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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
294/977

294.ボロい商売なのに、もっと儲けろって酷い話ですよね?





「まったく、またとんでもねえ物を作りやがったなぁ」

「そうですか?

 仕組みそのものは簡単ですから、今まで誰も思いつかなかった方が不思議ですけど」

「そもそも、魔法でやろうと思わねえってんだ」


 魔法は魔物と戦うための武器であり、怪我を治すもの。

 魔物が生態系の頂点であるこの世界では、そういった考え方が主流で、私のような考え方は極々少数でしかないらしい。

 永久脱毛は、毛穴を焼いた瞬間毛穴を埋めるように治療を施す魔導具。

 頭髪再生は、頭皮の下にある毛細血管から、毛細血管ごと毛穴を再生(・・)する魔導具。

 前者はともかく、後者はコッフェルさんの言う通りとんでもない技術ではあるけど、実はこれ、元となっている技術としては、治癒魔法としてはごく当たり前のもの。


「どちらも治癒魔法の応用です」

「使っている内容が違いすぎる」


 怪我をして一定の時間がたった古い怪我は治せない。

 これがこの世界の治癒魔法の常識。

 でも、それは正確ではない。

 ほんのゴマ粒くらいでしか治せないと言うだけ。

 その期間の境界である時間が過ぎれば、たとえ半刻程度の差であっても、それだけでの治癒魔法の効果に大きな差が生まれてしまう。

 何でそんな差が生まれてしまうのかは不明だけど、その結果、一定期間を過ぎた怪我は治せないと言う結論になっているだけの話。

 だから期間が過ぎても治癒魔法が効くと言っても、ゴマ粒ぐらいしか治せないでは、現実的な治癒など不可能だ。

 なにせ傷口を開いた状態でないと不可能だし、そんな遅々とした再生状態では、出血死か感染症を引き起こしてしまう方が早いからだ。

 なにより、治癒魔法を施す方の魔力がもたない。

 でも、皮膚のすぐ下、毛細血管がある場所ならば話は別。

 何故か、腋毛などの再生はできなかったけど、頭皮の毛根はこの魔導具で再生する事が出来る。


「【聖】属性を魔導具化出来る魔導具師そのものが、滅多にいねえ」

「【闇】属性は属性持ちがいるのとは別の理由ですか?」

「だいたい教会が囲っちまうからな。

 それに魔導具師なんぞにならなくても、治癒魔法が使えれば、一生食うに困らねえ上に、その力を使っていたら自然と敬れるしな。

 俺等みたいに必死になって、細かい魔力制御を覚える必要なんぞねえんだよ」


 確かに言われて見ればそうかもしれない。

 治癒魔法を使える人間は多いけど、本当の【聖】属性を持つ人間は、そこまで多くないとも聞く。

 うーん、属性か……、その辺りも一応は研究はしてはいるけど、今のところ結果は芳しくは無い。


「つまり、魔導具師ギルドでは無理と?」

「教わる人間がいねえと言うだけだから、その魔導具の事が広まれば、聖属性持ちで魔導具師になりたいと言う輩が出てくるかもしれん。

 話はそれからだな」


 大量に注文が来たら、投げようと思ったのに残念です。

 とりあえず、一応は魔導具のレシピを渡しておきますね。


「まったく、こんなポンポンと気楽に渡しやがって。

 一応、預かっておくが、オメエさんが生きている内は超機密扱いにしておいてやる。

 テメエが作ったんだ、生きているウチはテメエで責任を取りやがれ」


 酷いっ! 横暴ですっ! 権限の乱用ですっ!


「五月蝿えっ!

 オメエが一人で対応出来る物を、俺ん所で取り上げたら、色々と敵に回すんだよっ、それぐらい分かれっ!

 特にこう言う物なんぞはな」


 はい怒られました。

 ちなみに怒る人って、教会に力を持たせたくない人達や、大きな利益を生み出すものはともかく、小さな利益を生み出すものは私にちゃんと持たせておきたいと考える人達とかですか?


「分かっているなら言うんじゃねえっての。

 ったくよぉ」


 いえいえ、コッフェルさんの反応を見たかったですから。

 でもレシピを渡したのは、私しか造れないのでは困るような物ですから、お渡ししておくだけです。

 それに作らなくても収入は入ってきますから、取られてもさして問題がないだけです。

 最近、制作に取られる時間の方が、勿体ないと思う時があるので。


「まぁオメエさんの場合、全部自分でやっちまうから、出てゆく金が少ねえわりに入ってくる金はでけえからな。

 やる事が多いテメエからしたら、そう言う選択も確かにありか。

 一応は条件に当て嵌まる奴がいないかどうかは探してみるが、期待はするなよ。

 いても使い物になるかどうか分からねえからな」


 うん、なんやかんや言ってコッフェルさんは親切だと思う。

 でも、そう言う事なら、確かに期待するのは悪いので、自分で頑張ろう。

 色々あって教会は好きではないので、魔導具一本辺りの値段を金板貨一枚(いっせんまん)にしたのに、平気で百本ずつ注文してきましたからね。

 魔導具の寿命は、おそらく三百から四百回分の施術なので、一人頭のお布施金額がそれなりの金額になると思うのだけど、随分強気なんだなぁと思う。

 

「半刻あれば、十本はかるく造れちゃいますけどね」

「俺に属性があっても、一日二本が限界だな。

 人の事は言えねえが、ぼろい商売だな」

「高すぎました?」

「いや、これくらいか、もう少し上の値段が相場だろう」


 と、ここでお説教が入りました。

 私が受けている魔導具は基本的に値段が安すぎると。

 以前は、この手の魔導具を作るのが私だけだったから良かったけど、携帯(かまど)の魔導具以降、関わる魔導具師が増えた上、こうして魔導具師ギルドができた以上、今後も生活品を作る魔導具師が増えて行くのは目に見えており。

 なのに私の魔導具の値段が安いと、他の魔導具師の生活が困る事になる上、目指そうとする人間が減ってしまう原因になりかねないので困るとの事。


「別に命が関わっている訳ではないですし、安い分、数を作れば良いだけでは?」


 はい、お説教第二弾が始まっちゃいました。

 今、話した魔導具でもそうだけど、私は平気で作れるけど、コッフェルさんほどの魔導具師でも一日に数本程度が限界、他の魔導具師なら一日一本で、連日は厳しいレベルの代物だとか。

 魔導具を作るのは、非常に緻密な魔力操作と、異常な程の集中力を用いるから、私のように平気で作れる人間はほとんどいないらしい。

 そもそも魔力容量からして、私の場合は桁が違うみたいだから、普通はすぐに魔力切れをするそうだ。

 魔導具を作るのって、実質魔力を百使って、十しか転化されないですからね。

 本来の魔法の数倍以上の魔力を使って、やっとこそさ、六、七割の効力を発する魔導具が出来る訳ですから、魔力を垂れ流しているようなもの。

 そこに魔法陣を描くために、集中力と繊細な魔力操作ですからね。

 私も、最初はだいぶ苦労した記憶がある。

 でもそれも創意工夫と鍛錬の結果で……、あっ、そう言えば教えていませんでした。


「えーと、この魔法陣なんですけど」

「ああ、参考までに嬢ちゃんの魔法陣を描いた物だよな、嬢ちゃん以外の魔導具師には意味のない魔法陣だが、これが細かくなる程、その魔導具を作る上で難しさの目安になる」


 魔法陣は、魔導具を作る時に魔導具師に本人だけに見える物だし、他人には意味のない物なので、私のように魔法陣を図化する人はいないのだけど、コッフェルさんが言ったように、その魔導具の難度を見る目安にはなる。


「これ、書き写すのが面倒なので描いていませんけど、本来は此方の色分けされた魔法陣が私が使っている物なんですが、この色の数って光石と同じ数なんですよ」

「……マジか?」

「ええ、コッフェルさんや他の魔導具師には、どのように見えているか分かりませんが、今までの魔導具に使った魔法陣は、全部この光石の色の光の魔力量の差と同じなんですよ」


 光石の色は、石の大きさによって魔力量が変わってしまうけど、実家のシンフェリア領で販売している光石の規格の大きさは、この通り。

 でも、この辺りは人によって差はあるかもしれないので、自分の魔法陣にあった光石の大きさを使えば、魔法陣を刻む練習になるし、私のように図化して色分けし、それに沿って魔法陣を刻めば、だいぶ作業が楽になると思うと説明。

 細かい魔法陣に関しては、専用の治具を作れば良いだけの話。


「……確かに言われてみれば、俺も同じだな。

 魔力の強弱は個人差があるとして、これは確かに使える」


 どうやらコッフェルさん、自分でも幾つか魔法陣を浮かべて確認していたみたい。

 なら良かった。

 これで少しでも楽ができるのなら、その分、より良い魔導具を作る事に集中できますからね。


「テメエな、前々から言っているが」


 はい、お説教第三弾が始まっちゃいました。

 安易に私が持っている技術を渡しすぎだと。

 本来、技術は秘匿し、信頼できる弟子にのみ口伝で渡す物だと。


「あの、私、コッフェルさんに何度も色々と教わっていますけど」

「テメエが仕事の代価を受け取らねえから、知識で返してやってるだけだっ!

 毎回毎回、一方的に俺に貸しを作って行きやがって、ちっとも借金が返せねえじゃねえかっ。

 俺をそんなに借金漬けで殺してぇのかっ!」


 いえ、そんな気はサラサラないですよ、そもそもそんな大層な物ってありましたっけ?

 自覚がないから性質(たち)悪いって、そんな心底呆れたように怒鳴らなくても。

 とにかく今回のこの技術はそのレベルの話で、この技術を使う魔導具師は私に頭が上がらなくなるような代物って、……そんな大袈裟な。

 じゃあ、私が発見したと言う事は内緒にしておくと言う事で。


「そんな訳に行くか、このボケナスヘンテコ娘がっ!

 とにかくもう少し此方で検証してみるが、この遣り方が有効なら魔導具師ギルドの長として、ギルドの魔導具師に教えねえ訳にはいかねえんだよ。

 それぐれえ有効な技術だし、今ギルドが抱えている仕事量を考えたら、使わないなんて選択肢はねえからな」


 魔法陣を刻む技術の話はともかくとして、やっぱり私が作る魔導具は安いのは問題があるとか。

 特に私の作る魔導具は、同じ魔導具でも性能が数段高いので、それを同じ値段、またはそれ以下で売られたら、他の魔導具師が困ると。

 まぁ言われて見れば分かるけど、談合と言うのもどうかと思う。

 公共事業ならともかく個人の商売ですから、ある程度は自由にさせて欲しい気もする。

 何方にしろ同じ魔導具を同時期に作る事はそれほど無いにしろ、性能の差は個人差という事でなんとでもなるが、開発力と生産力が桁で違うので、その辺りを考慮して値段を決めて欲しいと言われたら、考えないといけないのかあなぁと、思わないでも無い。





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