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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
290/977

290.ホームパーティーしましょう。





「あっ戻っていたんだ、おかえり」


 友達から家臣になったばかりのギモルのお出迎えの言葉に、まだ慣れないため心の中で苦笑が浮かぶ。

 夏の終わりが見え始めた頃、今日も秘密基地の方に魔物と田畑の面倒を見るために、ジュリとエリシィーの三人で行ってきたのだけど、ペンペン鳥と群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)は今年三回目の産卵ラッシュに入り始め、稲はしっかりと穂先を重くして垂れ下がっていたので、次回行く時には田んぼから水を抜き時だと思う。

 そろそろ、四人にも向こうに連れて行って手伝ってもらおうかな。

 アドルさん達は言わなかったけど、陛下の話だと四人が裏切ったら、真面目な話で三家の一族全員がヤバイ事になるらしい。

 そこまでしなくともと思うのだけど、少なくとも例の計画が成功し、水の魔法石が世に広まるまでは必要な事なのだとか。


「ユゥーリィ、手紙が来ていたよ」

「後で見るから部屋に置いておいて」

「了解」

「兄さん変なところ漁っちゃ駄目よ」

「しねえよ」


 うん、普通はしないよね。

 前世が男だった私でも、下着を漁ると言う行為は意味が分からなかった。

 下着は着る者とセットで初めて魅力がある訳で、着る前の綺麗な下着になんの価値があるのかは不明。

 少なくとも前世と今世含めて、私にそんな特殊な性癖はない。

 そう言う訳で、ギモルを信じているので部屋に入られても問題なし。

 流石に人が寝ている時や、着替え中は入らせないけどね。

 前世が男だった私にだって、それくらいの羞恥心はあるよ。


「手紙の件はともかく、明日の準備は大丈夫?」

「ああ、まぁ掃除ぐらいだしね」

「グラスも食器も磨き終えたよぉ」

「雑草も抜いて回ったしな」


 まぁ明日は身内での打ち上げみたいなものだから、そう固くなる必要はないか。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「ぇ……えーと、ドルク様?」

「ふむ、引っ越しを終えたと聞いたのでな」


 とりあえず、先頭にいたドルク様は戸惑う私を放っておいて、勝手に玄関の中に入ってゆく、……あっ靴を脱いで履き替えをお願いしますね。


「で、コッフェルさんどう言う事です?」

「あいつが勝手に付いて来ただけだ。

 まぁ今日の集まりをバラしたのは、確かに俺だがな」

「えーと、ゆうちゃんには悪いけど、逃げ出したくなって来たわ」

「だよなぁ。普通ありえないから」

「私も、気楽な集まりと聞いていたから、こんな格好ですし」


 今日の本来の趣旨は、まだ色々足りない所はあっても、改修工事と引っ越しが一段落ついた屋敷へ、コッフェルさんとライラさん夫妻とラフェルさんだけを招待したのに、何故か一緒にやってこられたドルク様。

 従者のホプキンスがいないのは、多分予定外の人間をあまり増やさないための配慮だと思う。

 屋敷の敷地の外で、馬車と共に待機でもしているみたいですからね。

 とりあえず、コッフェルさん達を屋敷の広間に案内する。

 あっ、ライラさん達は、なんなら先に他の部屋を見学して行っても良いですよ。

 コッフェルさんは駄目です。


「急な訪問して済まなかったな」

「いえ、ドルク様ならば何時でも歓迎いたします」

「まぁ建前はいい。

 儂が招かれぬ客だと言うのも十分理解している」

「そんな事は……」


 少なくとも今日のところは、招かれぬ客である事は違いないけど。

 それを口にするような真似はできません。


「どうせお主の事だ、儂の招待も別に考えていたのであろう?」

「ええ、まぁ」

「だろうと思ってな。

 こう言ってはなんだが、今のお主に、侯爵家である儂やヨハネスを正式に招待するには、この屋敷は足りぬ物だらけで、お主にとって立場を悪くする物でしかない」


 つまり貴族として未熟なため恥を掻くだけだから、ドルク様が急遽訪問する形を取る事で義理を果たした形にした、と言う訳ですか。

 まぁ……、なんとなくそんな気はしたんんだけど、それも仕方ない。

 私が目指していたのは、形だけの気がつかれないステルス貴族だった訳だからね。

 それが色々柵に絡まれて、形だけでも貴族として見せないといけない事になったのだから、色々と足りなくて当然だ。

 そもそも貴族と言うのは、代々積み上げてゆく歴史でもある。

 出来たばかりの新興貴族である私には、その辺りのノウハウも人脈もない。

 ドルク様のところで、当主教育を受けていても、あくまでそれは表向きの知識と作法でしかない。


「何から何まで、お心遣い感謝いたします」

「なに、こう言う事を教え、先んじて恥を掻かせぬように動くのも後見人である儂等の役目だ。

 この礼は、今日の旨い飯で返してもらう事にしよう」


 ええ、でも貴族に相応しい食事ではないですよ。

 ……かえってそれが良いと。

 良いのかなぁと思いつつ、様式美に拘った食事しか出ない高位の貴族方からすると、庶民の食べ物は眩しく写るのかもしれない。


「ふむ、あと、お主の事だ。アーカイブ家が作ったと言う施設に似た物を、この屋敷にも作っているだろうと思ってな。

 話を聞くに、どうやら儂が想像している物と大分違うようだ。

 フェルの奴も何処で入ったかは言わぬが、素晴らしい物だと言うしな」


 つまり実物を見に来たと、そしてあわよくば入って行きたいと。

 別にそれは構わないし、食事をしている間に準備させれば、お風呂に入ってからお帰りになれると思う。

 この時期なら、湯冷めして風邪を引かれる事もないでしょうしね。




 じゅ〜っ。

 じゅ〜っ。


 高く張ったシェードで直射日光を避けた庭先で、音と煙を上げて焼き上がる肉と野菜。

 前世で言うところのバーベキュー。

 外で肉と野菜を焼いて食べるなんて、討伐遠征を散々経験して来たドルク様には、あまり良い思い出ではないかもしれないけど、そこは仕方ない。

 急遽の参加だったので、準備が間に合わなかった訳ですから。

 一応は急遽でピザなりを作ったりはしたけど、どうやらドルク様、酒を片手に美味しそうにコッフェルさんと食べているようなので一安心。

 ちなみのコッフェルさんも討伐遠征は散々経験しているけど、配慮しなかったかと言うと配慮しません、コッフェルさんですしね。


「ゆうちゃん、これお肉を焼いているだけなのに美味しわ」

「冷えた麦酒が幾らでも入るな」

「下味と、タレが良いのよね。

 タレだけで売れるんじゃないかしら?」

「なんで焼いているだけなのに、こんなに美味いんだ」

「薪じゃなく炭と言うところかな?」

「だよねぇ、薪の匂いが気になると言うなら、あの魔導具の火で焼けば良いだけだし」

「次は此方のタレを確かめてみますわ」

「普通のお肉が、なに一つないところが、ユゥーリィらしいわね」


 肉をただ焼いて食べる。

 実はコレだけでも前世と今世では、大きく違いがあったりする。

 肉のトリミングの技法から、隠し包丁の入れかた、下味の処理、わざわざ炭を使う事で遠赤外線で焼く事、そして焼肉用のタレの存在。

 トマトダレ、醤油ダレ、味噌ダレ、甘ダレ、塩ダレ、レモンダレ、バジルダレ、ゴマダレ等、幾つも作ってお好みのタレで食べて貰う形式。

 お肉も、白角兎(ホワイト・ラビット)、ペンペン鳥、岩崖大鳥(ローックバード)皇紅雀(でぼぽ)一角王猪ドス・エンペラー・ボアなどを用意し、蟹焼きとして深赤王河蟹(ルビー・クラブ)深緑王河蟹(エメラルド・クラブ)も食べ比べとして用意してある。


 無論、お酒もワインの赤と白以外に、炭酸割増した麦酒に、ブランデーの炭酸割、梅酒(紅皇蜂(クレムゾン・ビー)の蒸留酒ベース)などを程よく冷やして用意してあるけど、お風呂に入りたい人は、二、三杯で抑えるようにお願いしている。

 一応は仕事中のウチの子達は当然ながら、お酒はなし。

 果実水や炭酸水で我慢してください。

 屋敷の警備の人達は、余り物で申し訳ないけど、この後に好きに食べて良いと言ってあるので、それなりに賑やかになると思う。


「締めに、冷たいスープパスタ(れいめん)とデザートを用意してありますから、欲しい方は言ってくださいね」


 と、言いつつ何人前かは、前もって出しておく。

 きっと欲しい人は勝手に持っていって……ドルク様早いですね。

 ……肉を焼くだけでコレだけ美味いのだから、こちらも気になったと。

 どうあれ、満喫して戴いたのなら何よりです。

 もう一つ出しておいて、私の食べる量に比べたら食欲魔人とさえ言える男の子二人向けに焼きオニギリでも……、醤油と味噌とチーズと三種類あれば足りるかな?

 あれ、コフェルさんどうしました?

 ……酒に合いそうな匂いがするから持ってゆくと、別に良いですけど。

 じゃあバーベキューには少し邪道ですけどお餅を焼きますか。

 こっちにはニンニクのオイル煮を、これがクセになるんですよね。

 使い終わったオイルは、ニンニク油として料理に使えますし。

 そうそう、定番のトウモロコシもあると良いですよね。

 朝取れしてすぐ下茹でしたトウモロコシを収納の魔法から出して、軽く焼けたら醤油をつけて、もう一度。

 ん〜……、気のせいでしょうか?

 何か焼いてゆく端から、どんどんと持ってかれるような気がします。

 豆腐の田楽を此方に。

 大きなナスを焼いて出汁醤油を。


「甘いものが欲しいですわ」


 はい、ジュリ、デザート。

 お代わりはなしだからね……って、そういえば、最近は甘い物のお代わりしませんね。

 まぁ良い事なので、そうっとしておくとして、甘いデザートで思い出しました。

 焼きフルーツも美味しいんですよね。

 こちらはこっちの隅で網を変えて、バナナもどきとマンゴーもどきとパイナップルもどき。

 なぜもどきと言っているかは、もうもどきとしか言いようが無いからです。

 定番の桃とリンゴも置いておきましょう。

 

「ユゥーリィ、それ美味しいの?」


 火を通した果物って結構美味しいですよ。

 不向きもあるけど、この辺りは甘味が増すかな。

 ほらエリシィー、これなんか美味しいですよ〜、中が熱々のトロトロになっているから気をつけてくださいね。

 うん、皆んなが楽しんでくれているなら、何よりです。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【後 日】



「あれ? どうされたんです、態々訪ねて来て?」


 先触れ無しだけど、まぁ商会のヨハンさんは、半分身内みたいなので良いとして、コンフォード家の執事であるマイヤーまで一緒となると、ドルク様かヨハネス様関係の案件ですかね。


「いえ、視察と特殊な魔導具の依頼で」

「奥様方からの許可が出ましたので、旦那様からアーカイブ家を超える施設の設計をと」


 あぁ……、やっぱりそうなっちゃいましたか。

 設計って、既存の建物を使わずに一からその規模ですか、対抗心バリバリですね。

 予算は? 上限なしで気にするなって、強気ですね。


「シンフェリア様のおかげもあって、当家はかなり潤っておりますので」





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