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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
298/977

298.執事見習いと甘い物。





「おはようございますお嬢様」

「おはようございます主人(マスター)

「おはよう。

 もう直ぐ出来るから、そっちを並べておいて」


 セバスとプシュケに朝の挨拶を返しながら、お仕事をお願いする。

 二人ともまだこの屋敷に来て、それほど日が経っていないけど、淀みのない動きはこの家に慣れたと言うか修練の賜物で、今はただ私のやり方に従っているだけなんだと思うものの、今はそれで良いと思っている。

 最初、私が朝早いのも、私が食事を作り、皆んなと一緒に食事をしているのも驚いていたし、何か言っていたけど黙らせた。

 朝の涼しい内に、身体を動かしお腹を空かせてから食事を取る。

 それその物は貴族でも推奨されている事で、私の場合、人よりも朝が早いと言うだけの話。

 食事に関しては、現状、料理の腕が私が一番あると言う事と、私が料理の本を出しているため、勉強も兼ねていると言う理屈で通している。

 皆んな、と言うか貴族と使用人が一緒に食事を取る事に関しては……。


『貴方の言い分では、私一人で寂しく食事を取るのが当たり前で、逆に私以外の皆んなは楽しく団欒するのが当然と言う事になるのだけど』


 私は十四歳で、前世でも今世でも未成年だ。

 しかも、見た目は年齢よりも幼く見える。

 そんな見た目JSな私に、団欒な食事を止めて一人寂しく飯を食えなんて事は、そうそう言えるものではない。

 無論、平気で言う家はあるらしいけど、当主本人にそれを言う人間は、滅多にいないだろうと信じたい。

 そんな訳で、強引に言い負かせました。


「今日はまた見た事もない物ですな」

「真っ黒ですね。

 それに何かつぶつぶと丸いものが」


 何人かは、パンに挟んである黒い物体に眉を潜めいたけど、正体を知っているジュリを筆頭に何人かが喜んでいる姿に、安心してどんな味がするのだろうと、期待の目に変わっている。

 今日の朝食は、ごく普通のモーニングメニュー。

 サラダにスープにヨーグルトにでオムレツとサンドイッチ。

 ただサンドイッチは具材が野菜とトマトとベーコンの定番のBLTもどきと、バターと餡子と生クリームを挟んだ小倉バター生クリームサンド言う、ハイカロリー具材だったりするけど、これが美味しいんだよね。


「「「「「・・・・・・」」」」」」


 食事の前の簡単な祈り。

 この世界の食事の前では当たり前の光景だけど、一瞬なので私は心の中で『いただきます』と言っている間に終わり。

 ただ、食事に関しては私がセバス達に折れた部分もある。

 お客様が来た時の会食の練習だとして、十日に一度の休日の前日に、夕食で貴族らしく行う。

 ただ一人は寂しいし、会食なら相手は必要と言う事で、警備の方を交代で招いて会食相手になって貰ってはいるけど、気分的に相手はどうなんだろうなぁと思ってしまう。

 だって普段一緒に食事をしないのに、雇用者と一対一での食事だよ。

 心臓と胃に悪そうなので、せめて美味しいものを食べてもらおうと、いつもより豪華めなのは会食の練習だと言う事もある。

 そしてこの会食の練習が折れた理由も、エリシィーやジュリ達からの言葉だからと言うのは、我ながら情けない気もするけど、私は家族を大切にする人間なので仕方ない。

 他にも色々あったかなぁ。


『お茶を淹れたい?』

『はい、主人(マスター)の手を煩わせる必要もないかと思いまして』

『う〜ん、私、よく魔法で泡水(たんさん)を作って、それを元に色々作るけど、貴女、魔法で泡水を作れる?』

『…で、できません。ですがそれ以外なら』

『収納の魔法と言う、茶葉を品質を保ったままにしておける魔法が使えるから、貴女を呼んで淹れてもらうより、自分で淹れた方が早いわ。

 お湯も魔法で一瞬で沸かせるしね』


 試しに目の前で、魔法で淹れて見せてあげた。

 ブロック魔法の中で、温度を逃さず理想的なジャンピングをする茶葉と、茶漉しなど必要なく温めた(カップ)に、空気を含ませながら注いで見せるやり方を。

 茶葉と(カップ)さえあれば、道具など何も必要ない。

 水すらも魔法で出すので汲んでくる必要すらない。


『でも、お客様が来た時、上手く淹れれないと貴女やエリシィーが困る事になるわね。

 練習や他の皆んな用に、状態維持の魔法を施した茶棚を用意するから、それまで待って頂戴』


 その後、サラに頼んで特殊加工を施して作って貰った家具に状態維持の魔法石を嵌め込んだ棚に、同じく状態維持の魔法を掛けた硝子や水晶の小瓶に茶葉を小分けして収納したのだけど、改めて並べると凄い事になっていたのよね。

 棚の寸法を測る時に一応は数えたんだけど、普段収納の魔法の中に入れっぱなしだったので自覚は無かったけど、並べて見ると総観の一言。


『『……』』


 侯爵家で様々なお茶の淹れ方を知っているはずの二人が、茫然としていましたからね。

 紅茶だけでもかなりの種類があるのに、そこへ香草茶や、前世の知識から再現した大豆茶や団栗珈琲など、貴族どころか庶民も知らない様なお茶の数々、おまけに自作の緑茶や焙じ茶や抹茶まである訳ですからね。

 とりあえず変わったものの一つの見本で、珈琲を淹れたら半泣きされてしまった。

 ちょっとペンペン鳥をモデルに、コーヒー三Dラテアートをしただけなのに。


『ユゥーリィ、それ私も出来る様になれって事?』

『すみません調子乗って遊びましたっ。

 エリシィーを泣かせたい訳じゃないからねっ。

 これ出来なくても味変わらないから、って言うか、これをやると逆に味が落ちるから、出来なくても問題ないです』


 そうだよね、いきなりアレをやれって言われたら、泣きたくなるよね。

 そんな気は欠片もなかったのだけど、反省。

 本当に普通の淹れ方を勉強してください。

 とにかくそんな感じの事が色々あって向こうが折れた事が多いけど、私の方が折れた事もそれなりにある。


『庭師を雇い入れたい?』

『現状、庭は寂しい状態で、お嬢様や護衛の方々が草毟りと言うのも、周りの見聞がよくないかと』


 草毟りなんて、皆んな秘密基地で慣れてるけど、確かに此処だと見聞が悪いと言うのは分からなくはない。

 私、自分のやりたい事をやるだけなので、そう言うのは気にしないんだけどね。


『お嬢様の趣味や研究のための時間も増やせるかと』

『ウチ程度の広さなら住み込みじゃなく、通いで十分でしょう。

 それでも素性確認はしっかりやる様に』


 誰かが裏で人を引いていた狂信者達の襲撃は、アレからしばらくして、すっかり無くなったとはいえ油断はできないし、私を面白くないと思っている人間は意外に多いらしい。

 その事は、この一、二年でよ〜〜く分かった。

 ただ、二人が来てくれて、良かったとは言える。

 二人がいる事で、二人の持っている知識と技術が、皆んなの向上心をより高い次元で刺激しているって分かるから。

 二人が、皆んなの向上心を、敢えて刺激して引っ張っていると言うのもあるけどね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そして前世だったら桜の花がすっかりと落ちる頃、私はライラさんとラフェルさん、そして我が家の女性陣一同を、王都のある店にお誘い。

 男性陣は、別の店に行って楽しむ様に指示してあるけど、それはまた別の話。


「凄いわね、空間移動の魔法って初めて体験したわ」

「体験している人の方が少ないわよ」


 光の門を潜ったら、王都ですから吃驚だよね。

 転移先は、私が陛下から戴いた街屋敷だけど、はっきり言って一度も屋敷の中に入った事がない程の放置ぶり。

 だって空間移動の魔法があるから、態々王都に泊まる必要がないもの。

 まぁ管理は国なので、放置しておいても、使わない限りは何ら私に責任はないので問題なし。

 最低限の維持管理費だけは、きっちり取られているけどね。

 そんな事を思っている内に、本日の目的地に到着。


「凄い並んでいるわね」

「まだ開店前なのにね」

「可愛い店の外観よね。如何にも女性のお店って感じで」

「白水晶壁がアレだけふんだんに使われているなんて、普通は貴族専門のお店よね?」

「食べ物のお店って事で朝食抜きとか酷い話でしたけど、これほど並ばれる程のお店なら、期待できますわね」


 だってね、お腹一杯になって、もう食べれないとか言ったら、ジュリもライラさんも怒るでしょう。

 ちなみに、このお店の事は私とエリシィーは知っているけど実はジュリは知らないお店。

 ええ、彼女には敢えて黙ってましたからね。

 それで、そんなお店ももう直ぐ開店時間なのだけど、この世界、基本的に時計はないので、教会の鐘の音が時計の代わり。

 しかもその鐘も、正確なものではなく月と太陽の傾きによる物だし、それ以上に担当の神官次第というのが実情。

 とりあえず、並んでいる脇を抜けて入口へ行くと、中の従業員が出迎えて入れてくれる。


「えっ、何アイツら?」

「横入り?」


 そんな不満の声が聞こえるけど無視、無視。

 気にしないで皆んなにはお店の中に入ってもらう。


「「「「「いらっしゃいませ、お嬢様」」」」」

「もうっ、あの子達ったら。

 でも、ありがとう、ちょっと早すぎたみたいだけど良かったかしら?」

「もちろんです。では、お席に御案内いたします」


 と、ここまでこれば皆んなにも分かったようで、実はこのお店、私の持つ商会が運営するお店の一つです。

 茶店【花の蜜(フラワーハニー)

 半年前から、エリシィーと私でコツコツと準備してきたお店。

 エリシィーは私の商会の片腕としての勉強を兼ねて、店の子達を鍛えて貰った。

 と言っても、その前にエリシィーには散々【花の滴(フラワードロップ)】で研修して貰った上でだけどね。


「この店、デザートは時間制で食べ放題なので、好きなだけ食べてね」

「「「「「えっ?」」」」」


 そりゃあ驚くよね。

 お店で食べ放題なんて、この世界にはなかった概念だもの。

 それを私は前世の知識から持ってきた。

 とりあえずその辺りの説明の前に、店が本格的に開く前に、お皿にデザートを取ってきたらと、皆んなに勧めておく。

 皆んな不安になりながらも、美味しそうなデザートやケーキを前にすれば不安など忘れるみたいで、キャイキャイ言いながら選んでは、お皿を空白を埋めてゆく。

 ジュリ、何度でも取りに行って良いから、山にしない。

 味が混ざったら本来の味を楽しめなくなるでしょうが。

 ケーキなどは一つ一つは、かなり小さめで、飾り付けも少なめ。

 その代わりシンプルながらも可愛いく作らせている。


「一個が小さいから、色々な味を楽しめるってわけね」

「食べる方はありがたいけど、経営としては大丈夫なの?」

「大丈夫よ。一人銅板貨三枚(さんぜんえん)の入店価格。

 飲み物は別料金で、砂時計や水時計で時間は計っているから、客は強制的に入れ替わるから」

「でも、食べ放題なんでしょう?」

「そうだけど、皆んな、これ小さめで食べれるように見えるけど、幾ついける?」

「朝、抜いてるから六個は軽く」

「私も七個かな」

「皆んな若いわね、四個が限界ね」

「五個はいけるけど六個目はキツイかも」


 私は朝食べてなくても三つが限界かな。

 エリシィーも以前に食べた時は五個だったもんね。

 そう言う訳で、ジュリの十四、五はいけると言う言葉は例外。


「大体単価が経費込みで、銅貨(ひゃくえん)二、三枚前後だから、ジュリみたいな例外の子が偶にいても、問題はないわ」

「そう考えると、意外に高めなのね」

「でも種類があるし」

「気兼ねなく選べれると言うのもね」


 それがこのお店のコンセプトの一つ。

 自由に様々なケーキやデザートを選んで食べれる事。

 この世界のお菓子を扱うお店は、基本的に種類は扱っていないし、あっても日替わりで出すため、客側の選択肢は意外に少ない。

 私が出したお菓子の本で、色々なお菓子を出す店は増えたけど、その辺りは変わっていないのよね。

 そして、このお店は、その本に載っているお菓子の大半を食べる事の出来るお店として、名前を売っている。

 流石に一度に全部は無理だし、季節の物があるので、お店に出すのは三十種に絞って半月毎に変える様に指示してあるし、本に載っていないレシピも、毎月幾つか出す予定。


「飲み物も気持ち高めの金額だから、よほど大丈夫なはずよ。

 まだ開店して一ヶ月だから、何とも言えないけど、この混雑具合を見る限り大丈夫かな」

「月に一、二回ぐらいの楽しくお喋りしながらの贅沢と思えば、そう高い金額じゃないわよね」

「うん、これだけ美味しければ、また来ようと思えるし」

「食べれなかった分をまたって思うけど、ゆうちゃん、あっちの街にも作らないの?」

「ライラ、また体重に泣くわよ」

「今なら良いの。

 これからどんどん増えてゆく予定なんだから、これくらい今更よ」

「「「「えっ、それって」」」」

「うん、また出来たみたい」


 はい、お祭り騒ぎのように騒いじゃいました。

 ライラさんのおめでた発言に、周りのお客さんも祝福の言葉を贈ってくれる。

 『おめでとう』とか、『頑張りなさい』とか。

 その言葉に本当に幸せそうに笑うライラさんに、私は嬉しくなる。

 去年のライラさんの落ち込み振りを知っているだけに。


「もう、ゆうちゃんが泣く事ないじゃない」

「だって、嬉しいから仕方ないじゃないですか」

「ゆうちゃんが、そんなのだと、私まで泣けてきちゃうじゃない」


 本当、良かった。

 ライラさん、今度こそ可愛い赤ちゃん抱かせてくださいね。





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