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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
278/977

278.秘密基地を紹介しちゃいます。その壱。





「やっぱり、この季節の雑草は勢いが凄いね」

「七日で此れだけ伸びるているんですから、生命力は魔物以上かもしれませんわね」

「……えーとユゥーリィ、…此処って?」

「うん、シンフェリアにいた時にも作ったけど、私の秘密基地」

「全然、規模が違うんだけど」


 エリシィーの突っ込みに、そうかもと答えつつ、規模は百倍どころの話じゃないから、突っ込みたくなる気持ちも分からない事はない。

 此処での事は事前に一切他言無用と、しっかりと約束させて連れて来た。

 エリシィーも子供じゃないし、他人に話して良い事と悪い事の区別はつくだろうし、此処での事は国が関わっているから、下手をすると本気で消されかねない、とまで言い含めてあるから、エリシィーなら大丈夫だと信じている。


「あっちに見えるのが水田で、お米と言う穀物を育てていて、あっちの畑は、香辛料や薬草関係を主に育てているの」

「無難な方から説明していますわね」


 ジュリ、うるさいよ。

 魔物討伐騎士団を目指していたジュリと違って、エリシィーは普通の子なんだから、いきなり刺激なんて与えられないでしょう。

 ……だけど、説明しない訳にはいかないので、そろそろ覚悟を決めて。


「それで、少し高いところにあるのが、魔物の繁殖場」

「……ぇっ? ま…も…の…?」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 はい、説明と説得に少しばかし時間が掛かりました。

 私の事を分かってくれるエリシィーですら、こうなんだから、世間一般ではもっと大変なんだと思う。

 とりあえずペンペン鳥の養殖ゲージから説明するとして、その前に魔物の繁殖ゲージ近くは、決して一人では近寄らない事を注意。


 くけっくけっ

 ぎゅるるる。


「まん丸ね」

「まん丸ですわ」

「元々こう言う生き物だから。

 あと今朝食べた、串焼きのお肉って、此れだから」

「えっ、あの物凄く美味しいお肉って、この子達だったの?」


 ええ、もちろんそう言う戦略です。

 先に美味しい物を食べさせておいて、魔物に対する恐怖心を下げる作戦。


「一応、能力は封じてあるけど、檻の中にいる時は、身体強化をしっかりと掛けておいて」


 魔力投入型の身体強化は、操作型と違って身体硬度も同時に上げれるし、意識すれば身体硬度のみとかにする事もできるらしい。

 一応、エリシィーには白牛猛鬼の骨を素材にした、腕輪型の結界の魔導具を渡してあるので、身体強化の魔法に反応して、身体硬度を底上げする仕掛けが施してある。

 そのあとは、飼育や繁殖方法の説明。

 一般的な生き物のお世話の仕方以外に、能力を封じてある魔導具の損傷な度の確認と、魔導具への魔力の補充の仕方。

 痛みを与えないで魔力回路となる神経を切る方法と、その道具の扱い方。


「少し手間の掛かる豚の繁殖と思えば、難しくないわね」

「うん、でも油断は禁物。

 魔力神経(かいろ)の切り残しや、能力を封じた魔導具が壊れていたり、魔力切れを起こしていたら、身体に大穴があくからね」


 ペンペン鳥の【風】属性の魔法を使った、ジェット飛行とその体重を利用した突撃は、ちょっとした木ぐらいは簡単に貫通させてしまう威力がある。


「そうね、豚だって雑食だから、お昼寝していたらって話は聞くし」

「……エリシィー、それエグいから」

「うん、でも、シンフェリアでもあった話よ。

 その後、振舞われたらしいけど」

「それ初耳だからっ! あと生々しいよっ!」


 当分の間、豚肉が食べれなくなるような話は、ぜひとも止めて欲しい。

 確かに思い起こしてみれば、冬支度でも祭りや結婚式でもないのに、庶民の間で豚が振る舞われていた事があった記憶があるけど、あれはそう言う事だったのね。

 お母様やお姉様に、そう言う時は美味しそうな匂いがあって、声を掛けられても貰ってはいけないと強く言われていたから、何でだろうなと思っていたけど、やっと理由が分かりましたよ。

 弔いであり、敵討ちだったのだと。


「ユウさんの故郷って」

「引かないの、私も少し引いているんだから。

 でも、多分、どの土地でもやられている事だと思うわよ。

 貴重な家畜をただ殺して埋めるなんて真似、庶民ではとても出来ない事だもの」

「……それも、そうですわね」


 嫌な話になっちゃったけど、こう言う所でもエリシィーの存在と価値観は助かる。

 ジュリは生粋な貴族令嬢だし、私も色々例外であっても一応は貴族令嬢だし、基本的に引き篭りの世間知らずだから、こう言うところの知識や感覚が大きく違う。

 こんな事は、前世でも身近ではなかった事だからね。


「あと、この子の羽って、エリシィーが着ている肌着の素材にもなっているから」

「この風が僅かに出る奴のね。

 へぇ〜美味しくて、涼しい子なんだ」

「エリシィーさんばかり狡いですわ」

「ジュリは魔力の制御も兼ねてだから当然でしょ。

 無意識に出来るようになれとまで言わないけど、もう少し自然に見えるように繊細な操作に慣れなさい」


 ジュリは相変わらず、その手の操作は下手で、昨年みたいにスカートや上着の裾が捲れ上がる、なんて事はなくなったけど、それでも時折背中とかがモゾモゾ変に蠢いているから、見た目的に虫か蛇が這っているみたいで気持ち悪い。

 強い魔力の制御にはだいぶ慣れてきたみたいだけど、繊細な魔力の制御は、まだまだ未熟と言える。

 あと、ジュリからしたら、エリシィーばかり贔屓してと言う気持ちも分からない訳ではないよ。

 エリシィーが一緒に住むにあたって、色々彼女のために魔道具を作ったのは確かだし、それらの殆どはジュリにはしてあげていないからね。

 でも、それは魔導士のジュリと、魔導士でないエリシィーの差と言う事で勘弁してほしいし、ジュリは魔力制御の訓練を兼ねさせていると言うのもあるんだから。

 今度、買い物に付き合ってあげるからね。

 ……二人っきりが良いと。

 ええと…、いってらっしゃいと、流石はエリシィー、その気遣いが嬉しいです。

 こらこら、ジュリ、其処で点数稼ぎとか言わないの。




「それでもって、この石で囲った繁殖槽の中に居るのが砂漠クラゲ」

「砂漠クラゲって、あの乾物の?」

「そう、その乾物の。

 食用として育ててる訳じゃないけどね」


 砂漠クラゲの乾物は、シンフェリア領にあるお店では、取り扱ってなかったけど、エリシィーが以前に居た街では取り扱っていたみたい。

 ただ生きているのを見るのは、流石に今回が初めてだとか。

 とりあえず槽の石壁の点検に、池と水路の塵取り、升と槽内の清掃。

 餌は、移動を促すように、二つある池の近くに交互にあげるように教える。

 比較的安全な生物だけど、触手の数本に相手を痺れさせて捉え、体内でゆっくりと溶かす凶悪な面も持っているから、こっちも油断しない事。

 身体強化を持っていれば、触手の攻撃も無効化できるし、そのままでは自分より大きい相手を取り込めない。

 砂漠クラゲの触手や本体部分は、エリシィーの身体強化でも引き裂けれるはずだから、もしもの時は焦らず対応してね。


「とてもお店で並んでいるとは思えない程、凶悪なのね」

「普段、砂漠や岩場で干からびている所を、止めを刺して拾ってくるだけみたいだからね」

「それで、これが一番重要な魔物の繁殖で、まだ詳しい事は言えないけど、この魔物を素材にした魔導具は国が動く程のものなの」

「……国が?」

「そう、ただ副産物として、先程の魔物の能力を阻害する魔導具の素材になっていたり、布団カバーのシーツにもなっているわ」

「あれのおかげで、濡れたシーツのまま眠らずに済むから、助かってはいるわね」

「ユウさん、なんやかんやと粗相が多いですから」

「誰のせいよっ。誰のっ!」


 二人の言葉に、顔が熱くなる。

 途中でトイレに行かせてと言っても、行かせてくれない上に止めてくれない人達に言われたくない。

 そうでなくても私は、色々と多いみたいだから、今やなくてはならない物の一つ。

 あと大切なのが……。


「エリシィーはまだ使ってないけど、月の物にも大変に便利なの」

「ですわね」

「貰ったけど、あんなに薄くて小さい物で、本当に大丈夫なのかと心配なんだけど」

「一度、使えば分かりますわ」

「そうそう、もう一度使ったら戻れなくなるよね」


 私は洗浄魔法のおかげで大分マシだったけど、それでもあの分厚さとゴワゴワ感。

 そしてそれでも漏れてしまうため不快な感触と、洗濯の手間を考えると、もう以前のものには戻れないと言うのは、試用している人間の共通の認識。

 もっとも、試用している人間と言っても、私とジュリとルチアさんの三人だけだけどね。

 化粧品の例があるから、絶対に漏らせれない。

 この情報伝達が未発達な世界にも関わらず、主婦のネットワークによってあれだけ騒ぎになり、準備も整っていないのに商品化を強制させられた程だからね。




「此処が一番油断ならない所だけど、飛びかかってきたら、容赦なく地面に叩きつけて良いからね。

 いくら可愛くても舐められたらおしまいなのは、自然界の鉄則よ」


 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の繁殖ゲージに入る前に、そう忠告しておく。

 爪の能力と翼の筋さえ切ってしまえば、ちょっと変わった猫みたいな物だけど、それだけに油断は禁物。


 きゅきゅっ。

 きゅ〜〜んっ。


 ええ、こうやって可愛く甘えて来てはいても、魔物は魔物ですからね。

 私やジュリには、既にどうやっても敵わないと学習しているし、美味しい物をくれる相手だと認識しているらしいので、オヤツ欲しさに、こうして媚びを売っているだけの話。

 案の定、初めて見るエリシィーに、媚を売る振りをしながら警戒し……。


「気をつけてっ!」

 ベシッ!

 がしゃんっ!


 ……へっ?

 能力を封じられた以上、たいした攻撃力はないとは言え、其処は魔物。

 小さな身体には、大型犬並みの筋力と体力あるので、油断すれば大の大人でも組み伏せられてしまう。

 そんな可愛くも凶暴な群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の内一体が、隙を窺っているのを見つけたので、エリシィーに気をつけるように警告を送った途端だった。

 エリシィーに飛びかかる群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を、エリシィーは本当に容赦なく、未熟ながらも身体強化で強化した左腕を払って、飛びかかって来た群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を檻の壁に叩きつけた。

 えー……と、こんなに可愛いから私でも躊躇するのに。


 ビシッ。

 ぐぇっ。

 ビシッ。

 ぎゅるっ。

 ビシッ。

 …きゅぅ…。


 しかも、檻に叩きつけられて地面に落ちた群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を拾い上げて、往復ビンタ。

 グッタリして、抵抗を止めたところに、真正面から睨みつけて、もう一発。

 その後は、見覚えのある薄らとした光が群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を包み込み、やっと解放された群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)は、そそくさと人口の岩山に逃げてゆくんだけど。


「今みたいので良かったかしら?」

「……う、うん、まぁ」

「……良いと思いますわ」


 なんと言うか、悪戯をした近所の子供に、容赦なくお尻を叩いて叱りつける近所のお姉さんのように見えたのだけど。


「エリシィー、今の最後のって?」

「うん、魔力が使えるようになってから、神父様に教えてもらったの。

 簡単な怪我くらいなら、治せるみたいだから」


 そりゃあ、確かに修行さえすれば使える可能性のある、と言う色々不思議仕様の治癒魔法なら、外部魔力のないエリシィーでも使えるかもしれないけど、今のはどう見ても【聖】属性を持つ者特有の光り方。

 それは、ともかくとして、今は……


「よく飛び掛かって来るって分かったわね?」

「ん〜、なんとなくかな。

 ほらっ、人の胸や足を、じろじろと隠れて見る男の人の視線に似ていたし。

 隙を窺って悪戯を仕掛けて来る下衆の感じが、よく似てたから」

「まって、今、とんでもない事を言わなかった?

 悪戯って」

「大丈夫よ。

 アイツじゃあるまいし、子供の頃じゃなくて、ユゥーリィの所に来るちょっと前の話で、今みたいに徹底的にやったら、二度と近づいて来なくなったたし、話を知った領主様も罰っしてくれたから」


 そう言って、エリシィー二本の指を立てて、何かを切り落とすかのような仕草をして見せる。

 ……ん、まぁ、この世界のその手の犯罪者に処罰される、典型的な刑罰なんだけどね。

 大抵は、その後で教会で再生治療を受けれるからこその刑罰でもあるんだけど。

 あんな田舎で、そんな処罰を受けたら、実質的に村八分になるんだけど、其処はまぁ自業自得と言う事で。

 ともかくエリシィー曰く、魔力に目覚めた事と、月の物が来た途端に手を出さなくなった下衆に、色々と吹っ切れたとか。

 いえ、あの、エリシィーそう言う話はジュリがいない所で。

 ……既に知っていて、男なんて下衆だと言う話で、大変に盛り上がった仲だと。

 もしかしてエリシィーって、ジュリより逞しいとか?


「どうやら今ので、エリシィーさんを狙う子達はいなくなったみたいですわね」

「お腹見せて待っているけど、これって撫でて良いのかしら?」

「ええ、喉を鳴らして喜びますわよ」

「あら、本当ね。

 ……この首の横が良いのね。

 ほらっ、ほらっ、気持ち良さげに身悶えちゃって。

 そんなに必死に身体を押し付けて、此処が良いのね。

 なら、どうしたら良いか分かるわよね?」


 ……えーとエリシィー、なんで私を見ながら、そう言う事を言うのかな?

 その群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)に言っているんだよね?

 いえ、何か返事が怖いから言わなくて良いです。

 とりあえず説明するから、可愛がるのは其れぐらいにして頂戴。





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