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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
271/977

271.愛が重過ぎます。 何方のとは言いませんけど。





「ふわぁ〜、……眠い」

「あら、朝が強いユウさんにしては珍しいですわね」

「誰のせいよ、誰のっ」

「昨夜は、宿に戻るのが遅かったですからね」


 なんて、ジュリは素知らぬ顔で誤魔化すけど、私が寝不足なのは、間違い無くジュリのせい。

 ず〜〜〜っと、船旅の間は我慢していたとか言って、昨夜は人を寝かせてくれなかったのは誰だと言いたい。

 以前よりは嫌じゃなくなってきたとは言え、あの頭が真っ白になる感覚と、自分がオカシクなる感覚が苦手な事には違いない訳で。

 無論、女の子同士のスキンシップで、擽りっこの話ですよ。


「問題はそこじゃないでしょうが」

「まぁやり過ぎたかもしれないと言うのは認めますけど、仕方ないじゃないですか、夜のユウさんって物凄く可愛いんですから。

 特に余裕が無くて、必死に私に抱きついてくる顔が」

「……次に、あそこまで攻めたら、魔物の領域で必死に泣いて逃げ惑うまで放っておくから」


 ブーブー言うけど知らん。

 実際そんな目に合わす気など欠片もないけど、こっちは素人なんだから、もう少し手加減して欲しいだけの事。

 其れでも毎回許してしまっちゃうのは、いつも終わったとで耳元で甘く囁かれた後、優しく口付けをしてきてくれるからなんだと思うけど、……そう考えると私ってチョロイのかと思ってしまうから気が滅入る。

 とりあえず、今日の旅程では昼過ぎまでは、身体強化の魔法で私に付いてきてもらおう。

 私の操作型と違って、ジュリの魔力導入型の身体強化はマラソンと同じだから、船旅で鈍った身体と甘い物を食べ過ぎているジュリには、ちょうど良い運動だろうからね。

 決して、昨夜の仕返しでは無く、ジュリのためを思っての事。


「あとジュリ、また体重増えた?

 昨夜、重くて苦しかったから」

「……き、気のせいですわっ」


 私の言葉に、必死に腕まわりや腰回りを気にしだすけど、そこは此処数日間の食生活を振り返ってくださいとしか。

 あと、愛という名の体重は確かに重かったかも。

 心地よい重さと言う意味で。

 ええ、惚気です。

 罪悪感はあるものの、ジュリみたいな子に愛されて、嬉しくない訳ではないですか。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【国王:ジュードリア・フォル・シンフォニア】視点:




 可愛い女の子達に囲まれて、余暇を過ごした薄情者のジルの顔を見るのは、一月近くぶりぐらいだったかな。

 唯でさえ宰相と言う高級文官のくせに、何故か日焼けした精悍な顔が、更に日焼けして一層迫力を増してはいるけど、よほど美味しい食べ物が続いたのか、其れとも船旅で運動不足だったのかは兎も角として、少しばかし膨よかになった事で、よくよく見れば柔和になったと感じる者もいるかもしれない。

 何はともあれ、彼の報告を一通り聞いたと出るのは溜め息でしかない。


「これで、僕の(くにが)彼女に対する借金は、僕と息子の代では、とても返せる金額じゃ無くなったね」

「それは、全て上手く行けばの話ですが」

「現状で彼女から聞いている話で、上手くいかなかった場合は、彼女の責任ではなく、僕等の責任でしかないだろう」


 魔物の繁殖による水の大改革にしろ、副産物である防水布にしろ、既に凡そ完成しているし、今のジルの報告では、繁殖そのものも、想像していた以上に長閑な代物らしい。

 これで失敗するなど、どう考えても僕等の失策か、馬鹿な連中を抑えきれなかった此方側の失敗でしかあり得ない。

 そこへ、更に父の代から問題になっている小勢合いと紛争の一つが、解決する糸口が指し示されただけで無く、今まで見向きもされなかった物が、莫大な利益を齎す可能性がある事を教えてくれたのだから、もうなんて言って良いのか。


「其れで君の事だから、既にそれとなく話を通しているんだろ。

 相手の反応はどんな感じなんだい?」

「戦争をする度胸のない弱腰陛下が、これ以上の被害を抑えるため、無い知恵を絞って国民を納得させようと、禿山を条件に鉱脈を差し出してきたと」

「君ね、態々抑揚をつけて言わなくても良いから。

 あと、其れが演技でない事を祈るばかりだね。

 無論、君のでは無く彼方さんのね」


 正直、これ以上紛争が広がり長引くなら、其れも仕方なしとも思っていたからね。

 元はと言えば国境ギリギリの鉱脈で、今回発見された鉱脈は、何方かと言うと此方側が彼方にハミ出ていた訳だし。

 もっとも、その前に向こうがハミ出して来て、勝手の採掘していた訳だから、此方もと言うのは分からない話では無いが、そのおかげで紛争が激化したと思うと、褒められた事では無いのは確か。

 もっと上手くやれば良いのにとも思うけど、今回の話は、やり過ぎた馬鹿を抑える良い口実にもなるね。

 まぁ、向こうも此れで金食いの紛争が収まるのならばと、おそらく条件を飲むだろう。


「それで、問題の鉱脈の分布は?」

「本来の領土線で言えば、七対三で此方側です」


 地下深くは兎も角、土属性の探索魔法で探れる範囲の結果なら、悪く無いね。

 地図的にも、……九対一まで持っていけるか、元々向こうが欲しがっている鉱石は、周辺では既にほとんど掘り尽くされているし、向こうからしたら、さして価値のない土地でしかないからね。

 まぁそんな土地だからこそ、鉱脈一つで争いが起きているんだけど、とにかくジルに、その線で条約を締結させるよう伝え。


「今までの紛争の原因はお互い様だ。

 だが新たな条約締結後の違反行為は、力で持って示せ。

 向日側にも、此方側にもな」

「宜しいので?」

「元はと言えば、先代からの負の遺産だ。

 先代の政策に敬意を払って状況を見守っていたが、そろそろ精算すべき時だろう」


 父上にはアレが最善だったのだろうが、新たな鉱脈が見つかった事で、事態が大きくなってきたから、そう言う意味でも良い頃合いではあったしね。


「まったく、休暇を楽しみながら、きっちり仕事をしてくるんだから、また当分の間はジルに頭が上がらないね」

「下がった試しなどありましたかな?」

「これでも僕は、君に敬意を払っているつもりだよ。

 大変仕事のできる優秀な右腕だとね」

「其れは大変に光栄なお言葉ですが、おかげさまで急ぎ締結せねばならない条約ができましたので、お返しした陛下のお仕事は、そのまま御自分のお力でお願いいたします」

「まったく、僕を見捨てるだなんて酷い奴め」


 まぁ元々彼女の魔導具関係で起きた問題の処理のために、一時的にジルに預けていた仕事が戻ってきただけだし、あまり強くは言えないか。

 その問題も彼女に爵位を与えた事で、表立って動けるようになったため、以前のような忙しさはない。

 まぁ今まで預かってくれたのは、ジルなりの気遣いでしかない。

 この一年、彼女のための調整で、奔走していたからね。


「して、此方の方は?」

「まぁ平穏だったさ」

「シンフェリア男爵が、代替わりの挨拶に来られたとか。

 其れと、この部屋の絨毯と一部の家具が変わっているようですが、その説明は?」


 既に耳に入っているなら、聞いてくれるなと言いたい。

 僕も少しばかしやり過ぎたと、心から反省はしているんだからね。

 でも、その甲斐はあったね。


「愚直なだけで貴族としては凡庸だと思ったが、中々に気骨のある人物だったよ。

 彼女の父親はね」

「ほう、詳しくお聞きしても?」

「どう見てもしろって目が命じているんだけど、まぁ説明はするよ。

 いざとなったら、ジルにも助けて貰わないといけないからね」

「ええ、是非とも説明願いたいですな。

 彼女の父親の左腕を斬り落とさせた陛下を庇わねばならぬのですからな」

 

 うん、やっぱり怒っているよね。

 でも仕方ないだろ、あの男、(くに)の勅令に真っ向から逆らったんだから、そうして見せないと周りに示しがつかない。

 でもその勅令に逆らった理由が、彼女のためだった訳だから、結果的にあの男は僕の信を得れたから、左腕を斬り落とされた甲斐はあったはずだよ。

 むろん腕は治癒魔法でしっかりと再生させたし、国と継続的な大きな取引を土産に持たせたのだから、元とは言え貴族の当主としての役目での出来事。

 理由を話せば、彼女も多分わかってはくれるとは思う。

 問題は、怒るか怒らないかなだけで。


「己が敬愛すべき父親の片腕を斬り落とさせた相手を、恨まぬ娘がおるとお思いですか?

 そしてあの娘が、其れを思わぬ薄情な娘に見えますかな?」

「ゔっ、そこは知恵を貸していただけたら嬉しいかなぁ〜と」

「陛下」


 まぁ、説教はいくらでも聞こう。

 ジルの言うことは僕も娘を持つ親だから、十分すぎるほど分かるからね。

 でもねジル。

 彼女は僕等が思っている以上に強い人間では無く、本当に年相応の女の子だって事を失念していたよ。

 例え戦災級の魔物も物ともしない力をを持とうとも。

 僕等のような大人と、臆しながらも渡り合う知恵と度胸をっていても。

 彼女は、見た目通り小さな女の子で、必死に踏ん張っているだけなのだとね。

 そして、僕等が彼女のためにやろうとしていた事が、そんな彼女の緊張を不用意に取り払ってしまえば、彼女が限界まで張っていた心を、打ち壊していたのかもしれないとね。

 あの男が、家を出た娘のために、己が左腕を躊躇なく賭けるほどのね。

 誰よりも、己が娘を抱きしめたいと思っている男が、決して自ら会おうとしない理由と、彼女が決して自ら故郷の地を踏もうとしない理由を、後でじっくりと話してあげるさ。


 まったくあの親娘は、ある意味そっくりだね。

 本当の意味で誇り高いところも……。

 どこまでも真っ直ぐで頑固なところも……。

 やり方は父親の方が拙いが、其れでもあの親娘の根にある物は同じだ。

 おそらく、建国当初からの血筋と言うのもあるだろうが、厳しい山奥と言う閉鎖された環境のせいなのだろうね。

 あの親子の根にあるのは、貴族ではなく王だよ。

 小国ながらも、其れ故に生き残る事に長け、信義を重んずる誇り高き王。

 強きも弱きも知った上で、其れ等を全て飲み込む懐深き王さ。







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