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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
280/977

280.お風呂に嵌ってしまいましたね。これでまた一人同好の士が増えました。





【アーカイブ公爵街屋敷】



「ふむ、金板貨八枚(はっせんまん)か」

「すみません。私としては、もっと安く納めたかったのですが」

「最初の品故に余計に値段を吊り上げたのであろう。

 お主の責任ではないし、貴族相手の商売と言うのはそう言ったものだ」


 大型の湯沸かし器のお値段は、利権の関係上ドルク様の商会【女神の翼】経由の販売となったため、とんでもない金額になってしまった。

 ただしジル様の言うとおり、貴族向けの初物と言うところが大きいらしい。

 前世でよく使うような、湯量の普通の湯沸器は金貨五枚を予定しており、此方も比較的高めだけど、物珍しい内は余計に高い金額になるんだろうね。

 そもそも基幹部分の(かまど)部分は、携帯(かまど)の魔導具が金貨二枚だから、最低でもこれより高くしないと不満が出るみたいです。

 ただ、この湯沸器の魔導具、将来的にはどうなるかはやや不明。

 おそらく水の魔法石が世に広まった頃、今度は火の魔法石や、氷の魔法石の開発が進んでいくだろうから、当然この湯沸器の代わりに、火と水の魔法石を使った魔導具も出てくるはず。

 でも、魔法石を使った魔導具が取って代わるかと言うと微妙なところ。

 私が今回作った湯沸器は魔力投入型。

 つまり魔力持ちが魔導具の力を使って湯を沸かす方法。

 対して水と火の魔法石を使った湯沸器は、わずかな魔力を呼水に魔法石を消費してゆくタイプの湯沸器になるので、ランニングコストが掛かる欠点がある。

 ええ、一応その辺りのことは事前研究しましたよ。

 高価な品を買わしておいて、直ぐに価値がなくなるような、そんな買い物はさせたくありませんから。


「金は用意させておこう。

 その間に、早速、設置してもらおうか」

「もう完成したんですか?」

「壁とかはまだだがな。水路と床は完成しておる」


 そうしてジル様に案内されて、屋敷の裏手の方に向かった先に在ったのは、……屋根付きの露天風呂?

 一部壁が出来ている所はあるけど、どう見ても脱衣所だよね。


「ジル様、建物が完成する前に入る気満々ですよね?」

「さて、なんの事か」


 これ、男の人は良いかもしれないけど、女の人は絶対に入れないですよ。

 自分だけお風呂に入って楽しむなんて真似をしていたら、ご家族に恨まれません?

 ……風呂の良さを身をもって知らしめるためと言うのもあるけど、私の所の温泉のような開放感溢れるお風呂に入れるのは、今の内だからこその決断だと。

 物は言いようですね。

 とりあえずボイラー室もとい、石造りの設備室に大型の湯沸器の魔導具を設置。

 水路の続きを、魔法でチャチャッと石を加工して作り上げ、形状変化の魔法で接合。

 排水の方も、石の滑り台を置くだけの状態にしてあるので簡単。

 あとは水路を堰止めして在ったのを外して魔導具に注水。


「此方の注水弁と排水弁を開放しないと作動しない様になっていますのでお気をつけください。

 あと、これだけ大型の魔導具ですので、使用は必ず一定以上の魔力持ちか魔導士が行うようにしてください。

 出来れば気分が悪くなっても問題がない様に、誰か付き添いの方がいる事が理想です。

 それ以外は、基本的に携帯(かまど)の使い方と変わりません」


 多分、お風呂のためだけに新たに用意された使用人に、簡単に使い方を説明。

 魔力感知をした感じから、十分な魔力持ちみたいなので安心ではあるけど、念のため一日に二回までと注意。

 湯船の手前に熱湯を溜めて置く貯水槽があるので、二回目を使う事はそうそうないだろうけど、公爵家だから一日中宴が催される事もあるだろうし、その客に風呂を勧める可能性も十分考えられる。


「お風呂や魔導具後の水路に湯を入れたままにしておくと、病気の原因が発生する可能性がありますので、必ず一日一回は湯を抜いて、浴室、浴槽共に清掃をしてください」


 他にも蒸し風呂同様に、風通しをよくして、カビの発生を防ぐなどの説明に、ジル様が眉を顰め、とんでもない事を言い出す。


「ふむ、ならば、これはこのまま作らせて、もう一つ開放的な風呂を作るか。

 少し離れた所に周囲を高い壁を作れば、覗きの心配もなくなるだろうしな。

 ユゥーリィよ、ドゥドルクに言っておけ、二台目は勉強しろとな」


 ええ、もうやる気満々ですよ。

 しかも、広い裏庭の一つを丸々潰して作る気でいますよ。

 いや、確かに公爵家の収入からしたら、大した金額ではないと思いますけど、以前に白金板貨を超えたら、奥様に怒られるような事を言ってませんでしたか?

 ……日が経つにつれ、露天風呂の素晴らしさが恋しくなったと。

 今、作っているお風呂の完成を急がせて、納得させるから問題ないと。

 それって、だいたいが大喧嘩になるオチじゃありません?

 後になって私が止めなかったから喧嘩になった、とか言わないでくださいよ。

 とにかく衝立とかを用意し始める使用人は見なかった事にして、元の部屋に戻るときっちりお金が用意されているあたりは、流石は公爵家であり宰相様であると感心する。

 普通、金板貨八枚(はっせんまん)が、その日の内に短時間で出てくるなんてありませんよ。

 いえ、私も出せますけどね。

 単に使い道がなくて、収納の鞄の中に放りっぱなしになっているだけで。


「ところで此れは?」

「旦那様のガウンと着替え一式に御座います」


 アーカイブ家の執事の説明に、私は呆れながらジル様に視線を向けると、スイっと逸らされてしまう。

 温泉に入りに来る気満々ですね。

 いえ、ジル様一人なら、時間が許す限りは構いませんけど。

 とりあえず執事の方に……。


「自分の孫娘ぐらいの歳の若い女性が三人しかいないところに、お風呂に入りに行くだけでなく、泊まる気でいると言うのはどう思われますか?」

「……ん、こほん。

 私めは旦那様を信じておりますゆえ、なにも」


 模範的回答を有難うございます。

 ただ、目はどう見ても呆れていますよね?

 まぁ私も信じてはいるので、反対も拒絶もしませんけど。

 若い娘二人を預かっている身として一言。


「ジル様、信用しておりますが、くれぐれも御自重くださいね」


 失礼にならないギリギリ言葉で伝えながら、手は何かを切り落とす仕草をして見せる。

 無論、そんな間違いが在った日には、そんな物ですます気はないですけどね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【王宮、執務室】



 魔物の繁殖に関しての定期報告があるので、陛下に会うために参内したのだけど。

 此方の報告を聞き終えるなり、陛下は報告の内容についてではなく……。


「君、ジルには随分と良い所に招待したみたいじゃない。

 しかも、それを再現するために、良い物を贈ったとか」


 うん、一瞬、なんの事か分かりませんでしたよ。

 おそらく視察の件と、大型の湯沸器の魔導具の件なのだと思うけど、視察は決して招待ではなく半ば強要だったし、大型の湯沸器の魔導具は、純粋なる商売の話で、売買の契約はアーカイブ家とコンフォード家の商会での話。

 私は一魔導具師として依頼を受けたと言う事になっている。

 そんな私の説明に、陛下は目を細めて、施設の意匠図と図面を贈っただろと。

 そう言われれば、そうなるんですけど。

 ……あれが在ったからこそ、工期があれほど早かったと。

 確かに見た事も作った事がない物でも、図面と見た者の話があるのとでは、工期は大きく変わってくるでしょうけど。

 そんなどうでも良いような話を、陛下が求めている訳がないですよね。


「もしかして、ジル様のお屋敷に?」

「ああ、行ったさ。

 あまりにも自慢するから、仕事を口実に赴いてたのだか、アレは想像するよりも良い物だと実感したよ」


 それはそれは、ジル様、これで社交界でさぞかし鼻が高いだろうと思う。

 最新の魔導具を用いた娯楽施設を誰よりも早く導入し、陛下が態々入りに公爵邸まで訪れたとなれば、それはアーカイブ家の力を世に知らしめた事でもある訳ですしね。


「言っておきますが、私では陛下を迎え入れるには、爵位も家格も足りませんし、陛下が王都から出てもらうだけの理由もなければ、力もありません」

「相変わらず君は僕には冷たいねぇ」


 別に冷たい訳ではないですよ。

 立場的に無理な物は無理と言っているだけです。

 そもそも陛下を迎え入れるとなれば、公爵家や侯爵家であっても大騒ぎになるし、準備も大変になる。

 生憎と言うか幸いと言うか、我が家では陛下を迎え入れるだけの準備などできない。


「そもそも、あの地の事はまだ極秘ですよね。

 ならば実際に目にする人は少ない方が良い訳ですし、そんな所に近衛騎士など招き入れる訳には行かないと思いますよ。

 おまけに【死の大地】の向こうに行くだなんて、周りの者が許してくれるとは考えられません」


 ええ、何処からどう見ても完璧な正論です。

 このシンフォニア王国は大国ですから、それだけに国の主人(あるじ)たる陛下の立場は重く、その御身の安全を図るのは最重要視されるべき事。

 だからこそ、何処にいようとも近衛騎士が側に控えており、機密の話をする時でもすぐに部屋に入り込める状態で部屋の前で待機している。

 無論、この執務室に繋がるあらゆる通路では、近衛騎士が待機しており、人の出入りを厳重に管理し、記録もしている程。

 陛下が自由に動けるのはこの王城内だけだし、王城の外に出る時でもそれなりの手続きをした上で、警備計画を念入りに計画されて初めて叶う事。

 それも王都とその近郊がせいぜい。

 言い方は悪いけど、大国の王が住まう王城と言うのは、王を閉じ込めるための監獄でしかない。

 それが凄く窮屈で苦痛である事が分かるからこそ、性格が悪くてもこの国のために身を粉にしている陛下の我が儘に、少しくらいは応えてあげても良いと思っているので今まで付き合ってきたけど、無理な物は無理。

 そんな重責になんて応えれません。

 筋を通してください、筋を。





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