

 ……汗でびっしょり。

 ええ、びっしょりです。

 考えてみれば当然ですね。

 体験工房と違って、此処は本来は鍛冶場で、汗をなるべく掻かないようには作られていない。

 炉の熱気が籠もっている上、もろにその輻射熱を体に浴びる訳ですから、こうなっても当然でしょう。

 ワンピースは肌にぴっしりと張り付き、大量に掻いた汗で透けている状態。

 下着もしっかりと汗に濡れ、ワンピース以上に肌に張り付いてしまっている。

 そのため、女の子らしい丸みを帯びた体型どころか、小さいながらもある膨らみと、その先端の僅かな突起まで丸わかり状態。

 その事に顔が熱くなる。

 これは、炉の熱気ではないはず。

 だって今は顔を炉を向いていないから。

 だから……。


「お、お父様のスケベっ!!」


 我ながら心配するお父様に酷い一言だと思うのだけど、自然と出てしまったものは仕方がないと思う。

 とにかく、お父様から差し出された上着を引っ掴んで前を隠す。

 ええ、速攻で隠します。

 たとえお父様相手でも、これ以上見られたくありませんし、一秒だって見せたくありません。

 それでもって、全力で駆け出します。

 無論、行き先は誰もいないはずの水晶工房の応接室。

 鍛冶場の熱気と、意味も判らず熱くなった顔を冷ますためには、少し時間が必要です。

 ええ、そう言う訳でお父様、私が良いと言うまで入室禁止です。

 部屋の周りにいるのも禁止です。

 何故って、此処の部屋って水晶壁が使われているからです。

 覗こうと思えば、幾らでも覗けるからです。

 いいですね、これを破ったらお母様に言い付けますからね。

 口もしばらく聞いてあげませんからね。

 分かりましたねっ。


「うぅ……自業自得とは言え、なんでこんな目に」


 うん、とりあえずお母様にお願いして胸当てを用意してもらおう。

 最近、走ると擦れて痛かったし、ちょうど良い機会だと思う事にする。

 そう思ってないと、なぜか無性に落ち込みたくなるのは、なんでだろうか?






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― 新着の感想 ―
羞恥心が育ってきましたねぇ、第二成長期に入るとメス堕ち(軽め)するかな?
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