285.流石に疲れたので休みますよ。 ええ、休みますから休ませてください。
国のトップスリーによる強行視察を先日終えて、やっとこさ戻って来た日常。
と言っても、学習院はまだ夏期長期休暇中なので、比較的のんびりしている。
でも、今は、もっとのんびりしていて、……正直、暇をしている。
理由は休暇中だと言う事。
空回りした私が原因とはいえ、もうね、陛下達を迎えるに当たって色々大変だったから全面休暇にした。
ジュリにもエリシィーにも三日間は完全休暇にするから休みなさい。
そう決めたのだけど……。
『従者教育が遅れていますから、領主様のお屋敷に行きますわ』
『何もしないって逆に疲れるから、商会の方に行ってくるわ』
ええ、人の好意を無視して日常に戻って行きましたよ。
せっかく、一緒に美味しいお店でも探しに行こうと思ったのに……。
そのくせして、私には働くなと言って行く始末。
狩猟も、勉強も、魔導具作成も、鍛錬も、魔法の練習も禁止って、私に呼吸をするなと?
『ユウさんは働きすぎですわ』
『一番大変だったから、休みなさい』
いえいえ、肉体的には一番働いていなかったですよ。
おまけに、大人しく休んでいなかったら、夜は覚悟していなさいっと二人して言い残して行ったので、怖くて動けません。
ええ、間違いなく二人掛かりでの説得が待っています。
口でなく身体に分からせる感じ系の。
自殺願望がない私としては、大人しくゴロゴロとする訳で。
う〜ん、暇だ。
「あっ、働かなきゃいい訳だから、趣味の執筆作業なら休暇になるじゃない」
そうだそうだ、そういう手があった。
ここ最近、ちっとも筆が進んでいなかったから丁度良いわ。
老け専は流石に好みが出るだろうから、若き王とその片腕の物語が良いかな。
舞台は砂漠の国くらいにしておいて、国境沿いの紛争が広がってゆき、開戦派と反戦派の中で苦悩しながらも、理想に燃える王と、それを厳しく諌めながらも支える忠臣。
うん、ありきたりだけど、これで行こう。
挿絵は、二人の若い頃を想像して、目元を上手い事隠すやり方で……、うん、念のため肌と、髪の色を変えておこう、薄らと一房色を入れておくだけで、印象は大分違うだろうしね。
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【????】
「くしゅんっ」
「へくしょんっ!」
「お二人ともお風邪ですか? 後で温かい物を運ばせますので、どうか御自愛ください。
それと例の条約ですが、内々に応じる旨を先方が伝えて来ました。
相手も、いい加減に早く紛争を終わらせたかったみたいですね」
「そりゃあ、いくら鉱脈に価値があると言っても、これだけ長く争っていたら、とっくに赤字だから、意地の張り合いでしかないんだ。
向こうからしたら機会を待っていたんだろうね、此方と同様にね」
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【休暇二日目】
「……、……」
……うん、疲れすぎて何も考えつかない。
……と言うか、頭も身体も億劫。
……まさか、執筆も駄目とは思わなかった。
……夢中に書いていたら、いつの間にか二人が帰って来て、とっさに原稿を伏せた上に収納の魔法の中に隠したので、書いている物はバレなかったけど、書いていた事はバレてしまい。
……必死に抵抗したんですよ。仕事じゃなく趣味だと。
『ユウさんの出されている本って、かなりの収入になってますわよね』
『いや、他の儲けに比べたら』
『ユゥーリィの本ってそんなに売れてるの?』
『この間出された料理の本は、原書を一冊で金貨二枚前後で百冊程、それでも足りずに写本待ちが半年以上出ている程ですわ』
『書籍ギルドの規定で、そこから大分取られても、かなりの収入よね』
屁理屈を捏ねられて、仕事認定されました。
その結果、二人掛かりでお仕置きという名の夜がね……。
謝まっても駄目、泣いても駄目、結局、空が白み始めるまで……。
弄られ続けましたよ、……うん、寝よ。
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【休暇最終日】
「ぁぁ……、まだなんか身体がおかしいよ」
身体はしっかりと回復したけど、……その感覚的にね。
肌が敏感な状態が、まだ続いている感じがする。
そういう訳で二人とも目を逸らさない。
今後二人掛かりは禁止。
……罰は仕方ないって。
別に罰を受ける程では……いえ、何も、そこまで二人して凄まなくても。
じゃあ、本当に私が悪い時以外は禁止で。
無論、交代でって言うのもなし。
……余裕がなく泣く私が可愛いって。
そんな事を言われても全然嬉しくないから、とにかく禁止。
特に後ろなんて絶対に駄目、何度も言わせないでね。
あと重要なのが深夜以降は禁止。
睡眠時間は大切だから。
「そういう訳で、せっかくジュリとエリシィーが休んでくれたけど、街に出かける気分じゃないの。
人混みで変な所が擦れて、変な声が出るのは、ちょっと嫌だもの」
「でも、確かに今回は少し遣り過ぎたかもしれませんわね」
ちっとも少しじゃないからっ。
あんな水分補給方法じゃ、足りずに脱水症状寸前だったんだからね。
いくら気持ち良くても駄目な物は駄目。
「じゃあいっそ事、あっちに行って、ノンビリとお風呂に入ってから、縁側で三人揃って、ゴロンとお昼寝とか?
あそこって、此処よりは涼しいし」
エリシィーの提案にそれなら良いかもと、採用を決定。
床だと硬いから、絨毯敷いても良いしハンモックでも。
そうそうハンモックといえば、陛下達たのために急遽作ったベッドはハンモックみたいな物だから、布団を敷かなくても使えるし、アレなら三つ並べて三人川の字にも出来る。
無論、変な事は無しで。
「手を繋ぐのは?」
「ありで」
「足を絡めるのは?」
「無しで」
「贔屓ですわ」
「贔屓ちゃう。常識」
この一年で、ジュリもすっかりとノリが良くなったなぁと思いつつ、早速準備。
収納の魔法を持つ私はともかく、ジュリもエリシィーも準備がいるからね。
「二人ともこの際予備の着替えを、数着向こうに置いておく分も準備しておいてね」
何かもったいないとか聞こえるけど仕方がない。
なんやかんやと向こうでの作業は、結界で強化しない限りは魔法石の保護が追い付かないほど汚れたり、引っ掛けたりするからね。
何より、せっかくお風呂に入った後は、清潔な服を着たいじゃない。
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「ぁぁ……心地良いですわね」
「……良い感じの微風がね」
「やっぱり、こっちの方が、涼しいわよね」
足のついた木枠に、ロープを細かく編んだだけのベッドのおかげで、身体の上下に良い感じに空気が流れて涼しいし、ロープの張り具合が、これまた良い感じだから、我ながら良い仕事をしたと思う。
長く張り出した軒が日陰を作り、ベッドを置ける程の広い縁側が、良い風の通り道になっている。
ただ、少しだけ温かい箇所もあるかな。
両の指先に、触れ合い絡み合う指先の温度。
温かくて、擽ったくて、それでいて離したくなくなる。
うん、このままお昼寝したら、気持ち良いよね。




