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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
33/976

33.狩猟の成果と作家の憂鬱。まだ腐ってませんから。





「ん〜〜〜〜っ♪」


 思いっきり背を伸ばして、身体を解してみる。

 前世なら、コキコキと鳴り出してはいたけど、今世の今ではとんと縁がない。

 十一歳の身体で何を言うと思うかもしれないけれど、せめて成長痛ぐらいはして欲しい気もする今日この頃だったりする。

 でも偶にはお洒落なカフェで、優雅にアフタヌーンタイムぐらいさせてもらいたい。

 辺境都市リズドの街角の一角にあるオープンテラスのカフェで、紅茶とパンケーキに舌鼓を打ちながら、本日の狩りの成果を思えば小躍りしたくもなる気分なんです。

 大   猪 …… 二頭

 大   鹿 …… 二頭

 銀 毛 狐 …… 一頭 

 大   鼠 …… 三頭

 キ   ジ …… 二羽

 ペンペン鳥 …… 三羽

 快挙と言える成果です。

 大漁旗です。

 ほんの数時間で銀板貨五枚(ごじゅうまん)を超える成果です。

 空間レーダーの魔法、凄すぎです。

 通常では半径一キロぐらいだけど、一定方向に集中させれば一瞬だけなら十キロを超えて探索出来るため、そのままぐるりと一回りすれば、やばそうな相手は避けても、だいたい良さげな獲物が見つかる。

 身につけた頃は数百メートルだったから、だいぶ成長したと思うけど、まだまだ伸びる感じがするので、何処まで距離が伸びるか、今から楽しみでたまらない。

 ちなみに街中では、あまりやる物ではないかな。

 情報が多すぎて、意味が分からなくなるからね。

 

「それにしても、こう言うオシャレの店を見ると、さすがは都市って感じよね。

 ウチの方だと、こんなお店はないもの。

 そのくせして、殿方専用のお店はしっかりとあるのだから意味が分からない。

 ……いえ、分かっちゃうんだけどね」


 とにかく大猪と大鼠の一頭ずつは、お土産にお持ち帰りとはいえ、これくらいの贅沢は許されても良いと思う。

 うん、このふわふわのパンケーキ。前世を思い出すなぁ。

 乗っかっているクリームとラズベリーの相性が何ともいえない。

 残念なのが、厚みはあるけど、全体で見れば小ぶりなサイズな事。

 その分、美味しさが凝縮されていると思えば、納得の美味しさとも言える。

 思わずお代わりを要求したくもなるけど、残念ながらこの身体は体が小さいためか、それとも胃袋が小さいのか、半分でもお腹いっぱいになってしまう。

 定番のショートケーキも食べたかったけど、そんな事をした日には、お腹を壊すのが目に見えているので断念。

 食べ残したパンケーキは、収納の魔法でこっそりとお持ち帰り。

 

「家に帰る前に少し運動して帰らないと、お夕飯が入らないわね」


 魔法を使えるようになってからは、食べる量が増えたと言われているけど。

 それでも元々がかなり少食だったため、こうして数年たった今でも、同年代のエリシィーよりも少食なんだよね。

 うん食べたいのに食べられない、この悔しさ。

 まぁそんな事だから、彼女に食い意地が張っている呼ばわりされるんだけどね。

 だって、せっかく食べるなら美味しいものが食べたいし、食べられる量が少ないのなら、その分厳選して食べたいと思うのが普通だと思うんだけどな。

 うん、私は間違っていない、普通、普通。


「こんにちはー」

「あら、いらっしゃい」


 カフェの後、向かったのは馴染みの本屋。

 一応、今日の目的は此方が本命。

 お姉様と同じ、明るい赤い髪の女性店主が私の顔を確認して、笑顔で迎えてくれる。

 今日は男装しているので、一見すれば美少年のDSに見えるから、そう言う趣味でなくてもお姉様方からすれば、目の保養になるのかもしれない。

 しかも私の場合、礼儀正しい男の子として、受けは良いみたい。


「今日もお姉さんのお使い?

 一応、売り上げはそれなりに貯まってはいるけど」

「それは姉も喜ぶと思います。

 今日は別件で頼まれたのが、よいしょっと」


 どすんっ。


 背負い袋をカウンターに置くと、店主、ライラさんが目を輝かせる。


「さすが小さくても男の子ね、こんな重いものを軽々と」

「軽々じゃないですよ。

 重くて肩と背中が悲鳴を上げそうです」


 無論、嘘です。

 身体強化の魔法を使っているし、此処に来る前に収納の鞄から引き出したので、苦労なんて欠片もしていません。


「それよりも、コッチをお願いします」

「はい、受け取りのサインね。

 相変わらず、しっかりと封印されているわね」


 背負い袋開け口に、紙紐と札に封蝋とサインが施されていて、背負い袋の中身を見ようとすれば、受取手にそれが発覚する仕掛け。

 受領書と受取人のサインの二重の機密保持で、この世界で一般的な郵送システムの一つ。

 もちろん自作自演です。


「中身を見たらひん剥いて、外に放り出すなんて脅してくるんですよ、ウチの姉は。

 可愛い弟を使いっ走りにした挙句にその言いよう、どう思います?」

「あはははっ、それは見てみたい気が」

「……勘弁してください」

「冗談よ。

 まぁ中身が中身だからね、はい受領書」


 ……一瞬見せた恍惚とした目。

 絶対にこの人そっちの趣味の人だ。

 とりあえず私としては関係ない話なので、そっちは関わらない事にするとして。


「今度の新作も楽しみだわ。

 後でじっくり読ませてもらうわね」

「それで、ウチの姉が書いた本は、そんなに売れているんですか?

 この間の話だと、もう写本まで出ているんでしょう?」

「売れてるわよ〜。

 もう大絶賛で、王都の方でも人気が出始めたらしいわよ。

 それで、お姉さんに伝えておいて欲しいのが、この新作なんだけど」

「あっ、そっちは聞いています。

 写本上等、うはははっ、だそうです」

「面白いお姉さんね。

 なんにしろお礼を言っておいてちょうだい」

「了解しました。

 まったく弟に見せれないような本って、一体何を書いているのやら」


 あくまで、自分ではないと言うアピール。

 ええ、これ大事です。

 書いている内容が内容だけに。


「まぁ女性向けの本とだけね。

 男の子の君が読んでも面白い本じゃないわね」


 知ってます、書いた本人ですから。

 内容的には宮廷を舞台にした少年騎士と騎士の友情物語です。

 ええ、友情、此処、大事です。

 前世の妹が中高の時に嵌っていたジャンルです。

 リビングで寝転がりながら読んでいた本のタイトルを見て、ネットで調べた時。


『……く、腐ってやがる。早すぎたんだ』


 そんな某アニメの有名なセリフが脳裏に浮かんだりしたのは、遠い昔の事。


「どんな人が買っていくんです?」

「うーん、ウチだと十代の女性が中心かな。若い子だと君ぐらいの子が」

「そうですか、姉にはそう言っておきます。

 僕としては、姉が破産しなければそれで良いので」

「お姉さん思いね、でも大丈夫よ〜。

 このまま売れていったら、一財産を作れるかもしれないし」

「話半分に聞いておきます」

「そう言うところ、可愛くないわよ」

「男ですから可愛くなくても構いません。

 ではライラさん、また来ます」


 何度も言うけど書いているのは、友情物語です。

 少し行き過ぎた友情と女性向けのギリギリの表現(……前世の私の感覚だとアウト)を攻めてはいても、あくまで友情愛物語です。

 ええ、此処、大事なんです。

 主に私の精神安定的に。

 もっとも、私の中の【ユゥーリィ】の部分は大興奮だったりするのは、なんと言うか色々とやるせないんですけどね。






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