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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
282/977

282.創世の七日間? いえ、セブンDAYsうぉーです





 もうね、叫びたくなるくらいに忙しかったよ。

 なんでそんなに忙しいのかと言うと、とにかく人手がない。

 場所が場所なので、巻き込める人が限られているんです。

 事情を知るドルク様やヴァルト様を巻き込んだ日には、自分達もと言い出して人が増えるのが目に見えている上、あくまでお客様であり、お迎えする側の人数は一人も変わらないと言う状態になるのは目に見えているのに、声を掛ける訳にはいかない

 そして私が現在使える駒は、駒の使い手も含めて国の最重要人物をお迎えするには、レベルが足りないと来ている訳ですからね。

 しかも巻き込めそうな、唯一の人間を巻き込む前に……。


『あの爺さん、今、ギルドの方が忙しいから勘弁してやってね。

 ほらっ、年寄りは大切にするものだし』


 と、その忙しい原因をおそらく作ったであろう人間から、釘を刺される始末。

 ならば一層の事はと、お迎えする当人の一人であるジル様を巻き込む事にした。

 ええ、陛下達を迎える上で、ジュリとエリシィーの即席の教育をお願いしましたよ。

 アーカイブ公爵家ともなれば、そう言う教育に秀でた人間はいくらでもいるでしょうしね。

 ただし期限は六日と言う鬼仕様、しかも午前中のみで。


『幾らなんでも、その程度の時間でなんとかしろと言われても、些か無茶が過ぎる日程ではないかね?』

『その無茶な日程を組んだ一人であるジル様に、言われたくありません。

 あと、半日なのは、私一人であの地の準備をしろと?』


 何かそこまで気合を入れなくても良いとか言っていたけど、国王陛下を迎えるのに気合を入れるなと言う方が無理でしょうが。

 ジル様を迎えるのだって、本当はどうかと思ったのに、あの場での説得(きょうはく)ではそんな暇も選択肢もなかっただけの話。

 今回は、まだ準備期間で七日という時間が与えられただけ、ジル様よりマシだと思ってはいます。

 もっとも、全力で準備をすると言っても、私達三人で出来る事なんてたかが知れている。

 掃除と雑草取りの徹底と、繁殖場の設備や魔導具の点検。

 土が剥き出しの細い道を、整備し直して広げ、岩山に行って魔法で切り出してきた石を敷いたりぐらいなのだけど、とにかく広いので大変。

 誰よ、こんなに無意味に広げたのはっ! ……はい、私です。

 思わず一人コントしている内に、肝心な玄関と土間に磨き上げた石を敷くを忘れる所でしたよ。

 家の中の花はなんとか用意するにしても庭の方は無理。

 そもそも庭なんて作っておらず、整地した土地が広がっているだけ。

 仕方ないので、適当に良い感じの岩を並べて、その間に小石を敷き詰めて枯山水。

 雑草対策に、家の周りにも石を敷く事にしたけど、そのままでは味気ないのでので、石の色と敷き方を工夫してなんとか見れるようになったかな。

 要所要所に背の低い観葉樹を山で引っこ抜いてきて移植したので、寒々しくはないはず。

 本当はこの辺りは緑の絨毯にして、寝転がってお昼寝と行きたいけど、陛下の件がなくても今は無理。

 ならば軒下にハンモックを吊るして、サイドテーブルを。

 此方側にはロッキングチェアとスツールを、読書をしながら満喫を。

 他にも…って違うっ!

 自分の快適環境を揃えている場合じゃないのっ!

 とにかく思いつくべき事は山程あるのだけど、いかんせん時間がない。


「ジュリー、エリシィー、明日はあの子達全部洗うから手伝ってね〜」

「時間がありませんのに、そこまでやりますの?」

「どうせ五日も経てば元の匂いに戻ると思うけど」

「やるのっ。

 あと今回から専用の洗剤も開発したから十日は持つ……と思う」


 ペンペン鳥は綺麗好きな子が多いから良いけど、問題は群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)達で、水が嫌いな子達が多いので毎回苦労する。

 エリシィーはまだ経験していないけど、病気対策で毎月二回はお風呂に入れているからね。

 砂漠クラゲは、水浴びか砂浴びで自分達で勝手に身体を洗う子達ばかりなので、池の水を抜いて清掃をするだけで良いし、それはもう済んでいる。

 もう色々と諦めながらも、準備と共に駆け抜けた七日間だと思う。

 多分、世界を七日で作ったと言う神様も、こんな感じだったのかなぁと、同情してしまう。

 だって、此処だけでこんなに大変なのに、世界なんて広すぎるでしょう。

 そんな凄い事をするだなんて、まさに神の御技っ! あっ、神様か。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 シンフォニア王国国王。

【ジュードリア・フォル・シンフォニア】視点:




「ああ、僕が迂闊だったねぇ」


 ジルの話を聞いた後、周りの説得力を持たせる事に利用ができると思って、視察を思いついたのだけど、彼の地へと案内をされて思ったのが、今の一言に集約できる。

 目の前の白髪の少女の表情と態度に、少しばかし苦笑を浮かべて反省をする。

 最近はようやく慣れて来てくれた事もあって油断していたけど、この子、基本的に権威に弱いと言うか、相手の立場を尊重する子なんだよね。

 相手が馬鹿の場合は、それ相応の対応が出来る子なんだけど、逆に言うとこの子が考えているような範囲の行動を取る立場の者には、礼儀を尽くす子だと言う事を失念していた。

 それは貴族としては当然の処世術なんだけど、真面目な性格がそれを後押ししている。

 もうね、空間移動の魔法で移動して最初に目に移った家の周りを見て、たった三人しかいないのに、出来うる限りの準備をしたのだと一目見て分かったよ。

 国王である僕や、王太子であるカイルを迎えるには、どうやったってそんな人数では無理だし、足りない物ばかりだと言うのに、この機密だらけのこの場所で、必死に準備をした事だけは伝わって来た。

 特に出迎えてくれた、彼女の従者の娘や、最近雇い入れたと言う彼女の幼なじみの娘なんて、可哀想なくらいガチガチに緊張している。

 本来であれば、そんなものは無視をするんだけど、それは立場からそうするだけであって、僕自身の本意ではない。

 基本的に僕は子供には優しい人間だよ。

 子供は国の宝だからね。

 気に入った子には意地悪したくなるだけで。


「堅苦しく考えなくていいよ。

 知り合いのオジサンが三人程、訪ねに来てくれたくらいの気分で構わない。

 此処には僕等以外、それを見て咎める人間なんていないからね」


 まぁ、彼女に視察の話を振った時に少々揶揄(からか)い過ぎたとも反省。

 でもこれは、自慢げに此処の【おんせん】とか言う施設の事を話したジルにも責任があるから、彼に尻拭いをしてもらうさ。


「と言っても、素直に言葉通り受け取ってくれそうもないから、今回は、ただのオジサン三人組と思って対応する事。

 これっ、国王命令ね」


 最初からこう言っておけば良かった。

 そうすれば、他に誰も咎める者などいないこの土地と環境で、堅苦しい対応を取る方が不敬になるからね。

 だいたい僕もカイルもジルも、視察の件以外は休暇のつもりで来ているのだから、それこそ堅苦しいのは御免だ。

 こうして口喧しい事を言う連中がいない所でぐらいは、気楽さと不便さを満喫したい。

 王族というのは、身の回りの物は何でもかんでもしてくれて、逆に言うと何もやらせてくれない堅苦しい牢獄みたいな生活だからね。

 だがそれも、まずは仕事を終わらせてからだな。


「早速、案内してもらおう」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「ジルの報告通り、僕等が思っていた以上に安全に繁殖が出来るようだな」

「ええ、驚きでしたよ。

 下位の魔物ばかりとは言え、あんなにも大人しく飼われているなど、自分の魔物への認識が覆りそうですよ」

「殿下、大人しく飼われていようとも、アレ等は魔物です。

 危険がある事には、違いなき事をお忘れなきよう」

「ああ分かっている。

 馬や牛だって飼育する上では危険は存在する。

 魔物であれば、なおさら危険が存在するのは当然の事だ。

 だか、あの様子ならば、この地以外での繁殖も可能であろうと判断できる」


 魔物の繁殖するための施設は、質問を混ぜながら説明を細かく受けて回っても、半刻も掛からぬ程度の物だが、始めて半年程と言う事を考えれば、大きな物と言える。

 そもそも空間移動の魔法で移動した先で見たこの屋敷もそうだが、とても一から森を切り拓いて作った場所には思えない程、環境が整っている。

 正直、ジルの話を聞く前までは、もっと小さな繁殖のための施設と、その横にあった小さな小屋ぐらいだと思っていたし、それだけでも十分に驚くべき物だよ。

 しかも、二人だけで建てたと言うんだからね。

 なのにジルから詳しい話を聞いて、半ば信じられない思いで来てみれば、広大とは言えないけど、村を養えるぐらいの広い畑にがあり、そこに稲とか言う穀物を主にして幾らかの作物が作られている。

 しかも、その長閑な光景とは不釣り合いと言える程、立派な石畳の道が整備されていて、おかげで視察中の移動も快適だったと言える。


「それにしても、靴を脱いで床を踏むなど、子供の頃以来ですね」

「そう言えば妻が嘆いていたな。カイルは元気過ぎて困ると」

「父上はした事がないと?」

「さて、昔の事過ぎて覚えていないな」

「以前来た時は靴のままでしたが、妙に高い床だとは思いましたが、こう言う趣向とは思いませんでしたな」


 おまけにこの屋敷。

 ちょっとした貴族の屋敷並に大きい。

 格式的には田舎の商家の屋敷といった程度だが、全て自分達で作ったと言うのだから驚きだよ。

 流石に家具や布類は買ってきた物らしいが、普通、貴族の令嬢が自ら家を作るなど聞いた事がない。

 しかも魔法でと言うんだから、更に驚きだよ。

 いっその事、物語の中に出てくる魔法使いのように、魔法で家そのものを出したと言ってくれた方が冗談として笑えただろうね。


 こくっ。


 喉に流し込んだ冷たい紅茶が心地良いけど、僕等王族だって、氷の入った飲み物を普段飲みになんてしないよ。

 王宮の魔法使い達に命じれば、幾らでも氷なんて出させれるけど、彼等は誇り高いしその誇りを認めてやるのも僕等の役目ではあるからね。

 氷など、ちょっとした催しの時に、冬の間に氷室に保管して置いた物を出すぐらいだ。

 もっとも、その地下氷室を保つために覆う氷は、魔法使い達が出した氷だったりするけどね。

 ジルの話では、そんな貴重な氷を使ったお菓子も旅行中に頻繁に出ていたとか。

 しかし、靴に縛られないのは良いね。

 代わりにスリッパとか言う物を渡されたが、空気の通りが良いから開放感が違う。

 私室でこれを採用したいけど、妻にはしたないと叱られるかな?


「では、視察も終わりましたので、そろそろ城の方へ移動しましょう」


 うん、あの子がまた何か変な事を言い出した。

 まだ終わりな訳がないだろうが。

 【おんせん】とか言う施設を紹介されていないし、ちゃんとジルに聞いて準備してきたよ。

 後先考えずに、危険な魔導具を世に広げようとした魔導具師から、取り上げた魔導具があるからね。

 彼女は知らないだろうけど、その魔導具師のおそらく最期の作品となる物だ。

 記録する事も二度と作る事も禁じたこれは、収納力こそ棚一つ分しかないが、魔力さえあれば誰にでも使える【収納の小鞄】。


「はぁ…、やっぱり入って行かれるんですね」

「あたりまえだよ。それも楽しみにしてきたんだから」

「……その、そうなると警護上、私が側に待機していないといけないのですが」


 なるほど、彼女の言いたい事は分かった。

 僕は彼女に命じたからね、僕を守れと。

 そう考えると彼女が、たえず僕の側にいないといけないと考えるのは当然の事だろう。

 まぁこれでも王族だから他人の目など気にしないし、彼女も性格的にあまり気にするとは思えない。

 彼女が気にしているのは、……彼女の従者と侍女の子の視線か。

 まぁ、わざわざ恨みを買う必要もないし、命じたとは言え、必ずしも彼女が側にいる必要もない。


「暗殺の心配がないのに、そこまでは不要だ。

 ここに近衛騎士もいるしね。名前だけの」

「一言余分です父上。

 ですが、陛下の警護は私の役目という事で」

「儂もおるしな。此処にいる間は、魔法での周囲の警戒だけで十分であろう。

 それで宜しいですかな、陛下?」

「そうそう、詳しい事を知っているジルもいる事だし、僕等が入っている間に君等も入っておいでよ。

 あっ、コッチは命令ね。

 大丈夫、覗きなんて無粋な真似はしないし、僕も奥さんと娘に冷たい視線を浴びたくはないからね」


 魅力が欠片もないとは流石に言わないけど、そんな事で、今まで築いてきた信頼関係を壊したくないからね。

 そもそも、そこまでして貧相な身体を見たいとも思わないさ。




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